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彼には、俺がいるんだから
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やっぱり、バアルさんはモテるな……
分かっていても、胸の奥がちくちく痛んでしまう。胸の内に暗いモヤが渦巻いてしまう。
……俺はバアルさんのものだ。心は言わずもがな、爪先から頭の天辺まで全部。
それから、バアルさんだって俺のものだ。だから、わざわざ人前で見せつけて、牽制する意味はない。
だけど、俺はくっついてしまっていた。
盛り上がった逞しい胸筋に、頬を寄せるように抱きついてしまっていたんだ。明らかに俺よりカッコいい方や可愛らしい方、キレイな方々にアピールしてしまっていたんだ。
彼には、俺がいるんだって。
不意にくすくす揺れる振動が、頬に直に伝わってきた。かと思えば、さらにぎゅっと抱き寄せられていた。
「大丈夫ですよ、ご心配なさらずに……私の目には、愛しい貴方様しか映っておりません故」
「ふぇ……」
俺にだけしか聞こえない、小さな甘い囁き。
たった一言だ。たった一言なのに、モヤモヤしていた気持ちが晴れやかになるなんて。やっぱりバアルさんは、俺を元気にさせる天才だ。
少し屈んで目線を合わせてくれている、微笑む緑の瞳。若葉を思わせる鮮やかな煌めきに、すっかり見惚れてしまっていた時だ。
「いやぁ、本当に仲が良いね、お兄さん達!」
大きく鼓膜を揺らす快活な声。忘れていた。お話し中だった。
俺達と目を合わせつつも、お客さんの流れを止めるとことなくスムーズに串焼きを売っていくお兄さん。流石プロだ。動きに一切ムダがない。
素晴らしいお手並みをじっくり見つめてしまっていた俺を、引き締まった長く腕が抱き寄せる。
釣られて見上げた先でかち合った、緑の瞳が嬉しそうに微笑んだ。一瞬、ちょっぴり拗ねて見えたのは気のせいだろうか。
「彼は、私にとって何より大切な妻ですので」
「ひょわっ」
小さな疑問はあっという間に吹き飛ばされた。俺の頭の中を占めるのは、もはや「大切な妻」という幸せ過ぎる言葉だけ。
「ですよね、アオイ」
期待に満ちた眼差しで見つめられ、お願いするように名前を呼ばれた。応えなければ。俺だって、バアルさんを……
「は、はぃ……旦那、様です……バアルさんは、俺の大事な……」
「成る程っ、そりゃあ、仲が良い筈だ!」
……言えた。伝えられた。
まだ正式じゃないけれど、俺は多分……いや、もうその気でいるのだ。今朝みたく、彼とのハレの日を思い描いてしまうくらいには。
だから言ってもいいだろう。これくらい。バアルさんだって言ってくれたんだしさ。
ひとしきり、楽しそうにカラカラと笑っていたお兄さんが、思い出したかのように後ろを向く。
「そうそう、これ、受け取ってくれないかい? 俺からの、せめてものお礼の気持ちさ!」
振り返り、手渡されたのは串焼きの詰め合わせだった。透明なプラスチックの容器が閉まらないくらいパンパンに詰まっている。止めてあるゴムが、色が変わるくらいに伸びていて、今にも千切れてしまいそうだ。
俺達は、ただ屋台の近くで座って食べていただけだ。それも、お兄さんのご厚意で。なのにお土産まで。
初めは俺もバアルさんも、お気持ちだけ、と断ろうとした。だけど断われなかった。受け取ってくれないのかい? と悲しそうな目で見つめられてしまったのだ。そこまでされてしまっては、断る方が失礼だろう。
分かっていても、胸の奥がちくちく痛んでしまう。胸の内に暗いモヤが渦巻いてしまう。
……俺はバアルさんのものだ。心は言わずもがな、爪先から頭の天辺まで全部。
それから、バアルさんだって俺のものだ。だから、わざわざ人前で見せつけて、牽制する意味はない。
だけど、俺はくっついてしまっていた。
盛り上がった逞しい胸筋に、頬を寄せるように抱きついてしまっていたんだ。明らかに俺よりカッコいい方や可愛らしい方、キレイな方々にアピールしてしまっていたんだ。
彼には、俺がいるんだって。
不意にくすくす揺れる振動が、頬に直に伝わってきた。かと思えば、さらにぎゅっと抱き寄せられていた。
「大丈夫ですよ、ご心配なさらずに……私の目には、愛しい貴方様しか映っておりません故」
「ふぇ……」
俺にだけしか聞こえない、小さな甘い囁き。
たった一言だ。たった一言なのに、モヤモヤしていた気持ちが晴れやかになるなんて。やっぱりバアルさんは、俺を元気にさせる天才だ。
少し屈んで目線を合わせてくれている、微笑む緑の瞳。若葉を思わせる鮮やかな煌めきに、すっかり見惚れてしまっていた時だ。
「いやぁ、本当に仲が良いね、お兄さん達!」
大きく鼓膜を揺らす快活な声。忘れていた。お話し中だった。
俺達と目を合わせつつも、お客さんの流れを止めるとことなくスムーズに串焼きを売っていくお兄さん。流石プロだ。動きに一切ムダがない。
素晴らしいお手並みをじっくり見つめてしまっていた俺を、引き締まった長く腕が抱き寄せる。
釣られて見上げた先でかち合った、緑の瞳が嬉しそうに微笑んだ。一瞬、ちょっぴり拗ねて見えたのは気のせいだろうか。
「彼は、私にとって何より大切な妻ですので」
「ひょわっ」
小さな疑問はあっという間に吹き飛ばされた。俺の頭の中を占めるのは、もはや「大切な妻」という幸せ過ぎる言葉だけ。
「ですよね、アオイ」
期待に満ちた眼差しで見つめられ、お願いするように名前を呼ばれた。応えなければ。俺だって、バアルさんを……
「は、はぃ……旦那、様です……バアルさんは、俺の大事な……」
「成る程っ、そりゃあ、仲が良い筈だ!」
……言えた。伝えられた。
まだ正式じゃないけれど、俺は多分……いや、もうその気でいるのだ。今朝みたく、彼とのハレの日を思い描いてしまうくらいには。
だから言ってもいいだろう。これくらい。バアルさんだって言ってくれたんだしさ。
ひとしきり、楽しそうにカラカラと笑っていたお兄さんが、思い出したかのように後ろを向く。
「そうそう、これ、受け取ってくれないかい? 俺からの、せめてものお礼の気持ちさ!」
振り返り、手渡されたのは串焼きの詰め合わせだった。透明なプラスチックの容器が閉まらないくらいパンパンに詰まっている。止めてあるゴムが、色が変わるくらいに伸びていて、今にも千切れてしまいそうだ。
俺達は、ただ屋台の近くで座って食べていただけだ。それも、お兄さんのご厚意で。なのにお土産まで。
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