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覚醒する少年

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「……ただいま」

 家は母と妹がすでに寝静まったせいで、帰ってきても誰も返事をしなかった。ルカはくたくたになりながら、台所で水を沸かし、コップに注いだ。

「……物は試しだっ」

 茶色い錠剤はところどころ縞模様になっていて、あまり飲み込みたいとは思えなかったが、ルカは嫌悪感ごと丸呑みするように勢い込んで口に含み、老師に言われたとおりに温水で飲み込んだ。

「……うっ!」

 全身の神経に電流が流れたような衝撃があった。手に持っていた温水入りのコップが床に落下する。すぐにその場に倒れ込み、体中が燃え上がるような灼熱間を味わう。

「うぁああっっ、熱いっ、熱い熱い熱い……っっ」

 恐ろしいほど自分の心臓の音を間近に聞いた。ドクンドクンと、信じられないほどのアップテンポで鼓動が鳴り響き、すぐに意識が混濁し始める。

 物音を聞いた母が二階の寝室から階段で下りてきて、倒れている自分の息子を見つけた。

「――ルカ! どうしたのあなた! ちょっと!」
「……かあ、さん……」

 おぼろげな意識の中で、母の慌てふためく姿が見えた。ルカは完全に意識を失った。

◇◇

 ルカは気を失っている間、夢を見ていた。きらめく星空を眺める夢だ。ルカは草原の上に寝そべって、さわやかな夜の風を全身に感じながら、満天の星空を仰ぎ見ている。

「あっ……」

 赤色に輝いていた名も知らぬ星が、だんだん斜めに移動しているのが見えた。それは徐々に大きさと輝きを増していき、彗星のごとくスターダストを後方に噴射しながら落下してきた。どうやら近くに落ちてきそうだ。

「大変だ、どうしよう」

 しかし不思議と落ち着いていた。ただその星が落ちてくるのを待てばよい、と思っていた。そして赤い星は巨大な光る球体としてルカのいる草原地帯に音もなく落ちてきて、ふわりと着地した。

 球体は実態がない赤い光の塊だったが、その中に徐々に黒い小さな人影を見つけた。赤い光はその人影をめがけて収縮していき、やがて人影の中に光がすべて納められた。

《おぎゃあ、おぎゃあ》

 赤子の泣き声を聞いて、急いで駆け寄ると、銀髪のかわいらしい赤子が、白い布にくるまれて草原の上で泣いていた。

 ルカは赤子を抱き上げた。すると驚くことに、赤子のきれいな銀髪が、みるみるうちに黒く染め上がり、異国の者さながらの黒髪に変貌してしまった。ルカは唖然とした。

「――はっ」

 目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。草原などどこにもなく、赤子など抱いてはいなかった。丸眼鏡がなくて、視界がぼやけている。

「あ、ルカが目を覚ましたよ、お母さん」

 妹のリリーが顔をのぞき込み、そう言った。

「はい、お兄ちゃん、眼鏡どーぞ」
「ありがとう……」

リリーが預かってくれていた丸眼鏡をかけ直し、左を振り見る。隣のベッドで寝ていた女性と話し込んでいた母のケティが振り返り、リリーと同じようにルカの顔をのぞき込んで、ほっと安堵してような表情を浮かべた。

「よかったわぁ、急に倒れちゃうものだから、心配したのよ」
「そっか、僕、倒れたんだ」
「あなた、変なもの食べたんじゃないの?」
「え?」
「お医者様がねぇ、食中毒のたぐいじゃないかって言うのよ」
「……そうなんだ」
「ねぇお兄ちゃん、昨日の夜、どこ行ってたの?」
「えっと、……いやぁ、どこって言っても、まぁ……」

 まごついた口調でごまかそうとしていると、担当医のカルロス医師がベッドルームに見回りに来た。目を覚ましているルカを見ると、すぐに笑顔で話しかけた。

「やぁ、ルカ。お目覚めかい」
「あ、どうも……」
「カルロス先生、おかげさまで、息子が助かりました」
「いえいえ、ちょっとした食あたりだと思いますから、大事には至らないでしょう。経過が順調なようなら、今日中にでも退院してくださって結構ですよ」
「ありがとうございます、先生……」

 ルカは家族とともに昼間に病院を出た。ルカは帰り道を歩く間、自分の体の中の、何かが抜け落ちた感覚を確かめていた。まるで今までふさがっていた芯が外れてしまったような、不安な浮き足だった気持ちがしていた。

「お兄ちゃん、まだちょっと顔色悪いね」
「うん、今日は帰ったら安静にしているよ」
「そうね。あなたもいろいろあったものね。一度ゆっくり生活して、これからのことは落ち着いてから考えることにしましょ」
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