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【397 樹々に囲まれた小屋の中で ⑦】
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すぐに分かりました。
だって私とずっと一緒にいてくれた兄様ですから。
あの得体の知れないナニかは、兄様が追い払ってくれたんですね。
躊躇いはありませんでした。
引き戸を開けると、そこには私と同じ白い髪と黒い瞳・・・いつもと変わらない姿の兄様が立っていました。
「・・・兄様」
嬉しさのあまり声が振るえて涙が零れそうになる。もう一度会えるなんて思いませんでした。
ちゃんとお別れを言えなかったから・・・それがずっと心に残ってて苦しかった・・・
一歩近づくと、兄様は優しく微笑んで私の頭に手を置いてくれました。
不思議な感覚でした。
触られているようだけど感触がなくて・・・だけど暖かくてとても落ち着く・・・
『・・・クラレッサ、もう大丈夫だよ。よく頑張ったね・・・』
いつだって、どんな時だって、私を支えてくれた温かな兄様の声でした。
「・・・私は何もできませんでした。おじいさんがいなければ今頃どうなっていたか・・・」
『・・・ブレンダンに良くしてもらってるみたいだね・・・・・・』
そう言って兄様はおじいさんに顔を向き直ると、深く腰を折って頭を下げました。
『ブレンダン・・・妹を護ってくれてありがとう・・・』
兄様の言葉に、おじいさんは目を細めて頷きました。
とても優しい笑顔・・・きっと孤児院の子供達は、みんな毎日この笑顔に見守られているのでしょう。
子供達には全く興味はなかったけれど、少しだけ知りたいと思いました。
「約束じゃからな。それに、ワシはもうクラレッサを自分の娘と思うておるよ。護るのは当然じゃろ?」
おじいさんの気持ちに私は胸が温かくなりました。
おじいさんは本当の父様ではありません。
だけど、おじいさんが私を本当の娘と思ってくださるのなら・・・私もおじいさんを本当の父様と思える日が来るかもしれません。
兄様はおじいさんから私に視線を戻すと、私の右目にそっと手を当てました。
冷たかった右目が少しだけ温かくなります。
『クラレッサ、悪霊は僕が連れて行くよ。もうクラレッサを苦しめるものは何もない』
「え・・・兄様、そんな事ができるのですか?」
兄様は優しく微笑むと最後に私をそっと抱き締めてくれました。
『もう行かなきゃ・・・・・クラレッサの幸せを願っている』
「兄様・・・」
私を抱き締める腕を離し背を向けた兄様を見て、直感が知らせました。
おそらくこれが最後・・・・・もう兄様には会えない。
そう感じて、私は兄様の背中に声をかけました。
「兄様!また・・・また会えますか?」
会えないと分かってるのに・・・・・
兄様は立ち止まると、少しだけ何かを考えるように間を置きました。
それからゆっくりと振り返って、私に笑顔を見せてくれました。
『もちろんだよクラレッサ・・・・・また会おう』
・・・・・だから一生懸命生きるんだよ・・・・・
そして兄様の体は少しずつ色を失うように薄くなっていき、風に流されるように消えていきました・・・・・
「・・・・・兄様、ありがとう」
悲しいけれど、どこか温かい・・・・・私の心に刺さっていた棘が抜けた気がしました。
兄様が護ってくれたこの命を、私は兄様が安心できるように、兄様が喜んでくれるように、精一杯前を向いて生きようと思います。
「おじいさん、私・・・孤児院のみんなと仲良くしたいです」
「クラレッサ・・・うむ、心配するでない。前にも言うたがみんな優しい良い子達じゃ。すぐに仲良くなれる」
おじいさんはとても嬉しそうに答えてくれました。
良い顔になった、そう言って私の頭を撫でてくれるその手は、とても大きく優しさに満ちていました。
カエストゥスは私が生まれた国・・・そして遠い昔、家族四人で一緒に暮らした国。
あれから10年以上経って、また帰って来るなんて思いませんでした。
もう父様と母様と兄様もいないけれど、私にはおじいさんがいます。
孤児院の子供達とはまだ会ってないけれど、仲良くできたら嬉しいな・・・・・
大丈夫、きっと仲良くなれる。
だっておじいさんが、私を家族としてむかえてくれるんだから。
これから共に生きる新しい家族を想い、私は心を弾ませた。
だって私とずっと一緒にいてくれた兄様ですから。
あの得体の知れないナニかは、兄様が追い払ってくれたんですね。
躊躇いはありませんでした。
引き戸を開けると、そこには私と同じ白い髪と黒い瞳・・・いつもと変わらない姿の兄様が立っていました。
「・・・兄様」
嬉しさのあまり声が振るえて涙が零れそうになる。もう一度会えるなんて思いませんでした。
ちゃんとお別れを言えなかったから・・・それがずっと心に残ってて苦しかった・・・
一歩近づくと、兄様は優しく微笑んで私の頭に手を置いてくれました。
不思議な感覚でした。
触られているようだけど感触がなくて・・・だけど暖かくてとても落ち着く・・・
『・・・クラレッサ、もう大丈夫だよ。よく頑張ったね・・・』
いつだって、どんな時だって、私を支えてくれた温かな兄様の声でした。
「・・・私は何もできませんでした。おじいさんがいなければ今頃どうなっていたか・・・」
『・・・ブレンダンに良くしてもらってるみたいだね・・・・・・』
そう言って兄様はおじいさんに顔を向き直ると、深く腰を折って頭を下げました。
『ブレンダン・・・妹を護ってくれてありがとう・・・』
兄様の言葉に、おじいさんは目を細めて頷きました。
とても優しい笑顔・・・きっと孤児院の子供達は、みんな毎日この笑顔に見守られているのでしょう。
子供達には全く興味はなかったけれど、少しだけ知りたいと思いました。
「約束じゃからな。それに、ワシはもうクラレッサを自分の娘と思うておるよ。護るのは当然じゃろ?」
おじいさんの気持ちに私は胸が温かくなりました。
おじいさんは本当の父様ではありません。
だけど、おじいさんが私を本当の娘と思ってくださるのなら・・・私もおじいさんを本当の父様と思える日が来るかもしれません。
兄様はおじいさんから私に視線を戻すと、私の右目にそっと手を当てました。
冷たかった右目が少しだけ温かくなります。
『クラレッサ、悪霊は僕が連れて行くよ。もうクラレッサを苦しめるものは何もない』
「え・・・兄様、そんな事ができるのですか?」
兄様は優しく微笑むと最後に私をそっと抱き締めてくれました。
『もう行かなきゃ・・・・・クラレッサの幸せを願っている』
「兄様・・・」
私を抱き締める腕を離し背を向けた兄様を見て、直感が知らせました。
おそらくこれが最後・・・・・もう兄様には会えない。
そう感じて、私は兄様の背中に声をかけました。
「兄様!また・・・また会えますか?」
会えないと分かってるのに・・・・・
兄様は立ち止まると、少しだけ何かを考えるように間を置きました。
それからゆっくりと振り返って、私に笑顔を見せてくれました。
『もちろんだよクラレッサ・・・・・また会おう』
・・・・・だから一生懸命生きるんだよ・・・・・
そして兄様の体は少しずつ色を失うように薄くなっていき、風に流されるように消えていきました・・・・・
「・・・・・兄様、ありがとう」
悲しいけれど、どこか温かい・・・・・私の心に刺さっていた棘が抜けた気がしました。
兄様が護ってくれたこの命を、私は兄様が安心できるように、兄様が喜んでくれるように、精一杯前を向いて生きようと思います。
「おじいさん、私・・・孤児院のみんなと仲良くしたいです」
「クラレッサ・・・うむ、心配するでない。前にも言うたがみんな優しい良い子達じゃ。すぐに仲良くなれる」
おじいさんはとても嬉しそうに答えてくれました。
良い顔になった、そう言って私の頭を撫でてくれるその手は、とても大きく優しさに満ちていました。
カエストゥスは私が生まれた国・・・そして遠い昔、家族四人で一緒に暮らした国。
あれから10年以上経って、また帰って来るなんて思いませんでした。
もう父様と母様と兄様もいないけれど、私にはおじいさんがいます。
孤児院の子供達とはまだ会ってないけれど、仲良くできたら嬉しいな・・・・・
大丈夫、きっと仲良くなれる。
だっておじいさんが、私を家族としてむかえてくれるんだから。
これから共に生きる新しい家族を想い、私は心を弾ませた。
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