【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
376 / 1,566

バアルさんの魅力は変装の術でも隠し切れない

しおりを挟む
 網の上にズラリと並び、こんがり焼けていくお肉。滴り弾ける油の音と一緒に、食欲を刺激する香辛料の香りが漂っている。

 どうにか持ち手があるギリギリまで、串にみっちり刺さっている様は、お店のサービス精神の賜物だろう。

 相変わらず、見渡す限り何処もかしこも顔面偏差値激高な悪魔の皆さん。店員であるお兄さんのマスクも甘い。いかにもスポーツ万能そうな精悍な顔に汗を滲ませ、青い魚のような鱗に覆われた手で串を回す職人っぷりはスゴく絵になる。

 元々俺がいた世界でなら間違いなく、街で見つけたイケメン店員! とかポップな見た目の雑誌に特集されていそうだ。こちらでは、お兄さんレベルの美形でも、普通の認定をされていそうではあるが。

「はい、お待たせ! 大きな翼がカッコいいお兄さんと、ふわふわの尾羽根がかわいいお兄さん!」

 そんな彼からもカッコいい認定をされるバアルさんは、やはり変装の術でも隠し切れていない魅力にあふれているのだろう。是非とも今すぐ握手を交わしたいものだ。ですよね。カッコいいですよね。

 にしても、店員のお兄さんには俺達は鳥系の見た目に見えているんだな。他の皆さん方にも、それぞれの見たいようなお姿に見えているらしいけど。

 鳥というとレタリーさんの様な感じ、だろうか。ぼんやりと思い浮かべた、黄緑色の翼と長い尾羽根がキレイな敏腕秘書さん。ヨミ様第一で甘い物に目がない彼が、頭の中で人の良さそうな笑顔を浮かべた。

 店員のお兄さんが、爽やかに白い牙を見せながらバアルさんへ、香ばしい香りが立ち上る大ぶりな串を二本差し出す。

「ありがとうございます」

 胸に手を当て、完璧な角度のキレイなお辞儀を披露したバアルさん。用意していたお代を屋台のカウンターへ置いてから、俺の分の串も一緒に受け取ってくれた。

 ぴったりだったらしい。鋭く青い爪で、手のひらの上の銀貨や銅貨を数えてから、鋭い瞳をゆるりと細める。

「はい、丁度だね、ありがとう! 良かったら、そっちで召し上がっていってくれよ!」

 大柄な身体を乗り出しながら店員さんが、屋台屋根の側に置かれた小さな木製の椅子を指し示す。

 こじんまりとした数席は、お食事用のスペースというよりは、順番待ち用のお席にしか見えないのだが。

 声には出していないが、俺の疑問が伝わったんだろう。青く大きな手を合わせながら、お兄さんが太い眉を困ったように下げた。

「お兄さん達、美人さんだからさ。そこで食べてもらえたら、いい宣伝になると思うんだよね。頼むよ、俺を助けると思ってさ」

 確かに。バアルさんが美味しそうに、かつ上品に串を頬張るお姿は、さぞかし魅力的だろう。俺も堪能したいし、良ければ投影石に収めさせて頂きたいものだ。

 視線で「どうしましょうか?」と彼に問えば、小さく頷き肯定を示した。

 まぁ、断る理由もないもんな。実際問題、今のところお客さんは俺達だけなので、お店の迷惑にはならなそう。お言葉に甘えることにしよう。

「お心遣い痛み入ります」

「ありがとうございますっ」

 ごゆっくり! と快活な声と笑顔に手を振って、席へと座らせて頂く。串焼きだから、いつもみたいにあーんは出来ないな。

「はい、どうぞ。アオイ様」

 バレバレだったらしい。もしかしなくても、残念な気持ちが滲み出ていたのかも。

 いかにも美味しそうな焦げ目のついた茶色いお肉。柔らかい微笑みを添えて二本のうち一本が、俺の口元へと差し出された。カレーのような香りが鼻腔を擽ってくる。

「い、いただきます」

 有り難く一口かぶりつく。何だか顔が熱いのは、額に汗が滲んだのは、熱々スパイシーなお肉のせいだろう。そういうことにしておこう。

 柔らかいというよりは、ワイルドな見た目通り肉肉しい食感だ。奥歯で噛み締める度に、旨味たっぷりな肉汁があふれてくる。

 ピリッとした味つけのお陰で脂っこさは感じない。ペロリと食べられてしまいそうだ。それどころか、ご飯が欲しくなってしまう。

「んっ……おいひいでふ! スゴく!」

 いかん。伝えたい気持ちが先走ってしまった。まだモゴモゴ動かしていた口を、慌てて手で覆い隠す。

 ちゃんと食べ終えてから微笑みかけたものの、誤魔化すには大分苦しい。

「ふふ、それは何よりです」

 さらに悪い事実が判明してしまった。どうやら、口の周りもわんぱくになっていたようだ。

 くすくすと笑みをこぼす彼から、取り出したハンカチーフで優しく拭いてもらえてしまったんだ。嬉しいけれど、面目ない。

「……ありがとうございます」

「いえ」

 肌触りのいいシルク生地を手早く畳んで懐へ。彼の術によるものだろう。ふわふわとバアルさんの手元近くで浮かんでいたもう一本。ご自身の分のお肉へ、たおやかな手を伸ばす。

「では……私めにも頂けますか?」

 そっと俺に手渡してきた彼の羽がパタパタはためく。どこか擽ったそうに微笑んで、俺を見つめる眼差しは期待に揺れていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...