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龍王と人助け
13話目 怒りのデスロード
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魔力だけで事象に影響を与えることなど殆ど無い。途轍も無いほど膨大な魔力量があればその限りではないが、個人でそれは非現実的だ。その為に魔法や呪いに変換して用いる必要があるのだ。
だがこの赤龍は違う。指先に込めた程度の魔力が仮想の質量をもって我の肉体を砕いている。押し潰している。
「《肉体の主導権を得るのはこちらとしてもかなりの手間なのよ。そう何度も出来る事じゃない。》」
「《それをお前如きに使ってしまった。良くもまぁその程度であれだけ大仰な口をきけたものよな。本当に笑えない》」
「《……まあいい。こいつは未だ"力"に"知識"が追いついていないからな。》」
「ぎゃっ……!」
目に見えぬ力の塊が更に何発も叩き込まれる。頭が穿たれ、胴も吹き飛び、手足はもがれる。その度に何度も何度も復活する
「《……魔力によるレクチャーはこんな所か。今度はこっち》」
虫ケラを解体して無邪気に嘲嗤う子供のような行動を赤龍は漸く止めた。そしてそのままピンと立てた人差し指をまるで刀を鞘から抜き放つ。そんな流れる様な美しい動作で下方から上段へと指を振りきった。ヒュン!風を断つ音と共に真空の刃が打ち出されていた
「ぐっ…」
「《力任せに振るうだけなら赤子でも出来る。大事なのは力の伝え方》」
魔力はまるで感じない。どういう理屈でこんな事が起きるのか。地面を斬り裂きながら迫る烈風を反射的に身を捻り辛うじて回避する。
風の暴威が過ぎ去った方向へ視線を向けて次に我が目を疑った。地面は見渡す限り遥か先まで断面が続いていたが、それが遥か遠方の山頂に佇んでいる古びた監視塔と分厚い雲まで綺麗に両断してしまっていたからだ。
聖国アイトルードの初代聖女アンジュは魔力を一切使わずに祈るだけで海を割るという奇跡を人々に見せつけたそうだが、なるほど、この赤龍もそういった類のモノらしい
「《敵から視線を外すのは別に構わないけど感覚で相手を捉えていないと致命的な隙を晒すことになるわ。こんな風にね》」
声が耳元で囁かれた気がした。直ぐに振り返るいつのまにか赤龍の姿は忽然と消えている。あれほどの巨体を見失う事など有る筈がない
「《こっちよ》」
振り返りざまに背中付近に衝撃が走り抜け思考が強制的に中断される。殴ったのではなく、指を溜めて弾いていた。所謂デコピンが先程までの死ぬ殴打より死ぬほど痛い。骨の髄まで重く響く
「ぐ…ぅぅ!!?い、つまでも、調子に乗ってるんじゃねぇぞ!」
攻撃を受けながらもなりふり構わず、背後の敵に対して掌に魔力を集めて練り上げて放つ。
我がまたしても死んだのは云うまでも無いが、しかし一方的にやられたわけではなく今回は痛み分けだ。
緑色の炎の柱がぼうぼうと龍を呑み込んでいた。並の者ならこの一撃で灰になっている。しかしあの龍に限ってこれで終わりということはないだろう
「《嫌がらせ? 肌がかさつくじゃない》」
案の定、龍は小馬鹿にするように手でパタパタと扇ぎながら平然と何食わぬ顔で炎柱から出てくる。魔力に炎の属性を付加した程度では攻撃力が足りない
「ゲヒッ…」
我の最大の利点は身を持って知った事を教訓にできる事だろう。不用意に近づけば死ぬことは分かった。ならば近づかず、近づけさせず、一方的に敵を殲滅する手を考えるだけだ
「炎武・輪」
右手を翳すと小さく四つの魔方陣が展開し回転する。回転速度が徐々に速くなっていく
「…くらえっ」
ドドドド!と耳障りな駆動音に似た音を奏でながら魔方陣は緑色の魔法弾を吐き出していく。一発ではない。無数に何発も何十発も何百発も高速で打ち出している。一発一発の威力は大魔法に遠く及ばないかもしれない。しかし質ではなく量による圧殺を試みたのだ
数万発も打ち込まれるとなったら赤龍も足を止める位にはなるかもしれない
「《嘗めてるの?》」
少しでもそんな風に考えてしまっていた自分の認識がつくづく甘いのだと思い知らされる。龍は炎の弾幕をまるで霧雨でも払うかのように気にかける様子もなく優然と歩を進めていたのだ。鱗に阻まれて攻撃が通らない
「《もう少し必死でやれ》」
弾かれた炎弾の破片が辺りの木々に燃え移り始めると、火は瞬く間に木々を緑色から橙色に染め上げる。龍の鳴き声を主旋律にして、木々がパチパチと焼け落ちる音が重唱して聖歌を高らかに謳いあげているように聞こえた。一瞬だけ思わず見惚れてしまったが、直ぐに意識を戦闘へと戻す
「炎武・刺」
もっと強い攻撃が必要だ。頭上の空間がぐにゃりと歪んだ。高温により空気が揺らめき、一際歪みが大きくなる
「《……さっきよりはマシかな》」
圧縮された空間の中で槍を形作り空中で緩徐に浮遊させる。槍を警戒してなのか龍は値踏みするように目を細めながら歩みを止めた。緑炎の槍はクルクルと先端を螺旋運動させ続け、そして龍の眉間へ矛先を定めて打ち放たれる。
「《当たったら痛そうだけど》」
自身が持ち得る攻撃手段の中で最速の緑炎の槍は優に音速の五倍の速度を誇る。至近距離で見てから避けられる類のものではない。
赤龍は槍が突撃した後に悠然と回避行動に移るが間に合わない。当たると思った矢先だ
「《直線的過ぎて読みやすいね》 」
僅かにだが確実に不自然に軌道が曲がった。
そのまま一直線に地平の彼方へと吸い込まれる様に消えた緑炎の槍は龍の代わりに後方の山に大穴を開通させていた。
避けたという事は、少なくともこのレベルの攻撃なら赤龍の硬質な鱗に対しても有効であるらしいが……何をした。確実に当たるはずだった攻撃をどうやって避けたのだ
「運良く上手く避けたなぁ。じゃあこれも避けてみろよ」
今度は緑炎の槍を左右に其々出現させ同時に射出した
「《今のに運が絡んだと思える短絡的思考は羨ましいとさえ思えるのよ》」
龍は動いてすらいないのに今度は二つの緑炎の槍が見えない力で潰されるように不自然に掻き消される。龍は動かずにただこちらを見ていただけだ
「《隙だらけ》」
ブチブチという音が下方から聞こえた。音の方へ目をやると右腕が肘から引き千切られていく音だった
「《質問。今どんな攻撃をしたのでしょうか?》」
だがこの赤龍は違う。指先に込めた程度の魔力が仮想の質量をもって我の肉体を砕いている。押し潰している。
「《肉体の主導権を得るのはこちらとしてもかなりの手間なのよ。そう何度も出来る事じゃない。》」
「《それをお前如きに使ってしまった。良くもまぁその程度であれだけ大仰な口をきけたものよな。本当に笑えない》」
「《……まあいい。こいつは未だ"力"に"知識"が追いついていないからな。》」
「ぎゃっ……!」
目に見えぬ力の塊が更に何発も叩き込まれる。頭が穿たれ、胴も吹き飛び、手足はもがれる。その度に何度も何度も復活する
「《……魔力によるレクチャーはこんな所か。今度はこっち》」
虫ケラを解体して無邪気に嘲嗤う子供のような行動を赤龍は漸く止めた。そしてそのままピンと立てた人差し指をまるで刀を鞘から抜き放つ。そんな流れる様な美しい動作で下方から上段へと指を振りきった。ヒュン!風を断つ音と共に真空の刃が打ち出されていた
「ぐっ…」
「《力任せに振るうだけなら赤子でも出来る。大事なのは力の伝え方》」
魔力はまるで感じない。どういう理屈でこんな事が起きるのか。地面を斬り裂きながら迫る烈風を反射的に身を捻り辛うじて回避する。
風の暴威が過ぎ去った方向へ視線を向けて次に我が目を疑った。地面は見渡す限り遥か先まで断面が続いていたが、それが遥か遠方の山頂に佇んでいる古びた監視塔と分厚い雲まで綺麗に両断してしまっていたからだ。
聖国アイトルードの初代聖女アンジュは魔力を一切使わずに祈るだけで海を割るという奇跡を人々に見せつけたそうだが、なるほど、この赤龍もそういった類のモノらしい
「《敵から視線を外すのは別に構わないけど感覚で相手を捉えていないと致命的な隙を晒すことになるわ。こんな風にね》」
声が耳元で囁かれた気がした。直ぐに振り返るいつのまにか赤龍の姿は忽然と消えている。あれほどの巨体を見失う事など有る筈がない
「《こっちよ》」
振り返りざまに背中付近に衝撃が走り抜け思考が強制的に中断される。殴ったのではなく、指を溜めて弾いていた。所謂デコピンが先程までの死ぬ殴打より死ぬほど痛い。骨の髄まで重く響く
「ぐ…ぅぅ!!?い、つまでも、調子に乗ってるんじゃねぇぞ!」
攻撃を受けながらもなりふり構わず、背後の敵に対して掌に魔力を集めて練り上げて放つ。
我がまたしても死んだのは云うまでも無いが、しかし一方的にやられたわけではなく今回は痛み分けだ。
緑色の炎の柱がぼうぼうと龍を呑み込んでいた。並の者ならこの一撃で灰になっている。しかしあの龍に限ってこれで終わりということはないだろう
「《嫌がらせ? 肌がかさつくじゃない》」
案の定、龍は小馬鹿にするように手でパタパタと扇ぎながら平然と何食わぬ顔で炎柱から出てくる。魔力に炎の属性を付加した程度では攻撃力が足りない
「ゲヒッ…」
我の最大の利点は身を持って知った事を教訓にできる事だろう。不用意に近づけば死ぬことは分かった。ならば近づかず、近づけさせず、一方的に敵を殲滅する手を考えるだけだ
「炎武・輪」
右手を翳すと小さく四つの魔方陣が展開し回転する。回転速度が徐々に速くなっていく
「…くらえっ」
ドドドド!と耳障りな駆動音に似た音を奏でながら魔方陣は緑色の魔法弾を吐き出していく。一発ではない。無数に何発も何十発も何百発も高速で打ち出している。一発一発の威力は大魔法に遠く及ばないかもしれない。しかし質ではなく量による圧殺を試みたのだ
数万発も打ち込まれるとなったら赤龍も足を止める位にはなるかもしれない
「《嘗めてるの?》」
少しでもそんな風に考えてしまっていた自分の認識がつくづく甘いのだと思い知らされる。龍は炎の弾幕をまるで霧雨でも払うかのように気にかける様子もなく優然と歩を進めていたのだ。鱗に阻まれて攻撃が通らない
「《もう少し必死でやれ》」
弾かれた炎弾の破片が辺りの木々に燃え移り始めると、火は瞬く間に木々を緑色から橙色に染め上げる。龍の鳴き声を主旋律にして、木々がパチパチと焼け落ちる音が重唱して聖歌を高らかに謳いあげているように聞こえた。一瞬だけ思わず見惚れてしまったが、直ぐに意識を戦闘へと戻す
「炎武・刺」
もっと強い攻撃が必要だ。頭上の空間がぐにゃりと歪んだ。高温により空気が揺らめき、一際歪みが大きくなる
「《……さっきよりはマシかな》」
圧縮された空間の中で槍を形作り空中で緩徐に浮遊させる。槍を警戒してなのか龍は値踏みするように目を細めながら歩みを止めた。緑炎の槍はクルクルと先端を螺旋運動させ続け、そして龍の眉間へ矛先を定めて打ち放たれる。
「《当たったら痛そうだけど》」
自身が持ち得る攻撃手段の中で最速の緑炎の槍は優に音速の五倍の速度を誇る。至近距離で見てから避けられる類のものではない。
赤龍は槍が突撃した後に悠然と回避行動に移るが間に合わない。当たると思った矢先だ
「《直線的過ぎて読みやすいね》 」
僅かにだが確実に不自然に軌道が曲がった。
そのまま一直線に地平の彼方へと吸い込まれる様に消えた緑炎の槍は龍の代わりに後方の山に大穴を開通させていた。
避けたという事は、少なくともこのレベルの攻撃なら赤龍の硬質な鱗に対しても有効であるらしいが……何をした。確実に当たるはずだった攻撃をどうやって避けたのだ
「運良く上手く避けたなぁ。じゃあこれも避けてみろよ」
今度は緑炎の槍を左右に其々出現させ同時に射出した
「《今のに運が絡んだと思える短絡的思考は羨ましいとさえ思えるのよ》」
龍は動いてすらいないのに今度は二つの緑炎の槍が見えない力で潰されるように不自然に掻き消される。龍は動かずにただこちらを見ていただけだ
「《隙だらけ》」
ブチブチという音が下方から聞こえた。音の方へ目をやると右腕が肘から引き千切られていく音だった
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