『白夜学園の呪い:鏡の向こうの守護者』

ソコニ

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第18話「鏡の世界」

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白夜祭の終了から一週間が過ぎた。学園は穏やかな日常を取り戻し、生徒たちは何事もなかったかのように授業を受け、部活に励んでいた。鈴木校長の失踪は大きなニュースとなったが、実際には影に乗っ取られていた彼の体は地下室で発見され、本人は病院で治療を受けていた。公式には過労による意識不明と説明され、当面の間、百瀬先生が校長代理を務めることになった。

真琴は3年B組の教室で授業を終え、黒板を消していた。窓からは秋の柔らかな日差しが差し込み、校庭では体育の授業が行われていた。すべてが平和で、あの恐ろしい夜の出来事は悪夢だったかのようだった。

「高遠先生」

振り返ると、朝倉葉月が教室に残っていた。彼女は梨子の犠牲によって完全に自由になり、普通の女子高生として日々を過ごしていた。

「どうしたの、葉月さん?」

「これを返そうと思って」

葉月は小さな銀のペンダントを差し出した。朝倉梨子のペンダントだった。

「私のものじゃないわ」真琴は首を振った。「あなたが持っていていいのよ」

「でも、おばあちゃんはあなたに渡したかったはずです」葉月は食い下がった。「私の中のおばあちゃんの部分は消えましたが、このペンダントにはまだ彼女の意志が残っているような気がします」

真琴は躊躇いながらもペンダントを受け取った。手に取った瞬間、ほんのりと温かさを感じた。

「大切にするわ」

葉月は微笑み、教室を後にした。真琴はペンダントを開いてみた。中には朝倉梨子の若かりし頃の写真が入っていた。写真は以前は消えていたはずだったが、いつの間にか戻っていた。

真琴は授業の資料を片付け、職員室に向かった。廊下は夕暮れの光に染まり、静かだった。職員室では数人の教師が残って仕事をしていたが、百瀬の姿はなかった。

「百瀬先生は?」真琴は川島先生に尋ねた。

「理事会の会議だよ。これからの学園運営について話し合うらしい」

真琴は頷き、自分の席に向かった。デスクの上には授業の資料と、古い鍵が置かれていた。封印室の鍵だ。儀式の後、鏡は全て破壊されたが、扉だけは残っていた。百瀬は念のため鍵を保管していたのだろう。

真琴は鍵をポケットに入れ、帰宅の準備を始めた。窓から見える校庭は既に空っぽで、日が沈み始めていた。明日の授業の計画を立て終わると、真琴は職員室を出た。

校舎はすっかり静まり返っていた。かつては不気味に感じられた静けさも、今は心地よかった。真琴は正門に向かって歩き始めた。

正門に近づいたとき、ふと足が止まった。校舎の窓に何かの動きが見えた気がした。振り返ると、3階の音楽室の窓に人影があった。この時間、誰もいないはずだ。

真琴は立ち止まり、じっと見つめた。人影はまだそこにいた。それは生徒のようにも見えたが、輪郭がぼやけていた。

好奇心に駆られ、真琴は校舎に引き返した。音楽室に向かう途中、廊下の窓ガラスに映る自分の姿が妙に歪んで見えることに気づいた。まるで鏡の表面が波打っているかのように。

「気のせいよ…」

真琴は自分に言い聞かせた。鏡はすべて破壊され、影との繋がりは断たれたはずだ。

音楽室のドアの前で立ち止まり、耳を澄ませた。中からかすかにピアノの音が聞こえてきた。誰かが弾いているのか。真琴はドアを開けた。

室内は夕日に染まり、グランドピアノが中央に佇んでいた。しかし、ピアノの前に人はいなかった。音も止んでいた。

「誰かいる?」

返事はなかった。真琴は部屋に入り、周囲を見回した。人影は見えない。窓際に近づき、外を見下ろしたが、校庭は空っぽだった。

振り返ると、ピアノの上に何かが置かれているのに気づいた。近づいてみると、それは一冊の交換日記だった。葉月と「M」の交換日記。

「おかしいわ…」

真琴は日記を手に取った。開くと、最新ページに見覚えのない筆跡で一行だけ書かれていた。

『助けて、先生。私たちは閉じ込められている』

戸惑う真琴だったが、次の瞬間、音楽室の鏡が光り始めた。壁に掛けられた小さな鏡が、銀色の光を放ちながら波打ち始めたのだ。

「まさか…」

真琴は後ずさりした。鏡は全て破壊したはずだった。しかし、目の前の鏡は確かに存在し、その表面は水面のように揺れていた。

交換日記を握りしめながら、真琴はドアに向かって走った。しかし、ドアは開かなかった。何者かに外から鍵をかけられたようだった。

「誰かいるの?開けて!」

真琴は叫び、ドアを叩いたが、反応はなかった。振り返ると、鏡はさらに強く光り、部屋全体を銀色に染め上げていた。

そして、鏡の表面から手が伸びてきた。青白い手だった。真琴は恐怖で凍りついた。手は腕へと伸び、やがて肩、そして頭が見えてきた。

鏡から出てきたのは、中村俊介だった。彼は青白い顔で、目は虚ろだったが、確かに中村だった。

「中村君…?」

「先生…」彼の声はかすかだった。「助けて…私たちを…」

真琴は混乱した。中村は鏡の向こう側に送られたはずだ。そして、鏡と影の世界との繋がりは絶たれたはずだった。

「どういうこと?あなたは…」

「僕たちは閉じ込められています」中村は言った。「儀式の後、鏡の世界に…」

中村の後ろから、さらに手が伸びてきた。次々と人影が鏡から現れ始めた。佐々木美咲、そしてその他の「転校した」生徒たち。全員が青白い顔で、虚ろな目をしていた。

「皆さん…」

真琴は言葉を失った。失踪した生徒たちは影に食われたのではなく、鏡の世界に閉じ込められていたのか。

「先生、来てください」佐々木美咲が手を伸ばした。「私たちと一緒に…」

「どういうこと?私に何ができるの?」

「あなたは選ばれし者」中村が言った。「あなただけが私たちを救える」

真琴は彼らの言葉の意味を理解しようとした。しかし、次の瞬間、鏡から伸びた無数の手が真琴を掴み、引きずり込み始めた。

「やめて!」

真琴は抵抗したが、力が抜けていくのを感じた。冷たい感触が全身を包み込み、意識が遠のいていった。

目を開けると、真琴は音楽室の床に横たわっていた。しかし、何かが違っていた。部屋は反転しており、右と左が入れ替わっていた。窓から見える景色も、すべてが鏡に映ったように反対になっていた。

「ここは…」

「鏡の世界です」

声がして振り返ると、中村俊介が立っていた。彼はもはや青白くなく、普通の姿だった。

「中村君、あなたは本当に…」

「はい、僕は本物です。鏡の向こう側に送られた後、ここで生きています」

真琴は立ち上がり、周囲を見回した。音楽室は白夜学園のそれとそっくりだったが、すべてが反転していた。

「他の皆は?」

「来てください。お見せします」

中村は真琴を廊下に導いた。廊下も白夜学園と同じ構造だったが、反転していた。窓から見える空は紫がかった灰色で、太陽はなく、代わりに大きな月が輝いていた。

彼らは階段を下り、校庭に出た。そこには多くの人々が集まっていた。失踪した生徒たちだけでなく、50年前に犠牲になった人々も含め、様々な時代の人々がいた。

「皆さん、高遠先生が来てくれました!」

中村の声に、人々は一斉に真琴の方を向いた。彼らの目には希望の光が宿っていた。

その中から一人の女性が前に出てきた。長い黒髪と、葉月に似た顔立ちの女性。朝倉梨子だった。

「高遠先生、ようやくお会いできました」

「梨子さん…あなたは生きていたの?」

「ここでは、死と生の境界は曖昧です」梨子は答えた。「私たちは影に食われることなく生き延びてきました。しかし、閉じ込められています」

真琴は周囲を見回した。まるで白夜学園と瓜二つの世界だったが、色彩が乏しく、どこか虚ろな感じがした。

「なぜ私を?」

「あなたは選ばれし者」梨子は真琴の手を取った。「儀式の際、あなたは影の力を封じました。しかし、それによって私たちも完全に閉じ込められてしまったのです」

「でも、葉月は言っていました。あなたが計画したと…」

「半分は真実です」梨子は静かに言った。「私は影の力を封じるために計画を立てました。しかし、それが私たちを永遠に閉じ込めることになるとは思いませんでした」

真琴は混乱した。これが本当の真実なのか、それとも別の罠なのか。しかし、目の前にいるのは確かに失踪した生徒たちだった。彼らの目には真実が映っているように見えた。

「私に何ができるの?」

「あなたは両方の世界を行き来できる唯一の存在」佐々木美咲が前に出てきた。「あなたが橋渡しとなり、私たちを救うことができます」

「どうやって?」

梨子は真琴を中央広場へと導いた。そこには大きな鏡が立っていた。鏡には現実世界の白夜学園が映っていた。

「この鏡を通じて、私たちは現実世界を見ることができます」梨子は説明した。「しかし、通ることはできません。影の力が封じられた今、私たちも同時に閉じ込められてしまったのです」

「でも、あなたたちは私を連れてきた」

「それはあなたが特別だからです」中村が言った。「あなたの魂は両方の世界に繋がっている」

真琴はペンダントを握りしめた。まだポケットに入っていた梨子のペンダント。それが自分を繋ぎ止めているのだろうか。

「では、どうすれば皆さんを救えるの?」

梨子は鏡を指さした。

「儀式があります。選ばれし者であるあなたが執り行う特別な儀式。それによって、私たちは解放されるでしょう」

「でも、それは危険じゃないの?影たちも同時に解放されるのでは」

「影たちはもういません」梨子は断言した。「あなたの儀式で完全に消えました。残っているのは、犠牲になった人間の魂だけです」

真琴は疑念を抱きながらも、周囲の人々の希望に満ちた目を見た。彼らはみな、真琴を救世主のように見ていた。失踪した生徒たち、50年前の犠牲者たち、そして朝倉梨子。

真琴の心には決断が必要だった。信じるべきか、警戒すべきか。そして、この鏡の世界から戻れるのか。それとも、ここに永遠に囚われるのか。

梨子は真琴の表情を見て、微笑んだ。

「時間をかけて考えてください。しかし、あまり長くは留まれません。あなたの体は現実世界にあり、魂だけがここにいるのです」

真琴は頷き、鏡に映る現実世界の白夜学園を見つめた。この鏡の世界で何を選択するのか。その答えが、両方の世界の運命を決めることになるだろう。
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