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第5話「封印された都市伝説」
しおりを挟む黒い霧の式神たちが四方から迫る中、蓮と白狐は背中合わせで立ちはだかる。志乃はバッグから小型デバイスを取り出し、起動させた。
「デコイプログラム、起動!」
彼女が投げたデバイスから青白い光が広がり、周囲の電子機器に干渉。街頭の広告スクリーンが次々と乱れ、混乱した映像が流れ始める。黒い式神たちの注意がそちらに向く。
「今だ!」蓮の合図で三人は反対方向へ全力で走りだした。
複雑に入り組んだ路地を駆け抜け、追っ手を振り切った三人は、ようやく国立デジタル博物館の外壁を前に立った。夜の闇に浮かび上がる巨大な建物。伝統的な和風建築と未来的なガラス構造が融合した独特のデザインだ。
「準備はいい?」蓮が二人に問いかける。
志乃はノートパソコンを取り出して頷き、「私は外からセキュリティを弱体化させる。先輩と白狐さんは、デジタル空間から侵入して」と言った。
「よし、行くぞ」蓮は白狐と視線を交わした。
白狐の体から青白い光が広がり、蓮を包み込む。二人の意識が同調し、徐々にデジタル空間へとシフトしていく感覚。現実世界の輪郭が薄れ、代わりにデジタルネットワークの流れが見えてくる。
博物館のネットワークシステムは、外からは壮麗な日本庭園のように見えた。デジタル空間では、セキュリティシステムは高い塀として、データフローは小川として視覚化されている。
「ここからどうする?」デジタル化した蓮の声が響く。
「あそこを見ろ」白狐が庭園の中心を指し示した。「小さな神社のような建物だ。あれが中枢システムだろう」
二人が庭園の塀に近づくと、志乃の声がかすかに聞こえてきた。「セキュリティ第一層、無効化...」
塀の一部が崩れ落ち、小さな入口が現れる。蓮と白狐は急いで中に潜り込んだ。庭園内部には、警備の妖怪のような存在が巡回している。それらはセキュリティプログラムの擬人化だった。
「動きを止めろ」白狐が囁く。「彼らは動きに反応する」
二人は息を殺し、妖怪警備の目を盗んで中央の神社へと近づいていく。時折、志乃のハッキングにより、警備の一部が停止する瞬間を利用して進んだ。
「第三層のファイアウォール、迂回成功...」志乃の声が届く。「でも、内部に未知のセキュリティシステムを検出。気をつけて」
中央の神社に近づくにつれ、二人は強力なエネルギーの存在を感じ始めた。神社の扉には、複雑な陰陽術の符が施されている。
「これは古典的な守護呪術だ」白狐が説明する。「デジタルコードと融合している。破るには両方の知識が必要だ」
蓮はプログラマーとしての知識を駆使し、白狐は陰陽術の理解を用いて、二人で呪術的なロックを解析していく。やがて扉が開き、神社の内部へと足を踏み入れた。
内部は予想外に広大で、まるで無限に続く展示室のようだった。古代から現代までの霊的アーティファクトがデジタル化され、整然と並んでいる。
「あった!」蓮が声を上げた。「安倍晴明コレクション」
その一角には、平安時代の陰陽師・安倍晴明に関する品々が展示されていた。中央に置かれたガラスケースの中に、優美な白い扇が浮かんでいる。「晴明の扇」——それはデジタルと物理の両方の性質を持つアーティファクトだった。
「見つけたよ」蓮が志乃に通信する。「晴明の扇を発見した」
「了解」志乃の声が返ってくる。「でも...ちょっと待って。その展示の周りに異常なコードパターンを検出。これは...」
彼女の警告が完全に届く前に、扇の周囲に突如として赤い光の円が浮かび上がった。警告音が鳴り響き、デジタル空間全体が揺れ始める。
「式神監視システム!」白狐が叫ぶ。「罠だった!」
「式神監視...?」蓮は混乱する。
「政府が極秘に開発したシステムだ」白狐が説明する。「式神の無断使用を監視し、検知するためのもの。まさか、政府も式神技術を...」
「先輩!」志乃の焦った声が届く。「何が起きてるの?システムがロックアウトされそう!」
「説明している時間がない」蓮は決断する。「扇のデータを複製するぞ。志乃、バックドアは?」
「用意できてる...けど、10秒しか持たないわ!」
「十分だ」
蓮と白狐は素早く動き、晴明の扇に接近。白狐がエネルギーフィールドを展開し、監視システムを一時的にかく乱する間に、蓮が扇のデータコードを複製していく。
「警告:式神活動検知。セキュリティレベル・クリムゾン発動」
機械的な声が響き渡り、神社内部が赤く染まる。デジタル空間の警備妖怪たちが一斉に目覚め、二人の方へと向かってくる。
「完了!」蓮は扇のコードの複製を確保した。「撤退するぞ!」
二人は来た道を戻り始めたが、あらゆる方向から警備プログラムが迫ってくる。
「こっちよ!」志乃の声。「新しい脱出ルートを開けたわ!」
デジタル庭園の壁に新たな亀裂が生じ、そこから眩い光が漏れている。蓮と白狐は飛び込むように亀裂に向かって走った。背後では警備プログラムの怒号が響く。
光の中を通過する瞬間、二人の意識は再び現実世界へと引き戻される。蓮は激しい頭痛とともに、博物館の裏手で目を覚ました。白狐が隣に立ち、志乃がノートパソコンを閉じながら急かす。
「急いで!セキュリティアラームが鳴ってる!」
三人は急いで博物館の敷地を離れ、近くの公園の茂みに身を隠した。息を整えながら、志乃がノートパソコンを再び開く。
「扇のデータは無事?」蓮が尋ねる。
「うん、完璧に複製できてる」志乃は安堵の表情を見せるが、すぐに真剣な面持ちに戻る。「でもね、博物館のシステムにいる間に、政府のデータバンクに接続できたの。そこで見つけたのが...」
彼女は画面を蓮に向けた。そこには「プロジェクト:式神」と書かれた機密文書の断片が表示されている。多くの部分が黒く塗りつぶされているが、重要な情報が垣間見える。
「お父さんの名前があるわ。八雲剣太は確かに式神プログラムの主任研究者だった。でも」志乃は眉をひそめた。「プロジェクトの記録が意図的に削除されている形跡があるの。表向きは『失敗』とされて、関連データのほとんどが抹消されてる」
「父は何か重大なことを発見して、口封じされたのか...」蓮は父の写真が入った古い腕時計を握りしめた。
志乃はさらにスクロールして別のファイルを開く。「さらに、こんなものも見つけたわ」
「量子陰陽道プロジェクト?」蓮は表題を読み上げた。
「これは極秘計画みたい」志乃が説明する。「式神技術と量子コンピューティングを融合させて、現実世界に直接干渉できる新世代の式神を開発するという...」
「それは危険すぎる」白狐が口を挟んだ。「デジタルと現実の境界を完全に崩壊させかねない」
蓮は考え込んだ。「父はこの計画に反対したのかもしれない。だから...」
「だから標的にされた」志乃が言葉を継いだ。
周囲が静まり返る中、突然、公園の外れで車のエンジン音が聞こえた。複数の黒いSUVが路肩に停車し、黒いコートを着た男女が次々と降りてくる。
「やばい、零課だわ」志乃が小声で言った。
「零課?」蓮が尋ねる。
「政府特殊部隊。式神関連の治安維持を担当している。公には存在しないことになってるけど...」
男女たちは手にした小型デバイスを操作しながら、公園内を捜索し始めた。彼らの胸元には小さな月のマークが光っている。
「逃げないと」白狐が言った。「彼らは式神探知機を持っている。すぐに私を感知するだろう」
三人は茂みに身を潜めながら、少しずつ公園の反対側へと移動を始めた。しかし、零課の隊員たちの捜索の輪が着実に狭まってくる。
「別ルートで」蓮が指示した。「俺たちは三手に分かれよう。黒陰も零課も、晴明の扇を手に入れることはできない」
「でも...」志乃が不安げに言う。
「大丈夫」蓮は彼女の肩に手を置いた。「俺と白狐は一緒に行動する。志乃は扇のデータの複製を持って、安全な場所へ行け。コード・ブレイカーズの仲間を頼れ」
志乃は渋々頷き、「24時間後に秋葉原の旧電気街で落ち合いましょう」と約束した。
三人は手短に別れを告げ、それぞれ異なる方向へと散っていった。蓮と白狐は裏路地へ、志乃は地下鉄の入口へ。
しかし、蓮と白狐が数ブロック進んだところで、前方の路地に黒い霧が立ち込め始めた。それは黒陰の式神の気配だ。後ろを振り返ると、零課の隊員たちが迫っている。
「囲まれたか...」白狐が低く唸った。
「どちらを相手にする?」蓮が尋ねる。
白狐は前方の黒い霧を見つめた。「黒陰だ。零課は少なくとも法の範囲で動いている。黒陰には躊躇いがない」
「了解」蓮は覚悟を決めた。「行くぞ、白狐」
二人は黒い霧に向かって疾走を始めた。今夜の東京で、彼らの運命を賭けた闘いが始まろうとしていた。
その頃、志乃は地下鉄の人混みに紛れながら、晴明の扇のデータを握りしめていた。彼女は知らなかったが、すでに彼女の動きも監視されていた。数メートル後方で、黒いスーツの男がさりげなく彼女を追跡していたのだ。
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