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理太郎

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【190 トロワとキャロルの戦い】

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「ガキ共がぁぁッツ!生意気なんだよ!」

トロワとキャロルは、闇に包まれた林の中で、孤児院を襲った襲撃者の男と戦っていた。

男は、黒地に深緑色のパイピングをあしらった、カエストゥスの黒魔法使いのローブ姿で、フードを被っていて、顔は良く見えないが、時折覗く口元は苛ただし気に引きつっている。
声の印象からは、30~40代くらいには思える。

背丈はトロワより頭一つは高いが、典型的な魔法使いタイプで、動きは遅かった。

そして、タジームが自分の居場所を察知したと知らない襲撃者は、トロワとキャロルが迷いなく林に入った事に少なからず動揺していた。



今回の襲撃では、事前にジャーグールが孤児院の人間を調べ上げ、青魔法を使えるのは、ブレンダンとパトリックの二人、そして毎晩交代で見張りに立っていると数日かけて確認をとっていた。

そして、ブレンダンとパトリックのサーチの範囲も、身をもって確認していた。

およそ5分置きにサーチをかけられている。
そしてブレンダンの場合は約1000メートル。パトリックの場合は400メートル前後。

このサーチの間をとり、襲撃をかける絶好のタイミングをジャーグールは狙っていた。
なんにでも不測の事態というものは必ず起きる。


毎日、同じ顔触れで見張りにあたっているが、この日は調子を崩したのか、ブレンダンの代わりに、パトリックとヤヨイが見張りに立った。

そして二人は、仲睦まじく話しをしていた。
いつも組んでいるパートナーといる時より、明らかに注意力が落ちている。


サーチにかからないギリギリの距離から、遠くを見れる魔道具で、ずっと孤児院を観察していたジャーグールは、今が仕掛ける時と判断した。

孤児院に火を放った後は、決めていた通りに別れ、それぞれが、それぞれの標的を狙う。


全員殺す事しか考えていないジャーグールは、一階の人間から順番にと言って玄関から攻め行った。

ブレンダンに強い恨みを持っていたミックは二階へ。




そして今、トロワとキャロルを相手に戦っているこの男、ガイエル・サルバは、変質的な思考の持ち主だった。

ガイエルは殺し屋だが、子供を専門といっていい程、子供がらみの殺しを請け負っていた。

今回、ジャーグールから話しを持ちかけられ、引き受けたのも、依頼の内容が孤児院の襲撃だったからだ。
孤児院には子供が大勢いるし、ジャーグールから提示された報酬も良い。

ガイエルから提示した条件は一つ。子供部屋は自分がやるという事だけだった。


子供は無力
子供は無抵抗
子供はただ泣き叫び、逃げ惑うだけ

ガイエルは魔法使いとして弱くはなかったが、強いともいえなかった。
辛うじて灼炎竜は使えるが、それはタジームの分析通り、実力ギリギリでなんとか使えるという程度で、大きさも三メートルがやっと、そして一体しか発動できなかった。

そんな半端な力しかなかったため、回って来る仕事はいつも当たり障りがなく簡単なものばかり。
そして簡単な代わりに旨味も少ない。

完全に実力がものを言う裏の世界で、ガイエルはいつも小馬鹿にされ、見下されていた。


そんなある日、子供が標的の仕事が入った。

親が商売で恨みを買っており、報復で子供が標的になった。

報酬も少なく、裏世界に生きる殺し屋達であっても、進んで受けたいと思う依頼内容ではなかった。
そして、流れとしてはやはりガイエルに回って来た。

ガイエル自身、やりたいとは思わなかった。
だが、他に自分ができる仕事も無く、やむを得なかったという事が、最初の理由だ。



だが、その依頼を達成して以降、ほどなくしてガイエルに渾名がついた。

子殺しのガイエル





ガイエルの火球がキャロルにあたり吹き飛ばす。
キャロルの体を纏う風は、防御の役割を果たしているが、これが初めて実戦であり、これまで家事としてしか、魔法を使用してこなかったキャロルには、まだ魔法を戦闘用に組み立てる事ができていなかった。
その結果、火魔法の基本である火球であっても受け切れず、キャロルは体制を崩し、地面を転がされる事になった。

「うっ、げほッ・・・」

咳き込みながら、手を付き体を起こそうとするキャロルを見て、ガイエルは恍惚感が体に溢れて来た。

「このクソ野郎!」

両手に、赤い布と青い布を巻いた棒を持ったトロワが、キャロルのかばうように前に出ると、ガイエルに飛び掛かった。

体力型のトロワの跳躍は高く、ガイエルの頭の上まで飛び上がると、そのまま右手に持った赤布の棒を振り下ろした。

ガイエルは大きく後ろに飛び退いた。
トロワの赤布の棒が空を切る。

体力型のトロワは、身体能力で大人のガイエルを上回っていた。
ガイエル自身それは十分理解し、トロワが攻撃をしかけてくる時には決して受けず、大きく距離をとって躱している。


あの両手に持っている棒は、ただの棒じゃねぇな?


ガイエルはトロワの手にしている棒を見て、直感で受けては駄目だと察していた。
その判断は正しかった。


トロワは防がれても構わない、当てる事が目的で棒を振るっている。

打撃で仕留める事が目的ではない。
直撃を狙っていないトロワの攻撃は、なにかあるとガイエルに違和感を持たれていた。

だが、いくらガイエルが距離をとろうと離れても、トロワはしつこい程に食らい付き、ガイエルの頭を、胴を、足を狙い、棒を振り回していく。

魔法使いのガイエルに、逃げ切れるものではなかった。
暗い林の中、後ろをよく確認できずに避けていたガイエルだが、背中に木があたり、追い詰められた事に気が付く。


「・・・このっ!ガキがぁ!なめるんじゃねぇぞ!」

なぜ俺が子供に追い詰められる?子供はいつだって無力で、俺に許しを請うだけの存在のはずだ!
こんな・・・こんなガキに・・・俺が・・・俺が追い詰められるはずがない!

お互いの距離はほんの2~3メートル。トロワなら一足飛びで詰めれる距離である。
一歩トロワが足を前に出すと、ガイエルは迎え撃つ覚悟を決めた。

ガイエルの右手に魔力が集中され、大きく光を放つ。

「爆裂空破・・・!」
「おっさんこそ、キャロルをなめんなよ」

ガイエルが魔法を放とうとトロワに右手を向けたその瞬間、トロワの体が突然空宙に浮き、いや・・・空中に飛ばされたと言う方が正しい。

「なに!?」

トロワはガイエルの身長の倍程も高く、空中に飛ばされていた。

ガイエルは上空のトロワを追って顔を上げ、右手を構え直すが、きよを付かれ動作が遅れたガイエルの眼前には、すでにトロワの赤布の棒が振り下ろされていた。


振り抜いた赤布の棒が、ガイエルの頭を打ち抜くと、被っていたフードが突如燃え上がりガイエルは火に焼かれる熱さと、殴打された痛みにその場を転げまわった。

地面に着地したトロワは、後ろに顔を向けると、少し距離を置いてキャロルが左手を腰に当て、右手で軽く手を振っているのが見えた。



「ふ~・・・あんたの考えてる事くらい、分かってるわよ」

狙いが成功し、キャロルは安堵の溜息とともに小さく言葉をもらした。

トロワの持つ赤布の棒は、一定以上の力を込めて打ち付けた物を燃やす魔道具である。

高い所から落とし、その衝撃で火がつく事もあるので、取り扱いは慎重にならねばならないが、殴れば火がつくという単純な物であり、効果の分かりやすさから、トロワは自分にピッタリの魔道具だと気に入っている。

キャロルは、トロワがでたらめに振り回している事と、ガイエルが逃げに徹している事から、トロワが攻撃を当てる事は困難であると判断した。


ガイエルの動きを一瞬止めなければ、一撃は入れられないだろう。

ガイエルの目がトロワに向いている今、キャロルは木々を盾に姿を隠し、トロワの援護に回った。

ガイエルが追い詰められ、トロワに爆裂空破弾を撃とうとした時、キャロルはここだと判断した。

ウィッカーとジャニスのように、トロワとキャロルも長い付き合いである。
考え無しで動くところはあるが、フォローさえしておけば、後は何とかしてしまうのがトロワだ。


キャロルは風魔法を使い、キャロルはトロワの狙いを読んで、トロワを上空に飛ばした。

キャロルは戦闘の流れ、そしてトロワの思考を読んだのである。

ガイエルが爆裂空破弾を撃とうとしたので、それを躱す事と、突然トロワが空に浮けば、驚いて動きが止まるかもしれない。キャロルはそこまでは考えた。

そこから先はトロワまかせだったが、それは信頼ゆえである。

だが、トロワもここが勝負所だと判断していた。
追い詰めたガイエルに、すぐに攻撃をしなかったのは、一度立ち止まる事で、キャロルにも判断させる時間を作るため。

トロワは攻撃中、一度もキャロルに目をくれなかった。
ガイエルの意識を自分に集中させ、キャロルの存在を頭から消す事が目的である。


勝負所で、キャロルは必ず護をくれる!


突然上空に飛ばされたトロワだが、驚く事も慌てる事も無かった。

なぜならそれは自分が望んでいた展開であり、キャロルが作ってくれた舞台だと思ったからだった。

トロワが無鉄砲な事をした時や、困ったとき、キャロルはいつも何らかのフォローをしてくれた。

トロワとキャロルのお互いに対する信頼が、この赤布の棒での一撃を生んだ。


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