神殺しの料理人 ~異世界グルメバトル ロイヤル~

ソコニ

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第17話:「ライバルたちの登場」

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「神宴祭二日目の予選も終了しました。明日からはいよいよ本選トーナメントが始まります」

ファルミラの中央広場に設置された大掲示板に、神官の声が響いていた。昨日の「黄金の卵」予選と今日の「翼豚の脚」予選を勝ち抜いた16名の料理人の名が記されている。その周りには既に多くの市民や参加者が集まり、熱心に名前を確認していた。

「やった!エリシアも予選通過だ!」

司は掲示板を見て笑顔を浮かべた。今日行われた「翼豚の脚」の予選で、エリシアは見事な料理を披露し、通過者に名を連ねたのだ。彼女は「翼豚の記憶のシチュー」という料理で、肉に眠る記憶を汁に溶け出させるという画期的な調理法を編み出した。審査員のアルテミスは昨日の司の時と同様に、深い感銘を受けた様子だった。

「ありがとうございます、司さん!」

エリシアは喜びに満ちた表情で言った。

「司さんのアドバイスがなければ、あんな料理はできませんでした」

「いや、君の才能だよ。『翼豚の脚』から記憶を引き出す調理法は、君自身が考え出したものだからね」

グスタフも満足げにうなずいた。

「これで司とエリシアの二人が本選に進出だ。『放浪の饗宴』の名が知れ渡るな」

マルコは周囲を警戒しながら、小声で言った。

「しかし本選は厳しい戦いになるでしょう。出場者の顔ぶれを見てください」

彼は掲示板を指さした。確かにそこには、強豪と呼ばれる料理人たちの名前が並んでいた。

「ここに記されている16人は、世界各国から集まった最高の料理人たちです」

マルコの説明に、一同は真剣に耳を傾けた。

「まず注目すべきは、やはり『氷炎のセラフィム』でしょう」

関所での対決で、司が既に一度戦った相手だ。

「彼は『神授の料理』の使い手で、神々の意志を料理に込める能力を持っています。本選では、あの時とは比べものにならない力を見せるはずです」

「南の大陸からは『砂漠の魔術料理人・サハラ』」

砂と香辛料を自在に操る神秘的な料理人。食材争奪戦の日に、司はその実力の一端を垣間見ていた。

「東の島々からは『潮風のスシマスター・カツミ』」

魚を極限まで使いこなす技術を持つ料理人。その包丁さばきは芸術的だと評判だった。

「北の雪原からは『氷の彫刻師・フロスト』」

氷を使った料理で知られる静かな料理人。その料理は見た目の美しさだけでなく、味も極上だという。

「西の花園からは『花の料理人・フロラ』」

花を料理の中心に据える革新的な料理人。その料理は五感全てを魅了すると言われている。

「そして、注意すべきは『死の調味料』の異名を持つ『毒見のヘカテ』」

マルコの表情が険しくなった。

「彼女の料理は食べた者の生命力を奪うと言われています。実際に彼女の料理を食べて倒れた者もいるほどです」

エリシアが不安そうな表情を浮かべた。

「そんな危険な人が参加しているんですか?」

「神々は彼女の力を認めているのだろう」

グスタフが厳しい表情で答えた。

「神宴祭は単なる料理の腕前を競うだけの場ではない。『神の御前料理人』は神々に仕えるべく選ばれた存在だ。危険な力であっても、神々の役に立つと判断されれば認められるのだろう」

司は思案顔で掲示板を見つめていた。これだけの強豪が揃う中で勝ち抜くのは容易ではない。しかし、神々の秘密に迫るためには、勝ち進むしかなかった。

「トーナメント表の発表はいつですか?」

エリシアが尋ねると、ちょうど神官が掲示板の前に現れた。

「これより本選トーナメントの組み合わせを発表します」

神官は大きな巻物を広げ、トーナメント表を掲示板に貼り付けた。人々が一斉に前に詰め寄り、自分や関心のある料理人の名前を探し始めた。

司たちも近づき、トーナメント表を確認する。

「司さん、ここです!」

エリシアが指さした場所に、確かに「暁の料理人・ソル」の名があった。そして、その対戦相手は——

「『毒見のヘカテ』…」

司は静かに呟いた。初戦から危険な相手との対決となる。

「エリシアは…」

グスタフが別の場所を指さした。

「『花の料理人・フロラ』との対戦だ」

エリシアの表情に緊張が走る。彼女にとっても簡単な相手ではない。

「他の注目すべき対決は?」

司の質問にマルコが答えた。

「『砂漠の魔術料理人・サハラ』と『氷の彫刻師・フロスト』が対決します。正反対の料理スタイルの衝突ですね」

「『潮風のスシマスター・カツミ』は若手の『風の旋律・ミンストル』と」

「『氷炎のセラフィム』は…」

マルコが少し驚いた顔をした。

「なんと、私との対決です」

一同が驚いた顔でマルコを見た。

「君も出場するのか?」

司が驚いて尋ねると、マルコは複雑な表情で頷いた。

「『魔宴騎士団』の命令です。私は『月影茸』の予選を通過したのです」

「でも、セラフィムとの対決は…」

エリシアが心配そうに言った。関所で見た彼の力を考えれば、マルコが勝つのは難しいだろう。

「心配しないでください」

マルコは淡々と言った。

「私の役目は情報収集です。セラフィムとの対決を通じて、彼の実力を探ります。それが司さんたちの助けになるはずです」

司はマルコの決意に感謝の気持ちを抱きつつも、彼の身を案じずにはいられなかった。

「気をつけてくれ。無理はするな」

「ありがとうございます」

マルコは小さく頭を下げた。

人々が次々とトーナメント表を確認し、様々な反応を示している中、ふと人波が割れるように開いた。そこを歩いてきたのは、銀髪の美しい女性——アルテミスだった。

彼女は静かに掲示板の前に立ち、トーナメント表を見つめた。周囲の人々は畏敬の念を込めて彼女に道を譲っている。「神の舌」の威厳が、言葉なくそうさせるのだろう。

アルテミスの視線が司に向けられた。彼女は微かに頷き、何かを伝えるように唇を動かした。しかし声は聞こえない。唇の動きから読み取れたのは「気をつけて」という言葉だけだった。

彼女はそのまま静かに立ち去っていった。司は彼女の背中を見送りながら、胸の内に疑問を抱えていた。元「神殺しの料理人」だという彼女。本当に味方なのか、それとも罠なのか。

「なあ、トーナメント表の裏側に何か書いてないか?」

グスタフの声に司は我に返った。確かに掲示板には補足説明が記されていた。

「本選トーナメントに関する補足事項」と書かれている。

「各対決は特定の課題料理に取り組む形式で行われる。課題は対決の当日に発表される」

「審査は『神の舌・アルテミス』と神官長サプライズが担当する」

「優勝者には『神の御前料理人』の称号と共に『神授のレシピ』が授与される」

「神授のレシピ…」

司は静かに呟いた。それは「神殺しのレシピ」の手がかりになる可能性がある。勝ち抜くことがますます重要になってきた。

「明日から本選が始まるわけか」

グスタフが言った。

「初日は司の『毒見のヘカテ』との対決だ。準備をしっかりしないとな」

司は頷いた。「死の調味料」の力を持つという彼女との対決。どのような展開になるのか予想もつかない。

「宿に戻って対策を練りましょう」

エリシアの提案に一同は同意し、掲示板を後にした。しかし、その背後では複数の視線が彼らを追っていた。

---

神殿の最上階、厳かな部屋で神官長サプライズは跪いていた。彼の前には七つの高座が置かれ、そこに料理神七柱が座している。中央の黄金の座に鎮座するのは、天帝シェフ・ゼウルだった。

「神宴祭は予定通り進行しております」

サプライズの報告にゼウルはゆっくりと頷いた。

「本選の組み合わせも決定しました。『神殺しの料理人』の疑いがある『暁の料理人・ソル』は、『毒見のヘカテ』と対決します」

「ふむ」

ゼウルの声は低く響いた。

「ヘカテの『死の調味料』は強力だ。彼女の料理を食べた者は生命力を奪われる。もし『暁の料理人・ソル』が普通の料理人なら、彼もまた力を奪われるだろう」

「しかし、もし彼が『神殺しの料理人』なら…」

「その通り」

ゼウルは微笑んだ。

「もし彼が『神殺しの料理人』なら、『死の調味料』の力を無効化する可能性がある。それが彼の正体を暴く試金石となろう」

サプライズは頭を下げた。

「さらに、アルテミス殿に関する報告があります」

ゼウルの表情が引き締まった。

「彼女は『暁の料理人・ソル』と『エリシア』の料理に強く反応しました。特に『黄金の卵』と『翼豚の脚』を使った料理に」

「予想通りだな」

ゼウルは静かに言った。彼の表情には複雑な感情が浮かんでいた。

「アルテミスの封印された記憶が揺らぎ始めているということか」

「はい。彼女が『神の舌』としての役割を全うできるか、懸念しております」

ゼウルは黙考した後、決断を下した。

「神宴祭の間、アルテミスを厳重に監視せよ。彼女の言動に少しでも異変があれば、即座に報告するように」

「御意」

サプライズは再び頭を下げた。

「もう一つ。『魔宴騎士団』の『死味のマルコ』について報告があります」

「何だ?」

「彼と『暁の料理人・ソル』が接触した形跡があります。裏切りの可能性が…」

「マルコには任務があるはずだ」

ゼウルは冷静に言った。

「彼の行動も監視を続けよ。ただし、今は神宴祭の進行を最優先せよ」

「御意」

サプライズは立ち上がり、退室の許可を求めた。ゼウルが頷くと、彼は後ろ向きに部屋を出ていった。

七柱だけが残された部屋で、ゼウルは深い思考に沈んだ。

「『神殺しの料理人』…このような形で再び現れるとは」

彼の言葉には、恐れというよりも、どこか期待のような感情が混じっていた。

---

街の別の場所、薄暗い酒場の隅のテーブルでは、数人の料理人たちが集まっていた。その中心にいたのは、漆黒の長いドレスを身にまとった女性だった。

「『毒見のヘカテ』、明日の対戦相手について何か情報はあるか?」

彼女の横に座る男が尋ねた。

「『暁の料理人・ソル』…彼の料理には特殊な力があるらしい」

ヘカテは赤い唇を歪めて笑った。彼女の黒い瞳には冷酷な光が宿っていた。

「記憶を呼び覚ます力だと?面白い。だが、私の『死の調味料』の前では、そんな力も意味をなさない」

彼女は小さな黒い瓶を取り出した。その中には漆黒の粉末が入っている。

「これを使えば、どんな料理人も力を失う。『死の調味料』は生命力そのものを吸い取るのだから」

「油断はするなよ」

別の男が言った。

「神官長サプライズはあの料理人に特別な注意を払っている。何か理由があるはずだ」

「知っているさ」

ヘカテは自信たっぷりに答えた。

「彼が『神殺しの料理人』の疑いをかけられていることもね。だからこそ私が対戦相手に選ばれたのだろう」

彼女は黒い瓶をテーブルに置いた。

「『死の調味料』は神々から授かった特別な力。もし彼が本当に『神殺しの料理人』なら、この力で暴いてみせる」

その表情には残忍な期待と喜びが浮かんでいた。

---

宿に戻った司たちは、部屋で明日の対策を話し合っていた。

「『毒見のヘカテ』についての情報をもう一度整理しよう」

グスタフが言った。

「彼女の料理の特徴は『死の調味料』。これは食べた者の生命力を奪うという特殊な力を持つ調味料だ」

「それはどんな効果があるのですか?」

エリシアが心配そうに尋ねた。

「食べた者は急激に体力を失い、最悪の場合は意識を失うこともある」

マルコが説明した。

「しかし、致命的なダメージを与えることはない。神宴祭では死者を出すことは禁じられているからだ」

「では、審査員はどうやって料理を判断するのですか?」

エリシアの質問に司が答えた。

「おそらく、料理の技術的な完成度や創造性、そして何より『神々への忠誠』を示す要素が重視されるだろう」

「つまり、単に『死の調味料』の力に頼るだけでは勝てないということか」

グスタフが頷いた。

「司が『記憶を呼び覚ます料理』で勝ったように、何か『死の調味料』を超える価値を示さなければならない」

司は考え込んだ。「死の調味料」の力に対抗するには、自身の「神馳せの饗宴」の力を使うしかない。しかしそれは、「神殺しの料理人」としての正体をさらに疑われるリスクがあった。

「だが、それもまた必要な賭けかもしれない」

司は決意を固めた。ここで退くわけにはいかない。神々の秘密に迫るため、そして料理の真の姿を取り戻すために。

「準備をしよう。明日の対決に備えて」

彼の言葉に一同は頷いた。夜は更けていき、神の国ファルミラに静寂が訪れる中、それぞれの料理人たちは明日の戦いに向けて心を整えていった。

明日から始まる本選トーナメント。それは単なる料理の技術を競う場ではなく、神々と人間の運命を左右する戦いの場となるはずだった。

---

同じ頃、ファルミラの小さな神殿の一室で、アルテミスは一人、静かに窓の外を見つめていた。彼女の前には小さな皿があり、そこには司とエリシアの料理のかけらが残されていた。

「記憶が蘇る…」

彼女は静かに呟いた。彼女の紫水晶の瞳には、懐かしさと悲しみが混ざり合っていた。

「私が『神殺しの料理人』だった頃の記憶…そして、あの人との約束…」

アルテミスは月を見上げた。明日から始まる本選トーナメント。それは彼女にとっても、失われた記憶を取り戻す重要な機会となるはずだった。

司たちが成功することを、そして自分自身も本来の姿を取り戻すことを祈りながら、彼女は静かに目を閉じた。

神宴祭最大の戦いは、明日からいよいよ本格的に始まろうとしていた。
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