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プロローグ

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「そう!私も以前頼んだことあるけど、すごくいいのよ!仕事はもちろんだし、料金もそこまで高くない。そしてなにより…来てくれるスタッフが皆イケメンなの!」


確かに、画面にはそれぞれタイプの違う皆美形の男性達が揃っていた。


「まあ、イケメンではあるけど…ってスタッフ全員男なの?」

「そう、そこがいいのよ!力強い男に人がやってくれるから更に安心、的な?」

「いや、でもホストクラブじゃあるまいし…怪しくない?」

「大丈夫だって!最初はさ、こういうのもあるんだよ?」



「プロの家事、掃除を体験するチャンス!

4週間の初回お試し

週1回×4(週)、1名ずつ、貴方のお好きな日に伺います!

4名の優秀なスタッフがご対応致します」


なかなか申し込みのボタンを押せず、彩響は画面をじっと見つめた。男の家政婦、いや家政夫なんて聞いたこともない。戸惑う彼女に理央が言った。


「あんただって、男向けの雑誌の主任やっているわけでしょ?だからこそ、こういうのも偏見持たずに積極的に試してみるべきじゃない?」


理央の言葉を否定するわけではないが、どうしても元彼の姿が思い浮かぶ。自分の父を含め、今まで家事をやる男なんて見たことがない。テレビドラマは夢の世界だから、それは現実とは違う。


「まあ、ちょっと考えてみるよ」

「うん、ぜひ!きっと後悔しないからね」





理央と別れ、彩響は暗い道を歩いてマンションへ戻った。当たり前な話だけど、家は相変わらず汚いまま。玄関から散らかっているゴミに触れないようにリビングまで来て、そのまま電気もつけずソファーの上に倒れる。元彼が出ていったその日から、この家はもっともっと状態が悪化していた。


「…知ってるよ。このままじゃいけないってことは」


15歳から各種アルバイトを始め、この瞬間まで稼き続けた。自分にはのんびり家事をやっている暇なんかない。男だらけの会社で生存するには、他の男の10倍以上の努力が必要だ。その事実に早く気がついて、目が覚めたら会社、家に帰ってきたらそのまま死んだように寝る日々を繰り返してきた。

しかし、認めたくなくても…今自分の家は自分の状況そのままを表している。いつも疲れて、特にやる気もなく、ただただマンションのローンを返すため必死で稼いでいる独身女性。

もし自分が男だったら――

仕事を頑張っている普通のサラリーマンとして、帰宅して、なにもしなくても、攻められたりしなかっただろうか。料理とか洗濯とかしなくても普通に結婚して、奥さんが作ってくれる料理を食べて、子供が生まれても理央みたいにキャリアが終わる心配もなく、こんなにも「女」としての役名をうんぬん言われなくても普通にいられる…。


(今何時だろう。そろそろ明日の準備しないと…)
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