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プロローグ

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「お前、マジで女なの?」


同居を開始して2週間。いつものようにソファーでハードな一日の疲れを癒やしていたところ、突然飛んできた婚約者の言葉でぱっと目が覚めた。


「じゃあ今まであなたは男と寝ていたの?」

「いや、だってさ…見ろよ、この部屋。やばくない?豚でもお前よりはマシだと思うぜ。マジでお前、女としての自覚あるの?」


そう言われてやっと周りの状況が目に入った。各所に放置されている服の山や、足元にあっちこっち転がっている書類。キッチンにはもういつ開封したのかもとっくに忘れてしまったカップ麺の容器やペットボトル。確かに、せっかくの広い2LDKマンションでもったいないことをしているとは思う。しかしそれ以前に、婚約者の態度がどうしても気に入らない。


「あなたもここに住んでいるでしょ?なんで家事をしないの?」

「はあ?俺、男だぞ?まさかお前、男の俺に掃除とか料理とか全部させるつもり?」

「全部とは言ってないでしょう。でも共働きだから、少しぐらい手伝ってくれてもいいじゃない」

「おいおい、勘弁してよ。俺、家事をするためお前と結婚するわけじゃねーんだよ。他の家ではどんなに忙しくても妻が夜ご飯作って旦那をお迎えするんだぞ?お前が仕事したいって言うから譲ってあげたんだ、掃除くらいしろよ。俺は今日も仕事で疲れてるんだ」


婚約者はそう言って、冷蔵庫のドアを開ける。そしてまた一言を言った。


「おい、ビールは切らさず買っておけって言っただろ!…たく、これだから女子力のかけらもない女は辞めておけばよかった」

「…じゃあもう辞めれば?」

「はあ?」


彼の部屋に入り、押し入れの中の洋服を全部持って来た。それをそのままその面に投げつけ、大声で叫ぶ。今までたまっていた分まで、全部込めて。

「お前なんかこっちからゴメンだ!この家から出て行け、このクソ男!!」



―峯野みねの彩響さいき, 27歳、男性雑誌社の主任として努めている女性。

この日は再び彼女が「独身キャリアウーマン」に復帰する日となった。
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