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再び、ダイキさんの部屋にて

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 しっとりとした指の腹から撫でられる度に、押される度に、情けない吐息を漏らしてしまう。

 勝手にもぞもぞ動いてしまう身体に合わせて、俺達を支えるベッドが重く軋んだ音を立てた。

「あー……そこ、そこ……スゴく気持ちいいです……」

「凝ってますねぇ、お客さん。ちゃーんと解しとかないと、筋肉痛になっちゃいますよ?」

 悪戯っぽく笑いながらダイキさんが俺のふくらはぎをゆったり揉んでいく。

 足首から膝に向かって優しく押されていくとちょっぴり痛いけれど気持ちがいい。何となくだけれど、パンパンだった足が軽くなっていく気がするな。

「もう、なりかけてて……あっ、うー……あー……すご……ホント、上手ですね……」

「いっぱい勉強したし、毎日やってたからね」

 黄色の瞳に宿る柔らかい光。俺ではない誰かを愛おしそうに見つめる遠い目。

 すぐに分かった。前にも見たことがあったから。

「……お姉さんに、ですか?」

「うん。寝たきりだと関節が固まっちゃうからね。少しでも血行が良くなるようにって、ね……」

 そりゃあプロ並みの腕にもなるだろう。ホントに好きで、大切なんだな……

 ほんわかしたハズの胸にちょっぴり感じた寂しさを見て見ぬ振りをする。

 だって、それは表にだしちゃいけないんだから。皆から貰っちゃいけないくらい貰っている俺には……そんな資格、ないんだから。

「……よっし! こんなもんかな……どう? 調子は?」

 モデルさんみたいにキレイな手が、一丁上がり! と言わんばかりに俺の二の腕をぽんっぽんっと叩いてから離れていく。

 高い背を屈め、俺の顔を覗き込む黄色の瞳は宝石みたいに煌めいていた。

 ……気づかなかった。ぼんやりしてたせいで。両足だけでも有り難かったのに、両腕もマッサージしてもらってたなんて。

「……ありがとうございます、スッキリしました。重たい感じがしてたんですけど、それもばっちり取れましたし」

 彼の言っていた通り、血行が良くなったんだろう。ぽかぽかしていい気持ちだ。このまま横になったらぐっすり眠れそう。

「良かった。じゃあ、選手交代!」

「へ?」

 横になったのは、ダイキさんだった。しかも俺の膝を枕代わりにして。

「あ、あの……ダイキ、さん?」

「ふっふー今度は、レンレンの番だよ! しっかりオレを癒やしてね? よろしく!」

「よろしくって……」

 癒すって……どうしたらいいんだ?

 マッサージは出来ない……っていうか難しいよなこの体勢じゃ。出来てせいぜい頭くらい……頭、か。

 何もしないよりはマシだろう、と頭をそっと撫でてみる。うっわ……柔らかい。

 肩まで伸びた黄色の髪。指先に触れる表面はツルリと滑らかなのに、髪質がふわふわしていて触り心地抜群だ。何度でも撫でたくなってしまう。

「お、いいねぇー上手上手。その調子でよろしくね!」

 俺を見上げる黄色の瞳が満足そうに微笑んだ。

「は、はい」

 鼓動がドキリと弾む。

 褒めてもらえたのは嬉しい。でも、良いんだろうか? コレで。俺の方が癒やされてるような気がするんだけどな。

 のんびりと流れていく空気にぽつりと音が乗る。

「……レンも、ちゃんとオレの特別だからね」

「え?」

「姉さんのことは大事だよ。ずっとオレの世界の中心だったから。だから比べられないし、比べたくない」

 意味が違うからね、と柔らかく微笑む。続けて紡ぐ声も柔らかかった。

「でも、レンも同じくらい大事だし、大好きだから……それだけは、分ってて欲しいんだ」

 ちょっと泣きそうだ。いや、もう泣いてるかもしれない。

 だって、よく見えない。じわじわ熱くなって滲んでいくんだ。もっと見ていたいのに。俺だけに向けてくれている笑顔を、もっと。

「はい……ありがとうございます。スゴく嬉しいです……俺も……好き、ですよ……」

 こぼしてしまわないようにと目元を擦ってる内に、膝の上から重みと温もりが遠のいていく。

「あっ……ダイキさ」

 肩を捕まれたと思えば押し倒されていた。今度は見下ろしてくる黄色が熱を帯びている。

「交代……今度はオレが、レンを癒やしてあげるね……」

 甘さを含んだ声と一緒に軋んだ音が耳に届く。しなやかな指に拭ってもらえ、ハッキリした視界はすでに蕩けるような笑顔でいっぱいだった。

「待っ……ぁ、ん……んっ、ふ……」

 あっという間に奪われてしまった。言葉も吐息も艷やかに微笑む唇にまるっと全部。

 やっぱり、俺ばっかりじゃないか。甘やかされて、癒やされてさ。

 もう一回交代してもらおうとしたけど、ダメだった。今はオレの番だから……ってずっと抱き締められて、離してくれなかったんだ。
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