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プロローグ

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―「どう、イケメンだったでしょう?」


電話越しの理央の発言にただ笑ってしまう。彩響はクールに答えた。



「理央、普通そこは『仕事はうまかった?』と聞くべきじゃないの?」

「えーだって、せっかくならイケメンの人が家事やってくれるとうれしいじゃん」

「まあ、それはそうかもけど…とにかく、引き続き頼もうと思うの」

「あれ、あれだけ『男が家事なんかできるの?』とか言ってたのに、よほど気に入ったんだね。気に入ったのは顔?体格?そ、れ、と、も…?」

「やめなさい」


愉快な親友はいつも意地悪だけど、聞いていると結構楽しくなる。彩響は信号が青になったのを確認し、横断歩道を渡る。スマホからはテンションの高い声が引き続き聞こえる。


「私もたまにはお世話になりたいと思うの。あんたは継続契約とか、そういうことするの?」

「うん、私思ったよ。自分も男少ない場所で働いているのに、「男に家事なんか無理」とか、勝手に偏見持っちゃってたなーなんてね。で、改めて連絡したら社長という人から事務所に直接来るよう言われて、今向かってる途中」

「あ、そうか。じゃあ後でどれだけのイケメン選んだのか教えてね」

「はいはい、じゃまたね」


オフィス街から少し離れた、どこかのビル。階段を上ると、「株式会社Cinderella」という看板が見えた。チャイムを鳴らすと、中から誰かが出てきた。

「ハニー、ようこそ、Cinderellaへ」 

(ハ、「ハニー」?)

「Cinderellaの社長、Mr.Pinkミスターピンクです。お会いできて嬉しいよ」

出てきたのは50代くらいの中年男子だった。彼はとてもジェントルな振る舞いで、彩響を中へと案内する。会社の社長としては結構若い方…?と思う以前に、彩響は彼の服装を見てとても驚いてしまった。


(ピンクのコート…?なに、一種のユーモア?名前と服装合わせているの?なにこの会社、実は社長が一番変人だったの…?)


独特な雰囲気に圧倒され、彩響は出されたお茶の存在も忘れ、しばらくその場でぼうっとしていた。Mr.Pinkがにっこりと笑ってこっちを見てくる。


「ハニー、君が我が社の家政夫たちを気に入ってくれたようでとても嬉しいよ。どうだったのかな、彼らの仕事ぶりは」

「あ、はい…とても丁寧で、よかったです。皆多少は変わり者だとは思いましたが…」

「社長のあなたも相当な変わり者ですね」、とは言えず、彩響は言葉を飲み込んだ。Mr.Pinkは彩響の言葉がとても気に入ったように微笑んだ。
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