ある日、突然始まったかのように思えたそれ

まひる

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第四章──山椒魚(サンショウウオ)──

きゅう

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「んじゃあ、潤之介じゅんのすけ。この真言しんごんを頼む」
「分かった。臥竜がりゅうは無理しないでね」
「おぅ」

 化け物あやかしと対峙してしまったので、こちらとしては動かざるを得ない。実際に。しろに取り込まれてしまった時点で、ぼくたちは生きるか死ぬかの選択を迫られているのだ。
 だが実際に危険性が高いのは、直接相対あいたいする臥竜である。護りの結界に受けるダメージすら、術者に跳ね返るのだから。

「ノウマク・サラバタタ、ギャティビャク……サラバボッケイビャク、サラバタタラタ……センダマカロシャダ、ケンギャキギャキ・サラバビギナン……ウンタラタ・カンマン……っ」

 ぼくが真言を唱え終えると、臥竜と繋いだ手へ。熱と共に、ギュンと何かが移動する。毎回だけど、これ。物凄く倦怠感をともなうのだ。ぼくの全身の力が、一瞬で臥竜に移る感じ。
 紙面を見ながら真言を唱えるぼくだけど。読み終えた途端にカクリと膝から崩れて、そのまま足元にへたり込んでしまう。──勿論ぼくが倒れたりしないように、臥竜が支えてくれるから良いんだけどね。もうどうせなら、初めから座っておこうかな。

「わりぃな、潤之介。すぐに終わらせる。ノウマクサンマンダ・バザラダンセンダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウン・タラタ・カン・マン……」

 ぼくの頭を一撫ひとなですると。臥竜は刀印とういんを結び、中咒ちゅうじゅを三回繰り返した。
 そして右手で横から縦向きと、交互に空中を切りながら九字を唱える。

りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん。我、願う。眼前の悪しき力を打ち砕きたまえ!」

 空中を切った右手を左手に納めると、目の前の山椒魚からブワッと黒いもやが吹き出した。
 だが効果があったと同時。それまでただそこにいるだけだった化け物あやかしは、ぼくたちへ攻撃を始める。装飾品のように体表についている手やら足が、腐肉と靄を散らしながら殴打してくるのだ。
 臥竜とぼくの周囲は、九字くじによって化け物あやかしさえぎられ。透明なガラスの中にいるように、攻撃からは護られている。けれども、その負荷は術者である臥竜に掛かるのだ。
 印を結んだ体勢のまま。地面に座り込んだぼくに、寄り添うように片膝を付いている臥竜。視線は化け物あやかしに向けられ、表情は変わらない。平気な様子。でも、ぼくは分かってしまった。
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