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「・・・頑張るなぁ・・・これで50は超えたかな」
二度目に出した分身体をほぼ焼き尽くされ、今は三度目、更に作り出した50の分身体がミゼルを襲っていた。
左腕に深手を負って、ここまで粘られるとは思わなかった。
魔力操作には甘さがあるが、分身体を一瞬で焼き尽くす魔力の高さには、目を見張るものがある。
「国王からは国賊と聞いていたけど・・・・・いや、余計な事は考えなくていいな。僕はクアルト家の四勇士・・・この塔を護るだけだ」
最初は国王の話しの通り、ただの国賊だと思ったが、この男の気迫は賊なんぞに出せるものではない。
この男、ミゼル・アルバラードはこの戦いに命を懸けている。
そこまでして成さねばならない何かを背負っている。
心が動かされそうになったが、僕は思考を切り替えた。
四勇士は塔を護る事が使命であり、それが全てだ。
自分の存在意義を否定するような行為はできない。
「このままお前の魔力が尽きるまで、分身体での攻撃を続けてもいいが、平民とはいえここまで僕と戦った事へ敬意を表して、一気に決めてやろう」
現在分身体は50から更に数を減らし30を切っているが、ミゼルもかなり疲弊している。
十分に止めを刺せるだろう。
「楽にしてやれ」
ミゼルを取り囲んだ分身体が、一斉にぶつかっていった。
キリがねぇ・・・本当に100以上の分身体を出してきやがるとは・・・
ここまで戦って分かったが、この分身体には独立した意思はないようだ。
だから言葉を話す事もなければ、炎に焼かれる恐怖も無い。
本体の指示通りに動く人形みたいなものだ。
しかし、本体には及ばないにしても、それなりに高い魔力耐性を持っている。
だから、一回一回俺が全力を込めて灼炎竜を食らわせないと、一瞬で戦闘不能にする事はできない。
この魔力消費が厳しい。
塔に入る前に、魔力回復促進薬は飲んでおいたが、とても追いつかない。
それに左手の出血も加わって、もう体力も魔力も限界だ。
俺は灼炎竜を操りながら、まだ横たわっているケイトに目を向けた。
まだ魔力を感じられるという事は、どうやら最悪の事態は避けられたようだ。
ケイトだけは、なんとしても帰さなければならない・・・・・
「なぁ、ジーン。お前、ケイトと付き合って何年くらい?」
まだアラタが入店するより前の事だ。
俺はクリスとの関係に悩んでいて、その日は仕事がどうも手に付かなかった。
気分転換にぶらぶら店内を歩いていると、青魔法コーナーで魔道具の手入れをしていたジーンを見つけて、気まぐれに話しかけた。
「う~ん・・・実はね、ハッキリ付き合おうって言った事はないんだ。ケイトからは彼氏扱いされているし、僕も否定した事はないから、付き合っていると言えば付き合ってるんだろうけど・・・ダメだよね?こんな半端な感じじゃ・・・」
ジーンは指先で頬を掻いて、少し眉を下げて笑った。
「・・・そっか、まぁよ、お前達の関係がそれでうまくいってんなら、それでいいんじゃないか?付き合おうって口に出さなくても、二人の間で通じてるもんがあるならそれでよ」
俺はカウンターに肘を着いて顎を乗せると、、ジーンには顔を向けず、前を向いて言葉を返した。
「・・・そう、かな?」
「あぁ、そういうもんだと思うぜ・・・・・俺だって、いっつもクリスと喧嘩ばっかだけどよ、なんかクリスの気持ちは分かるんだよ。二人だけにしか分からない事ってあんだろ?ジーンとケイトもよ、そんな感じなんじゃないのか?ハッキリ付き合おうって言葉にしなきゃ落ち着かないってんなら、そうすりゃいいだけだけど・・・俺から見てもお前達は付き合ってるようにしか見えないぜ?だから、今のままでも全然いいと思うぞ」
「・・・うん、ありがとうミゼル。少し気持ちが楽になったよ、ところで、ミゼルは僕になにか話しがあったんじゃないの?」
「・・・いや、もう解決したからいいよ。仕事邪魔しちまったな。あ、そうだ。ジーン、さすがにプロポーズの時はちゃんと言葉にしろよ?」
少しふざけた感じに言うと、ジーンも笑って答えた。
「あはは、うん。もちろんだよ・・・ありがとうミゼル」
その日の仕事帰り、俺はクリスのところに行って、いつも通り謝った。
酒が原因で喧嘩をするのはいつもの事だけど、この時は疲れてたのか、ちょっと本気でクリスとの今後を考えていた。
でも、ジーンと話して、なんだか胸のつかえみたいなもんがスッと無くなったんだ。
俺にはやっぱりクリスが必要だ。
そしてジーンにはケイトが、ケイトにはジーンが必要だ。
ジーンに聞いて、二人の事情は知っている。
だからこそ、この二人には幸せになって欲しいし、幸せになるところを見たい。
「っ!?」
「捕まえたぜ・・・俺の残り全魔力だ・・・受けて見ろ!」
「ば、馬鹿な!い、いったいどうやって後ろに!?たったいままでそこにッ・・・うぐぁぁぁぁーッツ!」
俺はクアルトを羽交い絞めにすると、残り全魔力を振り絞って灼炎竜を発動させた。
二度目に出した分身体をほぼ焼き尽くされ、今は三度目、更に作り出した50の分身体がミゼルを襲っていた。
左腕に深手を負って、ここまで粘られるとは思わなかった。
魔力操作には甘さがあるが、分身体を一瞬で焼き尽くす魔力の高さには、目を見張るものがある。
「国王からは国賊と聞いていたけど・・・・・いや、余計な事は考えなくていいな。僕はクアルト家の四勇士・・・この塔を護るだけだ」
最初は国王の話しの通り、ただの国賊だと思ったが、この男の気迫は賊なんぞに出せるものではない。
この男、ミゼル・アルバラードはこの戦いに命を懸けている。
そこまでして成さねばならない何かを背負っている。
心が動かされそうになったが、僕は思考を切り替えた。
四勇士は塔を護る事が使命であり、それが全てだ。
自分の存在意義を否定するような行為はできない。
「このままお前の魔力が尽きるまで、分身体での攻撃を続けてもいいが、平民とはいえここまで僕と戦った事へ敬意を表して、一気に決めてやろう」
現在分身体は50から更に数を減らし30を切っているが、ミゼルもかなり疲弊している。
十分に止めを刺せるだろう。
「楽にしてやれ」
ミゼルを取り囲んだ分身体が、一斉にぶつかっていった。
キリがねぇ・・・本当に100以上の分身体を出してきやがるとは・・・
ここまで戦って分かったが、この分身体には独立した意思はないようだ。
だから言葉を話す事もなければ、炎に焼かれる恐怖も無い。
本体の指示通りに動く人形みたいなものだ。
しかし、本体には及ばないにしても、それなりに高い魔力耐性を持っている。
だから、一回一回俺が全力を込めて灼炎竜を食らわせないと、一瞬で戦闘不能にする事はできない。
この魔力消費が厳しい。
塔に入る前に、魔力回復促進薬は飲んでおいたが、とても追いつかない。
それに左手の出血も加わって、もう体力も魔力も限界だ。
俺は灼炎竜を操りながら、まだ横たわっているケイトに目を向けた。
まだ魔力を感じられるという事は、どうやら最悪の事態は避けられたようだ。
ケイトだけは、なんとしても帰さなければならない・・・・・
「なぁ、ジーン。お前、ケイトと付き合って何年くらい?」
まだアラタが入店するより前の事だ。
俺はクリスとの関係に悩んでいて、その日は仕事がどうも手に付かなかった。
気分転換にぶらぶら店内を歩いていると、青魔法コーナーで魔道具の手入れをしていたジーンを見つけて、気まぐれに話しかけた。
「う~ん・・・実はね、ハッキリ付き合おうって言った事はないんだ。ケイトからは彼氏扱いされているし、僕も否定した事はないから、付き合っていると言えば付き合ってるんだろうけど・・・ダメだよね?こんな半端な感じじゃ・・・」
ジーンは指先で頬を掻いて、少し眉を下げて笑った。
「・・・そっか、まぁよ、お前達の関係がそれでうまくいってんなら、それでいいんじゃないか?付き合おうって口に出さなくても、二人の間で通じてるもんがあるならそれでよ」
俺はカウンターに肘を着いて顎を乗せると、、ジーンには顔を向けず、前を向いて言葉を返した。
「・・・そう、かな?」
「あぁ、そういうもんだと思うぜ・・・・・俺だって、いっつもクリスと喧嘩ばっかだけどよ、なんかクリスの気持ちは分かるんだよ。二人だけにしか分からない事ってあんだろ?ジーンとケイトもよ、そんな感じなんじゃないのか?ハッキリ付き合おうって言葉にしなきゃ落ち着かないってんなら、そうすりゃいいだけだけど・・・俺から見てもお前達は付き合ってるようにしか見えないぜ?だから、今のままでも全然いいと思うぞ」
「・・・うん、ありがとうミゼル。少し気持ちが楽になったよ、ところで、ミゼルは僕になにか話しがあったんじゃないの?」
「・・・いや、もう解決したからいいよ。仕事邪魔しちまったな。あ、そうだ。ジーン、さすがにプロポーズの時はちゃんと言葉にしろよ?」
少しふざけた感じに言うと、ジーンも笑って答えた。
「あはは、うん。もちろんだよ・・・ありがとうミゼル」
その日の仕事帰り、俺はクリスのところに行って、いつも通り謝った。
酒が原因で喧嘩をするのはいつもの事だけど、この時は疲れてたのか、ちょっと本気でクリスとの今後を考えていた。
でも、ジーンと話して、なんだか胸のつかえみたいなもんがスッと無くなったんだ。
俺にはやっぱりクリスが必要だ。
そしてジーンにはケイトが、ケイトにはジーンが必要だ。
ジーンに聞いて、二人の事情は知っている。
だからこそ、この二人には幸せになって欲しいし、幸せになるところを見たい。
「っ!?」
「捕まえたぜ・・・俺の残り全魔力だ・・・受けて見ろ!」
「ば、馬鹿な!い、いったいどうやって後ろに!?たったいままでそこにッ・・・うぐぁぁぁぁーッツ!」
俺はクアルトを羽交い絞めにすると、残り全魔力を振り絞って灼炎竜を発動させた。
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