【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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バアルさんになら、食べられちゃっても

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 良いニュースと悪いニュースってのは、常にセットでもたらされるもんなんだろうか。

 今、俺の手元には良い方が。そして、あまり知りたくなかった悪い方は、早速ベッドサイドへ丁重に飾られている真っ最中だ。

 いや、ホント……城内の情報、筒抜け過ぎやしないか? 二、三日前だぞ? ヨミ様に雪合戦、開催してもらったの。

 なのに何で……その時していた格好のぬいぐるみが、もう王家公認公式ファングッズとして商品化されてるんだよ。バアルさんとヨミ様はまだしも、俺まで。バアルさんに関しては、グッジョブ過ぎるけどさぁ。

 癒やしを求めて手元を見れば、先日の執事なウサギさんスタイルを完璧に再現し、デフォルメ化されたバアルさんぬいぐるみと目が合った。

 流石のクオリティだ。

 キッチリ整えられたオールバックと渋くてカッコいい髭、額の触覚と背中にある透き通った羽の造形が素晴らしい。煌めく緑の瞳が細められ、柔らかい表情を浮かべているところもポイントが高い。

 この前買ってもらった、ノーマルな執事服姿のバアルさんぬいぐるみは、真剣モードなカッコいい系だったもんな。勿論、あれはあれで好きだけど。

「あー……かわいい。ウサギさんなバアルさん、かわい過ぎる……」

 今朝、「この前のお土産のお返しですっ」と可愛らしい笑顔と共に贈ってくれたグリムさんには、ホントに感謝してもしきれない。

 クロウさん曰く、ほとんど売り切れかけていたらしいからな。情報提供してもらってから城下町に出掛けたんじゃ、絶対間に合わなかっただろう。

 ソファーの上でだらしなく寝転がりながら、しまりのない笑顔を浮かべていた俺の上に突然影が落ちる。

 釣られて見上げれば、しょんぼりと触覚を下げ、水晶のように透き通った羽を縮め、寂しそうに細められた緑の眼差しとかち合った。

「ば、バアルさん……」

「……失礼致します」

 一分の一スケール……いや、本物のバアルさんの白い手が伸び、ちっちゃなバアルさんを俺の手からひょいっと没収していく。

 大きな手のひらの中で白いウサ耳が揺れ、瞬きの間にぽんっと煙のように消えていった。多分、ベッドサイドに移動させられたんだろう。

 次は俺の番だと言わんばかりに伸びてきた逞しい腕に、反射的に起こしていた身体を軽々と抱き上げられた。そのまま黙々と部屋の奥へ連行されていく。

 堂々と鎮座しているキングサイズよりも大きなベッドの前までくると、シーツの上に優しく転がされる。

 無造作に黒のスーツジャケットを脱ぎ捨てバアルさんが、間髪入れずに覆い被さってきた。高鳴りまくっている心音に紛れ、木材の軋む音が鼓膜を揺らした。

「ひょわ……」

 目の前に広がっているビジュアルがエグい。カッコよすぎる。

 ネクタイを外し、緩めた襟元から覗く、男らしい喉仏とくっきりと浮き上がったキレイな鎖骨が色っぽい。柔らかく微笑みかけてくれる彼も大好きだけれど、どこか涼し気な眼差しで見下ろしてくる彼も素敵だ。

「……アオイ様」

 いつもより低い声に呼ばれ、腰の辺りにぞくぞくとした感覚が走った。妖しい雰囲気を纏う彼についつい見惚れてしまっていると、絨毯に伸びた俺達の影が徐々に重なり一つになっていく。

 ……何だか、食べられちゃいそうだな。

 美しいけれどもちょっぴり怖い光を湛えた緑の瞳に、ふと有り得ないことが頭に浮かんですぐだった。

 ……バアルさんにならいいか。

 と当たり前の結論に至ったのは。真っ直ぐに結ばれた唇は、もう鼻先まで迫っている。

 が、鋭い歯でガブリといただかれることもなく、かといって甘く食まれることもなかった。掠めるように頬に優しく触れていってから、筋肉質な腕が俺を優しく抱き締める。

 最近、定番化してきた抱き枕スタイルだ。首元に彫りの深い顔を埋めた彼は何も言わないものの、全身を使って抱きつくようにスラリと伸びた足を俺に絡め、ぎゅうぎゅうと訴えてくる。

 心がひっちゃかめっちゃかだ。艷やかなカッコよさにノックダウン寸前だったところに、すかさずかわいい追い打ちを受けて。

「……ごめんなさい……ぬいぐるみにばっかり夢中になっちゃって……」

 自然と漏れていた謝罪の言葉に、しおしおと縮んでいた羽と幅広の肩がピクリと揺れる。

 拘束が緩んだかと思えば、顔を上げた彼の額がそっと重なり、シュッとした鼻先が甘えてくれるようにすり寄ってくる。

 さっきぶりに合った瞳からは心を乱される光が消え、穏やかな光に戻っていた。何だかちょっぴり残念な気もしたけれど、気のせいということにしておこう。

「……いえ……私めも貴方様とヨミ様のぬいぐるみを、いかに魅力的に飾ることが出来るものかと熱中しておりましたので」

 相変わらず器用というか、何というか。俺を腕の中に閉じ込めたまま起き上がり、逞しい膝の上へと抱き直す。

 あちらを、と白手袋を纏う手のひらでやんわり指し示されたベッドサイドには、ご丁寧にガラスケースに収納された、俺とヨミ様のウサギスタイルぬいぐるみが並んでいた。

 先程没収されたバアルさんぬいぐるみも一緒だ。淡い光が、仲良く微笑む三体を優しく包み込んでいる。時折、虹色の粒が煌めいてスゴく幻想的だ。多分、前にレストランで見たのと同じ、術による演出だろう。

 流石バアルさん。術の腕前は勿論のこと、センスも抜群だ。

「本格的で素敵ですね。お店みたい」

「お褒めに預かり光栄です」

 不意に、柔らかい温もりが俺の頬を包み込んだ。キレイにディスプレイされたぬいぐるみ達に向けていた視線をやんわりと戻されて、ようやくバアルさんの手だと気づく。

「……言葉以外でも、頂けますでしょうか?」

 絡んだ眼差しの熱っぽさに目を奪われ、艷やかに綻ぶ唇に心を鷲掴みにされる。あっという間に気持ちのグラフが急上昇し、天井をぶち抜いた俺はパニックに陥ったんだと思う。

「はぃぃ……よーしよし……」

 でなけりゃしないし、出来ない。いくら彼とのスキンシップに慣れてきたからって、丁寧に後ろに撫で付けられた艷やかなオールバックを、両手でわしゃわしゃ撫で回すなんて大それたことを。

 白い睫毛がぱちぱち瞬き、宝石のように煌めく瞳がきょとんと丸くなる。

 はっと冷静さを取り戻したものの、もう遅い。バッチリ決めていた彼のセットは、乱れに乱れてくしゃくしゃになってしまっていた。俺の手によって。

「ご、ごめんなさ……んっ」

 咄嗟の謝罪は、触れるだけのキスによって遮られた。何度か交わし、離れていった柔らかい温もりが、俺の手の甲にそっと触れた。

「もう、おしまいですか?」

「ふぇ? あ……ぅ……」

「もっと、私めに触れて下さい。ご遠慮なさらずに、さあ……」

 うっとりと瞳を細めた彼が、ほんのり染まった頬を俺の手のひらに擦り寄せ、誘う。

 怒涛の勢いで好きな人からのご褒美をいただき、別の意味で再びパニックに陥った俺がどうなったかなんて、言うまでもないだろう。

 いつものごとく、表情筋も全身もふにゃふにゃ。彼の逞しい胸元にへたり込んでしまったどころか、逆に俺の方が大きな手でよしよし宥めてもらったことなんてさ。
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