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理太郎

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【339 闇夜の襲撃】

帝国軍の襲撃があったのは、日付が代わり夜が一層深まった頃だった。

闇に紛れ、黒魔法と弓による攻撃をしかけられたが、カエストゥスの青魔法使いはサーチで帝国軍の動きを一早く察知し、素早く結界を張った事で初撃を防ぐことができた。



「予想通りだ!今回は全く引く気配がない!剣士隊、ここが腕の見せ所だぞ!」

前線では、エリンが指揮を執り、帝国軍と激しいぶつかり合いを繰り広げている。

ブローグ砦の後ろには、カエストゥスの食糧事情を大きく担う農業地帯が広がっており、ここは絶対に落とされてはならない場所だった。
そのため、魔法使い、体力型、合わせて三万もの兵を用意し防衛にあたっていた。

「エリン様!この軍の指揮官らしい戦士が後方で指揮を執っております」

「戦士か、後方だな?」

兵の一人から報告を受けると、エリンは前方に目を凝らした。
神経を集中させると、エリンの目は前方を敵、その後ろの敵、さらにその後ろと、どんどん遠くの敵を視界に捉え、ついに数百メートルも離れた敵の指揮官をその目に映した。

「・・・いた、深紅の鎧を着ているから、あいつだな?けっこう年がいってそうだけど・・・あの面構えは・・・相当な男だ」

手にしている片手剣を握る手が、じわりと汗ばむ。

その男は年の功は60程だろうが、年齢を感じさせない程、体力、気力が充実している事が目に見えてよく分かる。
白いものが多い髪は、全て後ろに撫でられているが、風にあおられる様は、野生の獣のたてがみを彷彿させた。

兜の隙間から見えるその目には、大陸一の軍事国家としての慢心、驕りなどは一切無く、ただ眼前の敵を一掃する事にのみ、全て注がれていた。
そして指揮官としての優秀さは、兵士達の士気の高さから伺い知る事ができる。

手ごわい。エリンがその老兵に持った率直な印象は、その一言に全て込められていた。


「さすがです。遠目の鏡、よくこの距離で視認できますね」

称賛の言葉を口にする兵士に、エリンがフッと笑う。

「偵察用と言われているが、私は戦場でも十分に使えると思っている。応用の利く魔道具さ」

エリンの魔道具、遠目の鏡、これは本来偵察用に使われる魔道具である。
瞳に魔力を帯びた、透明かつ極めて薄いレンズを付ける事で、はるか先まで、例え真夜中であってもその目に捉える事ができる。

エリンはこれを偵察だけでなく、戦闘にも生かせると考え愛用している。


「あれほどの男が出て来るって事は、やはり今回は全力で突破しに来ていたわけだ。なるほど、エロール君の言う通りだ。危なかったよ・・・けど」

エリンは右手に持つ片手剣を振りかざし、一層大きな声で激励を飛ばした。。

「怯むな!勝つのは我々だ!カエストゥスの力を見せてやれ!」




カエストゥス軍の士気が上がった事を感じ、その老兵は、ほぅ、と感心したように息を漏らした。

ディーン・モズリー。62歳。
深紅の鎧から覗く逞しい二の腕には、歴戦の激闘が見て取れる傷跡が無数にあった。

ブロートン帝国、第二師団の副団長である。
かつては団長のルシアンにさえ、稽古をつけていた男である。

「モズリー様、カエストゥスは盤石の体制で備えていた模様です。戦局は拮抗しております」

帝国兵が前線の状況を報告に来る。
兵の訝し気なその顔を一瞥すると、モズリーはゆっくりと口を開いた。

「解せんか?」

「は、はい。前回と比べ、士気も各段に高く、なによりまるで我々の行動を見透かしているかのように、隙の無い隊を組んでおります。これは一体・・・」

「今、お前が口にした通り、そういう事だ。読まれていたのだよ」

驚きを露わにする兵に、モズリーは言葉を続けた。

「あちらにも、なかなか頭の回るヤツがいるようだな」

不敵な笑みを浮かべるディーン・モズリー。

闘争心が抑えられないというように、身に纏う深紅の鎧からは微かに炎が湧き立った。




モズリー率いる帝国軍と、エリンが率いる総数一万の部隊がぶつかり合っていたその頃、帝国軍指揮官ルシアン・クラスニキも動き出していた。

「・・・ふむ、モズリーと拮抗しているのか。なかなかやるではないか」

ブローグ砦の正面に突撃し、攻撃をしかけたモズリー隊。
そしてそのモズリー隊からはるか後方には、ルシアン率いる軍勢が戦いを静観していた。

「団長、カエストゥスはまだ兵力を温存しております。モズリー様の軍は総数一万弱、今は拮抗しておりますが・・・」

偵察に出ていた兵士の一人が戻り、戦局をルシアンに報告する。
やや難しい顔で懸念も伝え、判断を仰ごうとすると、ルシアンは眉一つ動かす事無く、淡々と言葉を発した。

「ふむ、お前は新兵か?モズリーが戦う姿を見た事はないのか?」

「あ、はい。入団一年目です。ご指導はいただいておりますが、直接戦われるお姿は拝見した事はありません」

「そうか、ならばしかたないな。モズリーは私が帝国軍に入団した時には、第二師団長、つまり今の私の立ち位置に付いていた男だ。当時は私も彼にキツくしごかれたものだよ。
私の槍はモズリーに教え込まれたものでね、彼は私の師にあたる。そして、師団長になった今も槍に関しては、私は今だ彼を越えたとは思っていない。それほどの実力者なのだよ、モズリーは」

ルシアンの言葉を聞き、兵士の顔にハッキリと驚きが生まれた。
数万の軍勢を従えるルシアンは、その軍の頂点であり最強である。
副団長のモズリーも実力者だという事は分かっているが、槍に関してという一言が付いたとしても、ルシアンに自分より上と言わしめるとは思わなかった。

「そ、それほどだったのですか。た、大変失礼いたしました」

兵士が頭を下げると、ルシアンは爽やかな笑みを浮かべ兵士の肩に手を乗せた。
ずしりとした重みを感じ、兵士は緊張し固まった。

「フッ、そう固くなるな。なんにせよ、モズリーは強い。そして数多の戦場を駆け抜けた経験は、カエストゥスごとき、軽く捻じ伏せてみせるだろう。我々はモズリーを信じて合図を待っていればいい」

兵士は背筋を伸ばし、はい!と言葉を返すと、ルシアンから一歩下がり待機した。


「モズリーよ、いつまでも遊んでいないで、そろそろ見せてやってはどうだ?お前の炎の槍を」

大人と子供の喧嘩を予想するかのように、
まるでモズリーの勝利を全く疑っていないルシアンの口ぶりは、確信に満ち溢れているものだった。
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