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満更どころか、前向きだった
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マズったかもしれない。かもじゃない、完全にマズった。聞き方を。
バアルさんは完全に固まってしまっている。一瞬の内に石にでもなったみたいに動かない。長い睫毛すら、びっくりしたように立ち上がった触覚すら。
「っあ、いやですね……せっかくの新婚旅行だから、おしゃれしたいじゃないですか? んで、お泊りするんだったら、その……し、下着も特別なのがいいのかなって……勝負パンツ、みたいな……」
浮かれていた熱が一気に引いていく。捲し立てる声が、手が、震えてしまう。
言い終えるよりも早く俯いてしまっていた。顔を背けるみたいに。堪えられなかったのだ。呆然とした彼の視線に。
……引かれた、よな。引かれちゃったよな、絶対。
「……ということでしょうか?」
「へ?」
泣きたくなっていた俺に尋ねる声。震えているような、上擦っているような声に顔を上げれば、耳まで真っ赤に染めたバアルさんと目が合った。
賑やかだ。ぶんぶん、ぱたぱた、ひっきりなしに動いている。細く長い触覚と、磨き上げられたガラスのような光沢を持つ羽が。
……あれ? もしかして、引かれていないのでわ? 満更でもなかったり?
「そう仰るということは……私めが望めば、アオイは……そういった下着を、穿いて頂けるということでしょうか?」
満更どころか、前向きだった。目茶苦茶。
繋いだ手に力を込めながら、引き締まった長身を前のめりに傾けている。あともうちょっとで額が、高い鼻先が、触れ合ってしまいそう。
「は、はい……勿論……バアルさんが、好きなのを……何でも……」
「誠ですか? 誠に宜しいのでしょうか?」
ますます真っ赤に染まった頬、期待に揺れている緑の瞳。十分だった。俺の気持ちが晴れやかになっていくのにも、さっき以上に舞い上がってしまうのにも。
「はい……バアルさんが、喜んでくれるんだったら、俺……スゴく嬉しいですから……」
手を離されたかと思えば抱き締められていた。逞しい肩越しに、水晶のように透き通った羽が風を切るようにはためいている。
まさか、こんなに喜んでくれるなんて。なんかもう、満足しちゃいそうだ。まだ、選んでもらってもいないのにさ。
擦り寄ってくれているみたいに頬と頬とが触れ合って、ゆっくりと彼が離れていってしまう。代わりに手を繋いでくれてから、優しい眼差しが微笑んだ。
「ありがとうございます。貴方様のお気持ち、大変嬉しく、身に余る光栄に存じます」
「いえ……あ、でも俺、そういうの何処で買ったらいいのか分からなくて……それも含めて相談しようと思っていたんですけど……」
「左様でございましたか」
彼がシャープな顎に指を当てる。睫毛を伏せて、何やら考え事をしているご様子。
バアルさんも詳しくないんだろうか。意外……だけど、嬉しいな。俺より遥かに年上で、経験豊富な彼と初めてを共に出来るのだ。どんなことだって、どんなに些細な事柄だって、気持ちが弾む。だらしなく頬が緩んでしまう。
「ふむ……では、少し調べて見ましょうか」
バアルさんが、まだ淡い輝きを放ったままの投影石へと手を伸ばす。何回か指先で触れた後、表示された映像には、商品のサンプル画像がいくつも並んでいた。
画像の一つ一つには、俺が読めないこちらの文字で書かれた商品説明らしき文。それから、唯一分かる金額が添えられている。そして、映像の一番上にはポップなロゴ、右端には買い物かごのようなマーク。
なんか、通販サイトみたいなの出てきたんだが。
「申し訳ございません。私もそのようなお店については、存じ上げないものですから、検索してみた方が宜しいかと。此方のサイトで買えないものはございませんので」
通販サイトだった。「匿名配送ですので、ご安心を」とバアルさんが、俺の肩を抱き寄せながら微笑んだ。
そういうお店があったとして、行くのは勇気がいるからな。気楽でいいかも。その旨を伝えると「左様でございますね」と賛同してくれた。
早速バアルさんに検索をお願いする。現れたのはカラフルだったり、生地が良さそうなブランド物だったり。
なんか、いつものボクサーとあまり変わらないかも。中には丈が短い物もあるとはいえ、水着の方が際どいものがあるしな。
拍子抜けというか、ちょっぴり安心したというか。身体の力が抜けて、寄りかかっていた彼の胸元に重心をかけてしまう。
が、つかの間だった。のんびり構えていられたのは。
バアルさんは完全に固まってしまっている。一瞬の内に石にでもなったみたいに動かない。長い睫毛すら、びっくりしたように立ち上がった触覚すら。
「っあ、いやですね……せっかくの新婚旅行だから、おしゃれしたいじゃないですか? んで、お泊りするんだったら、その……し、下着も特別なのがいいのかなって……勝負パンツ、みたいな……」
浮かれていた熱が一気に引いていく。捲し立てる声が、手が、震えてしまう。
言い終えるよりも早く俯いてしまっていた。顔を背けるみたいに。堪えられなかったのだ。呆然とした彼の視線に。
……引かれた、よな。引かれちゃったよな、絶対。
「……ということでしょうか?」
「へ?」
泣きたくなっていた俺に尋ねる声。震えているような、上擦っているような声に顔を上げれば、耳まで真っ赤に染めたバアルさんと目が合った。
賑やかだ。ぶんぶん、ぱたぱた、ひっきりなしに動いている。細く長い触覚と、磨き上げられたガラスのような光沢を持つ羽が。
……あれ? もしかして、引かれていないのでわ? 満更でもなかったり?
「そう仰るということは……私めが望めば、アオイは……そういった下着を、穿いて頂けるということでしょうか?」
満更どころか、前向きだった。目茶苦茶。
繋いだ手に力を込めながら、引き締まった長身を前のめりに傾けている。あともうちょっとで額が、高い鼻先が、触れ合ってしまいそう。
「は、はい……勿論……バアルさんが、好きなのを……何でも……」
「誠ですか? 誠に宜しいのでしょうか?」
ますます真っ赤に染まった頬、期待に揺れている緑の瞳。十分だった。俺の気持ちが晴れやかになっていくのにも、さっき以上に舞い上がってしまうのにも。
「はい……バアルさんが、喜んでくれるんだったら、俺……スゴく嬉しいですから……」
手を離されたかと思えば抱き締められていた。逞しい肩越しに、水晶のように透き通った羽が風を切るようにはためいている。
まさか、こんなに喜んでくれるなんて。なんかもう、満足しちゃいそうだ。まだ、選んでもらってもいないのにさ。
擦り寄ってくれているみたいに頬と頬とが触れ合って、ゆっくりと彼が離れていってしまう。代わりに手を繋いでくれてから、優しい眼差しが微笑んだ。
「ありがとうございます。貴方様のお気持ち、大変嬉しく、身に余る光栄に存じます」
「いえ……あ、でも俺、そういうの何処で買ったらいいのか分からなくて……それも含めて相談しようと思っていたんですけど……」
「左様でございましたか」
彼がシャープな顎に指を当てる。睫毛を伏せて、何やら考え事をしているご様子。
バアルさんも詳しくないんだろうか。意外……だけど、嬉しいな。俺より遥かに年上で、経験豊富な彼と初めてを共に出来るのだ。どんなことだって、どんなに些細な事柄だって、気持ちが弾む。だらしなく頬が緩んでしまう。
「ふむ……では、少し調べて見ましょうか」
バアルさんが、まだ淡い輝きを放ったままの投影石へと手を伸ばす。何回か指先で触れた後、表示された映像には、商品のサンプル画像がいくつも並んでいた。
画像の一つ一つには、俺が読めないこちらの文字で書かれた商品説明らしき文。それから、唯一分かる金額が添えられている。そして、映像の一番上にはポップなロゴ、右端には買い物かごのようなマーク。
なんか、通販サイトみたいなの出てきたんだが。
「申し訳ございません。私もそのようなお店については、存じ上げないものですから、検索してみた方が宜しいかと。此方のサイトで買えないものはございませんので」
通販サイトだった。「匿名配送ですので、ご安心を」とバアルさんが、俺の肩を抱き寄せながら微笑んだ。
そういうお店があったとして、行くのは勇気がいるからな。気楽でいいかも。その旨を伝えると「左様でございますね」と賛同してくれた。
早速バアルさんに検索をお願いする。現れたのはカラフルだったり、生地が良さそうなブランド物だったり。
なんか、いつものボクサーとあまり変わらないかも。中には丈が短い物もあるとはいえ、水着の方が際どいものがあるしな。
拍子抜けというか、ちょっぴり安心したというか。身体の力が抜けて、寄りかかっていた彼の胸元に重心をかけてしまう。
が、つかの間だった。のんびり構えていられたのは。
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