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ふつーの人生
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「異世界には魔法がないそうね。それだとこの世界では生活に困るのよ。たとえば、いまあなたが下に降りられなかったようにね」
「……ま・ほ・う? いま魔法っていわなかった?」
「ええ、まぁ、私は生産者だから、実用魔法しか使わないけれど。でも、お父さんと結婚する前はギルドで依頼を受けて、戦ったりもしたの。お母さんは火魔法が得意だったのよ! おかげで火を使った料理の火加減は完璧なの」
「……? いや、あの、うん。とにかく、階段ってどこに」
「ないわよ」
「……じゃ、どうやって下まで降りてるっていうんですか」
「落ちるの」
「へ」
「普通に落ちていって、それから落ちる前に風魔法でふわりと浮いて、着地するだけ」
俺は脳が混乱してきた。たしかに階段はなかった。けれど、そんな馬鹿な話を鵜呑みにするほどおれもポンコツじゃない。
「ふ、ふざけないでくれよ、警察呼ぶぞ」
「なんのために?」
「えっと、拉致監禁とかで、犯罪だから」
「母親が息子を拉致監禁って、おかしいじゃない」
「……まだその設定引きずってんのかよ」
「え? なんて?」
「もういいです。……はぁ、今日は帰れないなぁ。お母さんになんて言えばいいんだ」
「お母さんならここにいるわよ」
「ちーがーう! ちがう! ちがうったらちがう!」
――その日は結局意味不明おばさんの家で一泊することになった。おばさんは食堂で料理を作る仕事をしているらしくて、明日も朝早いから、早く寝なくちゃといい、とっとと風呂に入って寝てしまった。おれも現金なやつだからちゃっかり風呂にあずかって、そこから用意してもらったベッドに寝っ転がり、物思いにふけった。
「あのおばさん、飯おごってくれたりするから、悪い人じゃないんだけど、どーも頭の中がファンタジーで話にならん。魔法とかギルドとか言ってたし、マシューってやたらに洋風な名前つけたがるし、もうやってらんねーよ」
本当の母親の方には、もう友達の家に泊まるから今日は帰れないとまでラインでいってある。俺は途中で接続が切れてしまった自分のツイキャスが心配だった。
チャットの履歴にはいろいろと心配の声が残されていた。
ナチョスNBA〈大丈夫か〉
yonndoria〈どうした、急に〉
やっさん〈画面真っ暗やし〉
俺はリスナーを放置した責任を感じて、とりあえずリンク先のツイッターで謝罪をしておいた。
リンタローチャンネル公式〈すいませーん!!! ほんっと、ごめんなさい、今日はやべー奴らに絡まれて配信途中で切れちゃいました! 今後はそういうのないように気をつけていきたいと思いますんで、よろしくお願いしまーす!!!〉
フォロー数522人に対し、フォロワー数70人のアカウントでこうつぶやいてみるも、誰も返事をくれない。それに対して、フォロワー数40万人越えの有名人の数時間前のツイートは簡単に10000いいねを突破し、コメントも数百件送られている。リツイートも2392回されていて、そのツイートの内容はひとこと、
○○○○〈今日はすごくいい天気……でも、風邪がはやっているみたいだから、みんな気をつけてね!〉
だった。
「ちっきしょー……やっぱおれ、こういうの向いてないのかも。べんきょーもサボってきたし、特技があるわけでもなし。人気者だったことが一度もないや……」
別にいいじゃないか、ふつーの人生歩めよ、ってか学校行けよ、と空耳が聞こえた。うるせー、明日はマリカーの編集済みの動画あげっから、それで53人から一気に一万人ぐれーバズるんだよ、だまってやがれ、と強がりを言った。
「……ま・ほ・う? いま魔法っていわなかった?」
「ええ、まぁ、私は生産者だから、実用魔法しか使わないけれど。でも、お父さんと結婚する前はギルドで依頼を受けて、戦ったりもしたの。お母さんは火魔法が得意だったのよ! おかげで火を使った料理の火加減は完璧なの」
「……? いや、あの、うん。とにかく、階段ってどこに」
「ないわよ」
「……じゃ、どうやって下まで降りてるっていうんですか」
「落ちるの」
「へ」
「普通に落ちていって、それから落ちる前に風魔法でふわりと浮いて、着地するだけ」
俺は脳が混乱してきた。たしかに階段はなかった。けれど、そんな馬鹿な話を鵜呑みにするほどおれもポンコツじゃない。
「ふ、ふざけないでくれよ、警察呼ぶぞ」
「なんのために?」
「えっと、拉致監禁とかで、犯罪だから」
「母親が息子を拉致監禁って、おかしいじゃない」
「……まだその設定引きずってんのかよ」
「え? なんて?」
「もういいです。……はぁ、今日は帰れないなぁ。お母さんになんて言えばいいんだ」
「お母さんならここにいるわよ」
「ちーがーう! ちがう! ちがうったらちがう!」
――その日は結局意味不明おばさんの家で一泊することになった。おばさんは食堂で料理を作る仕事をしているらしくて、明日も朝早いから、早く寝なくちゃといい、とっとと風呂に入って寝てしまった。おれも現金なやつだからちゃっかり風呂にあずかって、そこから用意してもらったベッドに寝っ転がり、物思いにふけった。
「あのおばさん、飯おごってくれたりするから、悪い人じゃないんだけど、どーも頭の中がファンタジーで話にならん。魔法とかギルドとか言ってたし、マシューってやたらに洋風な名前つけたがるし、もうやってらんねーよ」
本当の母親の方には、もう友達の家に泊まるから今日は帰れないとまでラインでいってある。俺は途中で接続が切れてしまった自分のツイキャスが心配だった。
チャットの履歴にはいろいろと心配の声が残されていた。
ナチョスNBA〈大丈夫か〉
yonndoria〈どうした、急に〉
やっさん〈画面真っ暗やし〉
俺はリスナーを放置した責任を感じて、とりあえずリンク先のツイッターで謝罪をしておいた。
リンタローチャンネル公式〈すいませーん!!! ほんっと、ごめんなさい、今日はやべー奴らに絡まれて配信途中で切れちゃいました! 今後はそういうのないように気をつけていきたいと思いますんで、よろしくお願いしまーす!!!〉
フォロー数522人に対し、フォロワー数70人のアカウントでこうつぶやいてみるも、誰も返事をくれない。それに対して、フォロワー数40万人越えの有名人の数時間前のツイートは簡単に10000いいねを突破し、コメントも数百件送られている。リツイートも2392回されていて、そのツイートの内容はひとこと、
○○○○〈今日はすごくいい天気……でも、風邪がはやっているみたいだから、みんな気をつけてね!〉
だった。
「ちっきしょー……やっぱおれ、こういうの向いてないのかも。べんきょーもサボってきたし、特技があるわけでもなし。人気者だったことが一度もないや……」
別にいいじゃないか、ふつーの人生歩めよ、ってか学校行けよ、と空耳が聞こえた。うるせー、明日はマリカーの編集済みの動画あげっから、それで53人から一気に一万人ぐれーバズるんだよ、だまってやがれ、と強がりを言った。
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