【完結】俺の愛が世界を救うってマジ?

白井のわ

文字の大きさ
12 / 43

力になれるんじゃ、なかったのかよ

しおりを挟む
 …………………………

 ………おかしい。痛くない。どこも。

 いや……おかしくなんか、ないのか? 影に飲み込まれちゃったら、魂だけになるって話だし。

 でも、なんでだろう? ……温かい。

「天音、大丈夫か? 天音……」

 胸を締めつけられるような声。迷子の子供のような声で俺を呼んだのは、苦しそうに顔を歪める赤木さんだった。

「……赤木さん? あれ、俺……影に……」

 なってない。腕も足もちゃんとついてる。ちゃんと触れる。……赤木さんが助けてくれたんだ。

「まさかキミの足元に湧いてくるとはな……俺のミスだ、済まない」

「そんな……ごめんなさい、ありがとうございます……俺、また足引っ張っちゃ……」

 見上げて、気づいた違和感。

 ない。肩から下が。赤木さんの片腕がない。

 赤の代わりに溢れている黒。なくなった部分から、影と同じモヤが煙みたいに揺らめいている。

 喉からヒュッと空気が漏れた。

「赤木さん……その腕……」

「ああ、これか? 大丈夫だ。影さえ倒せば元に戻るからな」

 なんでもないように、口の端を持ち上げ笑う。男らしい手でぽんぽんと肩を叩きながら、前に足を持ってかれた時も戻ったしな、と。

 安心させようとしてくれているのは分かっていた。痛いくらいに。でも……

「俺のせいだ……俺が、ちゃんと出来なかったから……」

 じゃあ頑張りましょう、とは思えなかった。

「……天音。これを持って、ここで待っていろ。スイッチを押せば、輝石の輝きが周囲に広がる。一時しのぎにしかならないが、俺が駆けつけるまでの時間稼ぎになるだろう」

「……え」

 それは優しい戦力外通告。手渡されたのは見たことのある銀の筒だった。

 俺を残して一人立ち上がり、影へと向かっていく背中が酷く遠くに見える。

「待って……赤木さ」

「大丈夫だ。キミだけは、俺が必ず守ってみせる」

 また笑ってくれている。引きずるように持っていた大剣を構えて。

 なんだよ……一緒じゃないか。

 変わらない。昨日の無力な自分と何もかも。いや、もっと酷い。赤木さんを変身させることが出来なかったんだから。

 力になれるんじゃ、なかったのかよ。あるんだろ? 俺の中に、赤木さんを助けられる力が。

「頼む、貸してくれよ……今じゃないとダメなんだ……二人で帰りたいんだよッ!!」

 また、俺の叫びに応えてくれたみたいだった。

 瞼の裏で強い閃光が赤く輝く。目を開ければ周囲が赤く染まっていた。

「天音……」

 驚きに満ちた表情でこちらを見つめる彼の胸元で、ペンダントが力強い光を放っている。今だ……今なら、きっと!

「赤木さん!」

 腕を振り、地面を蹴る。

 勢いそのままに、飛びついた。空いている距離を頬を両手で包んで引っ張り、俺からも背伸びをして無理矢理詰めて、押しつける。

 強引で、拙過ぎるもんだった。俺からした、初めてのキスは。

 唇が触れ合った途端、ますます激しくなる光、鼓動、熱。なんだか、このまま二人で溶け合ってしまいそうだ。

 内側から燃やされているような、胸の奥が焦がれるような感覚に、全身の力が抜けていく。

 あ、ダメだ……これ。

 そう思った時には、ぐらりと重力に従って倒れ込んでいた。

 痛みはなかった。コンクリートの床に背中からダイブしたハズなのに。それから、何故か温かい。何だか、スゴく安心する。

「意外と情熱的なんだな、キミは」

 俺を包み込んでくれていた温もりの正体。抱き抱えてくれていたのは、白銀の鎧を纏う赤木さんだった。

 腕が、戻っている。ちゃんとある。黒いモヤが立ち上ってもいない。華やかな装飾が施された白銀を纏う、逞しい腕がちゃんと。

 固く冷たいハズの金属から、じんわりとした熱が伝わってくる。金糸に彩られた真っ赤なマントがふわりと靡く。爽やかな笑顔を浮かべる彼の瞳には、眩い星が瞬いていた。

「赤木さん……赤木さん……」

 言葉が出ない。

 良かった、とか。大丈夫ですか、とか。色々言いたいのに、出てこない。喉が震えて、勝手に視界が滲んでしまう。

「ははっ、泣くほど嬉しかったか? ……俺もだ」

 冗談めかして笑うその頬には透明な雫が伝っていた。乱暴に拭うとニカッと白い歯をこぼす。

「だが、喜ぶのはまだ早い。もう一踏ん張り頼むぞ、天音。キミの力が必要なんだ」

「っ……はい! 帰りましょう……一緒に!」

「ああ!」

 地面に足をつけた俺を、大きな手が抱き寄せる。肩を抱く腕から伝わってくる頼もしい温もり。その時、初めて俺は真っ黒な影の群れを、真っ直ぐに見つめることが出来た。

 伸ばした手を、白銀に覆われた手を、集い輝く光の粒が真っ赤に染めていく。

 一際強く煌めき、地面を鳴らす重たい音。夕陽よりも赤く激しい輝きを宿した大剣が、俺達の前に現れた。

 そうしないといけない気がして、手を伸ばしていた。グリップを握る手を支えるように添える。ただ、それだけなのに、大きな刃の輝きが瞬く間に増していく。

「凄いな……力が溢れてくる……このままいくぞ! 天音!」

「はい!」

 誓いを立てるように掲げられた大剣。その切っ先に、赤い光の渦が生まれる。

「消え失せろッ!!」

 振り下ろされ、巻き起こった光の嵐。

 弾けるような真っ赤な輝きが収まった頃。二人っきりの俺達を、窓から降り注ぐ柔らかいオレンジが照らしていた。

 恐ろしい影は、もういない。倒したんだ、全部。倒せたんだ、一緒に。

「やった……な」

「やりました、ね」

 錆びついた機械みたいにギギギと向かい合った俺達。真っ赤な瞳がきょとんと見つめている。俺も、しているんだろう、多分。おんなじタイミングで吹き出したんだからな。

「はははっやったぞ! やれたぞ、俺達!」

 すでに変身の解けていた太い腕が、俺を抱き上げぐるぐる回りだす。俺の視界も回りだす。

「ちょっ赤木さん! 目が回っちゃいますって!」

 流石、鍛えてるだけはあるな。めっちゃ速い。絶叫マシン並だ。内臓が浮かび、三半規管が悲鳴を上げている。酔いそうだ。

「悪い、つい嬉しくてな」

「い、いえ……」

 分厚い手のひらが、労るように俺の背中を撫でてくれる。全部終わった。終わったのに、赤木さんは俺を抱えたままだ。

「あの、赤木さん……そろそろ下ろし」

「……嫌か?」

「嫌じゃない……ですけど」

 むしろ嬉しい。だから、困ってるんだよなぁ……ドキドキしちゃうし。なんか、落ち着かないしさ。

 寂しそうに細められていた瞳が、ぱぁっ明るくなる。綻んだ頬を染めた赤木さんの声が、何だか妙に甘ったるく聞こえた。

「天音……」

「赤木さん……」

 額が触れて、唇に熱い吐息がかかる。互いの温度が触れ合うまでもう少し……そんな時だった。

「赤木クン! 天音クン! 大丈夫!? 何でもいい、応答して!! カメラが壊れたんだ! キミ達の無事を確認出来ない! 敵の反応は消えたみたいだけど……大丈夫なんだよね!?」

 追尾型カメラ、蝶から聞こえた博士の声。珍しく感情を剥き出しにした叫びに、同時に肩を揺らし、仰け反るように離れていた。

「あ、ああ、二人共無事だ、怪我もない。なあ、天音」

「ひゃいっ! 元気でふっ!」

「そっかぁ! 良かった……じゃあ、早く帰っておいで。二人共、しっかり検査しないとだからねぇ」

 声がひっくり返るどころか、噛んでしまっていた。それでも気にすることなく、茶化すこともなく、ただただ安堵する声に、ますます顔が熱くなる。何やってんだ、俺は。

「……帰りましょうか」

「……ああ」

 赤木さんも我に返ったんだろう。耳まで真っ赤っかだ。それでも、いまだ浮かされたままなのか、手は繋いだままだった。離す気になれなかった俺も、どっこいどっこいだけど。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け 《あらすじ》 4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。 そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。 平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。

最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~

水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。 「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。 しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった! 「お前こそ俺の運命の番だ」 βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!? 勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!

処理中です...