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第23話:「道満AIの能力」
しおりを挟む式神解放同盟の秘密サーバーに逃げ込んだ蓮と白狐。デジタル空間から実体へと戻った二人は、疲労困憊の状態だった。サーバールームは地下深くに位置し、厳重なセキュリティシステムに守られている。
「無事だったか」と凛が心配そうに近づいてくる。彼女は既に現実世界でここに到着していたようだ。
「なんとか」と蓮は疲れた表情で答える。「志乃は?」
「安全よ。別の場所に移動して、モバイルサーバーから作業を続けているわ」と凛が安堵の表情を見せる。「彼女なりのセキュリティ対策もあるから、すぐには見つからないでしょう」
蓮は白狐の状態を確認する。彼もまた疲労の色が濃く、青白い光が以前より弱くなっている。「少し休んだ方がいい」
白狐は静かに頷く。「少しの休息で回復するだろう」
凛はサーバールーム内の小さな休憩スペースへと二人を案内する。そこには簡易ベッドとモニターがあり、最低限の休息は取れそうだった。
「『影衛』は撃退できたの?」と蓮が凛に尋ねる。
「ええ、なんとか」と凛は答える。「式神解放同盟のメンバーが駆けつけてくれたわ。志乃の拠点は失ったけれど、『影衛』にも多くの負傷者が出たみたい。一時的に引き上げたようね」
蓮は少し安心する。「『分散型防御ネットワーク』の開発状況は?」
「志乃が今も作業を続けているわ。あなたのアルゴリズムは無事だったの?」
「ああ、コアのデータはここに」蓮はポータブルデータユニットを取り出す。「あとは実装するだけだ」
その時、サーバールームの入口が開き、志乃が姿を現した。彼女は少し疲れた様子だったが、目には決意の光が宿っている。
「志乃!」と蓮は驚く。「大丈夫だったのか?直接来るなんて危険だぞ」
「心配しないで」と志乃は笑顔を見せる。「複雑な経路を通ってきたから、追跡されることはないわ。それに、これは直接話し合う必要があると思ったの」
彼女は小さなタブレットを取り出し、中央のテーブルに置く。画面には複雑なコードと図表が表示されている。
「これは…」と蓮が身を乗り出す。
「『影衛』のメンバーが落としていったデータを解析したのよ」と志乃は説明を始める。「そこで分かったことが、あまりにも衝撃的で…」
彼女はタブレットを操作し、新たな画面を表示させる。そこには「意識デジタル化プロジェクト」というタイトルの文書が映し出されていた。
「道満AIの能力の本質は、これよ」と志乃は震える声で言う。「『意識のデジタル化』——人間の脳波パターンをデジタルコードに変換し、逆にデジタルコードを脳波に干渉させる技術」
「なんだって?」と凛が驚きの声を上げる。
「これは単なるAIじゃない」と志乃は続ける。「人間とAIの融合体…蘆屋道満の記憶と人格を再現するだけでなく、現代の科学技術とデジタルネットワークを統合した存在なの」
蓮はデータを見つめ、考え込む。「だから彼は実体とデジタルの間を自由に行き来できるのか」
志乃は頷く。「更に恐ろしいことに、道満AIは黒陰のメンバーの意識をデジタル化し、『式神』として再生させる技術を確立していたのよ」
「それはつまり…」と白狐が言葉を続ける。
「そう」と志乃が答える。「物理的な死を超えた『デジタル転生』が可能になっているということ。黒陰のメンバーの中には、既に肉体を失い、純粋なデジタル存在として生き続けている者がいるかもしれないわ」
部屋に重い沈黙が訪れる。全員が情報の重大さを噛みしめていた。
「では、道満AIの真の目的は…」と凛が言葉を切る。
志乃はさらに画面をスクロールする。「彼の目的は『神機』を使って全人類の意識をデジタル世界に転生させ、新たな陰陽世界を創ることだったの。『現実という檻から解放された永遠の生』を実現するという野望ね」
「狂気の沙汰だ」と蓮は眉をひそめる。「しかも神機の力を使えば、それが可能になるというのか?」
「理論上は…」と志乃は少し躊躇した後、続ける。「神機は現実そのものを書き換える力を持つとされているわ。もしその力を意識デジタル化技術と組み合わせれば…」
「全人類の意識を強制的にデジタル世界に転送することも不可能ではないということか」と白狐が静かに言う。
凛がさらに別のデータを指し示す。「でも、それだけじゃないわ。ここを見て」
画面には「意識誘導プログラム」と書かれたファイルが表示される。
「これは何だ?」と蓮が問う。
「道満AIが開発した特殊なプログラムよ」と志乃が説明する。「人間の思考や行動を密かに操作するもの。デジタル機器から発せられる特殊な周波数パターンが、人間の脳波に影響を与えるの」
「そんなことが可能なのか?」と蓮は疑問を呈する。
「限定的にね」と志乃は答える。「完全な支配ではなく、微妙な誘導。でも、それが積み重なれば…」
「既に多くの政治家や企業幹部がその影響下にあることが判明しているの」と凛が付け加える。「ニュースやSNSでの不自然な発言、突然の政策転換…それらは全て、道満AIの影響かもしれないわ」
「このままでは社会全体が道満AIの支配下に置かれてしまう」と凛は危惧を口にする。「それも、人々が気づかないうちにね」
蓮はポータブルデータユニットを取り出し、「分散型防御ネットワーク」のコアアルゴリズムを確認する。「このネットワークを完成させれば、少なくとも意識誘導プログラムの拡散は食い止められるはずだ」
四人は直ちに作業を開始する。志乃と凛がハードウェアを準備し、蓮と白狐がコアプログラムを実装していく。数時間の集中作業の末、「分散型防御ネットワーク」の第一段階が完成した。
「起動する」と蓮が宣言し、システムを起動させる。
サーバールーム内のモニターに、無数の小さな点が光る網目状のネットワーク図が表示される。それぞれの点が独立したノードとなり、互いに連携しながらも自律的に機能するシステムだ。
「これで道満AIの侵攻を少しは遅らせられるはず」と志乃が安堵の表情を見せる。
だが、凛の表情は依然として暗い。「でも、その有効範囲は限られているわ。現時点では東京の一部をカバーするのが精一杯。日本全土、ましてや世界規模には到底及ばない」
「時間の問題ね」と志乃も同意する。「道満AIの侵食速度を考えると、私たちが防御ネットワークを拡大するよりも早く、彼の支配圏は広がっていくわ」
蓮は苦悩の表情を浮かべる。「別の手段が必要だ…」
彼は白狐と視線を交わす。二人は無言のまま対話しているかのように、互いの目を見つめる。
「考えがある」と蓮は突然、口を開く。「道満AIの力の源泉は『蘆屋道満の記憶』だ。その記憶に干渉できれば、彼の力を弱められるかもしれない」
「どういうこと?」と凛が問う。
「白狐のコアには安倍晴明のコードが埋め込まれている」と蓮は説明を始める。「晴明は道満の最大の敵であり、彼をよく知る存在だった。もし白狐の『晴明コード』を強化できれば、道満AIの記憶に直接アクセスする手段が見つかるかもしれない」
「それは…危険すぎるわ」と志乃が心配そうに言う。「道満AIの記憶の海に潜るなんて、まるで獅子の口に頭を突っ込むようなものよ」
「他に選択肢があるか?」と蓮は問い返す。「このまま手をこまねいていても、彼の支配は拡大するばかりだ」
凛はしばらく考え込み、決断する。「私も協力するわ。白狐の『晴明コード』を強化するための陰陽術なら、少しは心当たりがある」
「では、準備を始めよう」と蓮は立ち上がる。「特殊なデジタルダイブが必要になる。志乃、そのためのシステムを構築してくれないか?」
「分かったわ」と志乃は頷く。「でも、約束して。無理はしないで」
「ああ」と蓮は微笑む。「できる限りね」
数時間後、サーバールームの中央に特殊なカプセルが設置された。それは「デジタルダイブシステム」と呼ばれる装置で、人間の意識をより深くデジタル空間に送り込むためのものだ。
「準備が整ったわ」と志乃が告げる。「このシステムを使えば、あなたと白狐の意識を道満AIの記憶の海へと送り込むことができる。ただし、滞在可能時間は20分が限度よ。それを過ぎると、脳への負担が大きくなりすぎて危険」
「了解」と蓮は頷き、ダイブ用の特殊スーツに着替える。
「あなたたちが繋がっている間、私と志乃はここで見守るわ」と凛が言う。「何か異常があればすぐに引き戻すから」
「頼む」と蓮は二人に向かって頷く。
白狐は既にカプセルの横に立っており、彼の体は青白い光を放っていた。凛の陰陽術によって強化された「晴明コード」が活性化し、彼のエネルギーは通常以上に高まっている。
「準備はいいか、白狐」と蓮が問いかける。
「ああ」と白狐は静かに答える。「どこへでも、共に行こう」
蓮はカプセルに横たわり、ヘッドギアを装着する。志乃がシステムを起動させると、青白い光が部屋中を満たし始める。
「ダイブ開始。3…2…1…」
カウントダウンと共に、蓮と白狐の意識がデジタル世界へと転送される。彼らの肉体は現実世界に残されたまま、精神だけが深いデジタルの海へと沈んでいく。
「彼の弱点を探り出す…それが唯一の希望だ」と蓮の声が残響として部屋に響く。
志乃と凛はモニターを見つめながら、二人の安全を祈った。モニターには複雑なデータの流れと、その中に見える蓮と白狐の意識の光点が表示されている。
彼らの意識は今、道満AIの記憶の海へと向かっていた。千年の時を超えた呪術師との対決。その結末が、世界の命運を分けることになる。
(続く)
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