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第五章──栗鼠(リス)──

なな

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 ぼくたちの目の前の化け物あやかし、赤色の栗鼠リスは。咽喉から胸部、腹部にかけては水色の毛色をしていた。
 耳の先には明るい黄色の長めの毛。確か、冬毛の時は。耳介に長さ四センチから五センチ程の毛が、上に向って伸びる。──あくまで普通サイズの栗鼠ならば、だけど。
 そも、今は夏なのよ。季節感おかしいのか、冬毛仕様が好きなのか。まぁ後者だとは思うけど。何にせよ、色彩感覚が特殊だ。蛍光色多めで、自己主張が強い。

「しっかし、色が派手だなぁ。目がチカチカするぜぇ」
「ふふっ、確かに。掌サイズのおもちゃならまだ良いけど、アレは大き過ぎだもんね」
「んとに、自己顕示欲強すぎ。承認欲求の塊かよ、うざっ」

 罵詈雑言が激しい臥竜がりゅう
 せっかくの北海道最終日の休日を潰され、激おこぷんぷんのようだ。

「ま、はらうしかねぇんだけど」
化け物あやかしの言い分って、聞く必要もないの?」
「んあ?あるかよ、んなの。おれと潤之介じゅんのすけの邪魔をするんだ。きっちり責任をとってもらわねぇとな。それに。力があるから『しろ』を創れるんだ。邪気をはらってやれば、通常の生き物に戻れっからな。こっちとしては、理由はとにかく。これも仕事のうちって事だ」

 口は悪いが、根は優しい臥竜である。
 化け物あやかしにも慈悲を向ける彼の心根は、ぼくもとても好ましく思う。物言いは別として。本当に。
 人間社会が大きく膨らんだ今の世界では、『悪意』が多くあふれているのだと。そう、天照てんしょうさんが言っていた。人は感情の生き物だから。
 そしてたぶん。化け物あやかしをとりまく、黒いもや。ぼくにはそう見えるアレが、悪意なのだろう。ちなみに、臥竜も見えるらしい。

「んじゃあ、まぁ。やるか」
「うん」

 そうして臥竜から不動明王の真言を渡され、大咒だいじゅを読み上げる。
 当然、その前には二人して手を繋いでいた。今回のぼくは倒れてしまわないように、初めから体操座りをして挑む。それでもどうしたって。力の譲渡がおこなわれると、ふらりと身体が揺らいだ。
 それを臥竜は、自然な流れでぼくの頭を引き寄せる。自分の身体に寄り掛からせるようにしてから、ついでのように頭部を撫でてくれた。
 続けて臥竜は、右手と左手の人差し指と中指をそれぞれ立てていんを結び。不動明王の真言で、中咒ちゅうじゅを三回繰り返す。それから九字を切った。
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