異世界でリサイクルショップ！俺の高価買取り！

15 帰宅

レイチェルが店の鍵をかけると、ジーンもカチュアも手を振って帰っていった。

「帰り道覚えてるかい？」

「えぇっと、確かすぐ隣だったよね？そこを真っ直ぐ行ってすぐくらい」

「そうそう、大丈夫みたいだね。じゃあ、私も帰るから・・・初日から大変だったけど、
アラタ、みんなキミを受け入れてるみたいだし、少しづつ慣れていけばいいよ。頑張っていこうね」

じゃあね、と言ってレイチェルも帰っていった。


夏の夕暮れに、頬を通る風は心地良く、ほんの少し暑さを忘れさせてくれる。
陽は間もなく落ちきるだろう。
完全に暗くなる前に帰らなければと少し足を速めた。

木々の間に、人一人が歩けるくらいの道幅があるが、ある程度暗くなると足元がほとんど見えないので、転ばぬように気を付けながら歩を進める。

考えてみれば、住宅街に近いとはいえ、森の中にポツンと空き家なんて、元の住人は怖くなかったのだろうか？そんな事を考えているうちに家についた。

店から1～2分の距離というのは便利だが、まさか、ここに住むことになるとは思わなかった。


鍵を開け玄関に入り、あらためて家の中を見てみると殺風景だった。
元々空き家だったというし、遅くなって帰れなくなった時に使う事があるというだけのようだから、最低限の物しかないのだろう。

とりあえず夕飯にしようと、朝食をとった部屋に行ってみると、俺の背丈と同じくらいの木製の冷蔵庫のような物が目に入った。
朝はあまり気にしなかったが、レイチェルは確かここから飲み物をとっていたな。

上段と下段で取っ手があり、上が冷凍、下が冷蔵なのだろうと思いなんとなく上段を開けてみると、冷気が溢れ出してきて、冷たさに思わず身を引いてしまった。


日本で使っていた物よりずっと強い冷気に驚き、中を覗いてみると、
庫内の奥に野球ボールくらいの大きさの、青い水晶玉のような物が皿に乗せて置いてあった。
手を近づけてみると、指先から冷たくなりそこから冷気が出ている事が分かる。


「・・・テレビや漫画でこういうの見たことあるな、確か・・・氷冷蔵庫だったっけ、あれだな」

上段には魚の切り身が数切れ、ラップのような透明ビニールで巻かれて置いてあった。
この冷気だし、当然カチコチに固まっている。

下段を開けてみると、卵、ハムが少しあったが、後はほとんど缶詰だった。

いつ使うかわかないから、あまり日持ちのしない生鮮食品は置かないようにしているのだろう。

缶詰を見ると、鶏肉や魚、ミカンなど種類が豊富にあった。
野菜も欲しいところだが、自由に食べていいとまで言われていて、これ以上贅沢を望むのは図々しい。


食器棚を開けると、白米が入ったタッパーも見つかった。

炊飯器はさすがになかったが、キャンプで使う飯盒のような物が置いてあった。
飯盒は使った事がないが、昔テレビで見た曖昧な記憶を頼りに米を入れ、
飯盒の内側に刻んである印の位置まで水を入れてみる。

しかし、ここで問題がおきた。火のつけ方が分からない。

シンク台の隣にフライパンが置いてあり、ここで調理をするように見えるが、
日本のガス台ではなく、IHクッキングヒーターのように、平でツルっとしているが、
ボタンも何もなく使い方が想像もつかない。


どうしようか悩んでいると、玄関ドアが開く音がして、兄ちゃーん！と呼ぶ声が聞こえた。

「リカルド？」
聞き覚えのある声がして玄関に顔を出すと、リカルドとカチュアが立っていた。


「あれ？どうしたの？帰ったんじゃなかったの？」

「そうなんだけどさ、やっぱ兄ちゃんの異世界話を聞きたくなって、引き返してきたんだよ。
そしたらカチュアとジーンに会ったから誘ったんだけどさ、ジーンは今日はいいとか言って帰っちまった。だからカチュアだけ連れてきたんだ。考えてみると俺メシ作れないし、兄ちゃんもどうせ作れないと思ったからさ」

リカルドは笑いながらベラベラ話し、そのまま一人でキッチンに入っていた。


「アラタ君ごめんね、急に来て。あと、リカルド君はちょっと遠慮無いとこあるけど、悪い子じゃないんだよ。無邪気って言うのかな。あ、ご飯これからだよね？私作るよ」

「あ、うん。ありがとう。実はキッチンの使い方が分からなくて困ってたんだ。助かるよ」

キッチンに入ると、カチュアは自分の家のようにテキパキと食材や食器を用意し始めた。


「これね、魔道具で火を付けるんだよ。ここにある赤い石でこうやって・・・」

クッキングヒーターの横に小さなトレーがあり、そこに5cmくらいの大きさの赤い石が、
いくつか置いてあった。

カチュアはそれを手に取ると、クッキングヒーターの面に石を擦り付け始めた。

傷が付かないかと驚いたが、石という割には非常にもろいようで、擦るそばからボロボロと崩れ始めた。

崩れて砂のようになった石をクッキングヒーターの中央に寄せると、
ポツポツと小さな火が付き始めた。

「驚いた？私達はこれが普通だけど、アラタ君は初めて見るんだよね？火加減は、石を減らすか、足すかで調整するんだよ」

そう言ってスプーンを使い、砂を平にすると、その上に飯盒（はんごう）を乗せ、冷蔵庫や棚の中から使えそうな食材を探し始めた。

「これが魔道具かぁ」

「この飯盒も魔道具なんだ。ご飯すぐ炊けるんだよ。本当はキャンプで使う物なんだけど、10分くらいで炊けるから、夜ご飯遅くなった時なんか、家庭でも使う人が多いんだ。うーん、卵とハムと、魚の切り身に缶詰しかないね・・・あ、玉ねぎ一個発見！えっと、お肉は無いけどオムライスでいいかな？」

「あ、うん。なんでもいいよ」

「カチュアー、俺は大盛りなー！肉無しでもいいけど、上にかけるソースはデミグラな！あと卵はふわっふわにしといてよ！」

「もー、リカルド君は注文多いなー」

リカルドは、イスに腰をかけて頭の後ろで手を組んでくつろいでいた。

「アラタ君も座って待ってて。リカルド君の話相手になってあげて。あ、アラタ君も大盛りがいいかな？」

「あ～、いや俺は普通で・・・」
「兄ちゃん、何言ってんだよ？男は大盛りだろ？力つかねぇぞ。カチュア、兄ちゃんも大盛りな」

食い気味にリカルドが口をはさみ、強制的に大盛りにさせられてしまった。

カチュアは俺とリカルドを交互に見ると、クスリと笑って調理にとりかかった。