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とある兵団長による現状報告
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なんだか皆落ち着きがないというか、どこか賑やかさにかけていると感じた。違いといえば、バアル様とアオイ様……お二方がご不在だという点だけなのだが。
妙に静かな城内を足早に進み、辿り着いた上品な装飾によって彩られた堅牢な扉を四回叩く。
「入るがよい」
反射的に、全身に必要以上の力が入ってしまう。間髪入れずに短く返された、いつも以上に威厳に満ちあふれた低い声に促されて。
「……失礼いたします」
いつの間にかキツく握り締めていた拳を、一度緩めてから握り直す。改めて気を引き締め踏み入れた執務室は、肺が締めつけられそうなくらいに重々しい空気が漂っていた。
音を立てぬよう細心の注意を払いつつ扉を閉めた私に、手元の書類を見つめたまま我らが主が問う。
「……状況はどうだ?」
背にある大きな窓から差し込む日差しが、ヨミ様を照らす。木製の広い机に向かい、業務に追われている我が国の主を。
左右の側頭部から生えている鋭い角が、淡い光沢を帯びている。長く艷やかな黒髪には、温かい陽の光によって光の輪が描かれていた。
「先程、無事にアオイ様が、バアル様への贈り物をご購入されたようです」
紙の上をひたすら走り、一定のリズムを奏でていたペンが止まる。
……気のせいだろうか? 綺麗に折りたたまれていたはずの真っ黒な羽が、僅かにそわそわと揺れたように見えたのは。
「……お二方とも、雑貨屋でのお買い物を楽しまれたようで……微笑み合いながらお店を後にしたと先行組から報告が……」
「そうか! それは何よりだなっ!!」
雑念を振り払い報告を続けていた私を、弾んだ声が食い気味に遮った。
……気のせいではなかったようだ。弾かれたように顔を上げたヨミ様の背中では、大きく広がった羽がご機嫌そうにぱたぱたとはためいている。
嬉しそうに細められた真っ赤な瞳には、いつもの自然と平服したくなるような威厳は一切ない。ただただ無邪気な輝きを宿していた。
「それで、どうだったのだ? やはり、大量の買い物袋を抱えていただろう?」
「いえ、大きめの紙袋が一つとのことです」
キラキラと輝いていた切れ長の瞳が、きょとんと瞬いた。立ち上がりかけていた長身が、ゆっくりと上質な黒革の椅子へ戻っていく。
黒い手袋に覆われたしなやかな指を口元に当て、スラリと伸びた足を上品な動作で再び組み直した。
「ほぉ……意外だな。アオイ殿が相手ならば……私の時以上に、もっと大量のプレゼントを贈るものだと思っていたんだが……」
……そう言えば昔、耳にしたことがあったな。バアル様が、ヨミ様からプレゼント禁止令を出されたという噂を。
確か……座学の小テストで満点を取ったからだとか、新しい魔術を習得したからだとか。はたまた、初めてコースターを手作り出来たからだとか。ことあるごとに、喜び勇んで贈り物をされていたとか。
そうして、ついに……気持ちはとても嬉しいが……と誕生日以外のプレゼントは控えるように言い渡されたらしい。
私だって貴殿に貢ぎたいんだぞ! なのに毎回倍返しするんじゃない!! とヨミ様が声を大にして言っていた、と話すものもいたな。真実であったのかは、定かではないが。
「……アオイ殿が、上手くバアルの手綱を握れているのかもしれんな」
ぼんやりと浮かべていた思考が遮断される。それはそれで喜ばしいことだ! と高らかに笑う声によって。
「他には、何かなかったか?」
「……先行組からの報告によりますと、紙袋から大きな猫の……」
「ああ、待った! ストップ!! すまないが、本作戦に関係がない詳細は控えてくれ。二人から直接聞かせてもらう時の楽しみが半減してしまうからな」
激しい音と共に立ち上がったヨミ様の羽が、慌てているようにわたわたとはためく。
……私としたことが、失念していた。
昨晩『……今度、バアルとアオイ殿とお茶会をするんだ!』と大変嬉しそうに微笑みながら、お土産にバームクーヘンを買ってきてもらう約束をしたんだと。二人の話を聞けるのが楽しみだと、我らが主が満面の笑みで仰っていたというのに。
「……申し訳ありませんでした」
「いや構わん、気にするな。事前に言っておかなかった、私が悪いのだからな」
柔らかい声で、そう仰ってくださった主の寛容さに胸を撫で下ろす。
いつの間にか満ちていた、室内に漂う穏やかな空気に、引き締めていた気持ちが緩みかけた時だった。ヨミ様の纏う雰囲気が、途端にガラリと変わったのは。
「ところで、一応確認しておくが……誰一人として邪魔に入らせてはいないだろうな?」
ゆらりと向けられた鋭い視線が、心臓を抉らんばかりに突き刺さってくる。地を這うような低い声が、鼓膜を揺らしながらヒヤリと胃の腑を撫でていく。
正直、生きた心地がしなかった。
ドロリと全身に纏わりつくようなこの殺気は、己に向けられているのではないんだと、分かっている筈なのだが。
「……はい。全て、接触前に防いでおります」
「そうか! 大変頼もしい限りだなっ!!」
太く広がり、逆立っていた尻尾の毛が徐々に落ち着いていく。スイッチが切り替わるみたいにパッと暴力的な威厳が消え、入れ替わるように戻ってきた、明るく弾んだ声から光栄にも褒め称えられて。
「引き続き、二人のことを宜しく頼んだぞ……レダ」
「畏まりました」
……理解っていたつもりだったが、どうやら改める必要がありそうだ。私が思っていた以上にヨミ様にとって……バアル様とアオイ様、お二方の存在は大変大きいのだと。
妙に静かな城内を足早に進み、辿り着いた上品な装飾によって彩られた堅牢な扉を四回叩く。
「入るがよい」
反射的に、全身に必要以上の力が入ってしまう。間髪入れずに短く返された、いつも以上に威厳に満ちあふれた低い声に促されて。
「……失礼いたします」
いつの間にかキツく握り締めていた拳を、一度緩めてから握り直す。改めて気を引き締め踏み入れた執務室は、肺が締めつけられそうなくらいに重々しい空気が漂っていた。
音を立てぬよう細心の注意を払いつつ扉を閉めた私に、手元の書類を見つめたまま我らが主が問う。
「……状況はどうだ?」
背にある大きな窓から差し込む日差しが、ヨミ様を照らす。木製の広い机に向かい、業務に追われている我が国の主を。
左右の側頭部から生えている鋭い角が、淡い光沢を帯びている。長く艷やかな黒髪には、温かい陽の光によって光の輪が描かれていた。
「先程、無事にアオイ様が、バアル様への贈り物をご購入されたようです」
紙の上をひたすら走り、一定のリズムを奏でていたペンが止まる。
……気のせいだろうか? 綺麗に折りたたまれていたはずの真っ黒な羽が、僅かにそわそわと揺れたように見えたのは。
「……お二方とも、雑貨屋でのお買い物を楽しまれたようで……微笑み合いながらお店を後にしたと先行組から報告が……」
「そうか! それは何よりだなっ!!」
雑念を振り払い報告を続けていた私を、弾んだ声が食い気味に遮った。
……気のせいではなかったようだ。弾かれたように顔を上げたヨミ様の背中では、大きく広がった羽がご機嫌そうにぱたぱたとはためいている。
嬉しそうに細められた真っ赤な瞳には、いつもの自然と平服したくなるような威厳は一切ない。ただただ無邪気な輝きを宿していた。
「それで、どうだったのだ? やはり、大量の買い物袋を抱えていただろう?」
「いえ、大きめの紙袋が一つとのことです」
キラキラと輝いていた切れ長の瞳が、きょとんと瞬いた。立ち上がりかけていた長身が、ゆっくりと上質な黒革の椅子へ戻っていく。
黒い手袋に覆われたしなやかな指を口元に当て、スラリと伸びた足を上品な動作で再び組み直した。
「ほぉ……意外だな。アオイ殿が相手ならば……私の時以上に、もっと大量のプレゼントを贈るものだと思っていたんだが……」
……そう言えば昔、耳にしたことがあったな。バアル様が、ヨミ様からプレゼント禁止令を出されたという噂を。
確か……座学の小テストで満点を取ったからだとか、新しい魔術を習得したからだとか。はたまた、初めてコースターを手作り出来たからだとか。ことあるごとに、喜び勇んで贈り物をされていたとか。
そうして、ついに……気持ちはとても嬉しいが……と誕生日以外のプレゼントは控えるように言い渡されたらしい。
私だって貴殿に貢ぎたいんだぞ! なのに毎回倍返しするんじゃない!! とヨミ様が声を大にして言っていた、と話すものもいたな。真実であったのかは、定かではないが。
「……アオイ殿が、上手くバアルの手綱を握れているのかもしれんな」
ぼんやりと浮かべていた思考が遮断される。それはそれで喜ばしいことだ! と高らかに笑う声によって。
「他には、何かなかったか?」
「……先行組からの報告によりますと、紙袋から大きな猫の……」
「ああ、待った! ストップ!! すまないが、本作戦に関係がない詳細は控えてくれ。二人から直接聞かせてもらう時の楽しみが半減してしまうからな」
激しい音と共に立ち上がったヨミ様の羽が、慌てているようにわたわたとはためく。
……私としたことが、失念していた。
昨晩『……今度、バアルとアオイ殿とお茶会をするんだ!』と大変嬉しそうに微笑みながら、お土産にバームクーヘンを買ってきてもらう約束をしたんだと。二人の話を聞けるのが楽しみだと、我らが主が満面の笑みで仰っていたというのに。
「……申し訳ありませんでした」
「いや構わん、気にするな。事前に言っておかなかった、私が悪いのだからな」
柔らかい声で、そう仰ってくださった主の寛容さに胸を撫で下ろす。
いつの間にか満ちていた、室内に漂う穏やかな空気に、引き締めていた気持ちが緩みかけた時だった。ヨミ様の纏う雰囲気が、途端にガラリと変わったのは。
「ところで、一応確認しておくが……誰一人として邪魔に入らせてはいないだろうな?」
ゆらりと向けられた鋭い視線が、心臓を抉らんばかりに突き刺さってくる。地を這うような低い声が、鼓膜を揺らしながらヒヤリと胃の腑を撫でていく。
正直、生きた心地がしなかった。
ドロリと全身に纏わりつくようなこの殺気は、己に向けられているのではないんだと、分かっている筈なのだが。
「……はい。全て、接触前に防いでおります」
「そうか! 大変頼もしい限りだなっ!!」
太く広がり、逆立っていた尻尾の毛が徐々に落ち着いていく。スイッチが切り替わるみたいにパッと暴力的な威厳が消え、入れ替わるように戻ってきた、明るく弾んだ声から光栄にも褒め称えられて。
「引き続き、二人のことを宜しく頼んだぞ……レダ」
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