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253 闇から解き放つ力 ①
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カエストゥス国 首都バンテージ
人の手が入らず、自然のままに成長した樹々は、まるで巨大な迷宮のようだ。
かつては足場として石畳が並べられていた通り道にも、今は生い茂る草花で埋め尽くされていた。
時間の流れ、そして敗戦という結果をあらためて突きつけられ、バリオスは目を閉じた。
陽の光が眩しいくらいに降り注いでくる。とても天気の良い日だった。
かつては鳥が歌い、蝶が舞う美しい景色がどこを見ても目に映った。だが、今では耳が痛くなるくらいの静寂、虫の一匹すら見当たらない。
バリオスの知っているカエストゥスはどこにも無かった。
常にまとわりついてくる闇の気配。呼吸をする度に肺に流れ込む空気は、まるで命を削るかのように冷たくも寒いものだった。
ここは生きとし生ける者がいていい場所ではない。死と隣合わせの場所だと肌で感じる。
最後にここに来たのはいつだろうか。
思い出そうとすると胸が痛み、考えないようにする癖がついていた。
バリオスは、首都バンテージ、エンスウィル城の前に立っていた。
もはや、かつての煌びやかな王宮は見る影もない。
城門などという物は跡形も無く消し飛んでおり、崩れ落ちた外壁、かろうじて形を保っている城壁も、ところどころ焼け焦げた跡を残している。
中へ足を踏み入れる。
かつては噴水があり憩いの場になっていた中庭は、巨大な爆発の跡を伺わせる抉(えぐ)られ方をしている。
負けたんだ・・・・・
バリオスの、肩の下まである長い金色の髪が風になびく。
「今も、風は・・・吹くんだな・・・・・」
ケイトと別れ、単身でカエストゥス領土に入り2週間が過ぎていた・・・・・
風の精霊の導きに従い、闇を消して奔走していた。
闇の正体は、タジーム・ハメイドの残した闇魔法、黒渦。
夜毎その闇を増幅させ、精霊の領域を蝕み食らっている。
黒渦はまるで意思を持っているかのようだった。
もはや、カエストゥス領土内には、人はもちろん、鳥も、魚も、虫でさえ見当たらない。
ただ、植物だけは違った。
風の精霊とともに命を育み、この地に根を張って来た樹々は、カエストゥスが闇に飲まれてしまってもたくましく生き残っている。
「風の精霊の加護だな・・・・・緑だけは精霊と共に大地に根を張り戦い続けた。闇に負けず、戦争で焼かれたのに、あの頃より生い茂っている・・・自然は強いんだな・・・」
「・・・そこだ」
朽ち果てた塀に腰をかけ、流れる雲を見上げていると背後に気配を感じ、振り向きざまに火魔法 火球を放った。
崩れ落ち山積みになった外壁が、大きな影を作っていた。
そしてその影の中には、深く暗い闇が大きな口を開けるように渦巻いていた。
初級の火魔法 火球でも、バリオスが放つ火球は平均的の魔法使いが放つそれより、段違いの威力を発揮する。
放たれた火球は、瓦礫とともに闇の渦を吹き飛ばし、濛々と煙を上げる。
小さな闇が消えた事を確認し、小さく息を付く。
「・・・一時しのぎだな・・・」
闇は、日中は物陰に潜んでいる。
だから影を作る物を破壊すれば消える。
だが、それで闇が消滅するわけではない。日が落ちれば闇は無限に湧いて出る。
その場を凌ぐだけで、根本的な解決にはならない。
黒渦を止めない限りこの闇は治まる事はない。
だが、黒渦を止めるという事は、バリオスにとって想像を絶する程、心に深い痛みを伴う決断を下す事になる。
タジーム・ハメイドを・・・・・
「・・・・・俺に、できるか・・・・・」
何度も自問してきた。
果たして自分にできるだろうかと。
考えないように、あえて目を背けてきた事もある。
だが、向き合わなければならない時がきた。
セインソルボ山で、風の精霊と心を通わせた時に知った、カエストゥスの現状。
このままでは風の精霊が全て消えてしまう日は遠くない。
護らなければならない。
そして、それができるのは、自分だけだと知っている。
「・・・・・俺がやるしかない」
意を決し、城内へ入る。
目指すは玉座の間。かつての最終決戦の場所だった。
階段は足を乗せただけで、表面がパラパラとひび割れ朽ちる程脆くなっていた。
慎重に一歩一歩足を上げて登って行く。
一段一段足を上げる度に強くなる死の匂い。引き返せと本能が、細胞が訴えかけてくる。
だが、体の声を無視し足を動かし続けた。
上に行く程、この世のものとは思えない恐ろしいまでの闇の力を感じる。やはり黒渦だ。
間違いない。
やはり玉座の間に王子がいる。
一階から二階へ上がっただけで、闇の気配は強く濃くなり、禍々しさは桁違いに上がった。
自分が風の精霊の加護を受けていなければ、自分が黒、白、青の三系統全ての魔法を使えていなければ、おそらくこの禍々しい闇の気配に体を蝕まれ、命を奪われていただろう。
「この上だな・・・だが、行けるのか・・・・・」
二階から三階へ、階段をほんの十数段登るだけだが、三階はもはや目に見えて黒い瘴気が漂っており、生ある者の侵入を拒んでいた。
「・・・生身で、あの瘴気には触れられないな・・・・・」
黒い瘴気もまた、意思を持っているかのように、三階へ上がる階段付近を防ぐようにして漂っていた。
「・・・あれは、結界でも防げない。ならば・・・」
それは、黒、白、青の三種類の魔法を一人で使う事ができるバリオスだけの魔法だった。
タジーム・ハメイドの黒渦に対抗するには、既存の魔法では不可能。
闇に勝つには、相反する力、光しかない。
「王子・・・これが、あなたを闇から解き放つために作りだした、俺の黒魔法、ジャニスの白魔法、師匠の青魔法を合わせた、もう一つの三種合成魔法です」
カエストゥス最後の魔法使い
ウィッカー・バリオスの身体が光に包まれた
人の手が入らず、自然のままに成長した樹々は、まるで巨大な迷宮のようだ。
かつては足場として石畳が並べられていた通り道にも、今は生い茂る草花で埋め尽くされていた。
時間の流れ、そして敗戦という結果をあらためて突きつけられ、バリオスは目を閉じた。
陽の光が眩しいくらいに降り注いでくる。とても天気の良い日だった。
かつては鳥が歌い、蝶が舞う美しい景色がどこを見ても目に映った。だが、今では耳が痛くなるくらいの静寂、虫の一匹すら見当たらない。
バリオスの知っているカエストゥスはどこにも無かった。
常にまとわりついてくる闇の気配。呼吸をする度に肺に流れ込む空気は、まるで命を削るかのように冷たくも寒いものだった。
ここは生きとし生ける者がいていい場所ではない。死と隣合わせの場所だと肌で感じる。
最後にここに来たのはいつだろうか。
思い出そうとすると胸が痛み、考えないようにする癖がついていた。
バリオスは、首都バンテージ、エンスウィル城の前に立っていた。
もはや、かつての煌びやかな王宮は見る影もない。
城門などという物は跡形も無く消し飛んでおり、崩れ落ちた外壁、かろうじて形を保っている城壁も、ところどころ焼け焦げた跡を残している。
中へ足を踏み入れる。
かつては噴水があり憩いの場になっていた中庭は、巨大な爆発の跡を伺わせる抉(えぐ)られ方をしている。
負けたんだ・・・・・
バリオスの、肩の下まである長い金色の髪が風になびく。
「今も、風は・・・吹くんだな・・・・・」
ケイトと別れ、単身でカエストゥス領土に入り2週間が過ぎていた・・・・・
風の精霊の導きに従い、闇を消して奔走していた。
闇の正体は、タジーム・ハメイドの残した闇魔法、黒渦。
夜毎その闇を増幅させ、精霊の領域を蝕み食らっている。
黒渦はまるで意思を持っているかのようだった。
もはや、カエストゥス領土内には、人はもちろん、鳥も、魚も、虫でさえ見当たらない。
ただ、植物だけは違った。
風の精霊とともに命を育み、この地に根を張って来た樹々は、カエストゥスが闇に飲まれてしまってもたくましく生き残っている。
「風の精霊の加護だな・・・・・緑だけは精霊と共に大地に根を張り戦い続けた。闇に負けず、戦争で焼かれたのに、あの頃より生い茂っている・・・自然は強いんだな・・・」
「・・・そこだ」
朽ち果てた塀に腰をかけ、流れる雲を見上げていると背後に気配を感じ、振り向きざまに火魔法 火球を放った。
崩れ落ち山積みになった外壁が、大きな影を作っていた。
そしてその影の中には、深く暗い闇が大きな口を開けるように渦巻いていた。
初級の火魔法 火球でも、バリオスが放つ火球は平均的の魔法使いが放つそれより、段違いの威力を発揮する。
放たれた火球は、瓦礫とともに闇の渦を吹き飛ばし、濛々と煙を上げる。
小さな闇が消えた事を確認し、小さく息を付く。
「・・・一時しのぎだな・・・」
闇は、日中は物陰に潜んでいる。
だから影を作る物を破壊すれば消える。
だが、それで闇が消滅するわけではない。日が落ちれば闇は無限に湧いて出る。
その場を凌ぐだけで、根本的な解決にはならない。
黒渦を止めない限りこの闇は治まる事はない。
だが、黒渦を止めるという事は、バリオスにとって想像を絶する程、心に深い痛みを伴う決断を下す事になる。
タジーム・ハメイドを・・・・・
「・・・・・俺に、できるか・・・・・」
何度も自問してきた。
果たして自分にできるだろうかと。
考えないように、あえて目を背けてきた事もある。
だが、向き合わなければならない時がきた。
セインソルボ山で、風の精霊と心を通わせた時に知った、カエストゥスの現状。
このままでは風の精霊が全て消えてしまう日は遠くない。
護らなければならない。
そして、それができるのは、自分だけだと知っている。
「・・・・・俺がやるしかない」
意を決し、城内へ入る。
目指すは玉座の間。かつての最終決戦の場所だった。
階段は足を乗せただけで、表面がパラパラとひび割れ朽ちる程脆くなっていた。
慎重に一歩一歩足を上げて登って行く。
一段一段足を上げる度に強くなる死の匂い。引き返せと本能が、細胞が訴えかけてくる。
だが、体の声を無視し足を動かし続けた。
上に行く程、この世のものとは思えない恐ろしいまでの闇の力を感じる。やはり黒渦だ。
間違いない。
やはり玉座の間に王子がいる。
一階から二階へ上がっただけで、闇の気配は強く濃くなり、禍々しさは桁違いに上がった。
自分が風の精霊の加護を受けていなければ、自分が黒、白、青の三系統全ての魔法を使えていなければ、おそらくこの禍々しい闇の気配に体を蝕まれ、命を奪われていただろう。
「この上だな・・・だが、行けるのか・・・・・」
二階から三階へ、階段をほんの十数段登るだけだが、三階はもはや目に見えて黒い瘴気が漂っており、生ある者の侵入を拒んでいた。
「・・・生身で、あの瘴気には触れられないな・・・・・」
黒い瘴気もまた、意思を持っているかのように、三階へ上がる階段付近を防ぐようにして漂っていた。
「・・・あれは、結界でも防げない。ならば・・・」
それは、黒、白、青の三種類の魔法を一人で使う事ができるバリオスだけの魔法だった。
タジーム・ハメイドの黒渦に対抗するには、既存の魔法では不可能。
闇に勝つには、相反する力、光しかない。
「王子・・・これが、あなたを闇から解き放つために作りだした、俺の黒魔法、ジャニスの白魔法、師匠の青魔法を合わせた、もう一つの三種合成魔法です」
カエストゥス最後の魔法使い
ウィッカー・バリオスの身体が光に包まれた
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