【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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責任取って、いっぱい撫でて下さい

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「因みにですけど……バアルさんは、今キスしたい気分ですか? それとも、されたい気分?」

 すでに散々してもらっているから、愚問な気もするけど。でも、甘えてくれている時は、俺からの方がいいって言ってくれるし。念の為に、くらいの気持ちだったんだが。

 長く引き締まった足を伸ばし、いそいそと俺を膝の上に乗せてくれていたバアルさん。弾むように揺れていた彼の触覚が、へにょんと片方下がっていく。

「……どちらかを、選ばないといけないのでしょうか?」

「い、いえっ、そういう訳ではっ……」

 薄っすら潤んだ瞳、寂しそうな低音、ダブルパンチを食らった俺は酷く焦った。胸の前で、両手をぶんぶん。顔も左右にぶんぶん振ってしまっていた。

「順番を! どっちからがいいかなって、聞こうと思っただけで……」

 ぴょんっと元気を取り戻した触覚に「左様でございましたか」と微笑む彼にホッとする。

「お任せ致します。アオイが好きな方からで構いませんよ」

「そう、ですか……じゃあ、俺からしても、いいですか? まだ、その……余裕がある内に……」

 バアルさんに甘やかしてもらったら、絶対に夢見心地になってしまう。なんなら、夕ご飯まで彼の腕の中でぐっすりっていうパターンも有り得るからな。

「はい。では、お願い致します」

「……失礼します」

 期待に満ちた眼差しを受けながら、彼の頬を両手で包み込む。手始めに、額に唇を軽く押しあててみた。

 直後に聞こえた風を切るような音。擽ったそうに笑う声。目をつぶっていても分かる。バアルさんが羽をはためかせているって。喜んでくれてるって。

 気分が上昇するとともに調子づいてきた俺は、優しい目元にも口づけてみた。渋くてカッコいいシワにも。

 バアルさんは笑みを深くして、俺の背中を撫でてくれた。その手つきがスゴく優しくて、口にしてはいないけれど「お上手ですよ」って褒めてもらえているような気がした。

 だから、ますます浮かれちゃったんだと思う。

「……ねぇ、バアルはさ……どこ、撫でられるのが……一番好き?」

 気がつけば俺は尋ねていた。しっとりとした頬や、微笑む唇に口づけながら、彼の好みを探っていたんだ。

 もっとバアルさんに喜んでもらいたくて、もっとバアルさんから褒めてもらいたくて。

 俺の気持ちを知ってか知らずか、彼は相変わらずだった。
 
「ふふ、そうですね……貴方様の可愛らしい御手で、私めを愛でて頂けるのならば、どちらでも……」

 声にも、彫りの深い顔立ちにも、あふれんばかりの喜びを滲ませるんだ。俺の心が舞い上がってしまうことばかりを言ってくれるんだ。

 しかも、それで終わりじゃない。

 頬に触れていた俺の手を取ったかと思えば、蕩けるような笑みを浮かべた唇で指先にキスまで。ホントに困ってしまう。

 今は俺の番なのに。俺がバアルさんをドキドキさせる番なのに、ズルいったらありゃしない。

「う……強いてっ! 強いて言うなら、どこがいいですか?」

 いかん、いかん、完全に彼のペースに持っていかれるところだった。

 ひょっこり顔を出していた、抱きついてしまいたい衝動と甘やかされたい欲望。手強いそれらを何とか抑え込んだ俺は、再び彼に尋ねた。

 バアルさんは握っていた俺の手を、ちゃっかり指を絡めて繋ぎながら「ふむ」とご自身の顎をひと撫で。そんなに間を置かずに答えてくれた。

「……でしたら、やはり頭でしょうか。頬や手も捨てがたいですが」

「あ、お揃いですね! 俺も、バアルから頭撫でてもらえている時が、一番嬉し、んむっ」

 声を大にしていた口を塞がれた。

 瞬きをしている間にも、何度も甘やかすような口づけをもらってしまう。片手でしっかり背を抱き寄せられたまま、乱されてしまう。

 離してくれた頃にはすっかり腰砕け。頭の中も、心も、ふわふわに蕩かされてしまっていた。

「はっ……だから、余裕……ある内にって……言ったのに……」

「申し訳ございません……私のアオイが、余りにも愛らしかったものですから……」

 ゆらゆらと触覚を弾ませているバアルさんに、悪びれた様子はない。

 彼の胸元に、ぐったり寄りかかってしまっている俺を横抱きにして、額に、頬にと口づけてくれている。

 せっかく我慢出来ていたのに。こんな風にしてもらえたら……

「っ……責任取って、いっぱい撫でて下さい……キスもですよ。もう、俺……するより、してもらいたい気分になっちゃったんですから……」

「畏まりました、私の愛する妻……貴方様のお望みのままに」

「つっ……ず、ズルいですよ……いきなり、そんな呼び方……」

 パワーがあり過ぎる呼称に、反射的に上体が仰け反ってしまう。少し離れかけていた俺達の距離を、背を支えてくれている手がすぐさまゼロにした。

 目線すら逃させないつもりらしい。しっかりと抱き寄せながら、俺の顎を持ち上げてくる。緩やかなラインを形作る唇が、艷やかに口の端だけを持ち上げた。

「ですが、もうすぐ夫婦になれるでしょう、私達は。ですから、これからは堂々と用いても宜しいのでは?」

 度々、のしを付けて返されているんですけど? 俺が言ったこと、全部。

「っ……」

「さあ、私の可愛い妻、どちらから愛でて差し上げましょうか?」

「…………頭からで」

 ぐうの音は出なくても、要望は出てしまうらしい。

 バアルさんは満足気に微笑んで、俺の短い髪を梳くように撫で始める。

 そして、もう一つの要望を、夢見心地になるようなキスを何度も交わしてくれた。
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