【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
282 / 1,566

とある王様は、とある秘書と兵団長に挟まれる

しおりを挟む
 ほんのひと口と一杯ではあったが、口にしたことで安心したんだろう。それ以上勧めてくることはなかった。

 が、今度は強制的に、カーテンで仕切られた仮眠用のベッドで、寝かしつけられそうにはなっているのだが。

「わぁーれーらが、とうとぉーきーいっちばーん星よー……漆黒のつぅーばーさぁー」

 耳障りのいいテノールが、静かに滑らかに歌い続ける。

「紅のひぃとぉみーがーみぃちーびく、まばゆーい未来あすへー……いーざー続かんー勇っ敢なるぅーーじーごぉーくの信徒よぉー」

 リズムに合わせてぽん、ぽん、と布団越しに私のお腹辺りを、優しく叩きながら。

「……私への王室歌を子守唄代わりにするのは止めてくれぬか?」

 このまま放っておけば、二番、三番と歌い続けるに違いない。流石に自分を褒め称えてくれる歌で、眠りにつく趣味はない。というかむしろ逆効果だ。嬉し恥ずかし過ぎて目が覚める。

 黒いスーツの袖を引っ張り訴えれば、傍らで跪いていたタレ目の瞳がきょとんと瞬いた。

「おや……以前は、これを聞かねば寝れぬ! と大層ごねていらっしゃったのでは?」

「いや、以前って私が幼い頃であるし。そもそも歌ってもらっていたのは、父上の曲であるからな?」

 確かに、ものすっごく若かりし頃、バアルに強請って歌ってもらっていたのは事実だ。どんな伝言ミスで私の王室歌へと変わったのかは謎だが。

 ……全く引き継ぐならば、完璧に引き継いで欲しいものだ。いや、引き継がんでよいわ、こんな情報。

「心得ました。では、あーあー……わぁーれーらを見守ぉーりーしー、いっだぁーいなるたいよぉーうー」

「だーかーら幼い時であるっと言っておろうが!」

「昔眠れていたならば、今も眠れますよ。ほら、さっさと横になって下さい」

 思わず勢いよく起こしていた上体を「おら、おら」と肩を掴まれ、ふかふかのベッドへと押し倒される。またしても、闇堕ちレタリーが顔を出しかけていたその時、不意に力強いノック音が訪れた。

「おおっ、構わぬ、入るがよい」

「失礼致します」

 ベッドから飛び起き、前のめりで乗った助け舟。出してくれたのはレダであった。

「……用件は、何だ?」

 弾んでいた自分の声が、落ち着いていくのが分かった。

 ……何があったというのであろう。レダの表情は驚くほど穏やかだ。今朝の暗く沈んだ様など欠片もない。温かさに満ちている。

「失礼を承知でお願い申し上げます」

 角度のついたお辞儀に合わせて、彼の軍服の胸元を飾っている勲章がチリンと揺れる。少し長めに下げてから弾かれたように顔を上げた。

「ご同行願います。今すぐに、何も聞かずに。レタリー殿もご一緒にお越し下さい」

 刈り上げた短髪と同じ薄茶の耳がピンっと立ち、藍色の瞳が懇願するように私を見つめてくる。

 真っ直ぐな、何事も包み隠さずに話す彼にしては珍しい。よっぽど切羽詰まっておるのだろうか?

「構わぬが……せめて、何処で何をするのかだけでも……ふぉわっ!?」

 唐突に感じた浮遊感。ぶわりと動いた視界が止まったかと思えば、目の前に居た筈のレダが見えなくなっていた。

 視界に映るのは、ついさっきも見た黒いスーツに映える黄緑の尾羽。やはりというかなんというか、またしても担がれてしまっていた。

「では、参りましょう! レダ殿!」

「ご協力感謝致します。レタリー殿」

「いやいや、事を勝手に進めるな! 私をそっちのけで!」

 意気揚々とした掛け声に、なんの疑問も抱かぬどころか感謝が返ってくるとは。え、私の意思は? これ、マジで物扱いでは?

「行くから! 黙ってついて行くから、せめて自分の足で歩かせてはくれぬか?」

 流石に、このまま城内を連れ回されるのは勘弁願いたい。だって、私、一応王だし。

「仕方ないですねぇ……」

 必死に頼み込むと下ろしてもらえた。私が悪いのか? 有能な秘書殿の声にも表情にも、やれやれ感が滲み出ているのだが。

 とはいえ、これで最低限、王としての威厳は保てそうであるな。そう、安堵していた私の考えは甘かったらしい。

「では、レダ殿は右側をお願い致します」

「承知」

 スマートボディとガッチリボディに両側を素早く挟まれたかと思えば、左右のお手手をしっかり繋がれていた。なんなの貴殿ら? 息合い過ぎでは?

「そんなに信用がないんであろうか……私は」

「バアル様から、ヨミ様の武勇伝という名の大脱走劇は、耳にタコが住み着くほど聞かされておりますので」

「バアル様とアオイ様ご夫婦の城下町デートの際も、最初は投影石片手について参ろうとしておりましたよね?」

 たった一言漏らした呟きが、倍になって返ってきた。なんなら現在進行形で返り続けておる。

 やれ、執務室の窓から飛び降り、修練場までバアルを追いかけて行っただの。兵士らの目を盗んで父上と一緒にこっそり城下へ出掛け、スイーツを食べ歩いただのと。ぐうの音も出ない過去の脱走劇が続々と。

「……誠に優秀であるな、そなたらは」

「お褒めに預かり光栄です」

 どうにか絞り出した皮肉もなんのその。綺麗なハモリで返されてしまった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

処理中です...