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愛の輝石ってのがあれば、邪神を封印出来るって? じゃあ早速、手に入れ……分からない? そんなぁ……
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ぐうの音も出ないってのはこういう状態の時を言うんだな。
「いやぁーまさか本当に皆とラブラブになってくれるなんてねぇ」
「うっ……」
手を合わせにっこり笑う博士の言葉がぐさりと刺さった。心の柔い部分に深々と。
何で皆、ハートが強いんだ。何でそんな……眉を下げたり、頬や頭の後ろを掻いたりしながら、いやぁそれほどでも……みたいな感じで照れてるだけなんだよ。
「いいねぇ、いいよぉ」
俺を囲んで座る皆をにこやかに見つめていた水色の瞳がスッと真剣な光を宿す。
「それくらい絆が深まってないと、あの鎧兜には……邪神の守護者には勝てないからね」
「守護者? アイツが……ですか?」
確かに鎧の装飾というか、雰囲気が皆の物と似ている気はしていたけれど。
皆言葉を失っていた。静まり返った空気の中、口を開いたのはただ一人。
「やはり邪神にも守護者がいたんですね」
想定内だったんだろうか。困惑する俺達に対して博士を見つめるアサギさんの瞳は揺らいでいない。
「うん、僕達の遠い遠いご先祖様。光の一族は神に仕えていたんだけれど、影の一族は邪神に仕えていたんだ」
「じゃあ、封印を解こうとしてるのって……」
ヒスイの言葉にはたと蘇る。気を失う前、去り際に鎧兜が呟いていた言葉が。
「そう言えばアイツ言ってました……間もなく我らの神が復活を果たされるって」
「それは、マズいな……」
「守護者であんなに強いんでしょ? 邪神まで復活しちゃったら……」
皆、考えたことは一緒だったと思う。でも、口にすることが出来なかった。したくなかったんだ。世界が終わるかもしれないって。
「方法はあるよ。今の君達ならね」
方法って、どんな? と尋ねるより早く博士が続ける。のんびりした声が頼もしく聞こえた。
「言い伝えによると……神が邪神を弱らせ、神子が守護者と共に生み出した愛の輝石によって邪神を封じたらしいんだ。今の僕達は神様の力を借りることは出来ないけれど、残してくれた輝石の力がある。だから、もし復活したとしても」
「封印し直すことが出来るかもしれない!」
「その通り!」
思わず立ち上がっていた俺にアイスブルーの瞳が微笑み返す。
対抗手段があるんだったら、怖くはない。だって、皆が居るんだから。皆が一緒に居てくれるんだから。
「だったら事は単純明快だな」
「守護者も邪神もまとめて皆でぶっ飛ばせばいいってことだよね!」
「出来れば、邪神が復活する前に済ませたいですけどね」
さっきまでの重苦しさとは打って変わって明るく盛り上がっていく俺達。そんな時でも、彼だけは冷静だった。
「ところで博士、愛の輝石とはどのようにして生み出すことが出来るのでしょうか?」
そう言えばそうだ。はたとなった俺達の視線が一気に集中していく。そして、かくんと傾いた。返ってきたあっけらかんとした答えによって。
「ごめん、分からない」
「ちょっ……一番肝心なとこじゃん!」
「まぁ、でも愛のってつくくらいだからさ。君達が愛し合ってくれてたら何とかなるんじゃない?」
どうやら俺は夢を見ていたらしい。常に飄々としている彼に頼もしさを感じる訳がなかったのだ。
現にもう戻っているじゃないか。デスクに手をつき前のめりになって訴えるダイキさんを、へらへら笑いながらあしらってるんだからさ。
「……行き当たりばったりすぎません?」
「丸投げもいいところだな……」
呆れたように息を吐くヒスイの隣で、コウイチさんが前髪をかき上げるように頭を押さえる。
しなやかな指を口元に当て、瞳を伏せていたアサギさんが口を開こうとして、遮られた。
「博士っ、緊急事態だ」
後ろで緩く纏めた黒く長い髪を揺らし、作戦会議室の扉を勢いよく開け放った黒野先生によって。
*
控え兼お迎え用の大きな車両。
緊急時の医療設備等を備えた小型トラックくらいはある専用車を、余裕で乗せられる軍事用ヘリから俺達は任務先を見下ろしていた。
「……何アレ? 真っ黒じゃん」
窓の外を見た瞬間、目を丸くしたダイキさんが思わずそう呟いてしまったのも分かる。
影達が出現する際に、周囲の光を奪う薄闇の霧。普段は屋内で発生し窓や天井、床に広がるモヤが、屋外にあるテーマパーク全体をドーム状に包みこんでいるんだから。
「遊園地全体が、あの影に覆われてるみたいですね」
俺の隣に居てくれているヒスイの瞳が険しそうに細められる。
「今までは屋内ばかりだったのに……もしかしてあの鎧兜の仕業なのか?」
俺とヒスイと肩を並べ、追尾型カメラからの映像が映し出されたモニターを見つめていたアサギさん。首に巻かれた包帯に触れる彼の表情は苦々しい。
「地図によると……四つのエリアに分かれているらしいな。東、西、北、そして中央だ」
コウイチさんが俺達にも見えるようにエリアマップを広げ、指し示す。どのエリアも東京ドーム一つ分の広さがあるらしい、と付け加えながら。
「どうするんですか? 全員で一つずつ回って行きます?」
広ければその分、影の数も多いハズ。おまけに今日は休日だ。どのくらい避難できたかは分からないけれど、逃げ遅れた従業員の方やお客さんも影になってしまっているだろう。
それに、もし鎧兜があの中に居るんだったら……全員で回るべきだ。効率は悪いけど、安全第一で。
「確かに確実だけど」
「……四手に分かれよう。危険は承知だ。しかし、速やかに解決すべきだ。いまだかつてなかった事態だからな」
「ボクも赤木クンに賛成。時間をかけて周りにまで広がっちゃったら大変だからねぇ」
そうか……広がるかもしれないんだ。
今まではその建物の中だけで済んでいた。でも今回は、あのモヤが外に出てしまっているんだから。今はまだ遊園地を覆っているだけだけど、もし駅や街にまで広がったら……
「いつも負担をかけてしまって済まない。私達も全力でサポートしよう」
真剣な眼差しでモニターを食い入るように見つめている博士に代わり、よろしく頼む、と頭を下げた黒野先生。憂いを帯びた紫の瞳が俺を静かに見つめた。
「……レン」
カツカツと歩み寄ってくるブーツの音。
優しく手を取られたかと思えば手のひらに冷たい感触が、見覚えのあるピンクで明るい紫な筒が乗せられていた。
「これ……」
「前のは壊されてしまっただろう? 出来る限りの調整を施した改良版だ。五、六発は問題なく打てる筈だ」
「ありがとうございます」
髪を梳くように撫でてくれていた手が名残惜しそうに離れていく。無茶はするなよ、と耳元で囁かれた声が少しだけ震えていたような気がした。
なんて答えたらいいか分からなかった。ただ、遠ざかっていく背中をただ見つめるだけしか。
ふとモニターばかりを見ていたアイスブルーとかち合う。
「邪神の守護者と鉢合わせになった場合はすぐに他の皆と合流、場合によっては撤退するんだよ? たとえ、殲滅出来ていなくてもね」
「しかし、それでは被害が」
「遊園地全体を輝石の輝きで囲めるよう準備を進めている。キミ達が体制を立て直す間の時間くらいは稼げるだろう」
「なら、大丈夫だね。まぁ、オレ達がちゃっちゃとぶっ飛ばしちゃうから、必要なくなっちゃうけど」
明るく頼もしいダイキさんの言葉に和んだ空気。ふわりと漂う温かさをコウイチさんが引き締める。
「とても頼もしいが、油断はするなよ。担当するエリアだが……俺は東へ行こう。黄川は北、青岩は西を頼む」
「オッケー」
「了解した」
サムズアップして黄色の瞳がウィンクし、凪いだ海のような青い瞳が静かに頷く。
「レンは緑山と中央に居てくれ。三つのエリアには全て中央へ最短で向かえる道が有るからな」
「はい」
「分かりました」
「各自殲滅次第中央へ合流。万が一変身が解けたり、数で押されそうになった時は中央へ撤退、鎧兜を確認した場合は皆に連絡を入れつつ中央へ撤退してくれ」
燃えるような赤い瞳が俺達を一人一人見つめていく。
「全員で帰るぞ。絶対に、誰一人欠けることなく」
伸ばされた手に皆の手が重なり、続けて決意に満ちた声が響き合った。
「いやぁーまさか本当に皆とラブラブになってくれるなんてねぇ」
「うっ……」
手を合わせにっこり笑う博士の言葉がぐさりと刺さった。心の柔い部分に深々と。
何で皆、ハートが強いんだ。何でそんな……眉を下げたり、頬や頭の後ろを掻いたりしながら、いやぁそれほどでも……みたいな感じで照れてるだけなんだよ。
「いいねぇ、いいよぉ」
俺を囲んで座る皆をにこやかに見つめていた水色の瞳がスッと真剣な光を宿す。
「それくらい絆が深まってないと、あの鎧兜には……邪神の守護者には勝てないからね」
「守護者? アイツが……ですか?」
確かに鎧の装飾というか、雰囲気が皆の物と似ている気はしていたけれど。
皆言葉を失っていた。静まり返った空気の中、口を開いたのはただ一人。
「やはり邪神にも守護者がいたんですね」
想定内だったんだろうか。困惑する俺達に対して博士を見つめるアサギさんの瞳は揺らいでいない。
「うん、僕達の遠い遠いご先祖様。光の一族は神に仕えていたんだけれど、影の一族は邪神に仕えていたんだ」
「じゃあ、封印を解こうとしてるのって……」
ヒスイの言葉にはたと蘇る。気を失う前、去り際に鎧兜が呟いていた言葉が。
「そう言えばアイツ言ってました……間もなく我らの神が復活を果たされるって」
「それは、マズいな……」
「守護者であんなに強いんでしょ? 邪神まで復活しちゃったら……」
皆、考えたことは一緒だったと思う。でも、口にすることが出来なかった。したくなかったんだ。世界が終わるかもしれないって。
「方法はあるよ。今の君達ならね」
方法って、どんな? と尋ねるより早く博士が続ける。のんびりした声が頼もしく聞こえた。
「言い伝えによると……神が邪神を弱らせ、神子が守護者と共に生み出した愛の輝石によって邪神を封じたらしいんだ。今の僕達は神様の力を借りることは出来ないけれど、残してくれた輝石の力がある。だから、もし復活したとしても」
「封印し直すことが出来るかもしれない!」
「その通り!」
思わず立ち上がっていた俺にアイスブルーの瞳が微笑み返す。
対抗手段があるんだったら、怖くはない。だって、皆が居るんだから。皆が一緒に居てくれるんだから。
「だったら事は単純明快だな」
「守護者も邪神もまとめて皆でぶっ飛ばせばいいってことだよね!」
「出来れば、邪神が復活する前に済ませたいですけどね」
さっきまでの重苦しさとは打って変わって明るく盛り上がっていく俺達。そんな時でも、彼だけは冷静だった。
「ところで博士、愛の輝石とはどのようにして生み出すことが出来るのでしょうか?」
そう言えばそうだ。はたとなった俺達の視線が一気に集中していく。そして、かくんと傾いた。返ってきたあっけらかんとした答えによって。
「ごめん、分からない」
「ちょっ……一番肝心なとこじゃん!」
「まぁ、でも愛のってつくくらいだからさ。君達が愛し合ってくれてたら何とかなるんじゃない?」
どうやら俺は夢を見ていたらしい。常に飄々としている彼に頼もしさを感じる訳がなかったのだ。
現にもう戻っているじゃないか。デスクに手をつき前のめりになって訴えるダイキさんを、へらへら笑いながらあしらってるんだからさ。
「……行き当たりばったりすぎません?」
「丸投げもいいところだな……」
呆れたように息を吐くヒスイの隣で、コウイチさんが前髪をかき上げるように頭を押さえる。
しなやかな指を口元に当て、瞳を伏せていたアサギさんが口を開こうとして、遮られた。
「博士っ、緊急事態だ」
後ろで緩く纏めた黒く長い髪を揺らし、作戦会議室の扉を勢いよく開け放った黒野先生によって。
*
控え兼お迎え用の大きな車両。
緊急時の医療設備等を備えた小型トラックくらいはある専用車を、余裕で乗せられる軍事用ヘリから俺達は任務先を見下ろしていた。
「……何アレ? 真っ黒じゃん」
窓の外を見た瞬間、目を丸くしたダイキさんが思わずそう呟いてしまったのも分かる。
影達が出現する際に、周囲の光を奪う薄闇の霧。普段は屋内で発生し窓や天井、床に広がるモヤが、屋外にあるテーマパーク全体をドーム状に包みこんでいるんだから。
「遊園地全体が、あの影に覆われてるみたいですね」
俺の隣に居てくれているヒスイの瞳が険しそうに細められる。
「今までは屋内ばかりだったのに……もしかしてあの鎧兜の仕業なのか?」
俺とヒスイと肩を並べ、追尾型カメラからの映像が映し出されたモニターを見つめていたアサギさん。首に巻かれた包帯に触れる彼の表情は苦々しい。
「地図によると……四つのエリアに分かれているらしいな。東、西、北、そして中央だ」
コウイチさんが俺達にも見えるようにエリアマップを広げ、指し示す。どのエリアも東京ドーム一つ分の広さがあるらしい、と付け加えながら。
「どうするんですか? 全員で一つずつ回って行きます?」
広ければその分、影の数も多いハズ。おまけに今日は休日だ。どのくらい避難できたかは分からないけれど、逃げ遅れた従業員の方やお客さんも影になってしまっているだろう。
それに、もし鎧兜があの中に居るんだったら……全員で回るべきだ。効率は悪いけど、安全第一で。
「確かに確実だけど」
「……四手に分かれよう。危険は承知だ。しかし、速やかに解決すべきだ。いまだかつてなかった事態だからな」
「ボクも赤木クンに賛成。時間をかけて周りにまで広がっちゃったら大変だからねぇ」
そうか……広がるかもしれないんだ。
今まではその建物の中だけで済んでいた。でも今回は、あのモヤが外に出てしまっているんだから。今はまだ遊園地を覆っているだけだけど、もし駅や街にまで広がったら……
「いつも負担をかけてしまって済まない。私達も全力でサポートしよう」
真剣な眼差しでモニターを食い入るように見つめている博士に代わり、よろしく頼む、と頭を下げた黒野先生。憂いを帯びた紫の瞳が俺を静かに見つめた。
「……レン」
カツカツと歩み寄ってくるブーツの音。
優しく手を取られたかと思えば手のひらに冷たい感触が、見覚えのあるピンクで明るい紫な筒が乗せられていた。
「これ……」
「前のは壊されてしまっただろう? 出来る限りの調整を施した改良版だ。五、六発は問題なく打てる筈だ」
「ありがとうございます」
髪を梳くように撫でてくれていた手が名残惜しそうに離れていく。無茶はするなよ、と耳元で囁かれた声が少しだけ震えていたような気がした。
なんて答えたらいいか分からなかった。ただ、遠ざかっていく背中をただ見つめるだけしか。
ふとモニターばかりを見ていたアイスブルーとかち合う。
「邪神の守護者と鉢合わせになった場合はすぐに他の皆と合流、場合によっては撤退するんだよ? たとえ、殲滅出来ていなくてもね」
「しかし、それでは被害が」
「遊園地全体を輝石の輝きで囲めるよう準備を進めている。キミ達が体制を立て直す間の時間くらいは稼げるだろう」
「なら、大丈夫だね。まぁ、オレ達がちゃっちゃとぶっ飛ばしちゃうから、必要なくなっちゃうけど」
明るく頼もしいダイキさんの言葉に和んだ空気。ふわりと漂う温かさをコウイチさんが引き締める。
「とても頼もしいが、油断はするなよ。担当するエリアだが……俺は東へ行こう。黄川は北、青岩は西を頼む」
「オッケー」
「了解した」
サムズアップして黄色の瞳がウィンクし、凪いだ海のような青い瞳が静かに頷く。
「レンは緑山と中央に居てくれ。三つのエリアには全て中央へ最短で向かえる道が有るからな」
「はい」
「分かりました」
「各自殲滅次第中央へ合流。万が一変身が解けたり、数で押されそうになった時は中央へ撤退、鎧兜を確認した場合は皆に連絡を入れつつ中央へ撤退してくれ」
燃えるような赤い瞳が俺達を一人一人見つめていく。
「全員で帰るぞ。絶対に、誰一人欠けることなく」
伸ばされた手に皆の手が重なり、続けて決意に満ちた声が響き合った。
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