【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
214 / 1,566

バアルさんと一緒にゴロゴロ、inこたつ

しおりを挟む
 まさに極楽だ。

 ふかふかのこたつ布団は足の先から肩まですっぽり包み込んでくれ、程よい温かさが今日一日の疲れをじんわり癒やしてくれている。

 枕代わりにしている猫クッションのふわもこ加減も相まって、ぬくぬくな全身はすっかりリラックス状態。

 ふと仰向けになれば、青い水晶が煌めくシャンデリア。またうつ伏せに戻れば、幾何学模様と花柄が組み合わさった模様が芸術的な絨毯。

 大きく広いテーブルや上質な生地が使われたソファーには、当たり前のように華やかな銀の装飾が足や背もたれ等に施されている。勿論、ベットはキングサイズ……いや、それよりも大きいかもしれない。

 そんな、いかにもファンタジーな貴族の方々が生活なさるような一室に、和の象徴ともいえるこたつがど真ん中でフル稼働していることは、やっぱり違和感しかない。

 が、この快適さの前では些細なことだ。現に住まわせてもらっている俺は気にしていないし。そもそも再び出してくれたのは、同居人であり俺の大事な人である彼、バアルさんだからな。

 胸がときめく柔らかい微笑みを思い浮かべたからだろうか。聞き慣れた穏やかな低音が、うとうとしかけていた俺の鼓膜を揺らす。

「アオイ様、お風呂の準備が整いました」

 声の方へと顔を上げたものの、すらりと伸びた黒いシルエットしか見えない。

 下がりまくっている重たい瞼によって、視界が制限されているせいだ。あとぼやけてるし。

 軽やかな動きからして、多分いつもの指先までキレイな所作で丁寧なお辞儀をしているんだろう。ピタリと止まった彼が流れるような動作で跪いたことで、ようやく鼻筋の通ったお顔とご対面出来た。

「んぅ……ありがとう、ございまふ……」

 何とか返事だけ返せたものの、すでに口の方にまで眠気が回っていたらしい。柔らかい笑みの形をしていた唇から、くすりと小さな吐息が漏れる。

「ふふ、どういたしまして」

 ますます深くなった笑顔が素敵だ。ゆるりと細められた、宝石のように煌めく緑の瞳に見惚れてしまう。

 勿論、キッチリ後ろに撫で付けたオールバックも、清潔感漂う白い髭も渋くてカッコいい。スーツの上からでも分かる、鍛え上げられた男らしい肉体は憧れでしかない。

 なのに、かわいさも兼ね揃えてるんだからズルい。額から生えている触覚は上機嫌に揺れ、背中にある半透明の羽はひっきりなしにぱたぱたとはためいている。

「では、参りましょうか」

 頭の中がバアルさんでオーバーフローしかけていた俺に、白手袋を纏った手が差し出される。

 当然俺は、喜び勇んで手を乗せた。もし今も、あのウサギさんフードマントを身に着けていたら、全力で耳と尻尾が揺れていることだろう。

 だが、それ以上身体は動かなかった。意識の方はわりと覚めているのに、どうしてもこたつの中から抜け出すことが出来ない。というか出たくない。

「……アオイ?」

 不思議そうに小首を傾げた彼の白い睫毛がぱちぱち瞬く。そりゃそうだ。さっきは一目散なお手を披露したってのに、いまだこたつに潜り込んだままなんだからな。

「もうちょっと……もうちょっとだけですから……」

 やっぱり俺の思考と口は繋がっているらしい。気がつけば我儘な気持ちが、相変わらずふにゃふにゃな口から漏れてしまっていたんだ。それだけじゃない。

「あ、バアルさんも一緒にゴロゴロしましょうよ……ね?」

 いっそのこと共犯にしてしまおうと繋いだ彼の手を引っ張ってしまっていたんだ。何やってんだと頭を抱えていることだろう。後々、冷静になった俺は。

 でも、この時の俺は、ちょいちょい引っ張り続けることを止めなかった。すでに、バアルさんとこたつでぬくぬくすることしか頭になかったからな。

 じっと見つめ続けていると、白い頬がほんのり染まっていく。連動するみたいに柔らかい曲線を描いていたはずの口元が、きゅっと結ばれ、歪んだ。

 どうしたんだろう? 照れている、みたいだけど……今までの流れで照れる要素、あったっけ?

「……お邪魔させて頂きます」

 バアルさんが繋いだ手を離す。降参を示すように、しなやかな腕を軽く上げてから腰を下ろした。透き通った羽をそわそわとはためかせる彼の表情は
、もう何事もなかったかのように柔らかく綻んでいた。

 キッチリ着こなしていた黒いスーツジャケットとベストを手早く脱いで、続けて緩めたネクタイと手袋を何処かへと消す。二、三個緩め、無防備になったシャツの襟元から、綺麗な鎖骨がチラリと覗いた。

「へへ、やったぁ」

 何事も無かったかのようになったのは俺も同じで
。単純な俺の脳みそからは、先程の疑問があっさり抜け落ちていた。またしても頭の中がバアルさん一色に染まっていく。

 入りやすいようにこたつ布団を捲くれば、バアルさんはその長身の体躯をするりと潜らせた。

「……失礼致します」

 そう一言断りを入れた彼が、優しく俺の頭を持ち上げる。さっきまでの慎重さとは打って変わって、すぽんっと勢いよく猫クッションが引き抜かれた。お役御免ということだろう。

 彼がひと撫でするだけで、俺の重みでくしゃりとシワの寄った姿はキレイに戻り、ふよふよと宙を浮きながらソファーへと戻っていく。俺もこれくらいスマートに術を使えるようになりたいもんだ。

 ぼんやりクッションを見送っていた俺の頬に、大きな手が添えられる。はたと視線を戻せば鮮やかな緑の瞳とかち合った。

「アオイ様……さあ、此方へどうぞ」

 白くしなやかな指が俺の頬を撫で、穏やかな低音が誘う。緩やかに上がった口角が、なんだかスゴく色っぽい。

「ひゃい……」

 一発で心を掴まれた俺の口からは、間の抜けた音が漏れていた。鼓動がドキドキ小躍りし始めるのを合図に、さっきまでいたハズの眠気が俺の元からキレイに旅立っていった。

 吸い寄せられるようにもぞもぞ近づいて、逞しい胸元へ頬を寄せる。途端に包み込んでくれる優しい体温とハーブの香りに、みるみるうちに表情筋が溶けていってしまう。

 ……恐らく見せられない顔になってしまっているけど、問題ないだろう。この体勢なら、見られることはないんだからな。

 そんな風に高を括っていたせいなのかもしれない。すっかりお胸の筋肉を堪能していた俺は、この後、今以上に情けない顔をばっちり見せることになったんだからな。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...