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洗濯の変態編3章:早速ですが、服を脱いでください

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ベッドの上には数枚のドレス、そしてその隣にはアクセサリーボックス。彩響は鏡の前で何度も自分の姿を確認した。今着ているドレスで正解なのか、もしかしたら会場では少し派手ではないのか。心配が溢れすぎて、もう1時間もこのセルフファッションショーから解放されずにいる。この日のため、わざわざネットのドレスレンタルサイトから数枚借りておいたのに、選択肢が多いせいで逆に混乱してしまう。結局彩響はリビングの方へ声をかけた。


「寛一さん、ちょっと来てもらえます?」


しばらくして、あの家政夫さんが扉と壁の間でちらっと顔を出した。今日も相変わらずのエプロン姿だ。


「お呼びでしょうか、彩響さん」

「寛一さんって、洋服詳しいよね?ちょっと見てもらえません?」

彩響の言葉に寛一さんがドアを開ける。しかしすぐ中へは入らず、ベッドの上に広がっているドレスをみて質問した。


「お出かけですか?」

「今日、有名な小説家の新作出版記念パーティが国帝ホテルであるの。私はそこでインタビューをする予定だけど…まずそのパーティに参加しなきゃいけないから、何を着て行けばいいのかなーって」
「なるほど。状況は把握しました。しかし俺より、ご自分の判断で十分かと思いますが…」

「人の意見が欲しいから聞いてるんです!それに寛一さんさん、センスあるんでしょ?洋服の」

実際自分が今まで見てきた彼の服装は、白いシャツに暗い色のジーンズのみではあるが…誰か別の人に意見を聞く余裕もないし、とりあえず聞くだけ聞ければいいと思った。

(洗濯に関してあれだけうるさい人だから、まあ他の人よりはましなはず)

「え…と」


褒められたことが少し恥ずかしかったのか、家政夫さんは軽く顎をこすった。そして部屋の中に入り、ベッドの上のコレクションを確認する。


「こちらのドレスはすべて俺が丁寧に手入れをしていますので、質としては問題ないかと思います。問題はイメージカラーですかね。お仕事で行かれるので、スマートで爽やかな印象を与えられる、こちらの青いやつはいかがでしょう」

(…洋服屋の店員さん?)

どこかで聞いたような説明に、彩響は何かに魅入られたように青いドレスを取った。確かに、言われた通りだと思う。スマートで爽やかな印象、うん、今日はそのコンセプトで行こう。

「ありがとうございます。じゃあこれにします」

「はい、良い選択かと思います」

「…」

「…」

「あの、着替えるので、出て行ってもらえますか?」

「こちらのドレスは背中に紐が多いので、一人では着替えづらいと思います。俺がお手伝いします」
「はい?いや、自分で出来ます」

「何を仰いますか、そのような大事な席に参加するであれば、なおさら身だしなみは大事です。完璧な格好で完璧な仕事をこなしてください」


今日の変態家政夫はなんか口数が多い。頑固なその態度に、彩響は妥協する道を選んだ。


「じゃ、せめて振り向いていてください。自分でできるところまではしますから」

「最初から俺がやったほうが…」

「あーもううるさい!さっさと後ろ向く!今すぐ!」


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