893 / 1,560
【892 カエストゥス 対 帝国 ㉖ 命】
しおりを挟む
「・・・う・・・く・・・・・」
「あ、気が付いたぞ・・・・・」
体に流れ込んで来る温かい力に、意識が呼び起こされる。
体が重い。深い沼の底から引き上げられるような感覚だった。それでも覚醒する意識とともに薄く目を開けると、最初に目に入ったのは、黒い空だった。
「・・・黒い、空・・・」
見たまま、思ったままを言葉にした。
「ウィッカー様、大丈夫ですか?」
すぐ隣からかけられた声に顔を向けると、黒いローブ姿の男女が数人、膝を着いて俺に顔を向けていた。
これは、カエストゥスの黒魔法使いのローブ、つまり味方だ。
「・・・お前、達は?」
仲間だとは分かったが、見た事の無い顔だ。いや、多分俺が覚えていないだけだ。
なんせこの戦いには黒魔法使いだけで、二万人以上が参戦している。
黒魔法使いなら、俺の魔法の指導に出ているとは思うが、全員はとても覚えられない。
体を起こしてたずねると、やはり彼らは俺の指導に出ていたと言う。
だが、黒魔法使いの人数を考えれば、自分達を分からなくて当然だと笑って話してくれた。
それが有難くも、申し訳なく感じてしまう。
そして彼らは一人づつ名前を名乗り、そしてなぜここにいるのかを説明してくれた。
「フローラ部隊長に呼ばれたんです。魔力が必要だからと言って、黒魔法使いの私達が連れて来られました。倒れているウィッカー様を見た時は、心臓が止まるかと思いました。ですが、あれほどの魔法を撃ったのです。消耗は大きくて当然ですよね」
アニーという長い赤髪の女性がそこまで話すと、次にトムと名乗った茶髪の男が言葉を引き取った。
「それで、僕達でウィッカー様に魔力を送りました。ウィッカー様の魔力は枯渇していて危険な状態でしたので、僕達もギリギリまで送ったのですが・・・正直驚きました。ね?」
トムは額の汗を拭うと、隣の金髪の女性リースに顔を向けて、なにやら同意を求めた。
それでリースもトムの言いたい事を分かったらしく、少し困ったような笑いを俺に向けた。
「えっと、ウィッカー様の魔力が、私達なんかとは比べ物にならないのは知ってましたが、それでもこれだけいれば十分だと思ったんです。だって、7人ですよ?でも実際に魔力を送ってみると、私達7人がギリギリまで魔力を注いでも、ウィッカー様の器は満たせなかったんです」
俺はあらためて、自分の前に膝をついている7人の黒魔法使いの顔を見た。
よく見るとみんな額に汗をかき、肩で息をしている。
笑っているけれど、かなりの魔力を俺に送って倒れる寸前なのは分かった。
「・・・みんな、ありがとう。そんなになるまで俺に・・・」
俺を生かすために、ここまで魔力を送ってくれるなんて・・・感謝を込めてお礼を口にする。
「そ、そんな頭を上げてください!」
「そうですよ、俺達ウィッカー様のお役に立てて光栄です」
「私達の事は気にしないでください」
「ウィッカー様、どうか皇帝を・・・みんなの仇を・・・」
ありがとう。
みんなのおかげで俺はまだ立つ事ができる。
「ウィッカー様・・・」
膝を着いて立ち上がろうとすると、7人の黒魔法使いの後ろから、ピンク色の髪の女の子が前に出て来た。
「・・・フローラ、みんなを連れて来てくれたんだってね。ありがとう」
この7人の黒魔法使いは、俺のためにフローラが集めてくれたと聞いた。
俺が助かったのは、フローラが動いてくれたからだ。
フローラにも感謝の言葉を伝える。
しかしフローラは俯いたままで、俺の声が聞こえているのかいないのか、すぐには反応を見せなかった。
どうしたんだ?と腰を上げてフローラに使づくと、フローラはゆっくりと顔を上げた。
その顔は涙で濡れてくしゃくしゃだった。いったいどれだけの涙を流したのだろう。
唇を噛みしめ赤くなった目で俺を見る。その小さな口から出たのは、か細いけれど強い気持ちの込められた言葉だった。
「ウィッカー様・・・・・お願いです」
強い意思を感じる眼差しだった。
「フローラ・・・」
俺はその眼差しも、フローラの涙も悲しみも、全て受け止めなければならない。
俺が今生きているのは、フローラの大切な人からもらった命なんだ。
「エロール君の・・・エロール君の繋いだ命を・・・・・大事に、して、ください・・・・・」
憎しみも怒りも口にしない。ただ命を大切にしてほしい。
フローラの想いは、恋人が護った命を大切にしてほしい。ただそれだけだった。
俺の命は、もう俺だけのものじゃない。
散っていった仲間達、護るべき大切な人、俺は生きなければならない。
「ああ、もちろんだ。約束するよ、フローラ。この命、大切にすると・・・」
「あ、気が付いたぞ・・・・・」
体に流れ込んで来る温かい力に、意識が呼び起こされる。
体が重い。深い沼の底から引き上げられるような感覚だった。それでも覚醒する意識とともに薄く目を開けると、最初に目に入ったのは、黒い空だった。
「・・・黒い、空・・・」
見たまま、思ったままを言葉にした。
「ウィッカー様、大丈夫ですか?」
すぐ隣からかけられた声に顔を向けると、黒いローブ姿の男女が数人、膝を着いて俺に顔を向けていた。
これは、カエストゥスの黒魔法使いのローブ、つまり味方だ。
「・・・お前、達は?」
仲間だとは分かったが、見た事の無い顔だ。いや、多分俺が覚えていないだけだ。
なんせこの戦いには黒魔法使いだけで、二万人以上が参戦している。
黒魔法使いなら、俺の魔法の指導に出ているとは思うが、全員はとても覚えられない。
体を起こしてたずねると、やはり彼らは俺の指導に出ていたと言う。
だが、黒魔法使いの人数を考えれば、自分達を分からなくて当然だと笑って話してくれた。
それが有難くも、申し訳なく感じてしまう。
そして彼らは一人づつ名前を名乗り、そしてなぜここにいるのかを説明してくれた。
「フローラ部隊長に呼ばれたんです。魔力が必要だからと言って、黒魔法使いの私達が連れて来られました。倒れているウィッカー様を見た時は、心臓が止まるかと思いました。ですが、あれほどの魔法を撃ったのです。消耗は大きくて当然ですよね」
アニーという長い赤髪の女性がそこまで話すと、次にトムと名乗った茶髪の男が言葉を引き取った。
「それで、僕達でウィッカー様に魔力を送りました。ウィッカー様の魔力は枯渇していて危険な状態でしたので、僕達もギリギリまで送ったのですが・・・正直驚きました。ね?」
トムは額の汗を拭うと、隣の金髪の女性リースに顔を向けて、なにやら同意を求めた。
それでリースもトムの言いたい事を分かったらしく、少し困ったような笑いを俺に向けた。
「えっと、ウィッカー様の魔力が、私達なんかとは比べ物にならないのは知ってましたが、それでもこれだけいれば十分だと思ったんです。だって、7人ですよ?でも実際に魔力を送ってみると、私達7人がギリギリまで魔力を注いでも、ウィッカー様の器は満たせなかったんです」
俺はあらためて、自分の前に膝をついている7人の黒魔法使いの顔を見た。
よく見るとみんな額に汗をかき、肩で息をしている。
笑っているけれど、かなりの魔力を俺に送って倒れる寸前なのは分かった。
「・・・みんな、ありがとう。そんなになるまで俺に・・・」
俺を生かすために、ここまで魔力を送ってくれるなんて・・・感謝を込めてお礼を口にする。
「そ、そんな頭を上げてください!」
「そうですよ、俺達ウィッカー様のお役に立てて光栄です」
「私達の事は気にしないでください」
「ウィッカー様、どうか皇帝を・・・みんなの仇を・・・」
ありがとう。
みんなのおかげで俺はまだ立つ事ができる。
「ウィッカー様・・・」
膝を着いて立ち上がろうとすると、7人の黒魔法使いの後ろから、ピンク色の髪の女の子が前に出て来た。
「・・・フローラ、みんなを連れて来てくれたんだってね。ありがとう」
この7人の黒魔法使いは、俺のためにフローラが集めてくれたと聞いた。
俺が助かったのは、フローラが動いてくれたからだ。
フローラにも感謝の言葉を伝える。
しかしフローラは俯いたままで、俺の声が聞こえているのかいないのか、すぐには反応を見せなかった。
どうしたんだ?と腰を上げてフローラに使づくと、フローラはゆっくりと顔を上げた。
その顔は涙で濡れてくしゃくしゃだった。いったいどれだけの涙を流したのだろう。
唇を噛みしめ赤くなった目で俺を見る。その小さな口から出たのは、か細いけれど強い気持ちの込められた言葉だった。
「ウィッカー様・・・・・お願いです」
強い意思を感じる眼差しだった。
「フローラ・・・」
俺はその眼差しも、フローラの涙も悲しみも、全て受け止めなければならない。
俺が今生きているのは、フローラの大切な人からもらった命なんだ。
「エロール君の・・・エロール君の繋いだ命を・・・・・大事に、して、ください・・・・・」
憎しみも怒りも口にしない。ただ命を大切にしてほしい。
フローラの想いは、恋人が護った命を大切にしてほしい。ただそれだけだった。
俺の命は、もう俺だけのものじゃない。
散っていった仲間達、護るべき大切な人、俺は生きなければならない。
「ああ、もちろんだ。約束するよ、フローラ。この命、大切にすると・・・」
0
あなたにおすすめの小説
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
俺! 神獣達のママ(♂)なんです!
青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。
世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。
王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。
その犯人は5体の神獣。
そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。
一件落着かと思えたこの事件。
だが、そんな中、叫ぶ男が1人。
「ふざけんなぁぁぁあ!!」
王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。
神獣達のママ(男)であった……。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる