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第5章
わたしは人間なのか否か 2
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学校の授業はいつも退屈で溢れている。
寝たら怒られるし、我慢しててもどうせ何も集中できない。せいぜい大きなあくびをするくらいしかできないのだが、それすらバレたら注意される。
あくびくらいで怒るなら、一生スマホいじってる秋川さんにもなんか言えよ、と思わなくもないが、誰よりも成績優秀な彼女に勉強面であーだこーだいう人はいない。授業の妨害をしているならともかく、秋川さんに注意して口論になることの方が面倒だと教師陣も思っているのだろう。この人周りから煙たがられすぎだろ。
授業が終わってクラス内がざわつき出したころ、わたしは席を立って、最前列で距離を取られている秋川さんの元へと向かった。別にそんなことないのに、心なしか前後の人から席を離される嫌がらせを受けているように見える。それでも全く気にしていないからわざわざ正義感を出すこともないが。
わたしが近づいてもスマホに夢中で気配を感じ取っていなかったようなので、後ろから、こっそり美しいブロンズの毛先をいじってみたりする。
指がくすぐったくなるくらいふわふわしてた。
そのまま、スススと髪の上の指を上昇させていくと、秋川さんはようやくこちらに気がついて首を傾けてきた。その時一瞬ガチの殺気を感じたけど、すぐに収めてくれて何よりだ。
「おはよ、秋川さん。」
「なんだ……曽鷹さんか。」
「なんだとはなんだ。」
「あなた以外だったら間違いなく拳を止められなかったから。」
暴力性が強すぎる。髪を少しいじるくらいでボディーブロー炸裂とは、ヤンキーでもないのに噛みつき性能が高い。
……でも、わたしならいいんだ。ふーん。
「前から思ってたのだけれど、あなたなんで私と絡もうとするの?」
いつもは自分から質問なんてしない秋川さんだが、待ち構えてたみたいに神妙な面持ちで疑問を投げかけてきた。
「いや、わたし友達秋川さんくらいしかいないし。」
「海音さんとか花神さんとかいるじゃない。」
さりげなくわたしと秋川さんが友達だという事実を練り込んでみたが、そこには特に反応は返されなかった。
「最近そんなに仲良くないんだよね。わたしそこそここのクラスでいじめられてるし。まあ腫れ者同士仲良くしましょうや。」
「一緒にしないで。」
確かに秋川さんはいじめられっ子というよりは返り討ちにするタイプだけど、敢えて孤立しているという意味ではわたしと同じだ。
「それに、わたしは秋川さんのこと好きだから。」
「……好きとかこんな大勢の前で言うのはやめなさい。」
「意外と照れ屋?」
「違う。単に目立ちたくないだけ。わたしはあなたのこと別に好きじゃないし。」
「じゃあ嫌い?」
「……そうは言ってないでしょ。」
それはよかった。
秋川さんは、なんだかんだいって普段からそこそこ付け入る隙がある人だ。
今だって、わたしにガンガン責められるとちょっと覇気がなくなる。
わたしが秋川さんの超絶甘えモードを知っているからかもしれないけど、結構大胆なことをしても許してくれるパターンが多い。動物好きに悪い人はいないって言葉は案外間違いでもないのかもしれない。
「ところで、最近わたしの家の近くにイタチが住み着いてるみたいなんだけど、秋川さん知ってる?」
ここでわたし(イタチのすがた)の話題をひとつまみ。
正体を隠してエゴサするインフルエンサーみたいだけど、まあ実質秋川さんはむぎのファンみたいなものだし、ここら辺でその評価も聞いてみたいものだ。
「あなたの家はどこなのよ。」
「えっと、〇〇公園ってあるでしょ?その近く。」
「……もしかして、お腹が白くて、尻尾の先だけ黒くなってる子?」
「たぶん。」
そうなんだ。
自分のことながら、まともに眺めたことがなかったのでそんな特徴があるとは知らなかった。
「じゃあたぶんむぎのことね。」
秋川さんは、つい今し方まで残っていた気だるさを完全に吹き飛ばすかのように、ドヤ顔でわたしの名前を宣告した。わたしの前でさえこんなに円満な態度をとるんだから、どれだけその愛が深いかが分かる。なんか照れちゃうね。
「むぎって?」
全部知ってるけどわざとらしく質問に回る。
「私が付けた名前。あそこらへんに住んでるイタチと、仲良いから。」
「ほうほう。」
それにしても秋川さんの自慢顔は純粋無垢だなぁ、なんて。嬉々として語る時は穢れがなくなるとか、ファンタジーのキャラかと思うくらいには極端だ。
「写真とかあったりする?」
「あまり上手く撮れてるのはないけど……。これとか?」
秋川さんはわずかに眉をひそませつつも、スマホで撮ったむぎの写真を見せてくれた。
「おぉ。結構手ブレしてるね。」
「動いてる動物は撮るのが難しいの。」
写真にはあまり顔映りが良いとは言えないイタチの姿が映っている。
鏡で見てはいるけど、こうやって他人目線から見る自分の姿は初めてだ。
「でもかわいいね。」
「でしょ?でも見た目だけじゃなくてね。この子はおとなしくて、ちょっと抜けてるところもあるのが可愛いの。」
にこにこ、とまではいかなくても、好きなものを語る厄介オタクくらいには早口で熱がこもった弁論だ。
「わたしみたいな感じ?」
「あなたはちょっとどころか頭のネジ5本は外れてるでしょ。それに全然おとなしくない。むぎみたいな高等な生き物と一緒にしないで。」
「ひでえ。」
同一人物なんですが。
「あと、むぎと私はお互いに大好きで相思相愛だから。」
「わたしも秋川さんのこと大好きだよ?」
「……おあいにく様。わたしは大好きじゃないから。」
「じゃあ秋川さんがわたしのこと大好きになってくれたら、実質わたしはむぎということだね。」
「意味わかんないこと言わないでってば。」
秋川さんは口を尖らせるが、そこに以前まで感じられたトゲは見つからない。確実に否定はしてるけど、ちゃんと距離感を理解している反応の仕方だった。
事実としてはわたしはむぎなんだから何も間違っていないけど、真面目な話、わたしが目指す行く末はどちらの姿でも好かれることだ。
むぎ=曽鷹ひなたであることを話す時が来るかは分からないけど、そう話しても小突かれる程度で済むくらいの関係性になりたい。
授業が始まるので秋川さんの元を離れたわたしは、そのまま席に戻るついでに後ろに体を向けた。
「冴乃、ちょっといい?」
休み時間ずっと眠っていた冴乃は、久しぶりに声をかけたわたしを見て目をぱちくりさせる。
「あれ?ひなたじゃん。ご無沙汰。」
「お願いがあるんだけどいいかな。」
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