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【857 帝国の風】
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魔道具 対波動の章。
両手を打ち合わせる事で発生した衝撃波だが、この魔道具の正体は、ワイルダーの穿いているブーツである。
発動条件は両足で大地を踏みしめ靴底を固定する。
その状態で発した衝撃は数倍、あるいは数十倍にもなって、地面を伝い周囲に広がるというものだった。
威力は起こされた衝撃に比例して増える。ワイルダーの手合わせだからこそ、ジョルジュを吹き飛ばす程の衝撃波を起こす事ができたが、一般兵が同じ事をやったとしても、せいぜい服をはためかせる程度が関の山である。
本来は戦闘用の魔道具ではない。
発掘の時に周囲の砂を吹き飛ばしたり、整地をするために開発されたものだった。
屈強な男がハンマーで力いっぱい地面を叩きつけても、人一人を転ばせる事がやっとだったため、戦闘にはとても期待はできない物だった。
だが、ワイルダーが使う場合に限り・・・この魔道具は恐ろしい兵器へと変わる。
対波動の章を発動させたワイルダーを中心として、放射状に発生した衝撃の波は、地面を抉るようにして広範囲に渡りその力をぶつけていた。
城壁の前に立っていた兵達さえも巻きこみ、特に最前列に並んだ兵達の負傷は大きく、戦闘不能の状態に陥る者までも出ていた。
積もっていた雪は吹き飛ばされ、剥き出しの大地には亀裂が見える。
ワイルダーが使う、対波動の章の威力の凄まじさが分かろうものだった。
「俺に本気を出させた事には敬意を表して、死に顔くらいは見てやろう」
ワイルダーは視線の先で、両の手足を広げて倒れている男に目を向けると、ゆっくりと足を前に進ませた。ワイルダーの人間離れした巨体は、一歩足を進ませるだけで地響きがなる程に重く、歩くだけで他者を威圧する程に存在感があった。
何度も地面に打ち付けられた事を物語っているように、その男の全身は血と土にまみれ、衣服もズタボロに裂けていた。
そしてその傍らでは、二つに折れた弓と、バラバラに散らばった矢が見える。
今の一発で、頼みの弓さえも使い物にならなくなっていた。
「・・・うっ・・・」
かすかに口から洩れる声。
全身に感じる痛みは、まだ自分が生きている事を教えてくれた。
雪の冷たさが有難い。おかげでぼんやりとしている頭も、いくらか冴えてくる。
目を開けて空を見る。
灰色の雲から、大粒の雪のが絶え間なく降り注がれてくる。
最初はチラチラとした軽い雪だったが、いつの間にか本格的に振ってきたようだ。
風もだいぶ強くなってきている。もうすぐ視界が消えるくらい、強くなる予感もする。
俺は手や足、指の感覚を確かめて、自分がどの程度のダメージを受けているかを確認した。
左足が強く痛む・・・ヒビが入っているかもしれないな。
両腕は大丈夫だ。あとは右の肋骨か、ここも痛みが強い。
視界の左半分が赤い。それだけ頭のからの出血が多いという事か。
顔を右に向けると、愛用の弓が折れていた。
矢もとても使える状態ではない。あの衝撃波でここまでやられるとはな・・・・・
黒き破壊王と呼ばれるだけある。
・・・・・・・・・・強い。
手も足も出ないとはこういう事を言うのだろう。
師団長とは比べ物にならん。
これほどの男が帝国にいたとは・・・・・世界は広いな。
満身創痍の体。武器も失い、もう戦える状態ではなかった。
だがジョルジュ・ワーリントンの目は死んではいない。
「・・・・・ジャニス・・・」
俺は・・・・・・・・
「ほう・・・まだ、死んでいなかったか?大した男だ。俺に本気を出させるだけはあったという事か?」
ボロボロになって倒れているジョルジュを見下ろすのは、黒き巨躯の男ワイルダー。
右耳はジョルジュに矢で貫かれ、べったりとした赤い血が顔の半分と首を赤く染めて濡らしているが、痛みを感じている素振りさえ見せないのは、この男の体が変貌した影響があるのかもしれない。
終わってみれば、一方的な戦いだった。
ワイルダーの耳を奪い、傷を負わせた事は一矢報いたと言えるだろうが、ほとんど何もできないまま倒されてしまった。
戦闘力を失い、あとは死を待つだけのジョルジュを見て、ワイルダーの目から闘争心が消える。
それは二人の戦いに決着がついたと、ワイルダーが認識した事を意味する。
あとは止めを刺すだけだ。
「ふん・・・眼に力がないではないか。どうした?立つ気力も残っていないのか?・・・つまらんな。やはり俺が期待し過ぎたようだ・・・」
落胆の息を吐くと、ワイルダーは右足を上げた。
人の顔さえも覆い隠す程のその巨大な足は、踏みつけられれば頭でも胸でも、簡単に潰されてしまうだろう。
「・・・・・・・」
しかし、ジョルジュの目はワイルダーではなく、もっと別の何かを見ているように、うつろな眼差しを宙に向けていた。
「・・・死ね!」
そんなジョルジュに苛立ちを含んだ声を発し、ワイルダーはその巨大な足をジョルジュの顔に下ろした!
ワイルダーは目を大きく開き、己の足を凝視した。
踏みつぶしたはずの男の姿は忽然と消え、右足は大地を踏み砕いていた。
・・・・・なんだと?
・・・・・ヤツはどこだ?
・・・・・この俺が見失っただと?
一瞬で様々な考えが頭を駆け巡った。そしてその僅かな時間が、ワイルダーに大きな隙を生んだ。
「・・・心地よく、そして美しい風だ・・・・・」
背後から聞こえたその声に、ワイルダーが振り向いたその時!
「ヅッ・・・・・ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁー----ッ!」
ワイルダーは叫んだ。突然自分の右目を何かが貫いたからだ。
噴き出す血、襲いくる激痛に、右目を押さえて体を震わせている。
ジョルジュは空に浮いていた。その体を包んでいるのは緑色の風だった。
左手の平をワイルダーに向け、右手は何かを引いたように、顔の横で軽く開いていた。
ワイルダーの頭と同じ程度の高さに立ち、まっすぐにその男を見ていた。
そして右目を押さえ叫び声をあげている、黒い肌の巨躯の男に向かって口を開いた。
「帝国の風は、本当はこんなにも優しいんだな」
二人が戦っている事など忘れてしまうような、自然で柔らかな声色だった。
両手を打ち合わせる事で発生した衝撃波だが、この魔道具の正体は、ワイルダーの穿いているブーツである。
発動条件は両足で大地を踏みしめ靴底を固定する。
その状態で発した衝撃は数倍、あるいは数十倍にもなって、地面を伝い周囲に広がるというものだった。
威力は起こされた衝撃に比例して増える。ワイルダーの手合わせだからこそ、ジョルジュを吹き飛ばす程の衝撃波を起こす事ができたが、一般兵が同じ事をやったとしても、せいぜい服をはためかせる程度が関の山である。
本来は戦闘用の魔道具ではない。
発掘の時に周囲の砂を吹き飛ばしたり、整地をするために開発されたものだった。
屈強な男がハンマーで力いっぱい地面を叩きつけても、人一人を転ばせる事がやっとだったため、戦闘にはとても期待はできない物だった。
だが、ワイルダーが使う場合に限り・・・この魔道具は恐ろしい兵器へと変わる。
対波動の章を発動させたワイルダーを中心として、放射状に発生した衝撃の波は、地面を抉るようにして広範囲に渡りその力をぶつけていた。
城壁の前に立っていた兵達さえも巻きこみ、特に最前列に並んだ兵達の負傷は大きく、戦闘不能の状態に陥る者までも出ていた。
積もっていた雪は吹き飛ばされ、剥き出しの大地には亀裂が見える。
ワイルダーが使う、対波動の章の威力の凄まじさが分かろうものだった。
「俺に本気を出させた事には敬意を表して、死に顔くらいは見てやろう」
ワイルダーは視線の先で、両の手足を広げて倒れている男に目を向けると、ゆっくりと足を前に進ませた。ワイルダーの人間離れした巨体は、一歩足を進ませるだけで地響きがなる程に重く、歩くだけで他者を威圧する程に存在感があった。
何度も地面に打ち付けられた事を物語っているように、その男の全身は血と土にまみれ、衣服もズタボロに裂けていた。
そしてその傍らでは、二つに折れた弓と、バラバラに散らばった矢が見える。
今の一発で、頼みの弓さえも使い物にならなくなっていた。
「・・・うっ・・・」
かすかに口から洩れる声。
全身に感じる痛みは、まだ自分が生きている事を教えてくれた。
雪の冷たさが有難い。おかげでぼんやりとしている頭も、いくらか冴えてくる。
目を開けて空を見る。
灰色の雲から、大粒の雪のが絶え間なく降り注がれてくる。
最初はチラチラとした軽い雪だったが、いつの間にか本格的に振ってきたようだ。
風もだいぶ強くなってきている。もうすぐ視界が消えるくらい、強くなる予感もする。
俺は手や足、指の感覚を確かめて、自分がどの程度のダメージを受けているかを確認した。
左足が強く痛む・・・ヒビが入っているかもしれないな。
両腕は大丈夫だ。あとは右の肋骨か、ここも痛みが強い。
視界の左半分が赤い。それだけ頭のからの出血が多いという事か。
顔を右に向けると、愛用の弓が折れていた。
矢もとても使える状態ではない。あの衝撃波でここまでやられるとはな・・・・・
黒き破壊王と呼ばれるだけある。
・・・・・・・・・・強い。
手も足も出ないとはこういう事を言うのだろう。
師団長とは比べ物にならん。
これほどの男が帝国にいたとは・・・・・世界は広いな。
満身創痍の体。武器も失い、もう戦える状態ではなかった。
だがジョルジュ・ワーリントンの目は死んではいない。
「・・・・・ジャニス・・・」
俺は・・・・・・・・
「ほう・・・まだ、死んでいなかったか?大した男だ。俺に本気を出させるだけはあったという事か?」
ボロボロになって倒れているジョルジュを見下ろすのは、黒き巨躯の男ワイルダー。
右耳はジョルジュに矢で貫かれ、べったりとした赤い血が顔の半分と首を赤く染めて濡らしているが、痛みを感じている素振りさえ見せないのは、この男の体が変貌した影響があるのかもしれない。
終わってみれば、一方的な戦いだった。
ワイルダーの耳を奪い、傷を負わせた事は一矢報いたと言えるだろうが、ほとんど何もできないまま倒されてしまった。
戦闘力を失い、あとは死を待つだけのジョルジュを見て、ワイルダーの目から闘争心が消える。
それは二人の戦いに決着がついたと、ワイルダーが認識した事を意味する。
あとは止めを刺すだけだ。
「ふん・・・眼に力がないではないか。どうした?立つ気力も残っていないのか?・・・つまらんな。やはり俺が期待し過ぎたようだ・・・」
落胆の息を吐くと、ワイルダーは右足を上げた。
人の顔さえも覆い隠す程のその巨大な足は、踏みつけられれば頭でも胸でも、簡単に潰されてしまうだろう。
「・・・・・・・」
しかし、ジョルジュの目はワイルダーではなく、もっと別の何かを見ているように、うつろな眼差しを宙に向けていた。
「・・・死ね!」
そんなジョルジュに苛立ちを含んだ声を発し、ワイルダーはその巨大な足をジョルジュの顔に下ろした!
ワイルダーは目を大きく開き、己の足を凝視した。
踏みつぶしたはずの男の姿は忽然と消え、右足は大地を踏み砕いていた。
・・・・・なんだと?
・・・・・ヤツはどこだ?
・・・・・この俺が見失っただと?
一瞬で様々な考えが頭を駆け巡った。そしてその僅かな時間が、ワイルダーに大きな隙を生んだ。
「・・・心地よく、そして美しい風だ・・・・・」
背後から聞こえたその声に、ワイルダーが振り向いたその時!
「ヅッ・・・・・ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁー----ッ!」
ワイルダーは叫んだ。突然自分の右目を何かが貫いたからだ。
噴き出す血、襲いくる激痛に、右目を押さえて体を震わせている。
ジョルジュは空に浮いていた。その体を包んでいるのは緑色の風だった。
左手の平をワイルダーに向け、右手は何かを引いたように、顔の横で軽く開いていた。
ワイルダーの頭と同じ程度の高さに立ち、まっすぐにその男を見ていた。
そして右目を押さえ叫び声をあげている、黒い肌の巨躯の男に向かって口を開いた。
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