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海の底で、初めましてタツミさん
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最近、何度も不思議な夢を見ているからかな。大分この、心の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような感覚に慣れてきたみたいだ。
お陰で泣きながら目を覚ますこともなくなって、二人を心配させずにすんでいる。相変わらず夢の内容は少しも覚えていないけど。
おかしなことに、また同じ夢を見たなっていうことだけは覚えてるんだけどなぁ。
「ほらっ見て、サトルちゃん! 海の中に入ったよ!」
いけない、ちょっとぼーっとしてたみたいだ。今日は久々のお出かけなんだから、しっかりしないとな。
元気のいい声に促されて窓の方へと顔を向けると、赤い手が窓の近くにある紐を引っ張っていた。紐が長くなるにつれ、窓を隠していたすだれが徐々に上がっていく。
四角い窓に切り取られた世界は真っ青に染まっていて、つい身を乗り出すと青い腕が見やすいように窓の側へと運んでくれた。
「どうだ? これならよく見えるだろう?」
「うん! ありがとう、セイ、ソウ。でも、ホントに海の中に住んでるんだね、二人の友達」
俺に会わせたい人が居るからって、また変装して町にでも行くのかなって思ってたんだけど。海の中だから大丈夫だよって言われた時はびっくりしたなぁ。
あの車輪のついた家が、海にも潜れるってことにもびっくりしたんだけどさ。
「合ってるけど合ってないよ? サトルちゃん。だって、あんなの友達じゃないもん! ね、セイ!」
「そうだな。タツミは俺達の恩人で、ソウとは喧嘩友達だ。俺とは普通の友達だけどな」
「だから合ってるけど、合ってないってば!!」
喧嘩友達でも無いもん! とほっぺたを膨らませるソウが可愛くて、ついセイと一緒に笑ってしまっていた。
すると俺の腰に、しゅるりと長い尻尾が巻きつく。軽々と引き寄せられて、筋肉質の腕に包まれたかと思うと頬をむにむにと摘まれてしまった。
「もー……二人して笑っちゃってさー……」
「ごめんね、ソウが可愛くて」
「フグみたいだったからな! いてっ」
クスクス笑いながら、俺の頭の上に顎を乗せたセイに向かって赤い手が伸びる。多分、セイもほっぺたを摘まれちゃったんだろうな。さっきの俺みたいに。
今度は唇を尖らせてしまったソウの頭を撫でると、拗ねたように尖っていた目尻が少し緩んだ。
俺の手の上に青い手も伸びてきて、わしゃわしゃと二人で撫で続けていると、
「……しょうがないから、許してあげる」
とソウが笑った。
「君達さぁ……いつまで僕ん家の前でイチャついてるわけ? 新婚さんだから、仕方がないとは思うけどさぁ……」
突然、頭の中で不機嫌そうな声が響く。一緒にコツコツと定期的に、なにか硬い物を叩くような音も。声の主を探そうと俺が周囲を見回している間も、それは止むことはなく聞こえ続けた。
声の方は最初と違って途中から、今度は別の人が話しかけてるのかな? ってくらいに蕩けるような優しい声に変わっていたけど。
「ああ、ごめんねぇ、驚かせちゃって。きょろきょろしちゃって可愛いねぇ」
「ちょっとタツミ! その気持ち悪い猫なで声で、サトルちゃんに向かって念話すんの止めてよね!」
「そうだろう? 俺達のサトルは、世界一可愛いからな!」
「セイは、なんで普通にコイツと会話出来るの!? 気になんないの? ねぇ?」
サトルちゃんが可愛いのは当然だけどさぁ……とぼやきながら、俺の首筋に顔を埋めるソウの手を、ご機嫌なセイが引いて外へと出る。
二人の加護のお陰かな? 海の中に居るはずなのに息も出来るし、周りの景色もちゃんと見えるや。温泉に浸かったり、川に潜ったりした時みたいな濡れる感覚もしないから、余計に変な感じだな。
普通に立っている俺達の前や頭の上を、色んな形や色の魚達が泳いでいく。
目の前には色鮮やかな珊瑚礁が森みたいに広がっていて。その真ん中に、とても大きな泡に包まれた立派な家が建っていた。
えっと、なんだっけ? あのお話に出てくるお城と雰囲気が似てるかも。助けた亀に連れられていくやつ。竜宮城、だっけ? それにそっくりだ。
「門は開けてあるから入りなよ」
また念話だ。この、今俺達に話しかけている人が二人の友達なのかな。
金色の装飾が施された黒い大きな門の前に立つと、ひとりでに門が開く。
くぐった先には尾ひれの長いピンク色の魚達が居て、俺達を案内するみたいにひらひらと前を泳いでいった。
その子達に連れられて辿り着いた部屋の中には、透き通った海面のように煌めく長い髪を束ねた青白い顔の男性が、珊瑚や真珠で彩られたテーブルに頬杖をつき、胡座をかいていた。
男のガラス玉みたいな瞳が俺達を捉えて、ゆるりと細められる。
「よく来たねぇ、サトルちゃん。疲れてないかい? ほら遠慮しないで座って座って! あっ、メロン食べるかい? ジュースも有るからねぇ」
「あ、えっと、その……」
なんというか、圧がスゴい。いい人だってのは分かるけど。
男が手を叩くと、さっきの魚達が素早くふかふかのクッションや、メロン、ジュースを次々と俺達の前に並べていく。ソウの前にあるメロンだけ、薄いハムみたいなのが巻かれてるな。
「……いっぱいもてなしてくれるのは嬉しいけどさ、サトルちゃんが困ってるでしょ?」
「そうだぞ、まずは自己紹介からしないとな!」
「ああ、僕としたことが失礼したね、僕はタツミだ。君の旦那様達とは長い付き合いでね……正直、君のようないい子がお嫁さんになってくれて安心してるよ」
今日はゆっくりしていってくれと、嬉しそうに微笑むタツミさんに胸の奥がじんわりと温かくなる。
セイも、あんなに憎まれ口を叩いていたソウも俺と同じ気持ちみたいで。二人の柔らかい表情に、部屋に満ちる穏やかな空気に、なんだかくすぐったくなったんだ。
甘いメロンを楽しみながら、二人の昔話を教えてもらったり、タツミさんと一緒に写真を撮ったり、魚達の踊りを見ているうちに。ずっと見続けている不思議な夢のせいで、ちゃんと眠れていなかったのかな? まだお昼なのに、なんだかとても眠くなったんだ。
「セイ……ソウ……俺……」
「俺達の加護が有るとはいえ、慣れない環境だからな。疲れてしまったんだろう」
「大丈夫だよ、寝ちゃって。少ししたら起こしてあげるからね」
「うん……」
眠くて眠くて仕方がなかったから、頬は無理だったけど。俺を撫でる二人の手を握って、各々の指先にお休みなさいの挨拶をする。その達成感でほっとしてしまったのか、ストンと穴の中へ落ちていくみたいに俺の意識は眠りについてしまった。
お陰で泣きながら目を覚ますこともなくなって、二人を心配させずにすんでいる。相変わらず夢の内容は少しも覚えていないけど。
おかしなことに、また同じ夢を見たなっていうことだけは覚えてるんだけどなぁ。
「ほらっ見て、サトルちゃん! 海の中に入ったよ!」
いけない、ちょっとぼーっとしてたみたいだ。今日は久々のお出かけなんだから、しっかりしないとな。
元気のいい声に促されて窓の方へと顔を向けると、赤い手が窓の近くにある紐を引っ張っていた。紐が長くなるにつれ、窓を隠していたすだれが徐々に上がっていく。
四角い窓に切り取られた世界は真っ青に染まっていて、つい身を乗り出すと青い腕が見やすいように窓の側へと運んでくれた。
「どうだ? これならよく見えるだろう?」
「うん! ありがとう、セイ、ソウ。でも、ホントに海の中に住んでるんだね、二人の友達」
俺に会わせたい人が居るからって、また変装して町にでも行くのかなって思ってたんだけど。海の中だから大丈夫だよって言われた時はびっくりしたなぁ。
あの車輪のついた家が、海にも潜れるってことにもびっくりしたんだけどさ。
「合ってるけど合ってないよ? サトルちゃん。だって、あんなの友達じゃないもん! ね、セイ!」
「そうだな。タツミは俺達の恩人で、ソウとは喧嘩友達だ。俺とは普通の友達だけどな」
「だから合ってるけど、合ってないってば!!」
喧嘩友達でも無いもん! とほっぺたを膨らませるソウが可愛くて、ついセイと一緒に笑ってしまっていた。
すると俺の腰に、しゅるりと長い尻尾が巻きつく。軽々と引き寄せられて、筋肉質の腕に包まれたかと思うと頬をむにむにと摘まれてしまった。
「もー……二人して笑っちゃってさー……」
「ごめんね、ソウが可愛くて」
「フグみたいだったからな! いてっ」
クスクス笑いながら、俺の頭の上に顎を乗せたセイに向かって赤い手が伸びる。多分、セイもほっぺたを摘まれちゃったんだろうな。さっきの俺みたいに。
今度は唇を尖らせてしまったソウの頭を撫でると、拗ねたように尖っていた目尻が少し緩んだ。
俺の手の上に青い手も伸びてきて、わしゃわしゃと二人で撫で続けていると、
「……しょうがないから、許してあげる」
とソウが笑った。
「君達さぁ……いつまで僕ん家の前でイチャついてるわけ? 新婚さんだから、仕方がないとは思うけどさぁ……」
突然、頭の中で不機嫌そうな声が響く。一緒にコツコツと定期的に、なにか硬い物を叩くような音も。声の主を探そうと俺が周囲を見回している間も、それは止むことはなく聞こえ続けた。
声の方は最初と違って途中から、今度は別の人が話しかけてるのかな? ってくらいに蕩けるような優しい声に変わっていたけど。
「ああ、ごめんねぇ、驚かせちゃって。きょろきょろしちゃって可愛いねぇ」
「ちょっとタツミ! その気持ち悪い猫なで声で、サトルちゃんに向かって念話すんの止めてよね!」
「そうだろう? 俺達のサトルは、世界一可愛いからな!」
「セイは、なんで普通にコイツと会話出来るの!? 気になんないの? ねぇ?」
サトルちゃんが可愛いのは当然だけどさぁ……とぼやきながら、俺の首筋に顔を埋めるソウの手を、ご機嫌なセイが引いて外へと出る。
二人の加護のお陰かな? 海の中に居るはずなのに息も出来るし、周りの景色もちゃんと見えるや。温泉に浸かったり、川に潜ったりした時みたいな濡れる感覚もしないから、余計に変な感じだな。
普通に立っている俺達の前や頭の上を、色んな形や色の魚達が泳いでいく。
目の前には色鮮やかな珊瑚礁が森みたいに広がっていて。その真ん中に、とても大きな泡に包まれた立派な家が建っていた。
えっと、なんだっけ? あのお話に出てくるお城と雰囲気が似てるかも。助けた亀に連れられていくやつ。竜宮城、だっけ? それにそっくりだ。
「門は開けてあるから入りなよ」
また念話だ。この、今俺達に話しかけている人が二人の友達なのかな。
金色の装飾が施された黒い大きな門の前に立つと、ひとりでに門が開く。
くぐった先には尾ひれの長いピンク色の魚達が居て、俺達を案内するみたいにひらひらと前を泳いでいった。
その子達に連れられて辿り着いた部屋の中には、透き通った海面のように煌めく長い髪を束ねた青白い顔の男性が、珊瑚や真珠で彩られたテーブルに頬杖をつき、胡座をかいていた。
男のガラス玉みたいな瞳が俺達を捉えて、ゆるりと細められる。
「よく来たねぇ、サトルちゃん。疲れてないかい? ほら遠慮しないで座って座って! あっ、メロン食べるかい? ジュースも有るからねぇ」
「あ、えっと、その……」
なんというか、圧がスゴい。いい人だってのは分かるけど。
男が手を叩くと、さっきの魚達が素早くふかふかのクッションや、メロン、ジュースを次々と俺達の前に並べていく。ソウの前にあるメロンだけ、薄いハムみたいなのが巻かれてるな。
「……いっぱいもてなしてくれるのは嬉しいけどさ、サトルちゃんが困ってるでしょ?」
「そうだぞ、まずは自己紹介からしないとな!」
「ああ、僕としたことが失礼したね、僕はタツミだ。君の旦那様達とは長い付き合いでね……正直、君のようないい子がお嫁さんになってくれて安心してるよ」
今日はゆっくりしていってくれと、嬉しそうに微笑むタツミさんに胸の奥がじんわりと温かくなる。
セイも、あんなに憎まれ口を叩いていたソウも俺と同じ気持ちみたいで。二人の柔らかい表情に、部屋に満ちる穏やかな空気に、なんだかくすぐったくなったんだ。
甘いメロンを楽しみながら、二人の昔話を教えてもらったり、タツミさんと一緒に写真を撮ったり、魚達の踊りを見ているうちに。ずっと見続けている不思議な夢のせいで、ちゃんと眠れていなかったのかな? まだお昼なのに、なんだかとても眠くなったんだ。
「セイ……ソウ……俺……」
「俺達の加護が有るとはいえ、慣れない環境だからな。疲れてしまったんだろう」
「大丈夫だよ、寝ちゃって。少ししたら起こしてあげるからね」
「うん……」
眠くて眠くて仕方がなかったから、頬は無理だったけど。俺を撫でる二人の手を握って、各々の指先にお休みなさいの挨拶をする。その達成感でほっとしてしまったのか、ストンと穴の中へ落ちていくみたいに俺の意識は眠りについてしまった。
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