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1138 変貌した男
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「ハァッ・・・ハァッ・・・・・」
肩で大きく息を吐きながら、レイチェル・エリオットは、目の前で頭を垂れて泣き叫ぶ男を見下ろしていた。
あの時・・・あの黒い球が爆発した瞬間、アラタとアゲハが力を振り絞って爆発を防いでくれた。
凄まじい大爆発だった。上級魔法の光源爆裂弾を、はるかに超えていただろう。
アラタの光、アゲハの風、この二つの力を合わせて防御に全力を尽くさなければ、防ぎ切れなかっただろう。
私とリカルドは、爆風が僅かに弱まってきたところで、黒煙を突き破って突撃をかけた。
あの黒い球は危険だ。まだ軍隊の方では爆発は起きていないが、あっちであれを使われたら、とても犠牲者ゼロとはいかないだろう。
こんな危険な魔道具の使い手を逃がすわけにはいかない。おそらく敵は幹部クラスのはずだ。
絶対にここで仕留めてみせる。その決意でここまで走り抜けたんだ。
そして対峙してみて、やはり私の予想は正しかったと知った。
浅黒い肌。濃い茶色の髪を小分けの毛束にして、細かく三つ編みにしている。
初めて見る顔だが、深紅の鎧を身につけている以上、この男が帝国軍であるのは間違いない。
そして深紅の装備は幹部クラスの証だ。
ケイトのサーチで捉えた人数は二人、そしてたった今一人を仕留めたのだから、残りはこの男一人で数も相違ない。
「ハァッ・・・ハァッ・・・貴様ら、だな・・・・・死ね」
たった今私が喉を切り裂いた男とコイツ、どうやらこの二人は親しい間柄のようだ。
大切な人を失って悲しいのは理解できる。
だが敵を目の前にして、泣き叫んだまま無防備に首を晒している。これでは戦士として失格だ。
・・・まぁ、私が気にする事ではない。この男の戦士としての素質などどうでもいい事だ。
今やるべき事は、帝国の刺客であるこの男をさっさと始末して、クインズベリー軍を立て直す事だ。
余計な会話など必要ない。一思いに殺してやる。
右手に握る肉厚のダガーナイフを頭の上に掲げ、男の無防備な首に振り下ろした。
「あぐッ!」
泣き崩れてる男の首にナイフの刃が触れようとしたその時、突然レイチェルの左の脇腹に鋭い痛みが走った。
「ぐッ・・・な、なに!?」
あまりに強い痛みに振り下ろした右腕が止まる。そして視線を向けた先、自分の左脇腹には氷の槍が突き刺さっていた。
なんだと・・・こ、これは氷の黒魔法の刺氷弾か?いったいなぜ突然、刺氷弾が私に刺さっている!?
状況の理解ができず、茫然と自分の脇腹に突き刺さっている氷の槍に目を向けていると、強い痛みが脇腹から全身を駆け巡り、立っている事ができずナイフを落として片膝を着いた。
「ぐっ!うぐ・・・・・」
ど、どこからだ!?今、私の目の前には、深紅の鎧を身につけ泣き崩れているこの男しかいない。
そしてこの男は体力型だ、魔法は使えない。ではいったい誰がコレを・・・・・ッ!?
「なっ!?ま、まさか、こ、こいつ・・・!」
まず予想できるものではない。だが現実としてレイチェルは脇腹を刺されてしまった。
激痛に歯を食いしばり耐えるレイチェルの目は、今しがた首を斬り裂き殺したはずのサンティアゴを見据えていた。
なぜならサンティアゴの右手の平が、レイチェルに向けられていたからだ。
友の亡骸を前に泣き崩れるアダメスだったが、今目の前で起きた出来事は、流れ出る涙が一瞬で止まる程に衝撃的だった。
「サ、サンティアゴ・・・・・お、お前・・・・・・・」
サンティアゴは確かに、アダメスの腕の中で息絶えている。
だが死んだはずのサンティアゴの右手はレイチェルに向けられており、その手の平からは魔力を放出した残り香があった。
死んだはずのサンティアゴが、アダメスのために魔法を使ったのだ。
「ぐぅ・・・そ、そこまでの、絆、か・・・」
歯を食いしばりながら、レイチェルはサンティアゴを睨みつけていた。
すでに事切れているが、自分に向けて右手の平を向けている事は、死してもアダメスを護るという強い執念が感じられる。
人の想いは死しても残り、時として奇跡さえも起こす。
それが事実としてある事は、レイチェルも十分に承知している事であった。
アラタがマルコス・ゴンザレスに殺された時、カチュアの命の石によって息を吹き返した事。
師ウィッカーが200年前に当時の皇帝と戦った時は、死したはずのジャニスのヒールによって助けられたという話しも聞いている。
しかしそれらは頭で理解していた事であり、自分で身をもって味わう事は初めてだった。
「ぐっ、はぁ・・・ふぅ・・・・・ハァァァッ!」
レイチェルは左脇腹に刺さっている氷の槍の、右手で掴むと一気に引き抜いた。
「う、ぐぁぁッ・・・・・・ッ!」
激痛のあまり倒れ込みそうになるが、気力で踏みとどまった。
そして痛む脇腹を左手で押さえながら、再び視線を前に戻すと、たった今まで膝を着いて泣き叫んでいたはずの男が立ち上がり、レイチェルを見下ろしていたのだった。
「・・・サンティアゴ、お前の仇は討つ・・・・・クインズベリー、俺達の強さを見せてやる」
そこに立っていたのは、ほんの少し前まで友の死に涙を流し、声を枯らしていた男ではなかった。
全身から滲み出る気はレイチェルを圧倒し、男を二倍にも三倍にも大きく見せる。
そして別人かと思う程に顔つきが変わっていた。
あれほどぐしゃぐしゃに泣きわめいていたのに、今は強い復讐心と殺意に満ちた目で、レイチェルを見下ろし睨みつけていた。
・・・ほんの一分足らずで・・・これほどまでに変わるものなのか?
深紅の鎧を身に纏った男、アダメスのあまりの変貌ぶりに、レイチェルは地面に片膝をついたまま、わずかな時間だが注意を奪われてしまった。
そしてそのわずかな時間は、アダメスに攻撃を許すには十分過ぎる時間だった。
「ボサっとしてんじゃねぇぞォォォォォーーーーーーーッツ!」
怒声と共にアダメスの右の蹴りが、レイチェルの腹に突き刺さる!
「ガァッ・・・・!」
完全にふいを突かれた一撃だった。
ボールでも蹴り飛ばすかのように前方に振り上げた足は、レイチェルの腹に深々とめり込んだ。
そしてアダメスがそのまま右足を空に向かって蹴り抜くと、レイチェルの体も宙を舞って後方へと飛ばされた。
氷の槍で左脇腹を刺された上に、腹部に容赦なく突き刺さった蹴りは、耐え難い程の激痛となってレイチェルを襲った。
普段のレイチェルであれば、戦闘中に敵に注意を奪われる事などない。
だが戦闘中に目の前で泣きわめかれた事、殺したはずの敵が魔法を使った事、そしてその魔法は自分の脇腹に突き刺さり、一瞬前まで泣きわめいていた敵が別人のように豹変した事。
痛みと困惑と驚きが続き、思考が乱れてしまっていた。
「う、ぐぅっ!」
レイチェルは受け身を取ろうとしたが、刺された脇腹が強く痛み、体勢を整える事ができずに背中から地面に落下した。
「ぐっ、うぅ・・・」
落下の衝撃で脇腹の傷がさらに強く痛み、レイチェルは体を起こそうにも、腕に力を入れる事さえできなくなっていた。
「ぐぅ・・・くそ!」
油断した・・・可能性の一つとして頭に入れておけば、あそこで刺氷弾をくらう事はなかったはずだ。
注意を怠った結果が、このざまだ・・・・・
不注意から致命的なダメージを負ってしまった事に、レイチェルは歯噛みした。
そしてかろうじて肘をついて顔を上げると、憎悪に顔を歪め、拳を振り上げて襲い掛かってくるアダメスが目に映った。
「く、くそっ!」
力の入らない足で、ふらつきながらも無理やり体を起こそうとするが、アダメスの方が速かった。
「サンティアゴのカタキィィィィーーーーーーーーーーーッツ!」
振りかぶった復讐の右の拳を、いまだ体を起こせていないレイチェルの頭に向かって振り下ろしたその時・・・レイチェルの耳の脇を風を切る音が通った。
それは一本の鉄の矢だった。
そして鉄の矢は、今まさにレイチェルの頭を叩き潰そうとした、アダメスの右の拳に突き刺さった!
「なッ!?ぐ、ぐぉぉぉッ・・・だ、誰だ!?」
矢の突き刺さった右拳を左手で押さえながら、アダメスは一歩後ろに飛び退いた。
「ふぅ~・・・お前いきなり何それ?変わり過ぎだから。なんか危ねぇ薬でもやってんのかよ?」
レイチェルから離れる事十数メートル後方、爆風でなぎ倒された樹々を隠れ蓑にしていたリカルドが、弓矢を構えて立ち上がり姿を見せた。
肩で大きく息を吐きながら、レイチェル・エリオットは、目の前で頭を垂れて泣き叫ぶ男を見下ろしていた。
あの時・・・あの黒い球が爆発した瞬間、アラタとアゲハが力を振り絞って爆発を防いでくれた。
凄まじい大爆発だった。上級魔法の光源爆裂弾を、はるかに超えていただろう。
アラタの光、アゲハの風、この二つの力を合わせて防御に全力を尽くさなければ、防ぎ切れなかっただろう。
私とリカルドは、爆風が僅かに弱まってきたところで、黒煙を突き破って突撃をかけた。
あの黒い球は危険だ。まだ軍隊の方では爆発は起きていないが、あっちであれを使われたら、とても犠牲者ゼロとはいかないだろう。
こんな危険な魔道具の使い手を逃がすわけにはいかない。おそらく敵は幹部クラスのはずだ。
絶対にここで仕留めてみせる。その決意でここまで走り抜けたんだ。
そして対峙してみて、やはり私の予想は正しかったと知った。
浅黒い肌。濃い茶色の髪を小分けの毛束にして、細かく三つ編みにしている。
初めて見る顔だが、深紅の鎧を身につけている以上、この男が帝国軍であるのは間違いない。
そして深紅の装備は幹部クラスの証だ。
ケイトのサーチで捉えた人数は二人、そしてたった今一人を仕留めたのだから、残りはこの男一人で数も相違ない。
「ハァッ・・・ハァッ・・・貴様ら、だな・・・・・死ね」
たった今私が喉を切り裂いた男とコイツ、どうやらこの二人は親しい間柄のようだ。
大切な人を失って悲しいのは理解できる。
だが敵を目の前にして、泣き叫んだまま無防備に首を晒している。これでは戦士として失格だ。
・・・まぁ、私が気にする事ではない。この男の戦士としての素質などどうでもいい事だ。
今やるべき事は、帝国の刺客であるこの男をさっさと始末して、クインズベリー軍を立て直す事だ。
余計な会話など必要ない。一思いに殺してやる。
右手に握る肉厚のダガーナイフを頭の上に掲げ、男の無防備な首に振り下ろした。
「あぐッ!」
泣き崩れてる男の首にナイフの刃が触れようとしたその時、突然レイチェルの左の脇腹に鋭い痛みが走った。
「ぐッ・・・な、なに!?」
あまりに強い痛みに振り下ろした右腕が止まる。そして視線を向けた先、自分の左脇腹には氷の槍が突き刺さっていた。
なんだと・・・こ、これは氷の黒魔法の刺氷弾か?いったいなぜ突然、刺氷弾が私に刺さっている!?
状況の理解ができず、茫然と自分の脇腹に突き刺さっている氷の槍に目を向けていると、強い痛みが脇腹から全身を駆け巡り、立っている事ができずナイフを落として片膝を着いた。
「ぐっ!うぐ・・・・・」
ど、どこからだ!?今、私の目の前には、深紅の鎧を身につけ泣き崩れているこの男しかいない。
そしてこの男は体力型だ、魔法は使えない。ではいったい誰がコレを・・・・・ッ!?
「なっ!?ま、まさか、こ、こいつ・・・!」
まず予想できるものではない。だが現実としてレイチェルは脇腹を刺されてしまった。
激痛に歯を食いしばり耐えるレイチェルの目は、今しがた首を斬り裂き殺したはずのサンティアゴを見据えていた。
なぜならサンティアゴの右手の平が、レイチェルに向けられていたからだ。
友の亡骸を前に泣き崩れるアダメスだったが、今目の前で起きた出来事は、流れ出る涙が一瞬で止まる程に衝撃的だった。
「サ、サンティアゴ・・・・・お、お前・・・・・・・」
サンティアゴは確かに、アダメスの腕の中で息絶えている。
だが死んだはずのサンティアゴの右手はレイチェルに向けられており、その手の平からは魔力を放出した残り香があった。
死んだはずのサンティアゴが、アダメスのために魔法を使ったのだ。
「ぐぅ・・・そ、そこまでの、絆、か・・・」
歯を食いしばりながら、レイチェルはサンティアゴを睨みつけていた。
すでに事切れているが、自分に向けて右手の平を向けている事は、死してもアダメスを護るという強い執念が感じられる。
人の想いは死しても残り、時として奇跡さえも起こす。
それが事実としてある事は、レイチェルも十分に承知している事であった。
アラタがマルコス・ゴンザレスに殺された時、カチュアの命の石によって息を吹き返した事。
師ウィッカーが200年前に当時の皇帝と戦った時は、死したはずのジャニスのヒールによって助けられたという話しも聞いている。
しかしそれらは頭で理解していた事であり、自分で身をもって味わう事は初めてだった。
「ぐっ、はぁ・・・ふぅ・・・・・ハァァァッ!」
レイチェルは左脇腹に刺さっている氷の槍の、右手で掴むと一気に引き抜いた。
「う、ぐぁぁッ・・・・・・ッ!」
激痛のあまり倒れ込みそうになるが、気力で踏みとどまった。
そして痛む脇腹を左手で押さえながら、再び視線を前に戻すと、たった今まで膝を着いて泣き叫んでいたはずの男が立ち上がり、レイチェルを見下ろしていたのだった。
「・・・サンティアゴ、お前の仇は討つ・・・・・クインズベリー、俺達の強さを見せてやる」
そこに立っていたのは、ほんの少し前まで友の死に涙を流し、声を枯らしていた男ではなかった。
全身から滲み出る気はレイチェルを圧倒し、男を二倍にも三倍にも大きく見せる。
そして別人かと思う程に顔つきが変わっていた。
あれほどぐしゃぐしゃに泣きわめいていたのに、今は強い復讐心と殺意に満ちた目で、レイチェルを見下ろし睨みつけていた。
・・・ほんの一分足らずで・・・これほどまでに変わるものなのか?
深紅の鎧を身に纏った男、アダメスのあまりの変貌ぶりに、レイチェルは地面に片膝をついたまま、わずかな時間だが注意を奪われてしまった。
そしてそのわずかな時間は、アダメスに攻撃を許すには十分過ぎる時間だった。
「ボサっとしてんじゃねぇぞォォォォォーーーーーーーッツ!」
怒声と共にアダメスの右の蹴りが、レイチェルの腹に突き刺さる!
「ガァッ・・・・!」
完全にふいを突かれた一撃だった。
ボールでも蹴り飛ばすかのように前方に振り上げた足は、レイチェルの腹に深々とめり込んだ。
そしてアダメスがそのまま右足を空に向かって蹴り抜くと、レイチェルの体も宙を舞って後方へと飛ばされた。
氷の槍で左脇腹を刺された上に、腹部に容赦なく突き刺さった蹴りは、耐え難い程の激痛となってレイチェルを襲った。
普段のレイチェルであれば、戦闘中に敵に注意を奪われる事などない。
だが戦闘中に目の前で泣きわめかれた事、殺したはずの敵が魔法を使った事、そしてその魔法は自分の脇腹に突き刺さり、一瞬前まで泣きわめいていた敵が別人のように豹変した事。
痛みと困惑と驚きが続き、思考が乱れてしまっていた。
「う、ぐぅっ!」
レイチェルは受け身を取ろうとしたが、刺された脇腹が強く痛み、体勢を整える事ができずに背中から地面に落下した。
「ぐっ、うぅ・・・」
落下の衝撃で脇腹の傷がさらに強く痛み、レイチェルは体を起こそうにも、腕に力を入れる事さえできなくなっていた。
「ぐぅ・・・くそ!」
油断した・・・可能性の一つとして頭に入れておけば、あそこで刺氷弾をくらう事はなかったはずだ。
注意を怠った結果が、このざまだ・・・・・
不注意から致命的なダメージを負ってしまった事に、レイチェルは歯噛みした。
そしてかろうじて肘をついて顔を上げると、憎悪に顔を歪め、拳を振り上げて襲い掛かってくるアダメスが目に映った。
「く、くそっ!」
力の入らない足で、ふらつきながらも無理やり体を起こそうとするが、アダメスの方が速かった。
「サンティアゴのカタキィィィィーーーーーーーーーーーッツ!」
振りかぶった復讐の右の拳を、いまだ体を起こせていないレイチェルの頭に向かって振り下ろしたその時・・・レイチェルの耳の脇を風を切る音が通った。
それは一本の鉄の矢だった。
そして鉄の矢は、今まさにレイチェルの頭を叩き潰そうとした、アダメスの右の拳に突き刺さった!
「なッ!?ぐ、ぐぉぉぉッ・・・だ、誰だ!?」
矢の突き刺さった右拳を左手で押さえながら、アダメスは一歩後ろに飛び退いた。
「ふぅ~・・・お前いきなり何それ?変わり過ぎだから。なんか危ねぇ薬でもやってんのかよ?」
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