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特別な焼き菓子を、今の貴方とも
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あの後、もう一回ずつ食べさせ合いっこをしてから、残りは肩を並べて美味しい朝ご飯を堪能した俺達。
二人で暮らしているこの部屋。床全体が踏み心地のいい上質な絨毯で覆われた、ファンタジーな貴族の方々が暮らしていそうな気品あふれる室内は今、厨房へと姿を変えていた。
「こちらで宜しかったでしょうか?」
彼の術によって床はタイル張り、大きなオーブンに冷蔵庫、広々とした調理台などなどと、焼き菓子を作るのには最適な環境へ。
さらには、緑のエプロンに三角巾と、調理をするのに最適な服装へと装いを新たにした俺に、ネクタイを締め直しながら彼が微笑む。
「はい、ありがとうございます!」
早速、材料を準備してからキッチリ量る。リズムよくパキャパキャ卵をボウルに割り入れ、かき混ぜ、粉をふるい、さらにサクサクと混ぜていく。
今日は頑張って二品。クッキーとパウンドケーキを焼く予定だから、テキパキ進めていかないとな。
「……手慣れていらっしゃいますね。元々、お菓子作りがお好きだったのでしょうか?」
隣からした意外そうな声。手元から視線を移せば、興味津々に輝く鮮やかな緑の瞳とかち合った。
「いえ、今は好きですけど……前は、全然。卵すらまともに割れなかったし、やってみたいっていう興味すらありませんでしたね」
殻が入っちゃったり、まるごと握り潰しかけたりしていた頃が懐かしい。
俺もあれから少しは成長出来たんだろう。なんせ、バアルさんから「手慣れている」と褒めてもらえたんだからな!
「……左様でございましたか」
うっきうきで生地を混ぜていた俺を見つめる彼の表情には、疑問が浮かんでいるようだった。では、何故? とでも言いたげに、いまだ興味の尽きていない眼差しを俺に向けている。
「……バアルさんに教えてもらって、一緒に作って、好きになったんです」
「……私に?」
「はい。最初は、不格好なものしか出来なかったんですけど……それでもバアルさんは、嬉しそうに食べてくれて。美味しいですよって褒めてくれて……それから、皆さんにも喜んでもらえて、余計に」
丸くなっていたキレイな瞳が、白い睫毛で隠れてしまう。胸を押さえたバアルさんは、すらりと伸びた長身を屈めながら短く唸った。何だか苦しそうだ。
「だ、大丈夫ですか? やっぱり、どこか身体の調子が悪いんじゃ……」
慌てて手を止め、広い背中を擦ろうと手を伸ばそうとしたところで待ったをかけられる。
「……ありがとうございます。ですが、ご心配には及びません」
「そう、ですか?」
「はい。むしろ愛らしい貴方様のお陰で、元気が湧き上がっております」
姿勢を正し、キレイな御辞儀を披露する。もう、いつもの彼だった。穏やかな笑みを浮かべながら、俺の頬をゆるりと撫でてくれる。
「ですから、私もお手伝いさせて頂いても宜しいでしょうか? 将来の私は、よく貴方様と焼き菓子を作っていたのですよね?」
まだ少し、気にはなる。だけど断れなかった。元々彼からのお願いに弱い俺だ。どうかお願い致します、と縋るような瞳で見つめられてしまえば、一発だった。
「は、はい……じゃあ、このクッキー生地を伸ばしてもらっててもいいですか? その間に、パウンドケーキの生地を用意するんで」
「畏まりました。本日はクッキーとパウンドケーキを作られるのですね。大変楽しみです」
「あ、ありがとうございます」
上機嫌に羽をはためかせる彼の引き締まった腰には、もうすでに足首までかかる黒のエプロンが巻かれていた。
動きやすいように、上は黒のベストとシャツだけに。白手袋が外され、袖も捲くられ、あらわになった白い腕が覗いている。盛り上がった筋肉のラインがカッコいい。
いかん、いかん……また、見惚れてしまっていた。しっかりしないと。緩みかけている頬を引き締め、疎かになりかけていた手元を動かす。
卵に牛乳、グラニュー糖に超万能なホットケーキミックス。混ぜては入れて、また混ぜて……と。全ての材料を、無事ボウルへと投入し終えたところでホッとひと息。最後に生地に入れた、紅茶の匂いがふわりと鼻を擽った。
花のような甘い香りがする、バアルさんが好きな紅茶。馴染みのある匂いが呼び起こしたんだろう。頭の中に彼との日々がぶわりと駆け巡っていく。温かい想いも一緒に。
気がつけば俺は、そのキラキラとした思い出の欠片を彼に伝えようとしていた。
「……その、どっちの焼き菓子も俺にとっての特別なんです。だから、どうしてもバアルさんに食べてもらいたくて……」
「……特別、でございますか?」
「はいっ、バアルさんと一緒に初めて作った焼き菓子がクッキーなんです。それから、パウンドケーキはバアルさんの誕生日の時に作って、スゴく喜んでもらえて……」
卵色の生地を混ぜる度、徐々に紅茶が馴染んでいく。見た目は完全にアイスのクッキー&バニラだ。後は型に流し込むだけ。
「……バアルさん?」
妙に静かな隣を見れば、またしてもトマトなバアルさんとご対面した。風が起こせそうなくらいに、羽がはためいていらっしゃる。
「えっと……」
何と声をかければいいんだろうか?
俺が言葉に詰まっているとバアルさんが「私が言うのもなんですが……」と前置きをしてから、おずおずと呟いた。
「……アオイ様は、誠に私のことを……愛して下さっていらっしゃるのですね……」
照れくさそうに、擽ったそうに微笑む眼差しが、俺を見つめた。
「あ」
言われてからようやく気づいた。思い返すまでもない。さっきから俺は口を開けば、バアルさん、バアルさん、と滅茶苦茶惚気けてしまっていたのだ。しかも、記憶がないとはいえ御本人を相手に。
一気に顔の中心が熱くなる。何をやってんだ俺は。どんだけバアルさんのことが好きなんだ。いや、好きだけど。
「将来の私は……いえ、私は誠に幸せですね。貴方様のような温かい御方が、お側に居て下さるのですから」
「お、俺も幸せ……ですよ。バアルさんが一緒ですから」
柔らかい笑みと共に贈られた言葉に、胸がジンと熱くなっていく。
「……ぎゅってしても、いいですか? 後、オーブンに入れるだけなんで……」
「ええ……私も、抱き締めさせて頂きたいと思っておりました」
つい、くすくすと吹き出してしまっていた。同じ気持ちだったのが、同じことを考えてくれていたのが、嬉しくて。擽ったくて。見つめ合う彼の笑みもクスリと深くなっていた。
二人で暮らしているこの部屋。床全体が踏み心地のいい上質な絨毯で覆われた、ファンタジーな貴族の方々が暮らしていそうな気品あふれる室内は今、厨房へと姿を変えていた。
「こちらで宜しかったでしょうか?」
彼の術によって床はタイル張り、大きなオーブンに冷蔵庫、広々とした調理台などなどと、焼き菓子を作るのには最適な環境へ。
さらには、緑のエプロンに三角巾と、調理をするのに最適な服装へと装いを新たにした俺に、ネクタイを締め直しながら彼が微笑む。
「はい、ありがとうございます!」
早速、材料を準備してからキッチリ量る。リズムよくパキャパキャ卵をボウルに割り入れ、かき混ぜ、粉をふるい、さらにサクサクと混ぜていく。
今日は頑張って二品。クッキーとパウンドケーキを焼く予定だから、テキパキ進めていかないとな。
「……手慣れていらっしゃいますね。元々、お菓子作りがお好きだったのでしょうか?」
隣からした意外そうな声。手元から視線を移せば、興味津々に輝く鮮やかな緑の瞳とかち合った。
「いえ、今は好きですけど……前は、全然。卵すらまともに割れなかったし、やってみたいっていう興味すらありませんでしたね」
殻が入っちゃったり、まるごと握り潰しかけたりしていた頃が懐かしい。
俺もあれから少しは成長出来たんだろう。なんせ、バアルさんから「手慣れている」と褒めてもらえたんだからな!
「……左様でございましたか」
うっきうきで生地を混ぜていた俺を見つめる彼の表情には、疑問が浮かんでいるようだった。では、何故? とでも言いたげに、いまだ興味の尽きていない眼差しを俺に向けている。
「……バアルさんに教えてもらって、一緒に作って、好きになったんです」
「……私に?」
「はい。最初は、不格好なものしか出来なかったんですけど……それでもバアルさんは、嬉しそうに食べてくれて。美味しいですよって褒めてくれて……それから、皆さんにも喜んでもらえて、余計に」
丸くなっていたキレイな瞳が、白い睫毛で隠れてしまう。胸を押さえたバアルさんは、すらりと伸びた長身を屈めながら短く唸った。何だか苦しそうだ。
「だ、大丈夫ですか? やっぱり、どこか身体の調子が悪いんじゃ……」
慌てて手を止め、広い背中を擦ろうと手を伸ばそうとしたところで待ったをかけられる。
「……ありがとうございます。ですが、ご心配には及びません」
「そう、ですか?」
「はい。むしろ愛らしい貴方様のお陰で、元気が湧き上がっております」
姿勢を正し、キレイな御辞儀を披露する。もう、いつもの彼だった。穏やかな笑みを浮かべながら、俺の頬をゆるりと撫でてくれる。
「ですから、私もお手伝いさせて頂いても宜しいでしょうか? 将来の私は、よく貴方様と焼き菓子を作っていたのですよね?」
まだ少し、気にはなる。だけど断れなかった。元々彼からのお願いに弱い俺だ。どうかお願い致します、と縋るような瞳で見つめられてしまえば、一発だった。
「は、はい……じゃあ、このクッキー生地を伸ばしてもらっててもいいですか? その間に、パウンドケーキの生地を用意するんで」
「畏まりました。本日はクッキーとパウンドケーキを作られるのですね。大変楽しみです」
「あ、ありがとうございます」
上機嫌に羽をはためかせる彼の引き締まった腰には、もうすでに足首までかかる黒のエプロンが巻かれていた。
動きやすいように、上は黒のベストとシャツだけに。白手袋が外され、袖も捲くられ、あらわになった白い腕が覗いている。盛り上がった筋肉のラインがカッコいい。
いかん、いかん……また、見惚れてしまっていた。しっかりしないと。緩みかけている頬を引き締め、疎かになりかけていた手元を動かす。
卵に牛乳、グラニュー糖に超万能なホットケーキミックス。混ぜては入れて、また混ぜて……と。全ての材料を、無事ボウルへと投入し終えたところでホッとひと息。最後に生地に入れた、紅茶の匂いがふわりと鼻を擽った。
花のような甘い香りがする、バアルさんが好きな紅茶。馴染みのある匂いが呼び起こしたんだろう。頭の中に彼との日々がぶわりと駆け巡っていく。温かい想いも一緒に。
気がつけば俺は、そのキラキラとした思い出の欠片を彼に伝えようとしていた。
「……その、どっちの焼き菓子も俺にとっての特別なんです。だから、どうしてもバアルさんに食べてもらいたくて……」
「……特別、でございますか?」
「はいっ、バアルさんと一緒に初めて作った焼き菓子がクッキーなんです。それから、パウンドケーキはバアルさんの誕生日の時に作って、スゴく喜んでもらえて……」
卵色の生地を混ぜる度、徐々に紅茶が馴染んでいく。見た目は完全にアイスのクッキー&バニラだ。後は型に流し込むだけ。
「……バアルさん?」
妙に静かな隣を見れば、またしてもトマトなバアルさんとご対面した。風が起こせそうなくらいに、羽がはためいていらっしゃる。
「えっと……」
何と声をかければいいんだろうか?
俺が言葉に詰まっているとバアルさんが「私が言うのもなんですが……」と前置きをしてから、おずおずと呟いた。
「……アオイ様は、誠に私のことを……愛して下さっていらっしゃるのですね……」
照れくさそうに、擽ったそうに微笑む眼差しが、俺を見つめた。
「あ」
言われてからようやく気づいた。思い返すまでもない。さっきから俺は口を開けば、バアルさん、バアルさん、と滅茶苦茶惚気けてしまっていたのだ。しかも、記憶がないとはいえ御本人を相手に。
一気に顔の中心が熱くなる。何をやってんだ俺は。どんだけバアルさんのことが好きなんだ。いや、好きだけど。
「将来の私は……いえ、私は誠に幸せですね。貴方様のような温かい御方が、お側に居て下さるのですから」
「お、俺も幸せ……ですよ。バアルさんが一緒ですから」
柔らかい笑みと共に贈られた言葉に、胸がジンと熱くなっていく。
「……ぎゅってしても、いいですか? 後、オーブンに入れるだけなんで……」
「ええ……私も、抱き締めさせて頂きたいと思っておりました」
つい、くすくすと吹き出してしまっていた。同じ気持ちだったのが、同じことを考えてくれていたのが、嬉しくて。擽ったくて。見つめ合う彼の笑みもクスリと深くなっていた。
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