龍王転生〜転生したら魔導師ってのに出待ちされてた件について〜

波動砲

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龍王と魔物と冒険者

123話目

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白雪姫は自身の冬眠時には強力な結界を幾つも張り巡らしている。その強固さは自身が知る最強の存在アーカーシャですら力付くで破る事が叶わなかった結界防壁に比肩する。つまり事実上の不可侵。破る事はおろか近付くことすら出来ないと証明されたものである。


「ん 悪くない 良くもないし わっちには効かぬが」


だがそれを彼女はいとも容易くすり抜けた。効果を無視して。そう定められたルールなど知らないと言わんばかりに。
彼女はこの世界アルタートゥームでは異質とも云える服装をしていた。まるで外の世界から来航した渡航者と言わんばかりの出立ち。具体的にはセーラーカラーと呼ばれる独特の形状をした大きな襟が特徴のトップス。 世界中で海軍の軍服として使用され続けているセーラ服を着ていた。
そして服装に合わせるように強く滑らかな黒髪と向こうの世界でもついぞ見ない分厚い瓶底メガネ。目玉焼きには醤油が合うように。スイカには塩をかけるように。まるでこの組み合わせは始めからこうと定められてるかのように絶妙に似合っていた。
セーラ服の彼女はまるで死んだように寝入っている白雪姫の枕元に立つ。


「童話のようなキスをして 起こしてあげたらこやつはどんな顔をするのかのう」


窓から降り注ぐ光はまるで舞台のスポットライトのように2人だけを照らしていた。両者共に別のベクトルであれど高潔さと美しさ、金銀財宝よりも確かに光り輝いていた。

と、セーラ服の彼女は突然どこからか怪しげな注射器を取り出した。無防備な雪姫の手を取り、慣れた手つきで打ち込んだ。
打つと同時に驚いて飛び起きた雪姫が咄嗟に痛烈な蹴りを放つが簡単に受け流されそのまま流れるように組み伏せられる。


「!!?」


「おはよう おひいさま 朝だからお日様とかけたわけではないぞ」


「くっ、いきなりなんのつもりですか 妲己」


天狐 妲己。現存する始祖の中では唯一表舞台に立っている彼女は組み技を解いてそのまま雪姫を可愛がる子供のように頭を撫でた


「……この数ヶ月 随分と無理をしてきたようだ アリシアとの戦いでほぼ全ての力を失ったおひいさまの力はもう雀の涙ほどしか残ってない まあそれでも常人と比較するとほぼ無尽蔵と言ってもいいが無茶は良くない お茶は殺菌作用があって身体にいいがな ケラケラケラ これは無茶とお茶をかけたが面白かったかの?」


「貴女のその毎度助長地味た会話はワザとですか?
それに助力の恩は貴女の眷属玉藻様を助けたことで互いに貸し借りは無しになったと認識していますが」


「お そうだ その節はまっこと助かった マルタの奴に呪いを解かせる為にこちらもこちらで手が離せなかったからな
それにかぐやに聞いたがアナムの奴めも不完全とはいえ顕現したらしいしな。あれの相手は非力なわっちでは厳しい所であった」


自身を非力と嘆く妲己の力の程度を雪姫は良く理解している。彼女が非力ならばそれ以下の存在である自分達は最早無力と同義だろう。嫌味にしか聞こえず、思わず目を伏せる。


「その反応 前々から思っていたのですが、眷属の玉藻様は未来が見えるのに上位存在の始祖である貴女は見えてないですよね」


「そういうのはわっち以外の奴が勝手にやっとれば良い こっちは現在進行形でチャートとフラグ管理で手一杯だからの これ以上は過労死する マジで
そういえば転生魔法 あれは如何なものかな おひいさまがやってることは遺った物の中でマシなやつに宇宙戦艦動かすようなモンスターエンジンを無理やり搭載して魔力を燃料に無理くり動かしているようなものだぞ」


「それでも成功しました」


「正しくは成功している最中 な?
転生魔法を止めたら依代の肉体がどうなるか分からないから無理をして発動し続けているのだろう」


「……無駄話をしに来たのですか」


「おや 無駄を省く生き方なんて省エネだ エコってやつだね いや自分のためならエゴか 敢えて否定はしないけど 」


どこからかジリジリジリと目覚ましのアラームがなると時間に追われてると言わんばかりに妲己は露骨に顔色を悪くする。


「時間だ 次のことしてくる おひいさまも早くアーカーシャに会いに行った方がいい 気付いてると思うけどさっきの注射はエリクシルだ 幾つか用立てたから役立てて 今度はみんなでランチでもしよう じゃーね」


霊薬エリクシル。魔力の完全回復と死んでさえいなければどんな傷も癒やし欠陥部位を戻すほどの完全回復を実現させている製造方法不明の万能薬。
そんな貴重な物を気軽に数本渡して、妲己は闇に溶けて消えていった。
それから1人残された雪姫は小さく嘆息する。


「彼はどこかしら」



ーーーアーカーシャsideーーー
状況を整理しよう。我とサキはイルイが居る場所に臨場した。するといかした英国紳士風の魔女、えっとたしか名前は嫦娥、だったはずだ。嫦娥とイルイが対峙していた。イルイの隣には隠しきれない気品高さを醸し出した褐色の子がいる。ならこの子が過激派の魔女ってやつか。だとしたらなんでイルイが庇っている?操られているわけではなさそうだが……


「まさか龍!?」


「アーカーシャ どうして」


【状況が分からん。イルイ説明プリーズ】


「私からお答えしましょう。そちらの彼女アイリーンは魔女でありイルイ殿はご友人の様子。そしてアイリーンをイルイ様は庇い立てされて困っているのです」


【ふむ そうなの?】


我の問いかけにイルイは苦しそうに首を振る。そしてたどたどしく言葉を紡ごうと頑張っている


「た。たしかにアイリーンちゃんは魔女だけど!でもそれだけじゃなくて、えっとその。あっちは悪者です!」


「……そのお心は立派。だが感傷的になって見逃してやるわけにもいきませんな。そちらも邪魔だけはしてくれるな アーカーシャ様」


そう言って嫦娥が迫ってきて、アイリーンが構える。
どう解決に持っていくべきだろうか。片や子供。片や老人。過激派の魔女を捕まえるなら嫦娥に協力するつもりである。イルイも否定しないということは、彼女アイリーンが潜伏していた魔女ということなのだろう。だがそれだけではないのだろう。
世界一幸せな国を標榜しているデンマークでは『子供と酔っ払いは嘘をつかない』とされている。それに則って子供の味方をしてあげよう。それがいい。そうしよう


【私様が昔に見たテレビの記憶ではアメリカでモラルパニックを引き起こしたあの冤罪事件が起きたのは、子供の虚偽記憶を信じたせいと記憶しているが】


(うるさいよ。それにお婆ちゃんが言っていた。英国紳士の3枚舌の言葉なんて信じるなってな)


【とりあえず一旦止まれ 嫦娥。他の魔導師が来るまで状況はこのままにする】


姫がいたらこういう時楽なんだけどなってボヤかずにはいられなかった。
だが静止を聞かずに嫦娥は我の脇をすり抜けようとした際に影の短剣による攻撃を仕掛けてきた。脇腹に短剣が突き刺さるも鱗により攻撃を阻む。今の攻撃我を殺すつもりだったな、こいつめ。我の尻尾が反射的に斬り払うと嫦娥の身体があっさりと切断される。そして影に沈んだ後に再度無傷で出てきた。


【今の感触、変な感じだ】


「殺すのは不意をついても無理そうですな」


「気をつけろ!こいつはスカアハと呼ばれる呪いを持った高位の魔女だぞ!」


アイリーンの手に握られた箒が喋っていた。なんだこいつ。玉ちゃんの親戚か何かだろうか。
それに倒す手段が無いというがそんな筈はない。本当に無敵なら始祖より強いってことになるはずだ。アナムやカムイよりこいつが強い?力の総量だけ見ると比較するのも烏滸がましい差があるぞ。タネがあるタイプの強さだな。


【私様が倒し方教えてあげようか?】


(大丈夫 きちんと俯瞰したからな。タイムリープしないでも影くらい倒してみせるさ)


【今の攻撃に弁明があるなら聞く。無いならアンタを敵と判断して排除する】


「やれやれ 私1人では些か厳しい。数を増やすとしますかな」


【無視かよ】


影から嫦娥が無数に現れる。無尽蔵に分身を出せるのか?だとしたら脅威だな。大体の相手なら数のゴリ押しで削り殺せることになる。我もこの状態だと長期戦は望む所では無いな。
状況から見るに嫦娥の力は影だ。そして影が全ての起点になっている。


「結界は破れかけてる。一旦逃げよう!おまえも!」


【お気遣いどうも。でも大丈夫】


尾を高速で振るう。反応出来ずに嫦娥の身体が全て崩れていく。だが斬り裂いたのは嫦娥ではなくその真下にある影の方だ。


【やっぱ影そのものが弱点か】


「お見事 よくぞ見破りましたな」


【本体は別の所にいるんだな】


「その通り もう勝ったつもりですかな 
勝負はここからですよ 影送りが完了します」


目が瞬時に能力を見抜く。これは影から影へ繋がっている。そして何処かに出ようとしている。
真っ暗な空間にヒビが入っていく。そして割れた先に真っ先に目に入ったのは、歪とセイが戦いを繰り広げている丁度ど真ん中であった。
最悪のタイミングといえた。なにせ歪は真っ黒な球を撃ち、セイは巨大な雷撃を放った瞬間であったからだ。どちらも当たれば並の人間なら即死するレベルの攻撃である。背後にいるイルイを守るために魔力を回して元のサイズに戻る


「イルイにげて!!」 「アーカーシャよけろ!?」


【熱くなりすぎだろ。ちょっとは周りの被害考えろって】


大きく口を開けて魔法を全て呑み込む。マキナの力と今の魔法の分でだいぶ魔力が回復した気がする


「流石ですな。あれを捌きますか」


「アイリーンちゃん!」


声がする方に目を向けると、攻撃を対処するのに気が取られてる間に嫦娥がアイリーンを捕まえていたようだった。落とされたのか、意識は既に無いようだ。その手には荘厳な杖が握られている。それだけで状況を察したのだろう。
歪もセイも他の誰もが戦いを止めて魔女の方を見ている。


「フーハッハッハ。あれがオルガノンの杖。なんて神秘的だ。是非とも手に入れたい」


「嫦娥 お前これはどういうことなの。我々を謀ったのか?事と次第によっては重大な協定違反だぞ。
いくら曜日の魔女でもそこまでの身勝手は主教も御三家も許さないはずだ」


歪の問いかけに穏やかな顔をしていた嫦娥が突然目を大きく開ける。その目は血走っていた。


「サバトの薄汚い裏切り者が黙れよ。こちらがいつまでもしたてに出てりゃどこまでもつけ上がって調子に乗りやがる。
主教?御三家?知ったことかよ、あんな日和った豚ども」


「随分とデカい態度だ。お前もう千年戦争を忘れたと見える。思い出させてやろうか」


歪が手をかざすと周囲の空間が物理的に何倍にも重くなる。これは重力の魔法だろう。だが嫦娥は杖をかざすと途端に重力が消失する


「素晴らしい。これがあればもはや貴様にも負けぬぞ 天峰冥君。」


「杖一本手に入れて最強気取りとは驚きだ。」


「更にこれはどうだ。」


嫦娥が何かを発動したのだろう。影から十二支の面を付けた4人が現れ、後から数百人の魔女の集団が現れたのだ。


「勝負だ。魔導師共」
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