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掃除編-3章:大掃除、スタート!

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また例の「風水」の話ですか…。おそらく、彼は相当このような話を好んでいるに違いない。彩響からすると、目に見えないものや、科学で証明できないものは信用できない主義ではあるが…。雑巾で引き続き洗面台の鏡を拭こうとすると、成が彩響を止めた。


「ちょっと待って。鏡を拭くときは必ず言わなきゃいけない言葉があるんだ」

「…なんの言葉?」


すると成が後ろから腰に片手を回して、片手はタオルを握った自分の手の上に重ねる。慌てて振り向くと、彼が言った。


「ほら、俺じゃなく鏡の中の自分を見なよ」

「…あの…これもなんかあなたが言う「大掃除」の過程の一つなの?」

「そう、だから前を見て」


渋々言われた通り鏡を見るけど、どうしても後に密着している背の高い男性が気になり、キョロキョロ見てしまう。鏡に写った成がにっこりして話を続けた。


「じゃあ、これから鏡を見て、こう言うんだ。『私は美しい』」

「…はい?なんの羞恥プレイ?」


なにを言い出すのかと言えば…彩響が呆れた顔で鏡を見る。さっきから、いや元々からおかしい行動ばかりだが…。ここまでバカバカしいことを言われるといい加減呆れてくる。しかし成はとても真剣な顔で、逆に質問してきた。


「なにがおかしい?だってあんた、「私は美しい」っていつも言ってるだろ?」

「誰がいつ、そんなことを言ったの?」

「もちろん声を出して言ってはないけど、定期的に美容室も行くし、エステにも通っているだろ?そういう行為が全部「私は美しい」「もっと美しくなりたい」と言ってるのと同じじゃない?」

「それは、社会生活するには、ある程度の身だしなみを整えるのは必要不可欠なので…」

「いくら高いお金払って美容室とか通っても、根本的に自分自身が本気で「私は美しい」と思わないと、そうはならない。これを言ったところで、今すぐ何が起こるわけじゃないかもしれないけど、徐々に綺麗になれる。本当に自分自身がそうだと思うようになる。とても効果的で、いい魔法だよ」


風水の次は魔法?バカバカしいけど、実際「美しくなりたい」と思って美容室もエステも通っているのは事実だ。人間なら誰でも可愛くなりたいとか、ハンサムな顔になりたいとか思って当然だし、身だしなみに投資するのを勿体無いと思ったことはないが…。難しい顔をする彩響の後で再び成が口を開ける。

「そして、この魔法にはもう一つの長所がある」

「…?」
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