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とある兵団長の避難場所といつものメニュー
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何においても大概は、選択肢が多い方がいいものだ。
そもそも時と場合によっては、選ぶ機会すらないこともあるからな、しかし。
「ほい、いつものっ」
贅沢すぎる悩みに頭を抱えていた私の前へ、分厚く切られたベーコンがたっぷり入った、大盛りのナポリタンが勢いよく置かれる。
手を合わせ、真っ赤なソースをたっぷり絡めて口に含めば、途端に広がるトマトの甘さとバターのコク。幸せの味に、自然と気持ちが緩んでいく。胸にギッシリと詰まっていたものが、一気に軽くなった気がした。
だが、しかし、今日はいつもよりベーコンが多いような。
「随分、豪勢だな」
「今日は、俺もチビ達もごきげんだからな。サービスだ」
もちもちと弾力のあるパスタに、シャキシャキの玉ねぎとピーマン。ガツンとくるベーコンの塩気に堪らず、私は一心不乱に、ナポリタンの山にがっついてしまっていた。
そんな私の様子を向かいの席で、満足そうに眺めていた彼、スヴェンが白い牙を見せる。
ツンツンした焦げ茶色の頭の上には、彼のアシストであるスーがいた。見覚えのある可愛らしい緑色のリボンを首に巻いて、ぷきゃっと上機嫌に鼻を鳴らし、小さな黒い羽をはためかせている。
……あのリボン、確かアオイ様のクッキーの……ということは……
「バアル様とアオイ様か」
「よく分かったな。もしかして、俺と仕立て屋だけじゃなくて、レダのところにも?」
スヴェンは、丸くしていた黒い瞳を細め「美味しかったよな、あのクッキー」とだらしなく頬を緩める。
同時に、同意を示すような鳴き声が、頭の上や厨房のあちらこちらから、ぷきゃっぷきゅっと上がった。
「ああ。丁度、朝の鍛錬が終わった頃にな。しかも、きっちり全員分だ」
「スゴいなっ! ウチのチビ達の分だけでも、結構な数だったろうに」
「……本当に恐れ入ったよ。お陰で、皆の士気も右肩上りで非常に喜ばしい…………ことなんだがなぁ」
頭の中にふわりと浮かんだ、微笑ましい笑顔。
バアル様とお二人で仲良く、大きなバスケットを届けに来てくださった、アオイ様のはにかむ笑顔が塗り潰されていく。
ほんの数時間前に、浴びせられたいくつもの眼光。兵舎を揺らすほど雄々しい歓声を上げ、闘志にギラギラ燃える部下達の鬼気迫る表情によって。
再び思い出してしまった難問に思わず、フォークも食欲も止まってしまった。
「……もしかしなくても、今日の逃げてきた理由、か?」
「ああ……兵舎に居ると、皆のプレゼンが激しくてな……」
代わる代わる部屋を訪れては、自分の特技や性格、お二人への想いを熱弁し始めるのだ。それだけならまだいい。剣技や魔術まで披露しようとしだすものだから参ってしまう。
「プレゼン?」
「近々、アオイ様の親衛隊を作ることになってな、ひとまず立候補者を募ったんだが……」
「ははっ、まさか全員手を挙げたのか?」
彼もそんなことはないだろうと冗談で言ったんだろう。本当に、冗談ならば良かったのだが。
「……そのまさかだ」
「あー…………まぁ、選り取り見取りで……いいんじゃないか?」
あからさまに黒い瞳が私から逸れ、快活な笑いが乾いたものに変わる。
「……だから困っているんだ」
まさか、足りずに困ることはあっても、多すぎて困ることになるとは思わなかった。
確かに、お二人の仲睦まじい幸せそうな姿を見れば、力になりたいと思う者はいるだろうと確信してはいたんだが。
「うーん……いっそ、大会でも開いたらどうだ?」
ぽろりと投げかけられた彼の提案が、胸にすとんと落ちてくる。
「立候補するくらいだ、お二人への忠誠心は問題ない訳だろ? だったら、後は実力で決めるしかないんじゃないか?」
「……成程、真剣勝負で勝ち上がった者達なら、不満が出ることもないな。助かったよスヴェン」
「お役に立てたようで良かったよ」
現金なもので、悩みが解決すれば、再びもりもりと食欲が湧いてきてしまう。
突き動かされ、残りのパスタをあっという間に完食した私に「お代わりもあるぜ?」とスヴェンが微笑んだ。
そもそも時と場合によっては、選ぶ機会すらないこともあるからな、しかし。
「ほい、いつものっ」
贅沢すぎる悩みに頭を抱えていた私の前へ、分厚く切られたベーコンがたっぷり入った、大盛りのナポリタンが勢いよく置かれる。
手を合わせ、真っ赤なソースをたっぷり絡めて口に含めば、途端に広がるトマトの甘さとバターのコク。幸せの味に、自然と気持ちが緩んでいく。胸にギッシリと詰まっていたものが、一気に軽くなった気がした。
だが、しかし、今日はいつもよりベーコンが多いような。
「随分、豪勢だな」
「今日は、俺もチビ達もごきげんだからな。サービスだ」
もちもちと弾力のあるパスタに、シャキシャキの玉ねぎとピーマン。ガツンとくるベーコンの塩気に堪らず、私は一心不乱に、ナポリタンの山にがっついてしまっていた。
そんな私の様子を向かいの席で、満足そうに眺めていた彼、スヴェンが白い牙を見せる。
ツンツンした焦げ茶色の頭の上には、彼のアシストであるスーがいた。見覚えのある可愛らしい緑色のリボンを首に巻いて、ぷきゃっと上機嫌に鼻を鳴らし、小さな黒い羽をはためかせている。
……あのリボン、確かアオイ様のクッキーの……ということは……
「バアル様とアオイ様か」
「よく分かったな。もしかして、俺と仕立て屋だけじゃなくて、レダのところにも?」
スヴェンは、丸くしていた黒い瞳を細め「美味しかったよな、あのクッキー」とだらしなく頬を緩める。
同時に、同意を示すような鳴き声が、頭の上や厨房のあちらこちらから、ぷきゃっぷきゅっと上がった。
「ああ。丁度、朝の鍛錬が終わった頃にな。しかも、きっちり全員分だ」
「スゴいなっ! ウチのチビ達の分だけでも、結構な数だったろうに」
「……本当に恐れ入ったよ。お陰で、皆の士気も右肩上りで非常に喜ばしい…………ことなんだがなぁ」
頭の中にふわりと浮かんだ、微笑ましい笑顔。
バアル様とお二人で仲良く、大きなバスケットを届けに来てくださった、アオイ様のはにかむ笑顔が塗り潰されていく。
ほんの数時間前に、浴びせられたいくつもの眼光。兵舎を揺らすほど雄々しい歓声を上げ、闘志にギラギラ燃える部下達の鬼気迫る表情によって。
再び思い出してしまった難問に思わず、フォークも食欲も止まってしまった。
「……もしかしなくても、今日の逃げてきた理由、か?」
「ああ……兵舎に居ると、皆のプレゼンが激しくてな……」
代わる代わる部屋を訪れては、自分の特技や性格、お二人への想いを熱弁し始めるのだ。それだけならまだいい。剣技や魔術まで披露しようとしだすものだから参ってしまう。
「プレゼン?」
「近々、アオイ様の親衛隊を作ることになってな、ひとまず立候補者を募ったんだが……」
「ははっ、まさか全員手を挙げたのか?」
彼もそんなことはないだろうと冗談で言ったんだろう。本当に、冗談ならば良かったのだが。
「……そのまさかだ」
「あー…………まぁ、選り取り見取りで……いいんじゃないか?」
あからさまに黒い瞳が私から逸れ、快活な笑いが乾いたものに変わる。
「……だから困っているんだ」
まさか、足りずに困ることはあっても、多すぎて困ることになるとは思わなかった。
確かに、お二人の仲睦まじい幸せそうな姿を見れば、力になりたいと思う者はいるだろうと確信してはいたんだが。
「うーん……いっそ、大会でも開いたらどうだ?」
ぽろりと投げかけられた彼の提案が、胸にすとんと落ちてくる。
「立候補するくらいだ、お二人への忠誠心は問題ない訳だろ? だったら、後は実力で決めるしかないんじゃないか?」
「……成程、真剣勝負で勝ち上がった者達なら、不満が出ることもないな。助かったよスヴェン」
「お役に立てたようで良かったよ」
現金なもので、悩みが解決すれば、再びもりもりと食欲が湧いてきてしまう。
突き動かされ、残りのパスタをあっという間に完食した私に「お代わりもあるぜ?」とスヴェンが微笑んだ。
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