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とある秘書は疑問を募らせていた
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生命力が自然に失われていく分には問題はない。しかし、生命力を抽出するとなれば話は別だ。
アオイ様の身体では、脆い人間の身体では、その負荷に耐えられる筈がない。抽出を終えれば……いや、最悪、抽出している間に身体が砕けてしまうだろう。
「アオイッ……」
必死の形相で細い肩を掴んだバアル様に、アオイ様が微笑みかける。柔らかな微笑みはどこか寂しくて、けれども固い決意が満ちているような。
「大丈夫ですよ……俺とバアルさんは、もう魂で繋がっているんでしょう? 何があっても、絶対に、またバアルさんと出会えるんでしょう?」
「ッ……それは……左様で、ございますが……」
「だったら、大丈夫、です……大丈夫ですよ……」
震えながらも真っ直ぐな声は、御自身に言い聞かせているようだった。
「大丈夫な訳がございませんッ!」
「大丈夫なものがあるかッ!」
悲痛に満ちた声でアオイ様を引き止めたのは、バアル様だけではなかった。
「……ヨミ様」
「……この国に生まれ変われるから? バアルとまた出会えるから? だからといって、貴殿が死んでいい理由になる訳がなかろう!」
問いかけながら、ヨミ様が一歩一歩近づいていく。
怒りが滲み出ていた。血を吐きそうな叫びにも、苦悩のシワが刻まれた顔にも。釣り上がり、今にも涙がこぼれ落ちてしまいそうな真っ赤な瞳にも。
アオイ様を大切に想うがあまりの怒りだった。
「少なくとも、私は許さん! 私達の間違いで貴殿の命を奪ってしまったというのに……今度は私達の為に命を捧げるなどと……」
「でもっ、俺の生命力を使えば……穢れも、バアルさんが、これ以上危険な儀式をしなくても……」
「穢れのことも、儀式のことも、私が何とかする!」
聞く耳は持たぬと言わんばかりに遮って、ヨミ様は神の前へと歩み出た。胸に手を当て、光に向かって手を伸ばす。
「神よッ! 私が代わりになれるであろう!? 今までの儀式には、私の魔力が宿った血を使ってきたのだからな!」
神の視線はヨミ様に向いていた。けれども、どこか遠くを見ているような。ヨミ様を通して、別の何かを見ているような。
「ヨミ……やはり貴方は変わりませんね……」
そうして、答えになっていない言葉を誰に言うでもなく呟いた。
ヨミ様が苛立ちを募らせる。放たれている威圧感に空気が重くなっていく。
「……何のことだ? そんなことよりも、教えてくれ! 私はアオイ殿の代わりになれるのであろう!! なぁっ!?」
縋るように訴えても、神はヨミ様を見やしない。
「何度生まれ変わっても、その身を捧げようと言うのですね……大切な誰かの為に……」
ただ、諦念のこもった声で呟き続けている。
「今度こそ……貴方の幸せを守れると思っていたのに……」
「……何だと言うのだ? 一体……何を、言っている?」
ようやく見つめたのは、苛立ちよりも困惑が勝ってからだった。
「身に覚えがないのは仕方がありません。忘れてしまって……いえ、私が忘れさせているのですから、貴方も、皆も」
忘れさせている? 神が、私達を?
自ら新たな疑問を生んでおいて、神は答えをくれやしない。気まぐれのように今更ヨミ様の質問に答え始めた。
「貴方の言う通り、貴方はアオイの代わりにはなれます。とはいえ、問題を先延ばしにするだけですが……」
「……まるで、アオイ殿であれば解決出来るような物言いだな」
「はい。だからこそ、私はアオイに助けを求めにきたのですから。貴方を救う為に」
アオイ様の身体では、脆い人間の身体では、その負荷に耐えられる筈がない。抽出を終えれば……いや、最悪、抽出している間に身体が砕けてしまうだろう。
「アオイッ……」
必死の形相で細い肩を掴んだバアル様に、アオイ様が微笑みかける。柔らかな微笑みはどこか寂しくて、けれども固い決意が満ちているような。
「大丈夫ですよ……俺とバアルさんは、もう魂で繋がっているんでしょう? 何があっても、絶対に、またバアルさんと出会えるんでしょう?」
「ッ……それは……左様で、ございますが……」
「だったら、大丈夫、です……大丈夫ですよ……」
震えながらも真っ直ぐな声は、御自身に言い聞かせているようだった。
「大丈夫な訳がございませんッ!」
「大丈夫なものがあるかッ!」
悲痛に満ちた声でアオイ様を引き止めたのは、バアル様だけではなかった。
「……ヨミ様」
「……この国に生まれ変われるから? バアルとまた出会えるから? だからといって、貴殿が死んでいい理由になる訳がなかろう!」
問いかけながら、ヨミ様が一歩一歩近づいていく。
怒りが滲み出ていた。血を吐きそうな叫びにも、苦悩のシワが刻まれた顔にも。釣り上がり、今にも涙がこぼれ落ちてしまいそうな真っ赤な瞳にも。
アオイ様を大切に想うがあまりの怒りだった。
「少なくとも、私は許さん! 私達の間違いで貴殿の命を奪ってしまったというのに……今度は私達の為に命を捧げるなどと……」
「でもっ、俺の生命力を使えば……穢れも、バアルさんが、これ以上危険な儀式をしなくても……」
「穢れのことも、儀式のことも、私が何とかする!」
聞く耳は持たぬと言わんばかりに遮って、ヨミ様は神の前へと歩み出た。胸に手を当て、光に向かって手を伸ばす。
「神よッ! 私が代わりになれるであろう!? 今までの儀式には、私の魔力が宿った血を使ってきたのだからな!」
神の視線はヨミ様に向いていた。けれども、どこか遠くを見ているような。ヨミ様を通して、別の何かを見ているような。
「ヨミ……やはり貴方は変わりませんね……」
そうして、答えになっていない言葉を誰に言うでもなく呟いた。
ヨミ様が苛立ちを募らせる。放たれている威圧感に空気が重くなっていく。
「……何のことだ? そんなことよりも、教えてくれ! 私はアオイ殿の代わりになれるのであろう!! なぁっ!?」
縋るように訴えても、神はヨミ様を見やしない。
「何度生まれ変わっても、その身を捧げようと言うのですね……大切な誰かの為に……」
ただ、諦念のこもった声で呟き続けている。
「今度こそ……貴方の幸せを守れると思っていたのに……」
「……何だと言うのだ? 一体……何を、言っている?」
ようやく見つめたのは、苛立ちよりも困惑が勝ってからだった。
「身に覚えがないのは仕方がありません。忘れてしまって……いえ、私が忘れさせているのですから、貴方も、皆も」
忘れさせている? 神が、私達を?
自ら新たな疑問を生んでおいて、神は答えをくれやしない。気まぐれのように今更ヨミ様の質問に答え始めた。
「貴方の言う通り、貴方はアオイの代わりにはなれます。とはいえ、問題を先延ばしにするだけですが……」
「……まるで、アオイ殿であれば解決出来るような物言いだな」
「はい。だからこそ、私はアオイに助けを求めにきたのですから。貴方を救う為に」
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