異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
1,139 / 1,560

1138 変貌した男

しおりを挟む
「ハァッ・・・ハァッ・・・・・」

肩で大きく息を吐きながら、レイチェル・エリオットは、目の前で頭を垂れて泣き叫ぶ男を見下ろしていた。



あの時・・・あの黒い球が爆発した瞬間、アラタとアゲハが力を振り絞って爆発を防いでくれた。

凄まじい大爆発だった。上級魔法の光源爆裂弾を、はるかに超えていただろう。
アラタの光、アゲハの風、この二つの力を合わせて防御に全力を尽くさなければ、防ぎ切れなかっただろう。

私とリカルドは、爆風が僅かに弱まってきたところで、黒煙を突き破って突撃をかけた。
あの黒い球は危険だ。まだ軍隊の方では爆発は起きていないが、あっちであれを使われたら、とても犠牲者ゼロとはいかないだろう。

こんな危険な魔道具の使い手を逃がすわけにはいかない。おそらく敵は幹部クラスのはずだ。
絶対にここで仕留めてみせる。その決意でここまで走り抜けたんだ。



そして対峙してみて、やはり私の予想は正しかったと知った。

浅黒い肌。濃い茶色の髪を小分けの毛束にして、細かく三つ編みにしている。
初めて見る顔だが、深紅の鎧を身につけている以上、この男が帝国軍であるのは間違いない。
そして深紅の装備は幹部クラスの証だ。

ケイトのサーチで捉えた人数は二人、そしてたった今一人を仕留めたのだから、残りはこの男一人で数も相違ない。


「ハァッ・・・ハァッ・・・貴様ら、だな・・・・・死ね」


たった今私が喉を切り裂いた男とコイツ、どうやらこの二人は親しい間柄のようだ。
大切な人を失って悲しいのは理解できる。
だが敵を目の前にして、泣き叫んだまま無防備に首を晒している。これでは戦士として失格だ。

・・・まぁ、私が気にする事ではない。この男の戦士としての素質などどうでもいい事だ。
今やるべき事は、帝国の刺客であるこの男をさっさと始末して、クインズベリー軍を立て直す事だ。


余計な会話など必要ない。一思いに殺してやる。

右手に握る肉厚のダガーナイフを頭の上に掲げ、男の無防備な首に振り下ろした。






「あぐッ!」

泣き崩れてる男の首にナイフの刃が触れようとしたその時、突然レイチェルの左の脇腹に鋭い痛みが走った。

「ぐッ・・・な、なに!?」

あまりに強い痛みに振り下ろした右腕が止まる。そして視線を向けた先、自分の左脇腹には氷の槍が突き刺さっていた。


なんだと・・・こ、これは氷の黒魔法の刺氷弾か?いったいなぜ突然、刺氷弾が私に刺さっている!?


状況の理解ができず、茫然と自分の脇腹に突き刺さっている氷の槍に目を向けていると、強い痛みが脇腹から全身を駆け巡り、立っている事ができずナイフを落として片膝を着いた。

「ぐっ!うぐ・・・・・」

ど、どこからだ!?今、私の目の前には、深紅の鎧を身につけ泣き崩れているこの男しかいない。
そしてこの男は体力型だ、魔法は使えない。ではいったい誰がコレを・・・・・ッ!?


「なっ!?ま、まさか、こ、こいつ・・・!」

まず予想できるものではない。だが現実としてレイチェルは脇腹を刺されてしまった。

激痛に歯を食いしばり耐えるレイチェルの目は、今しがた首を斬り裂き殺したはずのサンティアゴを見据えていた。

なぜならサンティアゴの右手の平が、レイチェルに向けられていたからだ。





友の亡骸を前に泣き崩れるアダメスだったが、今目の前で起きた出来事は、流れ出る涙が一瞬で止まる程に衝撃的だった。

「サ、サンティアゴ・・・・・お、お前・・・・・・・」

サンティアゴは確かに、アダメスの腕の中で息絶えている。
だが死んだはずのサンティアゴの右手はレイチェルに向けられており、その手の平からは魔力を放出した残り香があった。

死んだはずのサンティアゴが、アダメスのために魔法を使ったのだ。




「ぐぅ・・・そ、そこまでの、絆、か・・・」

歯を食いしばりながら、レイチェルはサンティアゴを睨みつけていた。
すでに事切れているが、自分に向けて右手の平を向けている事は、死してもアダメスを護るという強い執念が感じられる。

人の想いは死しても残り、時として奇跡さえも起こす。

それが事実としてある事は、レイチェルも十分に承知している事であった。

アラタがマルコス・ゴンザレスに殺された時、カチュアの命の石によって息を吹き返した事。
師ウィッカーが200年前に当時の皇帝と戦った時は、死したはずのジャニスのヒールによって助けられたという話しも聞いている。

しかしそれらは頭で理解していた事であり、自分で身をもって味わう事は初めてだった。


「ぐっ、はぁ・・・ふぅ・・・・・ハァァァッ!」

レイチェルは左脇腹に刺さっている氷の槍の、右手で掴むと一気に引き抜いた。

「う、ぐぁぁッ・・・・・・ッ!」

激痛のあまり倒れ込みそうになるが、気力で踏みとどまった。

そして痛む脇腹を左手で押さえながら、再び視線を前に戻すと、たった今まで膝を着いて泣き叫んでいたはずの男が立ち上がり、レイチェルを見下ろしていたのだった。




「・・・サンティアゴ、お前の仇は討つ・・・・・クインズベリー、俺達の強さを見せてやる」

そこに立っていたのは、ほんの少し前まで友の死に涙を流し、声を枯らしていた男ではなかった。

全身から滲み出る気はレイチェルを圧倒し、男を二倍にも三倍にも大きく見せる。
そして別人かと思う程に顔つきが変わっていた。
あれほどぐしゃぐしゃに泣きわめいていたのに、今は強い復讐心と殺意に満ちた目で、レイチェルを見下ろし睨みつけていた。



・・・ほんの一分足らずで・・・これほどまでに変わるものなのか?


深紅の鎧を身に纏った男、アダメスのあまりの変貌ぶりに、レイチェルは地面に片膝をついたまま、わずかな時間だが注意を奪われてしまった。

そしてそのわずかな時間は、アダメスに攻撃を許すには十分過ぎる時間だった。


「ボサっとしてんじゃねぇぞォォォォォーーーーーーーッツ!」

怒声と共にアダメスの右の蹴りが、レイチェルの腹に突き刺さる!

「ガァッ・・・・!」

完全にふいを突かれた一撃だった。

ボールでも蹴り飛ばすかのように前方に振り上げた足は、レイチェルの腹に深々とめり込んだ。
そしてアダメスがそのまま右足を空に向かって蹴り抜くと、レイチェルの体も宙を舞って後方へと飛ばされた。

氷の槍で左脇腹を刺された上に、腹部に容赦なく突き刺さった蹴りは、耐え難い程の激痛となってレイチェルを襲った。


普段のレイチェルであれば、戦闘中に敵に注意を奪われる事などない。

だが戦闘中に目の前で泣きわめかれた事、殺したはずの敵が魔法を使った事、そしてその魔法は自分の脇腹に突き刺さり、一瞬前まで泣きわめいていた敵が別人のように豹変した事。

痛みと困惑と驚きが続き、思考が乱れてしまっていた。



「う、ぐぅっ!」

レイチェルは受け身を取ろうとしたが、刺された脇腹が強く痛み、体勢を整える事ができずに背中から地面に落下した。

「ぐっ、うぅ・・・」

落下の衝撃で脇腹の傷がさらに強く痛み、レイチェルは体を起こそうにも、腕に力を入れる事さえできなくなっていた。


「ぐぅ・・・くそ!」


油断した・・・可能性の一つとして頭に入れておけば、あそこで刺氷弾をくらう事はなかったはずだ。
注意を怠った結果が、このざまだ・・・・・


不注意から致命的なダメージを負ってしまった事に、レイチェルは歯噛みした。
そしてかろうじて肘をついて顔を上げると、憎悪に顔を歪め、拳を振り上げて襲い掛かってくるアダメスが目に映った。


「く、くそっ!」

力の入らない足で、ふらつきながらも無理やり体を起こそうとするが、アダメスの方が速かった。

「サンティアゴのカタキィィィィーーーーーーーーーーーッツ!」

振りかぶった復讐の右の拳を、いまだ体を起こせていないレイチェルの頭に向かって振り下ろしたその時・・・レイチェルの耳の脇を風を切る音が通った。

それは一本の鉄の矢だった。
そして鉄の矢は、今まさにレイチェルの頭を叩き潰そうとした、アダメスの右の拳に突き刺さった!


「なッ!?ぐ、ぐぉぉぉッ・・・だ、誰だ!?」


矢の突き刺さった右拳を左手で押さえながら、アダメスは一歩後ろに飛び退いた。


「ふぅ~・・・お前いきなり何それ?変わり過ぎだから。なんか危ねぇ薬でもやってんのかよ?」

レイチェルから離れる事十数メートル後方、爆風でなぎ倒された樹々を隠れ蓑にしていたリカルドが、弓矢を構えて立ち上がり姿を見せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...