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龍王と魔物と冒険者
99話目
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ティムール大陸の地方ギルドの一つ豚の残飯亭。所属人数32名。全体の平均ランクはC寄りのD。高位冒険者は地方ギルドには1人いるかどうかなのでBランクが事実上の最高戦力と言える。
無論このギルドも例外ではなかった。ついこの間までは。
シュウ・ハザマが少し前に高位冒険者になったからだ。鼻筋が通りキリッとした目つき、だがどこか幼さを感じられ甘い顔立ちをしている。正に二枚目で嫌味がなく人に好かれやすい傾向にあるようだ。
顔が良く人気という点を除けば彼はどこにでもいる一介の冒険者だ。だが緑鬼鈴鹿の討伐という偉業を成し、その功績が管理局裁定により認められ、一気にAランクにまで引き上げられるという破格の昇任が行われた。
新たな英雄の誕生とさえ持て囃され、そこからはトントン拍子であった。その腕と将来性を見込まれて、あの"略奪者たちの王"から多額の金で引き抜きたいと声がかかったのだ。初めは断ろうと思った。だが周囲の後押しもあり移籍を決意した。ギルドの皆には惜しまれながらも盛大に祝われ煽てられた。そして皆が口々に語った。
地方の一冒険者で燻っていた男が或いは世界一とさえ云われる冒険者ギルドでこれから仲間たちと共に伝説に残るような英雄譚を刻むのだと、皆がそんな夢を見てしまうほどに期待していた。
『よっ未来の大英雄!』 『あんたならNo.1冒険者になれる!』 『シュウ!三大ギルドに見せつけてやれ!』
『……一丁やったりますか~』
男はお調子者であった。それが先月までの経緯だ。
そして現在、そんな彼は略奪者たちの王ギルドマスターアレクセイの部屋に呼び出されていた。
「ワルター急な話で悪いがお前たち4人にはこれから極秘裏にあのバルディア大山脈一帯の調査を行なってもらう。向かってる時にこの資料に目を通せ」
「かしこまりました。ですがギルド合同任務なら我がギルドの威厳を示す為にもS級を動かした方がよろしいのでは?」
「極秘裏にといったろう。それだと目立つ。だが他のギルドに遅れをとるのも確かに面白くはねえ。だからこそ今回お前を使うんだ。シュウ。にしても人が悪い。
知らなかったよ。お前がかの最強の冒険者"龍殺し"の弟子だったとはな」
「はいぃ!?」
唐突過ぎてシュウ自身が驚いてその目を大きく見開いた。無論そんな事実はない。誰だ。そんな口からでまかせを吹き込んだのは。そんな感じだった
「違うってえのか?」
ギラリと眼光が鋭くなる。訂正するべきかどうか僅かに迷うと隣にいた俺の隣にいた男に顔を向ける
「おい兄弟共。俺に嘘つきやがったのか?」
「いやいや本当だぜ、マスター。俺はシュウさんから龍と戦った話だって聞いたんだ!なっ!兄者」
(あの赤龍について語っただけで龍殺しについて語った覚えはないが……)
「弟の言う通りだ。シュウさんは人間ができていてよく謙遜するんだ!緑鬼も本当は自分が倒したわけじゃないって言い張っているくれえなんだから!」
(本当に倒してないんだが……)
「……まあいい。てめぇら4人に任せたぞ」
アレクセイの命の元、彼ら4人はこうしてバルディア大山脈に向かう事となり、思いがけず、またしてもシュウは赤龍と交錯する運命に迷い込んでしまったのであった。
ーーーー◇△○×ーーー
現在バルディア大山脈では、この地を治めるアーカーシャの命のもと急ピッチで雪姫が山一つ使って創り上げた神殿を龍王が住まうに相応しい居住地へと変貌しかけていた。
体力も腕力も人間とは比べ物にならない魔物たちとはいえ、いくらなんでも進捗状況が異様なほど速かった。この地に住まう者たちに建築の知識などあるはずも無い。
だが始祖鳳仙が創り上げた黒の妖精アヤメの手腕と魔迷宮屍たちの墳墓の存在が大きかった
彼らは魔迷宮"屍たちの墳墓"とこの地を融合させていったのだ。それはつまりこの場を異空間として変異させているに他ならない。そして魔迷宮を管理する力を持つアヤメは現在同化した空間の全てを把握するに至っていた。
バルディア大山脈は広大な面積を誇り、多くの種が住んでいるが、これまでは何となく強い魔物たちのテリトリーを大まかに決めているだけであった。しかし現在はアヤメが主導のもとエリアを細かく23区に分割して管理されようとしていた
「シンドゥラ、6区の進捗が遅れている。どうやらゴブリンの村同士で諍いが起きているようだ」
「分かりました。50騎ほどオレについてこい」
猪頭族のリーダーシンドゥラの号令に武装したオークの兵隊たちが出発した。
「エウロバ9区の開墾が遅れてるな」
「マダ半分ダ。後2日ハカカル」
今度は地竜族のリーダーエウロバの報告を一喝するように食い気味に遮る。
「遅い。1日で終わらせろ」
「ソレダト働ク者タチノ休憩時間ガ無クナルゾ」
「今はバルディア全体の利益を最優先です。地竜たちが全てのエリアを開墾しなければ何も始まらない。
倒れるまで働かせて下さい。」
「我々も手伝いましょうか?」
酷な話である。地竜たちは手を抜いてるわけではない。それはアヤメも分かっている。並の魔物の優に十倍の仕事量だと。だが今は寸刻すら惜しい。
宝人族のボナードの提案にアヤメは首を横に振る
「見つけた例の鉱石の採掘と研究はお前たちにしか出来ない。あれは使える気がする。早急にな」
「……他国と接しているエリアに配置しているスケルトンの部隊を幾つか応援に回す。それで十分でしょう」
「感謝シマス」
アヤメが何かを感じて突然瞼を閉じる。何処か遠くを覗き見ているようだ。数秒ほどしてから、彼女はさっきまで見ていた方角を指差す。
「……ラーズ、また新しい魔物たちが21区に流れてきてる。魔狗たちだ。数は150程度か。お出迎えしてやれ。丁重にな」
「この程度の些事に人を割くわけにもいきませんな。吾輩たち3人で十分です。ガレス、パロデミス、行くぞ!」
ラーズがマントをはためかせて、骸骨将軍を引き連れる。彼ら3人なら例えガルムが千体いようとピンチにはなりえまい
「昆蟲族は全エリアに魔力糸を張り巡らせる作業はどうなってる」
「順次滞りなく行っています」
「城の方は?」
「当然抜かりなく」
バルディア大山脈の中央部に位置する居城に携わるのはマトローナたち昆蟲族が行うと引かなかった。
アヤメの手に余るのはたった一体の魔物だけだ。マトローナにその魔物の所在を聞く
「フェンリルは何をしている?」
「彼はアーカーシャ様以外の指示は聞きたくないと。アケメネス高原で寝てますね」
「全く……あいつは」
唯我独尊。フェンリルという種を従えるのは強さだけだ。その点、彼を従えることが出来るのは現状アーカーシャを除きいないので諦めるしかない
「……また何かきた。エリア20区辺りか。スケルトンたちが交戦してる」
「どうしました?」
「冒険者たちだ。数は20」
全員の顔が一気に強張る。冒険者
魔物たちにとっては死神と何ら変わらない存在。そんな奴らが20人。
大した数ではないがその強さは決して侮れるものではない。
「どうしますか?」
「……この程度ならマトローナとボナードたち戦士団で十分だろう」
「分かりました。私が侵入者どもには相応の報いを与えてやりましょう」
灰色の昆蟲人マトローナが残酷に口角を上げた
無論このギルドも例外ではなかった。ついこの間までは。
シュウ・ハザマが少し前に高位冒険者になったからだ。鼻筋が通りキリッとした目つき、だがどこか幼さを感じられ甘い顔立ちをしている。正に二枚目で嫌味がなく人に好かれやすい傾向にあるようだ。
顔が良く人気という点を除けば彼はどこにでもいる一介の冒険者だ。だが緑鬼鈴鹿の討伐という偉業を成し、その功績が管理局裁定により認められ、一気にAランクにまで引き上げられるという破格の昇任が行われた。
新たな英雄の誕生とさえ持て囃され、そこからはトントン拍子であった。その腕と将来性を見込まれて、あの"略奪者たちの王"から多額の金で引き抜きたいと声がかかったのだ。初めは断ろうと思った。だが周囲の後押しもあり移籍を決意した。ギルドの皆には惜しまれながらも盛大に祝われ煽てられた。そして皆が口々に語った。
地方の一冒険者で燻っていた男が或いは世界一とさえ云われる冒険者ギルドでこれから仲間たちと共に伝説に残るような英雄譚を刻むのだと、皆がそんな夢を見てしまうほどに期待していた。
『よっ未来の大英雄!』 『あんたならNo.1冒険者になれる!』 『シュウ!三大ギルドに見せつけてやれ!』
『……一丁やったりますか~』
男はお調子者であった。それが先月までの経緯だ。
そして現在、そんな彼は略奪者たちの王ギルドマスターアレクセイの部屋に呼び出されていた。
「ワルター急な話で悪いがお前たち4人にはこれから極秘裏にあのバルディア大山脈一帯の調査を行なってもらう。向かってる時にこの資料に目を通せ」
「かしこまりました。ですがギルド合同任務なら我がギルドの威厳を示す為にもS級を動かした方がよろしいのでは?」
「極秘裏にといったろう。それだと目立つ。だが他のギルドに遅れをとるのも確かに面白くはねえ。だからこそ今回お前を使うんだ。シュウ。にしても人が悪い。
知らなかったよ。お前がかの最強の冒険者"龍殺し"の弟子だったとはな」
「はいぃ!?」
唐突過ぎてシュウ自身が驚いてその目を大きく見開いた。無論そんな事実はない。誰だ。そんな口からでまかせを吹き込んだのは。そんな感じだった
「違うってえのか?」
ギラリと眼光が鋭くなる。訂正するべきかどうか僅かに迷うと隣にいた俺の隣にいた男に顔を向ける
「おい兄弟共。俺に嘘つきやがったのか?」
「いやいや本当だぜ、マスター。俺はシュウさんから龍と戦った話だって聞いたんだ!なっ!兄者」
(あの赤龍について語っただけで龍殺しについて語った覚えはないが……)
「弟の言う通りだ。シュウさんは人間ができていてよく謙遜するんだ!緑鬼も本当は自分が倒したわけじゃないって言い張っているくれえなんだから!」
(本当に倒してないんだが……)
「……まあいい。てめぇら4人に任せたぞ」
アレクセイの命の元、彼ら4人はこうしてバルディア大山脈に向かう事となり、思いがけず、またしてもシュウは赤龍と交錯する運命に迷い込んでしまったのであった。
ーーーー◇△○×ーーー
現在バルディア大山脈では、この地を治めるアーカーシャの命のもと急ピッチで雪姫が山一つ使って創り上げた神殿を龍王が住まうに相応しい居住地へと変貌しかけていた。
体力も腕力も人間とは比べ物にならない魔物たちとはいえ、いくらなんでも進捗状況が異様なほど速かった。この地に住まう者たちに建築の知識などあるはずも無い。
だが始祖鳳仙が創り上げた黒の妖精アヤメの手腕と魔迷宮屍たちの墳墓の存在が大きかった
彼らは魔迷宮"屍たちの墳墓"とこの地を融合させていったのだ。それはつまりこの場を異空間として変異させているに他ならない。そして魔迷宮を管理する力を持つアヤメは現在同化した空間の全てを把握するに至っていた。
バルディア大山脈は広大な面積を誇り、多くの種が住んでいるが、これまでは何となく強い魔物たちのテリトリーを大まかに決めているだけであった。しかし現在はアヤメが主導のもとエリアを細かく23区に分割して管理されようとしていた
「シンドゥラ、6区の進捗が遅れている。どうやらゴブリンの村同士で諍いが起きているようだ」
「分かりました。50騎ほどオレについてこい」
猪頭族のリーダーシンドゥラの号令に武装したオークの兵隊たちが出発した。
「エウロバ9区の開墾が遅れてるな」
「マダ半分ダ。後2日ハカカル」
今度は地竜族のリーダーエウロバの報告を一喝するように食い気味に遮る。
「遅い。1日で終わらせろ」
「ソレダト働ク者タチノ休憩時間ガ無クナルゾ」
「今はバルディア全体の利益を最優先です。地竜たちが全てのエリアを開墾しなければ何も始まらない。
倒れるまで働かせて下さい。」
「我々も手伝いましょうか?」
酷な話である。地竜たちは手を抜いてるわけではない。それはアヤメも分かっている。並の魔物の優に十倍の仕事量だと。だが今は寸刻すら惜しい。
宝人族のボナードの提案にアヤメは首を横に振る
「見つけた例の鉱石の採掘と研究はお前たちにしか出来ない。あれは使える気がする。早急にな」
「……他国と接しているエリアに配置しているスケルトンの部隊を幾つか応援に回す。それで十分でしょう」
「感謝シマス」
アヤメが何かを感じて突然瞼を閉じる。何処か遠くを覗き見ているようだ。数秒ほどしてから、彼女はさっきまで見ていた方角を指差す。
「……ラーズ、また新しい魔物たちが21区に流れてきてる。魔狗たちだ。数は150程度か。お出迎えしてやれ。丁重にな」
「この程度の些事に人を割くわけにもいきませんな。吾輩たち3人で十分です。ガレス、パロデミス、行くぞ!」
ラーズがマントをはためかせて、骸骨将軍を引き連れる。彼ら3人なら例えガルムが千体いようとピンチにはなりえまい
「昆蟲族は全エリアに魔力糸を張り巡らせる作業はどうなってる」
「順次滞りなく行っています」
「城の方は?」
「当然抜かりなく」
バルディア大山脈の中央部に位置する居城に携わるのはマトローナたち昆蟲族が行うと引かなかった。
アヤメの手に余るのはたった一体の魔物だけだ。マトローナにその魔物の所在を聞く
「フェンリルは何をしている?」
「彼はアーカーシャ様以外の指示は聞きたくないと。アケメネス高原で寝てますね」
「全く……あいつは」
唯我独尊。フェンリルという種を従えるのは強さだけだ。その点、彼を従えることが出来るのは現状アーカーシャを除きいないので諦めるしかない
「……また何かきた。エリア20区辺りか。スケルトンたちが交戦してる」
「どうしました?」
「冒険者たちだ。数は20」
全員の顔が一気に強張る。冒険者
魔物たちにとっては死神と何ら変わらない存在。そんな奴らが20人。
大した数ではないがその強さは決して侮れるものではない。
「どうしますか?」
「……この程度ならマトローナとボナードたち戦士団で十分だろう」
「分かりました。私が侵入者どもには相応の報いを与えてやりましょう」
灰色の昆蟲人マトローナが残酷に口角を上げた
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