73 / 141
龍王と冒険者ギルド
69話目
しおりを挟む
この世界には数多の強者が存在している。だがそれは単一の存在での話だ。かつて"人類最強"と讃えられた初代アストールが第一次人魔大戦にて魔王直下の大幹部"三天四地"を打ち破り魔族を最北の大陸ミューヒンラフィーネへ追いやろうと、それが人が魔族より強いという証明にはならない
上位魔族より強い人間もいれば、小型の魔物にすら劣る人間もいる。それが種というものだ。しかしこの世界において唯一の例外がある。それが『龍族』だ
龍族内では兎も角、少なくとも他種族と比較する場合、彼らの中に弱者は存在しないことになる。仮に龍族で最も弱い龍と各種族の最上位が戦ったとして死闘になるのは必至。紛れもなく生態ピラミッドの頂点に君臨している
「ッッ……な、なにが」
赤い龍に対して聖国の司教であるキケは眼前の光景に只々言葉を失い、一歩後ずさる。引き連れてた配下20人は枢機卿直属の部隊の一つ聖歌隊の面々だ。一人一人の実力は冒険者ギルドにおける高位冒険者にすら引けを取らないだろう。現に彼らはこの数年東方の地にて100体以上の凶悪な魔獣を一兵の損失なく討伐してきた。そんな腕利きたちが瞬き一回の間に全滅だ
いや、そもそもがあの魔導王の結界を一層とはいえ、龍が破った事がおかしいのだ。
(こんなものを従えている、こいつは何だ)
唯一の救いは、この龍が地に伏す彼らを対等の敵とすら認識していないことだ。その証拠に倒れた全員に息があった。殺し損ねたのでは無く手心を加えたからに他ならないだろう
「話がしたいの。逃げるなら少しだけ手荒くするわよ」
一歩ずつゆったりとした歩調で近づいてくる白い彼女と背後に控える赤い龍が何者か。などと考えている暇は既になかった。脇目も振らずキケは走る。少しでも距離を取るために
「がぁ?!」
しかし突然足に激痛が走り無様に転げる。見ると、いつの間にか凍りついた草葉が足の甲を突き破って覗かせており、血が一面に飛び散っていたからだ
「逃げないで」
「私の言ってること、分かるよね?」
「何者か知らぬが、敬愛する神の信徒である私にこんな事をして、貴様は死後永久に天国に行く事が出来なくなったぞ!」
尻もちをつき無様なキケを横目に白い彼女は呆れるように僅かなため息をつく
「神……ね。哀れよ、貴方たちは。いつまでいなくなった人に縋る気なのかしら。そんなんだから……」
この世界において唯一の神を信仰する人は多いが、聖国の人の信心は特に凄まじい。異常と言い換えてもいい。故に彼女の態度に彼は激高した
「神を軽んじる異端者め!貴様の魂はこの現世で苦しみ抜いて、尚救済すらされぬものと知れ!」
「……まるでこの世界が地獄みたいに言うのね」
「なんだと?」
「生きる上で数え切れない苦悩に苛まれ!心が折れるほどの挫折を何度も経験し!命の数だけの果てしない絶望がある!貧困が。飢餓が。差別が。苦しみが。これだけ渦巻いているのに、これが地獄じゃなければ何だと言うのか!」
「なら枯れない花だけあれば幸せですか?
泥水を啜ってでも生き延びようとする生き物は不幸なのですか?
きっと生きるということは、そういうことじゃないと思いますよ」
「……なにが言いたい」
「貴方が思ってるよりも、この世界は生きるに値する世界だという話です」
彼女はなにを思ったのか僅かに口を噤む
「話が逸れたわ。今はそんな話がしたいわけじゃないもの。
どうして、貴方はあの小さな村に目を付けたのかしら。どんな狙いがあるのか、教えてくれないかしら?」
「来るな!異端者のお前に話すことなど何も無い!」
「ヒッ……!なんだ、それは。それを使って何をする気だ」
忌々しそうに睨みつけるキケは同じ言葉を繰り返し、彼女は漸く歩みを止める。恐らく肉体に過度な拷問を強いても、彼が口を開くことはないだろう。しかし、この世界には魔法がある。人の考えや思いを捻じ曲げる醜悪な魔法が
彼女は唇を薄暗く歪めた
「……大丈夫よ。怖がらないで。直ぐに話したくなるから」
ーーー†††ーーー
酷く気分が悪い。今我らは、先に町に待たせていた苺水晶とトーチカさん達と合流して、共に依頼達成の報告を町長であるドムックさんに行っていた所だったが我と彼らの表情は対照的だった
「キプロウの町を代表して心からのお礼を
ほ、本当に。何と申していいか……ありがとうございます。ありがとうございます」
声を震わせながら、ドムックさんが玻璃の手を握りお礼を伝えていた。あの時とはまるで違う本当に優しい微笑みを浮かべて彼女は応えた
「力になれて良かったわ。そういえば、報酬の方は後日ギルド管理局の方たちが受け取りに来るそうなので、其方に渡してください」
どちらが本当の彼女なのだろうか。いや、どちらにしても、幾らなんでもあれは無い。人の尊厳を貶める魔法だ。あんな……
「大丈夫ですか? 顔色悪い感じしますよ アカシャ様」
《裸を見て気まずいだけでは?》
「終わった話を蒸し返すな。謝ったろ」
「《……大丈夫だよ》」
我の言葉は通じてない筈だが、その一言に苺水晶は少しだけ心配の色を和らげていた
玻璃は何処か目的があるかのように町外れを目指して歩いていた。それに我らはついて行く
「で、結局 そのキケって奴の目的は何だったんですか。先輩」
「彼の話を総括すると、この東方の大地の魔力は魔素の通り道である龍脈が途絶えた事により、既に枯渇していて、それなのに純度の高い魔草が町で育つのはおかしいと」
「あー……つまり?」
いまいち要領を得ないトーチカさんに対して、苺水晶は小馬鹿にした風に鼻を鳴らす
「誰かさんにも分かりやすく言いますと、この町の魔草は別の何かを源にして成長しているってこと。ですよね、先輩」
「そうよ、流石ね」
「何かってなんだよ?」
「それを確認しに行くのよ」
玻璃が足を止める。其処は村外れであるが、あの子供たちが売っていた雪花 ピナスが特に一面に咲いている所だった
「此処なら迷惑をかけないかしら」
「なにもないが」
「偉大なる龍王様この下よ」
「《……ああ》」
我は言われるがままに、力任せに拳で叩くと大地が大きくその口を開いた。遥か地面の奥底には似つかわしくない異様な物がその姿を覗かせていた
「《なんだ、この黒い扉。しかも刻まれた八芒星は見覚えが》」
しかし、それを見た3人はその正体を知っていたらしく驚愕していた
「魔迷宮の門!?こんな所に」
「なるほど。つまり魔草は門から溢れた魔力を吸い取ってたってわけか」
「しかもこの紋章は始祖 鳳仙が創り上げた特別な……」
突然黒い扉が鈍い音と共に開き始める。眩い光と共に全員が中へと引きずり込まれた
上位魔族より強い人間もいれば、小型の魔物にすら劣る人間もいる。それが種というものだ。しかしこの世界において唯一の例外がある。それが『龍族』だ
龍族内では兎も角、少なくとも他種族と比較する場合、彼らの中に弱者は存在しないことになる。仮に龍族で最も弱い龍と各種族の最上位が戦ったとして死闘になるのは必至。紛れもなく生態ピラミッドの頂点に君臨している
「ッッ……な、なにが」
赤い龍に対して聖国の司教であるキケは眼前の光景に只々言葉を失い、一歩後ずさる。引き連れてた配下20人は枢機卿直属の部隊の一つ聖歌隊の面々だ。一人一人の実力は冒険者ギルドにおける高位冒険者にすら引けを取らないだろう。現に彼らはこの数年東方の地にて100体以上の凶悪な魔獣を一兵の損失なく討伐してきた。そんな腕利きたちが瞬き一回の間に全滅だ
いや、そもそもがあの魔導王の結界を一層とはいえ、龍が破った事がおかしいのだ。
(こんなものを従えている、こいつは何だ)
唯一の救いは、この龍が地に伏す彼らを対等の敵とすら認識していないことだ。その証拠に倒れた全員に息があった。殺し損ねたのでは無く手心を加えたからに他ならないだろう
「話がしたいの。逃げるなら少しだけ手荒くするわよ」
一歩ずつゆったりとした歩調で近づいてくる白い彼女と背後に控える赤い龍が何者か。などと考えている暇は既になかった。脇目も振らずキケは走る。少しでも距離を取るために
「がぁ?!」
しかし突然足に激痛が走り無様に転げる。見ると、いつの間にか凍りついた草葉が足の甲を突き破って覗かせており、血が一面に飛び散っていたからだ
「逃げないで」
「私の言ってること、分かるよね?」
「何者か知らぬが、敬愛する神の信徒である私にこんな事をして、貴様は死後永久に天国に行く事が出来なくなったぞ!」
尻もちをつき無様なキケを横目に白い彼女は呆れるように僅かなため息をつく
「神……ね。哀れよ、貴方たちは。いつまでいなくなった人に縋る気なのかしら。そんなんだから……」
この世界において唯一の神を信仰する人は多いが、聖国の人の信心は特に凄まじい。異常と言い換えてもいい。故に彼女の態度に彼は激高した
「神を軽んじる異端者め!貴様の魂はこの現世で苦しみ抜いて、尚救済すらされぬものと知れ!」
「……まるでこの世界が地獄みたいに言うのね」
「なんだと?」
「生きる上で数え切れない苦悩に苛まれ!心が折れるほどの挫折を何度も経験し!命の数だけの果てしない絶望がある!貧困が。飢餓が。差別が。苦しみが。これだけ渦巻いているのに、これが地獄じゃなければ何だと言うのか!」
「なら枯れない花だけあれば幸せですか?
泥水を啜ってでも生き延びようとする生き物は不幸なのですか?
きっと生きるということは、そういうことじゃないと思いますよ」
「……なにが言いたい」
「貴方が思ってるよりも、この世界は生きるに値する世界だという話です」
彼女はなにを思ったのか僅かに口を噤む
「話が逸れたわ。今はそんな話がしたいわけじゃないもの。
どうして、貴方はあの小さな村に目を付けたのかしら。どんな狙いがあるのか、教えてくれないかしら?」
「来るな!異端者のお前に話すことなど何も無い!」
「ヒッ……!なんだ、それは。それを使って何をする気だ」
忌々しそうに睨みつけるキケは同じ言葉を繰り返し、彼女は漸く歩みを止める。恐らく肉体に過度な拷問を強いても、彼が口を開くことはないだろう。しかし、この世界には魔法がある。人の考えや思いを捻じ曲げる醜悪な魔法が
彼女は唇を薄暗く歪めた
「……大丈夫よ。怖がらないで。直ぐに話したくなるから」
ーーー†††ーーー
酷く気分が悪い。今我らは、先に町に待たせていた苺水晶とトーチカさん達と合流して、共に依頼達成の報告を町長であるドムックさんに行っていた所だったが我と彼らの表情は対照的だった
「キプロウの町を代表して心からのお礼を
ほ、本当に。何と申していいか……ありがとうございます。ありがとうございます」
声を震わせながら、ドムックさんが玻璃の手を握りお礼を伝えていた。あの時とはまるで違う本当に優しい微笑みを浮かべて彼女は応えた
「力になれて良かったわ。そういえば、報酬の方は後日ギルド管理局の方たちが受け取りに来るそうなので、其方に渡してください」
どちらが本当の彼女なのだろうか。いや、どちらにしても、幾らなんでもあれは無い。人の尊厳を貶める魔法だ。あんな……
「大丈夫ですか? 顔色悪い感じしますよ アカシャ様」
《裸を見て気まずいだけでは?》
「終わった話を蒸し返すな。謝ったろ」
「《……大丈夫だよ》」
我の言葉は通じてない筈だが、その一言に苺水晶は少しだけ心配の色を和らげていた
玻璃は何処か目的があるかのように町外れを目指して歩いていた。それに我らはついて行く
「で、結局 そのキケって奴の目的は何だったんですか。先輩」
「彼の話を総括すると、この東方の大地の魔力は魔素の通り道である龍脈が途絶えた事により、既に枯渇していて、それなのに純度の高い魔草が町で育つのはおかしいと」
「あー……つまり?」
いまいち要領を得ないトーチカさんに対して、苺水晶は小馬鹿にした風に鼻を鳴らす
「誰かさんにも分かりやすく言いますと、この町の魔草は別の何かを源にして成長しているってこと。ですよね、先輩」
「そうよ、流石ね」
「何かってなんだよ?」
「それを確認しに行くのよ」
玻璃が足を止める。其処は村外れであるが、あの子供たちが売っていた雪花 ピナスが特に一面に咲いている所だった
「此処なら迷惑をかけないかしら」
「なにもないが」
「偉大なる龍王様この下よ」
「《……ああ》」
我は言われるがままに、力任せに拳で叩くと大地が大きくその口を開いた。遥か地面の奥底には似つかわしくない異様な物がその姿を覗かせていた
「《なんだ、この黒い扉。しかも刻まれた八芒星は見覚えが》」
しかし、それを見た3人はその正体を知っていたらしく驚愕していた
「魔迷宮の門!?こんな所に」
「なるほど。つまり魔草は門から溢れた魔力を吸い取ってたってわけか」
「しかもこの紋章は始祖 鳳仙が創り上げた特別な……」
突然黒い扉が鈍い音と共に開き始める。眩い光と共に全員が中へと引きずり込まれた
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貞操逆転世界の「内助の功」~掃除と料理を極めた俺が、脳筋幼馴染を女王にするまで~
ありゃくね
ファンタジー
前世の記憶が目覚めたそこは、男女の貞操が逆転した異世界だった。
彼が繰り出すのは、現代知識を活かした「お掃除アイテム」、そして胃袋を掴む「絶品手料理」。 ただ快適に暮らしたいだけのマシロの行動は、男に飢えた女騎士たちを狂わせ、国の常識さえも変える一大革命へと繋がっていく。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた
ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。
遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。
「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。
「異世界転生に興味はありますか?」
こうして遊太は異世界転生を選択する。
異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。
「最弱なんだから努力は必要だよな!」
こうして雄太は修行を開始するのだが……
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる