【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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【新婚旅行編】最終日:甘え方は、やっぱり猫みたいなんだよな

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「ですが、お気持ちは分かります。仮に私が皆様と同じ立場でしたら、紅茶の一杯くらいは召し上がって頂きたいと存じます故」

「あ、そうだね。俺も、その日に焼いた焼き菓子で良ければって出しちゃうや。せめてものお礼っていうかさ」

「ええ、分かります」

 思わず笑い合ったところで、ふと会話が止まっていた。
 気まずくはない。でも、意識はしてしまう。今の俺達の距離感を。触れ合っている体温を。少しでも顔を近づければ、触れてしまいそうな唇を。

 今度はバアルの方だった。

「……有効でしょうか?」

 何の脈絡もなく尋ねてきたのは。

「え……?」

「また後でと、そう仰って頂けましたよね?」

「う、うん」

 それだけで、分かってしまった。彼の言いたいことが、望んでいることが。そもそも、約束したのは俺なのだから。

「あの時は、約束のお時間が迫っておりました故に、あまりアオイから構って貰えてはいなかったでしょう? ですから……」

 視界に映っているのはバアルだけ。でも、俺の気付かぬ内に体勢が変わっていた。横になって見つめ合っていたハズのバアルが、今は俺を見下ろしている。射抜くように鋭く、ギラついた瞳で。

「宜しいでしょうか?」

 もう、分かっているんだろう。俺が返す言葉なんて、ひとつしかないって。
 返事を待つことなく、鋭い牙がゆらりと迫ってきていた。噛み付いてきた。それでも、やっぱり変わらない。唇が甘く疼いただけだった。



 甘え方は、やっぱり猫みたいなんだよな。
 実際に生えているのはもふもふな耳と尻尾じゃなくて触角と羽で。ふわふわしているのは髪の毛とお髭の方なんだけど。

 形のいい頭の上で緩やかに揺れている二本の触角、広く頼もしい背中ではためく半透明の羽。彼のご機嫌っぷりを伝えてくれているそれらを眺めながら、いつもより下にある頭を撫でる。

 手入れの行き届いた白い髪は艷やかだ。シャンデリアの淡い光を浴びて銀の糸のように煌めいている。
 その光沢は細く長い触角のように時々金属めいて見えるものの、ひと度指を入れればするりと。柔らかな感触が指横を優しく撫でていく。この感覚が堪らない。何度も何度も撫でたくなってしまう。

 彼の、バアルの手つきを思い出しながら美しい髪を愛でていく。
 眠ってしまったかのように静かな彼の代わりに強請ってくれているみたい。四枚の羽がまた少し大きく広がっていく。もっとお願いします、とばかりにより一層早くはためき始めた。

 応えてあげなければ。だらしなくニヤけかけている口元を引き締める。頭のてっぺんから首筋へとなぞるよう、手櫛で髪を梳いていく。
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