【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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人ってさ、飛ぶだろ?

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 人ってさ、飛ぶだろ?

 いやほら、アクション全振りの映画とか、そういうアニメとか、漫画で。こう、ちぎっては投げ、ちぎっては投げって感じでさ。

 主人公やヒロインとか、二人の仲間達が殴ったり蹴ったりすると、やられ役の方達とか悪役サイドの方が飛ぶだろ? 物理法則とかもろもろを無視してそうな謎の力で。

 だから、空気中に魔術の元なんていうファンタジーな物質が含まれている、この地獄だったらさ。人もとい悪魔の方々が、瞬きの間にぶっ飛んでいっても何もおかしくはないだろ? うん、おかしくはないハズだ。



 晴れ渡る青空に、飛行機雲が白いアーチを描くように。縦にも横にも体格のいい男性が、放物線を描きながら勢いよく飛んでいく。

 側頭部に牛の角を生やし、筋骨隆々の身体に鈍く光る鎧を。もし俺が着たら、一歩踏み出すだけでも重労働になりそうな武装をした兵士さんが、ハヤブサと勝負出来そうな速さで、身体をくの字に曲げたまま。

 これくらい、彼等にとっては、なんら驚くことではないのだろう。日常茶飯事なのかもしれない。

 現に飛んでいってしまった兵士さんのお仲間さん達は、目もくれずに模擬戦を継続しているし。周りで観戦している兵士さん達も、ヒーローショーを見る子供達のように目を輝かせて、わーわー! うぉーうぉー! 野太い声援を送ってるしさ。

 因みにぶっ飛ばした方はというと、だだっ広い演習場の中心で、残りの5人と乱戦の真っ最中。汗ひとつかかず、振りかぶられた厳つい拳や豪快な回し蹴りを、必要最低限の動きでいなしている。カッコいい。

 すらりと伸びて引き締まった体躯どころか、身に纏う執事服にすら、彼等の手足が掠ることはない。後ろにキッチリ撫でつけられた、白く艷やかなオールバックが乱れることもない。

 それどころか、綺麗に整えられた白い髭が素敵な口元を綻ばせている。宝石のように煌めく緑の瞳を細めながら、白い手袋に覆われた手で、ひらひらと俺に向かってファンサービスをしてくれる余裕綽々っぷりだ。

 素敵だなぁ。あ、振り返したらウィンクしてくれた。やったぁ。

「おーおーますます動きにキレが出てきたな」

「お前らッもっと気合を入れろ! ヨミ様とアオイ様の御前だぞッ!!」

 地獄の現王様であるヨミ様が、愉快そうに開いた大きな口から白い牙を覗かせる。

「流石アオイ殿、盛り上げ方を分かっておるな!」

 コウモリの形をした真っ黒な羽をご機嫌そうにはためかせ、俺の肩をぽんぽん叩く。

 その後ろに控えるように佇んでいた、兵団長であるレダさんは、拳を振り上げ、部下である兵士さん達に向かって檄を飛ばしていた。

 よっぽど熱くなっているんだろう。整えられた顎髭と同じで薄茶色の、ライオンみたいな耳はピンと立ち上がっている。胸元が色とりどりの勲章で彩られた、軍服のコートから垂れていた尻尾も、全体どころか先っぽの毛まで逆立っている。

 ああ、また一人……今度は、狼みたいな白銀の耳と尻尾が綺麗な兵士さんが、飛び蹴りをした勢いのまま足を掴まれて、フルスイングされてしまった。

 おまけに彼を咄嗟に助けようとしていた、ワニみたいな黒い光沢のある尻尾を生やした兵士さんまで。巻き込まれて、重なって、飛んでいってしまっている。

 でもまぁ、彼等もきっと大丈夫だろう。さっき飛ばされた方も、いつの間にか戻ってきていてるし。それどころか、元気にタックルをかまそうとしているから。

 なんか二人が飛んでった方向から、ドンガラガッシャンとか。盛大に重たい何かが砕けたり、ガラス的な物が割れる音もしたけど、大丈夫なハズだ。多分。

 大乱闘の中心で、絶賛無双している彼こと、俺の大切な人であるバアルさん。

 いつもだったら、今頃、彼と手に手を取りながらのんびりお散歩をしているか、楽しくシャル・ウィ・ダンスしているお時間なのだが。

 何故、王道少年漫画的な展開になってしまったのかというと。きっかけは、昼食後に訪れた二人。

 そう、俺の隣で「よいぞーいけいけ!」と大層ご満悦な表情でバアルさんを応援しているヨミ様と「全身全霊でぶつかれ!!」と兵士さん達を鼓舞しているレダさんからの、報告と言う名の決定事項からだった。
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