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掃除編-3章:大掃除、スタート!

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「幼い頃って、どれくらい?」

「さあ…小学生から中学生くらいかな」

「その後は?何かあったの?」

「まあ、人生色々あるでしょう。人間誰しも成長と共に現実的になる訳だし、私もそうなっただけ」

「あのさ…なんで作家になることが非現実的な話になるんだ?実際いるだろ、小説家とか脚本家とか」

「それは才能を持っている数人だけ。私にはそこまで才能がなかっただけの話よ」


成はやはり納得のいかない顔をする。ああ、まだ20代の若い青年だからこんな前向きになれるのかしら。ますます苦々しくなる。


「母に言われたの。もう夢見る年でもないから、いい加減現実的になりなさいって。医者とか弁護士とか、それぐらい立派な職を持てないくらいなら、会社に入って毎月給料もらって安定するのが一番だって」

「そう思う人も世の中にはいるだろう。でも、それ母親が小中の娘に言うセリフか?誰もがこんなアイデアノート作れるわけでもないのに、こんなものを作った時点でもうある程度の才能はあるはずなのに。支えるどころか、最初から夢見る余地さえ与えないなんて、ひどい母親だ」


ー「夢は明日のお米の心配しなくてもいい、そういう連中が気楽にやるものなの!」


成の言葉に、ふと母が言っていた言葉を思い出す。そう、こいつもきっと明日のお米を心配しなくていいやつだったんだろう。正直、羨ましいと思う。気楽に夢とか言えるのもそうだけど、なにより、こんなにも明るく誰にも接することができるその性格が…。


「いくら生活が厳しくても、辛くても、それを子供に八つ当たりして、「現実を見ろ」と言う母親なんて、最低。大丈夫、もう母親のことを気にする年でもないし、その分、俺があんたを支えてあげる」


成が自分の手を出した。最初意味が分からずジロジロ見ていると、成がノートを指で指した。

「そのノート、俺にくれ」

「…なんで?」

「いいから」


渋々ノートを渡すと、今度は机においてあった太いマジックペンを手に取った。軽くページを捲り、成がノートを両手で丁寧に持った。


「人間は宝石とか、金とかを宝物と呼ぶけど、そんなものは本当の宝物ではない。幼いあんたが考えていた、この世でたった一つの夢…これこそが本当の宝物だ」


そう言って、成が何かをノートの表紙に書き出した。一文字ずつ力を込め、丁寧に書き込む。書き終わった後、彼がノートを又差し出した。
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