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第4章
災い転じて福となす 2
しおりを挟む翌日、わたしがイタチになったのは午前4時21分だった。
5分前に通知は来ていたため、それをアラーム代わりにして意識を呼び覚まし衝撃に備える。
昨日イタチになった時を思い出すに、人間からイタチになる時はとてつもない激痛を伴うことになるようだ。
わたしは痛みには強い方だと自負しているけど、それでも本気で泣き叫びたくなるくらいの痛みだ。実際は痛すぎて声すら出さなかったんだから尚更酷い。
なんというか、臓器の全てが圧縮されて骨が軋むような感覚だ。実際体の形状が縮んでいるのだから理論には適っているが、分かっていたとしても痛いものは痛い。
『………はぁ…はぁ、……ようやく変身終わりですか。』
痛みが引いたのを確認して目を見開くと、やはりイタチに姿が変わったわたしがいた。
昨日のは偶然だったという一縷の望みに賭けていたが、残念ながらアプリに記載されたペナルティーのことはすべて事実のようだ。
『ふむ。……でもこうやって頭を冷やして考えると不思議なもんだよな。』
なんか、イタチの姿だと人間の言葉では言い表しようがない変な感覚になる。動く時もなんかバランス感覚がおかしい。動きにくいとかじゃなくて、動かし方を理解してないのに何故か動かせるから不気味だ。
そもそも、今のわたしって全裸の状態なのに、毛で覆われているからかそこまで寒さは感じない。まあ裸になった時特有の変な気まずさ的なのはちょっとあるけど、それは人間の感覚としてのものだからむしろあって良い。なんならこの感覚に慣れてしまって、人間の姿で全裸で歩き回り始めないか心配だ。そうなったら今度こそ学校人生終わるし。
『あ、あー。』
小さな声で発音もしてみるが、やはり人間言葉は話せない。何度も口にしても、きぃきぃ、とよく分からない鳴き声が出るだけだ。
そのまま興味本位で部屋のあちこちを歩き回ってみる。これくらいなら別に誰かにバレる心配もないだろう。
イタチ視点は新鮮で、小さな部屋を歩き回るだけでまるで冒険みたいだ。
『あ、このゲームのカセット昔無くしたやつじゃん。ラッキー。』
タンスの裏側に潜り込んでみたら、思わぬ掘り出し物も見つかったりした。
こうやってると案外楽しいもんだな。
但し、タンスの隙間から持ち出してくるのにはかなり苦労したもともと物を持ちやすい手の形してないし、そもそも二足歩行ができないため、散々苦戦した挙句結局口に咥えて持ってきた。
そんなこんなしていると、時刻は午前4時40分。もう20分近くも経っている。
えーっと、確か10分を過ぎたら任意で人間に戻れるんだよね。
戻りたいって願えばいいのかな?
わたしが頭の中で一旦人間に戻ることを願うと、身体は丸々大きくなって人間に戻った。
「おお、ホントに戻れた。」
願うだけで簡単に人間に戻れるのは悪くない。
戻る時は痛みもないし。
ま、今日みたいに家にいる時にイタチになるのはそんなに困らない。いくらでも誤魔化せるし、戻る時も部屋の中なら全裸でも問題ない。
問題は外出時だが、まあ5分も猶予があればどこかトイレとか探せるだろ。
痛みにさえ耐えれば案外なんとかなりそうだ。
「さてと、アプリでも見ますか……。」
二度寝しようか迷ったが、あと二、三時間すればどうせ起きるのだから、少しでもポイントを稼いでおこう。
「あれ……?」
アプリ開いてイタチの写真やらを眺めようとしたわたしだったが、ポイント数を確認しようとした時にあることに気がついた。
ペナルティー解除まで 残り9944ポイント
明らかに減り方がおかしい。
昨日の時点で残り9984ポイントで、家で7時間学校で6時間見たから、13ポイント減って残りは9971ポイントくらいのはずだ。26ポイントも多く減っているのはおかしい。
減り方が早ければそれに越したことはないが、法則は知っておきたい。
………もしかして、イタチになっている間はポイントを得られるってことかな。アプリを閲覧しただけで得られるなら、それもあり得る話だ。
思えば、昨日初めて確かめた時の9984ポイントなんてキリが悪いし、初期設定は10000ポイントだったんじゃないか?
昨日イタチに変わってる時間にポイントを16ポイント得て、今日26ポイント得たと考えると辻褄が合う。
しかも今日は昨日よりも長い時間イタチになっていたし、昨日より今日の方が多くポイントを貰えているというのも納得できる。
昨日10分間イタチに変わってただけで16ポイント、そして今日20分間変わってただけで26ポイント。
…………もしかして、一日中アプリを退屈眺めるより、イタチに変身している時間を長くした方が効率よくポイントを得られるんじゃないか?
イタチに姿に慣れるのは人間の尊厳が失われるような気がして嫌だけど、背に腹は変えられない。一時間もイタチの姿でいれば50ポイントはくらいは固いはずだ。
もしかしたら、わたしみたいにイタチを好きになれない人のための救済措置なのかもしれない。いや、それならそもそもこんな罰を与えるなって話ではあるけど。
ともかく、ポイントの稼ぎ方は今後も考えていかないといけないと思いながら朝を待つわたしであった。
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