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力になれるんじゃ、なかったのかよ
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…………………………
………おかしい。痛くない。どこも。
いや……おかしくなんか、ないのか? 影に飲み込まれちゃったら、魂だけになるって話だし。
でも、なんでだろう? ……温かい。
「天音、大丈夫か? 天音……」
胸を締めつけられるような声。迷子の子供のような声で俺を呼んだのは、苦しそうに顔を歪める赤木さんだった。
「……赤木さん? あれ、俺……影に……」
なってない。腕も足もちゃんとついてる。ちゃんと触れる。……赤木さんが助けてくれたんだ。
「まさかキミの足元に湧いてくるとはな……俺のミスだ、済まない」
「そんな……ごめんなさい、ありがとうございます……俺、また足引っ張っちゃ……」
見上げて、気づいた違和感。
ない。肩から下が。赤木さんの片腕がない。
赤の代わりに溢れている黒。なくなった部分から、影と同じモヤが煙みたいに揺らめいている。
喉からヒュッと空気が漏れた。
「赤木さん……その腕……」
「ああ、これか? 大丈夫だ。影さえ倒せば元に戻るからな」
なんでもないように、口の端を持ち上げ笑う。男らしい手でぽんぽんと肩を叩きながら、前に足を持ってかれた時も戻ったしな、と。
安心させようとしてくれているのは分かっていた。痛いくらいに。でも……
「俺のせいだ……俺が、ちゃんと出来なかったから……」
じゃあ頑張りましょう、とは思えなかった。
「……天音。これを持って、ここで待っていろ。スイッチを押せば、輝石の輝きが周囲に広がる。一時しのぎにしかならないが、俺が駆けつけるまでの時間稼ぎになるだろう」
「……え」
それは優しい戦力外通告。手渡されたのは見たことのある銀の筒だった。
俺を残して一人立ち上がり、影へと向かっていく背中が酷く遠くに見える。
「待って……赤木さ」
「大丈夫だ。キミだけは、俺が必ず守ってみせる」
また笑ってくれている。引きずるように持っていた大剣を構えて。
なんだよ……一緒じゃないか。
変わらない。昨日の無力な自分と何もかも。いや、もっと酷い。赤木さんを変身させることが出来なかったんだから。
力になれるんじゃ、なかったのかよ。あるんだろ? 俺の中に、赤木さんを助けられる力が。
「頼む、貸してくれよ……今じゃないとダメなんだ……二人で帰りたいんだよッ!!」
また、俺の叫びに応えてくれたみたいだった。
瞼の裏で強い閃光が赤く輝く。目を開ければ周囲が赤く染まっていた。
「天音……」
驚きに満ちた表情でこちらを見つめる彼の胸元で、ペンダントが力強い光を放っている。今だ……今なら、きっと!
「赤木さん!」
腕を振り、地面を蹴る。
勢いそのままに、飛びついた。空いている距離を頬を両手で包んで引っ張り、俺からも背伸びをして無理矢理詰めて、押しつける。
強引で、拙過ぎるもんだった。俺からした、初めてのキスは。
唇が触れ合った途端、ますます激しくなる光、鼓動、熱。なんだか、このまま二人で溶け合ってしまいそうだ。
内側から燃やされているような、胸の奥が焦がれるような感覚に、全身の力が抜けていく。
あ、ダメだ……これ。
そう思った時には、ぐらりと重力に従って倒れ込んでいた。
痛みはなかった。コンクリートの床に背中からダイブしたハズなのに。それから、何故か温かい。何だか、スゴく安心する。
「意外と情熱的なんだな、キミは」
俺を包み込んでくれていた温もりの正体。抱き抱えてくれていたのは、白銀の鎧を纏う赤木さんだった。
腕が、戻っている。ちゃんとある。黒いモヤが立ち上ってもいない。華やかな装飾が施された白銀を纏う、逞しい腕がちゃんと。
固く冷たいハズの金属から、じんわりとした熱が伝わってくる。金糸に彩られた真っ赤なマントがふわりと靡く。爽やかな笑顔を浮かべる彼の瞳には、眩い星が瞬いていた。
「赤木さん……赤木さん……」
言葉が出ない。
良かった、とか。大丈夫ですか、とか。色々言いたいのに、出てこない。喉が震えて、勝手に視界が滲んでしまう。
「ははっ、泣くほど嬉しかったか? ……俺もだ」
冗談めかして笑うその頬には透明な雫が伝っていた。乱暴に拭うとニカッと白い歯をこぼす。
「だが、喜ぶのはまだ早い。もう一踏ん張り頼むぞ、天音。キミの力が必要なんだ」
「っ……はい! 帰りましょう……一緒に!」
「ああ!」
地面に足をつけた俺を、大きな手が抱き寄せる。肩を抱く腕から伝わってくる頼もしい温もり。その時、初めて俺は真っ黒な影の群れを、真っ直ぐに見つめることが出来た。
伸ばした手を、白銀に覆われた手を、集い輝く光の粒が真っ赤に染めていく。
一際強く煌めき、地面を鳴らす重たい音。夕陽よりも赤く激しい輝きを宿した大剣が、俺達の前に現れた。
そうしないといけない気がして、手を伸ばしていた。グリップを握る手を支えるように添える。ただ、それだけなのに、大きな刃の輝きが瞬く間に増していく。
「凄いな……力が溢れてくる……このままいくぞ! 天音!」
「はい!」
誓いを立てるように掲げられた大剣。その切っ先に、赤い光の渦が生まれる。
「消え失せろッ!!」
振り下ろされ、巻き起こった光の嵐。
弾けるような真っ赤な輝きが収まった頃。二人っきりの俺達を、窓から降り注ぐ柔らかいオレンジが照らしていた。
恐ろしい影は、もういない。倒したんだ、全部。倒せたんだ、一緒に。
「やった……な」
「やりました、ね」
錆びついた機械みたいにギギギと向かい合った俺達。真っ赤な瞳がきょとんと見つめている。俺も、しているんだろう、多分。おんなじタイミングで吹き出したんだからな。
「はははっやったぞ! やれたぞ、俺達!」
すでに変身の解けていた太い腕が、俺を抱き上げぐるぐる回りだす。俺の視界も回りだす。
「ちょっ赤木さん! 目が回っちゃいますって!」
流石、鍛えてるだけはあるな。めっちゃ速い。絶叫マシン並だ。内臓が浮かび、三半規管が悲鳴を上げている。酔いそうだ。
「悪い、つい嬉しくてな」
「い、いえ……」
分厚い手のひらが、労るように俺の背中を撫でてくれる。全部終わった。終わったのに、赤木さんは俺を抱えたままだ。
「あの、赤木さん……そろそろ下ろし」
「……嫌か?」
「嫌じゃない……ですけど」
むしろ嬉しい。だから、困ってるんだよなぁ……ドキドキしちゃうし。なんか、落ち着かないしさ。
寂しそうに細められていた瞳が、ぱぁっ明るくなる。綻んだ頬を染めた赤木さんの声が、何だか妙に甘ったるく聞こえた。
「天音……」
「赤木さん……」
額が触れて、唇に熱い吐息がかかる。互いの温度が触れ合うまでもう少し……そんな時だった。
「赤木クン! 天音クン! 大丈夫!? 何でもいい、応答して!! カメラが壊れたんだ! キミ達の無事を確認出来ない! 敵の反応は消えたみたいだけど……大丈夫なんだよね!?」
追尾型カメラ、蝶から聞こえた博士の声。珍しく感情を剥き出しにした叫びに、同時に肩を揺らし、仰け反るように離れていた。
「あ、ああ、二人共無事だ、怪我もない。なあ、天音」
「ひゃいっ! 元気でふっ!」
「そっかぁ! 良かった……じゃあ、早く帰っておいで。二人共、しっかり検査しないとだからねぇ」
声がひっくり返るどころか、噛んでしまっていた。それでも気にすることなく、茶化すこともなく、ただただ安堵する声に、ますます顔が熱くなる。何やってんだ、俺は。
「……帰りましょうか」
「……ああ」
赤木さんも我に返ったんだろう。耳まで真っ赤っかだ。それでも、いまだ浮かされたままなのか、手は繋いだままだった。離す気になれなかった俺も、どっこいどっこいだけど。
………おかしい。痛くない。どこも。
いや……おかしくなんか、ないのか? 影に飲み込まれちゃったら、魂だけになるって話だし。
でも、なんでだろう? ……温かい。
「天音、大丈夫か? 天音……」
胸を締めつけられるような声。迷子の子供のような声で俺を呼んだのは、苦しそうに顔を歪める赤木さんだった。
「……赤木さん? あれ、俺……影に……」
なってない。腕も足もちゃんとついてる。ちゃんと触れる。……赤木さんが助けてくれたんだ。
「まさかキミの足元に湧いてくるとはな……俺のミスだ、済まない」
「そんな……ごめんなさい、ありがとうございます……俺、また足引っ張っちゃ……」
見上げて、気づいた違和感。
ない。肩から下が。赤木さんの片腕がない。
赤の代わりに溢れている黒。なくなった部分から、影と同じモヤが煙みたいに揺らめいている。
喉からヒュッと空気が漏れた。
「赤木さん……その腕……」
「ああ、これか? 大丈夫だ。影さえ倒せば元に戻るからな」
なんでもないように、口の端を持ち上げ笑う。男らしい手でぽんぽんと肩を叩きながら、前に足を持ってかれた時も戻ったしな、と。
安心させようとしてくれているのは分かっていた。痛いくらいに。でも……
「俺のせいだ……俺が、ちゃんと出来なかったから……」
じゃあ頑張りましょう、とは思えなかった。
「……天音。これを持って、ここで待っていろ。スイッチを押せば、輝石の輝きが周囲に広がる。一時しのぎにしかならないが、俺が駆けつけるまでの時間稼ぎになるだろう」
「……え」
それは優しい戦力外通告。手渡されたのは見たことのある銀の筒だった。
俺を残して一人立ち上がり、影へと向かっていく背中が酷く遠くに見える。
「待って……赤木さ」
「大丈夫だ。キミだけは、俺が必ず守ってみせる」
また笑ってくれている。引きずるように持っていた大剣を構えて。
なんだよ……一緒じゃないか。
変わらない。昨日の無力な自分と何もかも。いや、もっと酷い。赤木さんを変身させることが出来なかったんだから。
力になれるんじゃ、なかったのかよ。あるんだろ? 俺の中に、赤木さんを助けられる力が。
「頼む、貸してくれよ……今じゃないとダメなんだ……二人で帰りたいんだよッ!!」
また、俺の叫びに応えてくれたみたいだった。
瞼の裏で強い閃光が赤く輝く。目を開ければ周囲が赤く染まっていた。
「天音……」
驚きに満ちた表情でこちらを見つめる彼の胸元で、ペンダントが力強い光を放っている。今だ……今なら、きっと!
「赤木さん!」
腕を振り、地面を蹴る。
勢いそのままに、飛びついた。空いている距離を頬を両手で包んで引っ張り、俺からも背伸びをして無理矢理詰めて、押しつける。
強引で、拙過ぎるもんだった。俺からした、初めてのキスは。
唇が触れ合った途端、ますます激しくなる光、鼓動、熱。なんだか、このまま二人で溶け合ってしまいそうだ。
内側から燃やされているような、胸の奥が焦がれるような感覚に、全身の力が抜けていく。
あ、ダメだ……これ。
そう思った時には、ぐらりと重力に従って倒れ込んでいた。
痛みはなかった。コンクリートの床に背中からダイブしたハズなのに。それから、何故か温かい。何だか、スゴく安心する。
「意外と情熱的なんだな、キミは」
俺を包み込んでくれていた温もりの正体。抱き抱えてくれていたのは、白銀の鎧を纏う赤木さんだった。
腕が、戻っている。ちゃんとある。黒いモヤが立ち上ってもいない。華やかな装飾が施された白銀を纏う、逞しい腕がちゃんと。
固く冷たいハズの金属から、じんわりとした熱が伝わってくる。金糸に彩られた真っ赤なマントがふわりと靡く。爽やかな笑顔を浮かべる彼の瞳には、眩い星が瞬いていた。
「赤木さん……赤木さん……」
言葉が出ない。
良かった、とか。大丈夫ですか、とか。色々言いたいのに、出てこない。喉が震えて、勝手に視界が滲んでしまう。
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「ああ!」
地面に足をつけた俺を、大きな手が抱き寄せる。肩を抱く腕から伝わってくる頼もしい温もり。その時、初めて俺は真っ黒な影の群れを、真っ直ぐに見つめることが出来た。
伸ばした手を、白銀に覆われた手を、集い輝く光の粒が真っ赤に染めていく。
一際強く煌めき、地面を鳴らす重たい音。夕陽よりも赤く激しい輝きを宿した大剣が、俺達の前に現れた。
そうしないといけない気がして、手を伸ばしていた。グリップを握る手を支えるように添える。ただ、それだけなのに、大きな刃の輝きが瞬く間に増していく。
「凄いな……力が溢れてくる……このままいくぞ! 天音!」
「はい!」
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「消え失せろッ!!」
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弾けるような真っ赤な輝きが収まった頃。二人っきりの俺達を、窓から降り注ぐ柔らかいオレンジが照らしていた。
恐ろしい影は、もういない。倒したんだ、全部。倒せたんだ、一緒に。
「やった……な」
「やりました、ね」
錆びついた機械みたいにギギギと向かい合った俺達。真っ赤な瞳がきょとんと見つめている。俺も、しているんだろう、多分。おんなじタイミングで吹き出したんだからな。
「はははっやったぞ! やれたぞ、俺達!」
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「あの、赤木さん……そろそろ下ろし」
「……嫌か?」
「嫌じゃない……ですけど」
むしろ嬉しい。だから、困ってるんだよなぁ……ドキドキしちゃうし。なんか、落ち着かないしさ。
寂しそうに細められていた瞳が、ぱぁっ明るくなる。綻んだ頬を染めた赤木さんの声が、何だか妙に甘ったるく聞こえた。
「天音……」
「赤木さん……」
額が触れて、唇に熱い吐息がかかる。互いの温度が触れ合うまでもう少し……そんな時だった。
「赤木クン! 天音クン! 大丈夫!? 何でもいい、応答して!! カメラが壊れたんだ! キミ達の無事を確認出来ない! 敵の反応は消えたみたいだけど……大丈夫なんだよね!?」
追尾型カメラ、蝶から聞こえた博士の声。珍しく感情を剥き出しにした叫びに、同時に肩を揺らし、仰け反るように離れていた。
「あ、ああ、二人共無事だ、怪我もない。なあ、天音」
「ひゃいっ! 元気でふっ!」
「そっかぁ! 良かった……じゃあ、早く帰っておいで。二人共、しっかり検査しないとだからねぇ」
声がひっくり返るどころか、噛んでしまっていた。それでも気にすることなく、茶化すこともなく、ただただ安堵する声に、ますます顔が熱くなる。何やってんだ、俺は。
「……帰りましょうか」
「……ああ」
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