異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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【388 支えてくれた全てに】

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「なんだ・・・アレは?」

ジョルジュはジャミールに向けて引こうとしていた右手を止めた。左手の五指には風が矢となって留めてある。

突然空が眩しい程に明るく照らし出された。
顔を上げると、その正体は太陽と見紛う程の真っ赤な炎の塊だった。

距離は数百メートル程度しか離れていないだろう。
あの炎が地上にぶつけられたなら、どれほどの被害になるだろうか。
この渓谷など消し飛んでしまうであろう。



「ハァッ・・・ゼェッ・・・野郎!戦いの最中によそ見か!?・・・ん?」

ジャミール・ディーロは息を切らせながら、自分から目を離しあらぬ方向に視線を向けているジョルジュを睨みつけた。

致命傷こそ受けていないが、ボロボロに斬り裂かれた深紅のローブ。額から流れる赤い血。
だらりと力なく下がった右腕から覗く赤紫色の腫れは、ジョルジュの打撃による負傷だった。


だが、ジョルジュも無傷ではなかった。
体中のいたるところに攻撃魔法を受けた事による裂傷、特に左足は引きずっている事からダメージの大きさが見て取れる。
ジャミールと違い表情にこそ出していないが、決して楽な戦いではなかった。


「あれは、あの日見た炎の・・・いや、比べ物にならん、なんだあの炎は?」

「・・・あれは、ブラッドプロミネンス!・・・ちっ、セシリア!ここで使うのかよ!?」

ジョルジュの視線を追ったジャミールもまた、驚きに声を上げた。

セシリアの必殺技プロミネンス。
しかし、血狂刃の第二段階、本性を現した時のプロミネンスは、血狂刃に血を飲ませる事により発動する。そしてその血のように真っ赤な炎の色からブラッド・プロミネンスと呼ばれていた。



「・・・くそがッ、この距離だと巻き込まれるな・・・しかたねぇ、ジョルジュ、てめぇの命預けてやる」

そう言うとジャミールは、足に風を纏い宙に浮いた。

「逃げるのか?」

表情を変えず、自分の背より高く浮いているジャミールを見上げる。

「ハッ、てめぇも余裕をかませる状態じゃねぇだろ?今回は引いてやるってんだ。有難く思え」

ジョルジュは左手をジャミールに向け、風の矢を撃とうと構える。
だがジャミールが右手に魔力を込めジョルジュに向けると、しばしの逡巡の後に腕を下ろした。

ここまで戦って、ジャミールの実力は十分に分かった。
ここで風の矢を撃ったとしても相殺されるだろう。
セシリアのあの炎を目にし状況が大きく変わった事も感じた。引くと言うのであれば、ここでこれ以上の戦闘は続けない方がいい。


「・・・俺は諦めたわけじゃねぇ、いずれまたてめぇを殺しに来る」

ジョルジュが腕を下ろすと、ジャミールは苛ただし気にセシリアのいる方向に顔を向けた。

やっと出会えた親の仇を前にして引く決断は、ジャミールとて本意ではない。
だが、あれほどの大きさのプロミネンスに巻きこまれれば、ただではすまない。

もう一度ジョルジュに視線を戻すと、その顔をわすれないように、目に焼き付けるかのようにジッと睨み付ける。

そして口を開かないままジョルジュから距離を取って行き、ある程度離れたところで背を向けるとジャミールは飛び去って行った。


ジャミールの背を見送り完全にいなくなった事を確認すると、ジョルジュは空に浮かぶ血のように真っ赤な炎を目指して走った。






耳をつんざく爆音と、樹々をへし折る程の凄まじい衝撃波だった。
セシリアのブラッドプロミネンスと、弥生の光と風の刃は空中で衝突しせめぎ合っていた。

周囲で戦いを見守っていた兵士達は、ぶつかり合う二つの力の余波に立っている事さえできず、ある者は吹き飛ばされ、またある者は転ばされ、腰を落とし近くの樹にしがみ付いている者もいる。


「ジャニス様、お怪我はありませんか!?」
身をかがめ両手で頭を抱えているジャニスに、エリンが駆け寄りその肩を支えた。

「あ、エリン!私は大丈夫、だけどヤヨイさんが!」
「・・・もう少し離れましょう。ここは危険です」
「でも、ヤヨイさんが・・・」
「ジャニス様!ここは下がってください!お願いです!」

両肩を掴まれ、強い口調でエリンに言葉を遮られると、ジャニスはその迫力にビクリと身を震わせた。


「・・・申し訳ありません。ですが、どうかここは下がってください」

ジャニスの体を支えるようにしながら、少し後ろへ下がる。
大きな樹の陰に隠れると、大分余波を防ぐことができてやっと一つ息を付く事ができた。

「ジャニス様、先程は申し訳ありませんでした・・・」

「・・・うぅん、謝らないで。エリンの言う通りよ。私があそこにいても何もできないわ。ごめんなさい。ヤヨイさんが心配で・・・」

「それは違います!何もできない事なんてありません!ジャニス様は希望なんです!」

悲し気に首を振るジャニスに、エリンはまた強い口調で言葉を発した。
しかしそれはさっきとは違う。責めるものではなく、信じるからこその気持ちがあった。


「・・・私が、希望?」

「そうです!ジャニス様もさっきおっしゃてたじゃないですか!自分の戦いはみんなを護る事だって!ジャニス様の癒しの力は大勢の人の命を救えます!だから希望なんです!ヤヨイ様はヤヨイ様の戦いを、ジャニス様にはジャニス様の戦いがあるんです!ヤヨイ様はきっと勝ちます!だから、ジャニス様の戦いはその後なんです!」

力いっぱいに訴えるエリンの言葉は、ジャニスの胸を打った。

「・・・何もできないのは私です・・・私はセシリアに全く歯が立ちませんでした。全てをヤヨイ様に託して見ている事しかできない・・・」

やりきれない思い、悔しさもにじませながら、エリンは樹の陰から顔を出し、弥生とセシリアの力のせめぎ合いに目を向けた。


「・・・エリン、そんな事言わないで・・・だって、あなたは私を護ってくれたじゃない」

「ジャニス様・・・」

「今だって私に衝撃が届かないように、自分の体を盾にしているでしょ。エリン、護ってくれてありがとう」

「・・・ジャニ、ス様・・・」

ジャニスの優しさが心に入り、エリンの目元に涙が浮かぶ。

「私の戦いはこの後・・・うん、その通りだね。エリン、その時は力を貸してね」

「はい!お任せください!」


ヤヨイさん・・・お願い・・・勝って!

ジャニスは両手を握り合わせ空を見上げた。

ヤヨイとセシリア、二人の全身全霊は大気を震わせる程に巨大なエネルギーとなり、激しくぶつかり合っていた。





セシリアのブラッドプロミネンスは、以前テレンスに撃ち放ったものよりはるかに大きく、その威力は比べものにならない程強かった。

正真正銘の全力である。
それは弥生の光の力を直接その体に受け、この一撃に全てを出しきらなければ勝つ事はできない。
そう判断しての事だった。

「ヤヨイ!まさかここまでやるなんてね!あなたと戦えた事!誇りに思うわ!」

セシリアは再び自分の左手首を斬りつけた。
飛び散る鮮血が空から地上へ降り注がれる。

「さぁ、血狂刃!飲みなさい私の血を!そしてありったけをぶつけない!」

深紅の刃を傷口に押し当て、流れ出る血を刀身に浴びせる姿は、見ている者全てを恐怖させる程のものだった。

だが、たった一人、セシリアと真っ向からぶつかっている弥生だけは、恐怖に呑まれる事は無かった。



・・・圧力が増した!?あの血狂刃は、血を飲む程に際限なく力を増すと言うのか!?

今まで拮抗していたパワーバランスが崩れ、弥生の光と風の刃が押され始めた。
すでに弥生の体力は限界を超え、気力だけで戦っているに等しい状態だった。


負けられない・・・絶対に負けられない・・・!

歯を食いしばり、押し潰されそうな重圧に必死に耐える。

アタシがここで負けたら、みんながこの血に濡れた太陽に焼き殺されてしまう・・・

頭上から襲い来るブラッドプロミネンスのとてつもない圧力に、弥生の足元がひび割れ崩れ出す。
足首が割れた地面にめり込み、そのまま片膝を着かされる。それでも振り上げている両手、そして握られている新緑は手放さない。



・・・目が霞んできた・・・

全身の光が急速に弱々しくなる
それは気力だけではどうにもならない、文字通り精も魂も尽き果てたと言う事

ここまで・・・か・・・




・・・ママ・・・・・




目を閉じてしまいそうになったその時、弥生の耳には確かに聞こえた

自分を呼ぶテリーとアンナの声

大好きな子供達

護らなければならない

ここで自分が負けたら、セシリアの炎はカエストゥスを焼き尽くすだろう

そんな事はさせない


この命に代えても


「・・・ウアァァァァァァァァーーーッツ!」

喉の奥から声を振り絞る
消えかかった光が再び大きく輝きだした

強く・・・もっと強く・・・これは、私の命の力・・・・・


「なにッ!?ヤ、ヤヨイ!あなた・・・そ、それは!?どこにそんな力が・・・」

ブラッドプロミネンスをはるかに上回る光輝く風の刃
それは一瞬のせめぎ合いの後、セシリアの血濡れの太陽をあっさりと呑み込んだ


「そ、そんなっ・・・わ、私の、私の太陽・・・が、あぁ・・・・・・・・・・」


光輝く風の刃がセシリアを貫いた

体から発せられる炎など何の意味も持たない
光と風、二つの力が、セシリアの体を、セシリアという存在を文字通り消し去っていく



・・・ヤヨイ・・・あなた・・・やっぱり・・・素敵・・・だった・・・わ・・・・・


最後の瞬間、セシリアは赤い唇の端をわずかに吊り上げ笑った
自分の全てをぶつけて尚それを上回った弥生は、セシリアにとって友と呼べる存在だったのかもしれない



光輝く風の刃が消えた後の空には何も残っていなかった
闇夜が戻り辺りは静まり返っている


弥生は振り上げていた薙刀、新緑をそっと静かに下ろした

・・・ありがとう新緑・・・・・アタシの最高の相棒

弥生を包み込むように、周りに浮かんでいた沢山の緑の炎、風の精霊が、一つ、また一つと、その役目を終えたかのように消えていく

・・・ありがとう風の精霊・・・・・みんながテリーとアンナの声を運んでくれたんだね


弥生はゆっくりと目を閉じた


・・・・・ねぇ、ヤヨイ・・・・・あとはあんたが自分の言葉で伝えるんだよ


・・・・・えぇ、そうね・・・・・でも、まずはあなたに・・・弥生、ありがとう


・・・・・うん、アタシもありがとう、ヤヨイ・・・あんたといた時間は、すごく楽しかったよ



風が吹く

立ち尽くすヤヨイの黒く長い髪がはためかせられる

後ろから聞こえる足音がその背中の前で止まる


「ヤ、ヤヨイさん!大丈夫!?」

息を切らせ、ジャニスがヤヨイの背に手をかける

「・・・え?」

その瞬間ジャニスは全てを感じ取った
大陸一の白魔法使いとして、癒しの力を・・・生命に触れるジャニスだからこそ分かってしまった



・・・・・ジャニスさん

振り返ったヤヨイの表情は、これまでで一番穏やかで・・・そして美しかった



・・・・・ありがとう



感情を抑える事などできなかった

ジャニスの両目から大粒の涙が溢れ出し・・・零れ落ちる



シンジョウ ヤヨイの命の灯は今・・・消えようとしている
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