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龍王と魔物
81話目
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宝人族の中でもより優れた資質を持つ者たちは身体を任意に宝石化することで戦闘に運用することが出来る。
とりわけボナードはその資質が飛び抜けていた。
手足はおろか長い髪の毛の一本一本に至るまで宝石化させて戦うことが出来るからだ。文字通りの全身凶器である。
これまで血の滲むようような肉体の研磨と敵の骸を重ね続けたことで、今やその強さは族長であるウルクやグランドセクターにも決して引けを取るものではない。
寄ってくるオークたちを切り刻んでいき髪の毛をそのまま鋭い槍のように変化させワームに突き刺す。
「!?」
然し、槍はガギンッと耳をつんざく音と共に攻撃が外皮に阻まれていた。
身体を振われて、必然的に体格で劣るボナードが吹き飛ばされる
「クハハ。オマエ強イナ?オレノ名ハ ダフ。アースイーターの十四傑衆ガ一体。石喰いのダフ」
「硬すぎるっての」
そんなボナードの実力を持ってしても地竜族は楽に倒せる相手などでは無かった。曲がりなりにもリュウの名を冠する種族なのだから当然と云えば当然なのだが。
現れたワームの数は百を超える中で目の前の一体に手一杯な事実は彼にとっては大きな誤算でありショックを隠せなかった
「全員がこの強さだと流石に笑えないが、お前何番目に強いんだ」
「一番強イ、ト言イタイ所ダガ、残念ナガラアースイーター十四傑衆は一体ヲ除イテ殆ド強サハ変ワラン。ソシテ倒サレタ一体ヲ除ク全員ガコノ場ニ揃ッテイル。
ドウイウ意味カワカルカ?オレガ足元ニモ及バナイ最強ノ存在エウロバ様ガ此ノ場ニイルイジョウ貴様ラニ勝チ目ハナイトイウコトダ」
ボナードは驚愕した。俄には信じられなかったからだ。猪頭族、昆蟲族、宝人族合わせても自分は間違いなく五本の指に入る実力だと自負している。
その自分とやり合える目の前のダフと同程度の存在がこの場に十二体もいて、それに加えてそんな奴らが足元にも及ばないエウロバなる者までいるというのだ。ハッタリだと思いたいが、この自信満々な態度から到底嘘だとは思えなかった
「ガバァ……」
気を取り直した瞬間、何かが勢いよく、向かい合うボナードとダフの間に着弾した。違う、吹き飛ばされてきたのだ。
ダフよりも遥かに巨大なワームを膂力で薙ぎ倒せる存在など、この場で思い当たるのは────
「エ、エウロバ様!?」
「ニ、逃ゲナケレバ、コココ殺サレル。ア、アイツハ怪物ダ。」
ガタガタと震えるエウロバに対して奇しくも2人は同時に飛んで来た方向を無視できずに視線を向けた。
目に入るのは、なぜか異様に地竜族に対して敵対心を見せる赤い龍王がアースイーターを含めたワームのみを狙って一撃で倒していっている所だった
「GYAON!」
「ヒィ……」
赤い龍とダフの目が確かに合った。1秒にも満たない時間で距離を詰められる。反応速度が追いつかない。
メコメコメコッ。凄まじい力で拳がめり込んだ次の瞬間には、ボナードがどれほど攻撃しても擦り傷しか入らなかったダフの固い外皮を唯の拳が何なく打ち破り、その巨大な質量を横転させながら宙を舞っていた。
「Gaa」
この草原では現在、双方合わせて万の存在が戦っている。しかし今この瞬間から、まるで凪いだ海の様に静かになった。
基本的に戦いとは多対一の原則が適用される。どれだけ個で優れていようと1人で百を倒す力があるか。では1人で千を翻弄する知恵は。ましてや1人で万を凌駕する術などあるのか。
だというのに。
全員が。敵も味方も。誰も彼もが。一様に動きを止めた。圧倒されたからだ。その強さに。龍の存在に。アーカーシャを恐れ慄いていた
「Guooooooo!!!」
殺意の込められた咆哮を向けられてオークの戦意が完全に折れた。武器を落とす物まで出始める始末だ。
それを見て潮時かとシンドゥラは目を伏せた。
「降伏する。だからどうか俺の命一つでその怒りを……」
「な、何を言っているのですか!?シンドゥラ様!まだ負けていません!人質だっています。救出に来たのなら奴らは人質の存在を軽視はしません。脅迫してやれば」
それに意を唱えたのは巳の仮面を付けた怪しげな女性マヤである。だがシンドゥラも首を振る
「あの龍に昆蟲族の人質を使ったとして、それは有効か?精々が余計な怒りを買ってしまうのが関の山だろう。殲滅されるのは望むところではない。
そもそも人質を取ったのは、元々マトローナを交渉の席に着かせる為のものだった。もういい」
「……アレに勝つ手段があればよろしいのですね」
マヤは一つの魔法具を取り出した。禍々しい魔力を放つそれは特級魔法具"黄金樹"により生み出された物であり、このマヤの手に有る物は精神生命体種族である悪魔族。その中でも高位の存在を養分として創られたものであった。
「これを喰らえば、一時的に魔力覚醒を引き起こし、巨大な力を得ることが出来ます。恐らく、あの龍を凌ぐほどの」
「……当然リスクが、あるのだろう?」
その言葉にマヤは臆面もなく頷いた
「副作用として、一定時間後に魔力が淀み始めます。分かりやすく言うならば、かなりの高い確率で使用者は魔獣化するでしょう」
「……魔獣。あの様な醜い獣に堕ちるのか」
魔獣は命ある全てが忌避する存在だ。あの果てのような存在には死んでも成りたくないと思うのも無理からぬ話だろう。しかし、それを了承したのは、無様に転がされているエウロバの方であった
「寄越セ、ソレヲ。見下シヤガッテ。アイツハコノ手デ殺シテヤル」
マヤがそれを何らかの魔法の力でエウロバの口内に転送した。ゴクンッとそれを呑み込む音がした
身体が眩い光に包まれて変質し始めていた。その瞬間から何か別の存在に組み替えられていくのを感じ取ったアーカーシャが動く。変化が終わるより先に終わらせようとしたのだ
今までの児戯のような技ではない。本気の一撃を振り下ろす
「gaa?」
「ふはは、これは良い。今なら何者にも負ける気がしないぞ」
赤い龍の拳が受け止められていた。エウロバは一時的に先程までの地竜を大きく上回る存在として進化したのだ。
地竜から地龍へ。
その威風堂々たる姿は正しく、魔物の頂点に君臨する龍。そのものであった
とりわけボナードはその資質が飛び抜けていた。
手足はおろか長い髪の毛の一本一本に至るまで宝石化させて戦うことが出来るからだ。文字通りの全身凶器である。
これまで血の滲むようような肉体の研磨と敵の骸を重ね続けたことで、今やその強さは族長であるウルクやグランドセクターにも決して引けを取るものではない。
寄ってくるオークたちを切り刻んでいき髪の毛をそのまま鋭い槍のように変化させワームに突き刺す。
「!?」
然し、槍はガギンッと耳をつんざく音と共に攻撃が外皮に阻まれていた。
身体を振われて、必然的に体格で劣るボナードが吹き飛ばされる
「クハハ。オマエ強イナ?オレノ名ハ ダフ。アースイーターの十四傑衆ガ一体。石喰いのダフ」
「硬すぎるっての」
そんなボナードの実力を持ってしても地竜族は楽に倒せる相手などでは無かった。曲がりなりにもリュウの名を冠する種族なのだから当然と云えば当然なのだが。
現れたワームの数は百を超える中で目の前の一体に手一杯な事実は彼にとっては大きな誤算でありショックを隠せなかった
「全員がこの強さだと流石に笑えないが、お前何番目に強いんだ」
「一番強イ、ト言イタイ所ダガ、残念ナガラアースイーター十四傑衆は一体ヲ除イテ殆ド強サハ変ワラン。ソシテ倒サレタ一体ヲ除ク全員ガコノ場ニ揃ッテイル。
ドウイウ意味カワカルカ?オレガ足元ニモ及バナイ最強ノ存在エウロバ様ガ此ノ場ニイルイジョウ貴様ラニ勝チ目ハナイトイウコトダ」
ボナードは驚愕した。俄には信じられなかったからだ。猪頭族、昆蟲族、宝人族合わせても自分は間違いなく五本の指に入る実力だと自負している。
その自分とやり合える目の前のダフと同程度の存在がこの場に十二体もいて、それに加えてそんな奴らが足元にも及ばないエウロバなる者までいるというのだ。ハッタリだと思いたいが、この自信満々な態度から到底嘘だとは思えなかった
「ガバァ……」
気を取り直した瞬間、何かが勢いよく、向かい合うボナードとダフの間に着弾した。違う、吹き飛ばされてきたのだ。
ダフよりも遥かに巨大なワームを膂力で薙ぎ倒せる存在など、この場で思い当たるのは────
「エ、エウロバ様!?」
「ニ、逃ゲナケレバ、コココ殺サレル。ア、アイツハ怪物ダ。」
ガタガタと震えるエウロバに対して奇しくも2人は同時に飛んで来た方向を無視できずに視線を向けた。
目に入るのは、なぜか異様に地竜族に対して敵対心を見せる赤い龍王がアースイーターを含めたワームのみを狙って一撃で倒していっている所だった
「GYAON!」
「ヒィ……」
赤い龍とダフの目が確かに合った。1秒にも満たない時間で距離を詰められる。反応速度が追いつかない。
メコメコメコッ。凄まじい力で拳がめり込んだ次の瞬間には、ボナードがどれほど攻撃しても擦り傷しか入らなかったダフの固い外皮を唯の拳が何なく打ち破り、その巨大な質量を横転させながら宙を舞っていた。
「Gaa」
この草原では現在、双方合わせて万の存在が戦っている。しかし今この瞬間から、まるで凪いだ海の様に静かになった。
基本的に戦いとは多対一の原則が適用される。どれだけ個で優れていようと1人で百を倒す力があるか。では1人で千を翻弄する知恵は。ましてや1人で万を凌駕する術などあるのか。
だというのに。
全員が。敵も味方も。誰も彼もが。一様に動きを止めた。圧倒されたからだ。その強さに。龍の存在に。アーカーシャを恐れ慄いていた
「Guooooooo!!!」
殺意の込められた咆哮を向けられてオークの戦意が完全に折れた。武器を落とす物まで出始める始末だ。
それを見て潮時かとシンドゥラは目を伏せた。
「降伏する。だからどうか俺の命一つでその怒りを……」
「な、何を言っているのですか!?シンドゥラ様!まだ負けていません!人質だっています。救出に来たのなら奴らは人質の存在を軽視はしません。脅迫してやれば」
それに意を唱えたのは巳の仮面を付けた怪しげな女性マヤである。だがシンドゥラも首を振る
「あの龍に昆蟲族の人質を使ったとして、それは有効か?精々が余計な怒りを買ってしまうのが関の山だろう。殲滅されるのは望むところではない。
そもそも人質を取ったのは、元々マトローナを交渉の席に着かせる為のものだった。もういい」
「……アレに勝つ手段があればよろしいのですね」
マヤは一つの魔法具を取り出した。禍々しい魔力を放つそれは特級魔法具"黄金樹"により生み出された物であり、このマヤの手に有る物は精神生命体種族である悪魔族。その中でも高位の存在を養分として創られたものであった。
「これを喰らえば、一時的に魔力覚醒を引き起こし、巨大な力を得ることが出来ます。恐らく、あの龍を凌ぐほどの」
「……当然リスクが、あるのだろう?」
その言葉にマヤは臆面もなく頷いた
「副作用として、一定時間後に魔力が淀み始めます。分かりやすく言うならば、かなりの高い確率で使用者は魔獣化するでしょう」
「……魔獣。あの様な醜い獣に堕ちるのか」
魔獣は命ある全てが忌避する存在だ。あの果てのような存在には死んでも成りたくないと思うのも無理からぬ話だろう。しかし、それを了承したのは、無様に転がされているエウロバの方であった
「寄越セ、ソレヲ。見下シヤガッテ。アイツハコノ手デ殺シテヤル」
マヤがそれを何らかの魔法の力でエウロバの口内に転送した。ゴクンッとそれを呑み込む音がした
身体が眩い光に包まれて変質し始めていた。その瞬間から何か別の存在に組み替えられていくのを感じ取ったアーカーシャが動く。変化が終わるより先に終わらせようとしたのだ
今までの児戯のような技ではない。本気の一撃を振り下ろす
「gaa?」
「ふはは、これは良い。今なら何者にも負ける気がしないぞ」
赤い龍の拳が受け止められていた。エウロバは一時的に先程までの地竜を大きく上回る存在として進化したのだ。
地竜から地龍へ。
その威風堂々たる姿は正しく、魔物の頂点に君臨する龍。そのものであった
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