【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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だだ漏れな気持ち

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 頭の芯まで響いた気がした。自分の鼓動が高鳴る音が。

 全身を駆け巡った気がした。ぞくぞくする歓喜の波が。

「そ、そそ、それって……俺に触りたいって、思ってくれてるってこと、ですか? ……そういう意味で」

 だだ漏れだ。涙腺に引き続き、口までゆるっゆるになっているらしい。思ったことを、直ぐ様言ってしまうくらいには。

「…………お嫌では、ないのでしょうか?」

「へ? 何で、ですか?」

 つい、質問に質問で返してしまっていた。緑の瞳がきょとんと丸くなる。鳩に豆鉄砲、みたいな感じで。

「……言いましたよね? 俺。バアルさんが若返っても、俺のこと覚えてなくても、好きだって。それだけは、変わらないって」

 そうだ。俺はちゃんと伝えたハズだ。一緒に居られるだけで嬉しくて。名前を呼んでもらえるだけで、手を繋ぐだけでドキドキして、泣きそうになる。

 どんな時だって変わらない。バアルさんとだけ感じるこの想いを、貴方が好きだって気持ちを、ちゃんと。

「だから、イヤな訳……ないじゃないですか」

 湯気が見えたかと思った。それくらい、ぼふんって感じで、一瞬で、鼻先にある端正な顔が真っ赤に染まる。重なった手のひらが、じわりと熱を帯びていく。

 ……もしかして、今か? 今なのか? やらかしてしまったのは。

 でも、事実だし。だって、バアルさんだし。バアルさんからもらえるものは、何だって嬉しいし。

 またしても、訪れてしまった沈黙に、徐々に背中の辺りが擽ったくなってくる。カッコいい眉も、額の触覚も、あんなにはためいていた羽すら微動だにしない、赤面したまま固まる彼を前にして。

「えっと……ハグ、します?」

 咄嗟に口をついて出ていた提案。

 いやいや、空気を変えるにしたって唐突過ぎるだろう、と冷静な俺が居たならばツッコんでいるところだ。しかし、今ここに居るのは軽く目を回しかけている俺だけれども、残念なことに。

「……ハグ」

 いまだ頬を染めたまま、どこか虚ろな瞳で繰り返す。

「は、はい……何か、その……くっつきたいっていうか……バアルさんに、ぎゅってして欲しくて……ダメ、ですか?」

「……いえ、致しましょう。今すぐに」

 緑の瞳に光が戻った。いや、それどころか期待に煌めいていらっしゃる。触覚と羽もゆらゆら、ぱたぱた。ご機嫌そうに弾んで、はためいていらっしゃる。思わずホッと息が漏れていた。

 シーツに繋ぎ止められていた手が解かれ、長身の影が俺の上から退いていく。仰向けになったままの俺の側でちょこんと座り、姿勢を正した。

 ……何だか、待てをしているわんこみたいだ。そわそわ揺れている触覚と羽も相まって。

 律儀で健気な彼に向かって両腕を伸ばす。きょとんと少し間が空いたものの、はたと気づいてくれて引き締まった長い腕で俺を軽々と抱き上げてくれた。

「ふふ、ありがとうございます」

「……いえ」

 広い背中に腕を回すと抱き締め返してくれた。おっかなびっくりって感じだったけれど。

 ふわりと香る優しいハーブの匂い。伝わってくる温もりと、耳を澄ませば聞こえる心音。

 ……ああ、やっぱり落ち着くな。癒やされる。

 緊張の後に味わう、ほのぼのとした緩和。気が緩んだと分かったや否や、身体ってやつは生理的な欲求を訴えてくるもんだ。空気なんか、一切読まずに。

「……アオイ様」

 ぐうぅ……とひと鳴き。腹の虫が代わりに答えてしまっていた。少し甘さを含んでいた声に、俺が応える前に。

「あ、あの……その……」

 顔は見えない。頬を寄せ合うように、抱き締め合ってるから。でも、どんな表情をしているのか、すぐに分かってしまった。クスクスと静かに笑う声が、耳に届いたことで。

 腰に重ねられていた白い手が、そっと肩に添えられる。

「ふふ、誠に貴方様は愛らしい御方でございますね」

 少し距離が空いて見ることが出来た彼の表情には、やっぱり柔らかい笑みが浮かんでいた。
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