普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児

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第十四話 王都が大ピンチ

 王都ロントモアーズは大混乱であった。
 魔憎病にかかった民が人々を襲うのである。
 その姿はさながらアンデッドモンスターに似ていた。酩酊したようにフラフラと動き、爛れた肉体を動かす。
 攻撃は主に噛みつき。噛まれた者は感染して魔憎病にかかる。
 王城は罹患者を魔憎徒と呼んだ。

 国王は、白い眉の下に居座る鋭い瞳を細めた。

「このままでは王都が滅ぶ。魔憎徒を殲滅するのだ!」

 しかし、元は普通の人間である。
 このままでは大量殺戮になってしまう。

「お待ちください。国王!」

 と、声を掛けたのはキアーラだった。

「この異常事態を鎮めるのは、私たち聖女ギルド、【女神の光輝】しかありません!」

 まぁ、元はといえば、このギルドに属しているアーシャが魔力を放出したせいなのであるが、王城の者はそれを知らなかった。

「おお! 聖女が戦ってくれるとは心強い」

「はい。 私わたくしどもに全てお任せください!」

 一応、彼女は責任を感じていた。
 こんなことで死人を出したのでは、一生トラウマになると自覚していたのだ。

「して。どういった方法を取るのだ?」

「私の美声に 回復ヒールをかけて、それを王都に響かせるのです!」

「おお! それで効果はあるのか?」

「はい! 魔憎病は脳に魔力がかかってしまっているのです。それを 回復ヒールで癒せば治療は簡単です!」

 この情報はイルエマが発案したことである。
 実は数時間前。困りきったキアーラは魔憎病について狸の 腹鼓はらづつみに相談に行ったのだ。その時にこの話を盗み聞きしたのである。
 良い情報を仕入れた彼女は、相談を辞めて王城に向かったというわけだ。

「おおおおお! 流石は聖女だ! よし、任せたぞ!!」

「はい! 全てお任せください! それで、無事に解決した暁月なのですが……」

「うむ。その時はそれ相応の褒美は使わすぞ! もちろん、王都新聞の記事に載せて、そなたらの勇姿を称賛しよう」

「ありがとうございます♡」

 キアーラは有頂天だった。
 怪我の功名とはこのことか! とピンチをチャンスに変える腹づもりだったのだ。
 横にいるアーシャは難色を示す。

「ねぇ、キアーラ。ボーカルは変えた方がいいんじゃない?」

「何言ってんのよ! 女神聖歌隊のメインボーカルは私以外にありえないのよ!」
(私が歌わないとイルエマが来るじゃない! あんな地味子より私の方が凄いことをみんなに証明するチャンスなのよ!)

「……で、でもぉ。一回目が人気出なかったじゃないか」

「はぁ? そもそも、こうなったのは誰の責任よ? 原因があなたにあることがバレれば禁錮10年じゃ済まないわよ? 死刑になるかもしれないんだから」

「うう……。ごめん」

「あなたは何も心配せずにコーラスに専念すればいいのよ♪」

「ああ、うん……」

 アーシャが不安なまま、キアーラたちはステージに立った。

「王都のみなさん。私の歌を聞いて正気を取り戻してください」

 キアーラは、前回の失敗を取り戻そうとしていた。
 ヤジが飛んできた原因を彼女なりに考えたのだ。

(あの時は、声量が足らなかったんだと思うわ。もっとお腹から声を張り上げれば、私の美声が届くはず)

 聖女たちは 回復ヒールをキアーラにかけた。

(さぁ、いくわよ!)


「恋。それは神の囁き。あ゙ーーあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」


 彼女のダミ声は声量を増して空に響いた。
 アンデットのようにゆっくりと動いていた魔憎徒たちは更に凶暴化した。

『ウガァアアアアアアッ!!』

 人々は逃げ惑う。
 逃げながらもキアーラに物を投げつけた。

「うるせぇえ! 黙れ音痴!!」
「てめぇのせいで悪化してるだろうがぁああ!!」
「悪の権化ぇえええ!!」

 これには国王も怒った。

「なんだあの音痴は! ワシのことを殺す気か!! 衛兵よ! あの聖女を捕らえよ!!」

「え!? ちょ、何すんのよ!!」

 キアーラは縄に括られる。
 そんな中、アーシャの気持ちは爆発した。

(ああ、なんとかしなくちゃ死人が出ちゃう! あーしのせいなんだから!!)

 彼女は魔法の拡声器、魔育を持つ。
 そして叫んだ。

「ああああああああああああ!! みんな治ってぇえええええええ!!」

 彼女は目一杯の魔力で 回復ヒールを掛けた。その声を魔育で拡声させる。

 しかし、魔憎徒には通じなかった。

「あああ……。ダメだぁあ。心地よい音じゃないから耳に入らないんだぁあああ……」

 絶望する。
 このままでは王城の兵士が動き、魔憎徒を攻撃する。
 そうなれば死亡者が出るのである。

 アーシャの目からは大粒の涙がボロボロと溢れた。

「ごめんなさい。みんなごめん……うううう」

 もう立っていられない。
 本当に、心から悔やむ。
 その時である。



「泣かないでアーシャちゃん」



 見上げると、そこにはイルエマが立っていた。
 真っ白いフリルの付いた可愛い服を着て。
 ミニスカートからチラリと見える白い腿にアーシャは思わず目が奪われた。

「……地味エマ」

「私がなんとかしますから」

「ううう……。この状況はあーしが作ったんだ。あーしが恨みの魔力を放っちゃったからこんなことになったの。ううう……。どうしよう。あーしのせいだぁああ。ううう」

「そうだったんですね。でも、反省しているならもういいじゃないですか」

「でもでもぉ。このままじゃ死亡者が出ちゃう。あーしのせいで大変なことになっちゃうよぉおおお!」

「私が……。いえ。私たちがそんなことはさせませんから」

 イルエマの後ろからは狸の 腹鼓はらづつみのメンバーが現れました。
 エジィナは大きな拡声器をステージに設置します。

「これは僕が考えた拡声器でね。魔育で増幅された声を更に大きく拡声するんだ」

 これはイルエマが彼女と初めて出会った時に図面に描いていた物である。

「お、おまえ達……。一体何をするつもりなんだ?」

 ナナハはニヤリと笑った。

「歌うのよ」

 ピアノの前奏が流れ始める。
 それは明るくてリズミカルな音色だった。

 
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